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48 御前試合
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そして、長い冬休みは終わる。
第2学園も、授業が再開され普段の様子を取り戻していた。
「「「ルリ、お疲れさま!」」」
授業を終え、寮に戻ると、ミリア、セイラ、メアリーは既に部屋で遊んでいる。
「はい、私の勝ちです。
ミリアの罰ゲームは『尻文字』!
メアリーの罰ゲームは『変顔』です!」
「「ひぃぃぃぃ」」
すごろくと一緒に、簡単な罰ゲームを教えたら、それはそれは、盛り上がった。
毎日、夜遅くまで、ゲームは繰り返されている。
「ところでルリ? 補習はもう終わりなの?」
「うん、あと3日」
ルリは、子爵家の跡継ぎである事がバレた為、領地経営に関する授業を追加で受ける事になった。
遅れた分を取り戻す為に、今は補習の真っ最中だ。
必修となる基本科目は、1年生全員が受けている。だから4人一緒だ。
しかし、専門科目については、それぞれの希望で授業を選択している事から、それぞれ別の教室で受ける事になる。
領地経営の科目は、専門科目に入っている。
それぞれが興味のある分野を専門として選択している。
ミリアは魔法関連の授業。
セイラは医学や薬学中心。
メアリーは経営に関する授業が多い。
ただ3人とも。ルリによる現代知識のアドバイスを受けてしまったが為に、教師よりも先進的な知識を、既に身に付けてしまっていた。
「ねぇルリ? 風邪をひくとくしゃみや鼻水が出るのはなぜ?」
「それはね、ウィルス、空気中の毒みたいなものね。
それが身体に入らないように抵抗しているからなの」
「うん、わかる様なわからないような……」
「えとぉ、身体の中には毒に抵抗する小さな軍隊みたいなのがいて、魔法で戦ってると考えると良いかな。熱が出たり、水が出たり……」
「おお! 信じがたいけどイメージは湧くわ!
それで、何でそんなことわかるの?」
「ん? ……直感よ、直感!!」
「「「嘘だぁぁぁぁ」」」
これが、いつもの4人の会話であった……。
寮での生活は、意外と忙しい。
朝はランニング。体力作りは欠かせない。
朝食をとったらすぐに授業が始まる。
授業が終わると、安全な街の外に出て『テニミントン』で汗を流したり、魔法の練習をしたり……。
そうこうしている内に夕食の時間。
入浴後は寝るまで時間があるが、今はすごろくの毎日だ。
「今日もすごろく始めるわよ!」
ミリアの声で、全員がテーブルに集まった時だった。
コンコン
ドアがノックされる。
「ミリアーヌ様、プリシラです。開けていただいてもよろしいでしょうか」
第三王女付きのメイド、プリシラの声がする。
「ルリ、開けてもらえる? こんな時間にこんな場所まで来るとは急用かしら……」
ミリアに言われ、ルリはドアを開けた。
「ミリアーヌ様、『ノブレス・エンジェルズ』の皆様。突然失礼いたします。
本日は国王陛下よりご伝言を預かってまいりました。
急いだ方が良いかと思いまして、直接参った次第にございます」
「プリシラ、大丈夫よ。ありがとう。
それで伝言とは?」
「はい。『ノブレス・エンジェルズ』の皆様に伝言です。
2日後、王宮で御前試合を行うので登城するように。
との事でございます」
「「「「御前試合!?」」」」
「王宮からお迎えが来ますので、ご準備だけお願いいたします」
要件だけ言うと、プリシラは帰って行った。
「どういう事?」
「わからないわ。セイラは知ってる?」
「いいえ……」
ルリが問いかけるが、ミリアもセイラも心当たりが無いようだ。
メアリーは知る由もない。
「2日後って言ってましたわね。準備は……いつもの装備でいいでしょうけど……」
状況が理解できず、困惑する4人であった。
2日後はすぐに訪れ、『ノブレス・エンジェルズ』の4人は馬車で王宮へと進んでいた。
御前試合と聞いて驚いた4人ではあったが、王族が2人も所属するパーティである。国王が見ているからと言って、特に緊張する理由もない。
ただ、事前に作戦、ルール決めだけはしてあった。
「あまりにも常識外れな魔法は止めましょう。
特にミリアとルリは注意するのよ」
「「うん」」
セイラの指摘に、頷くミリアとルリ。
王族だけならともかく、他に誰が見ているかわからない。
貴族の中には、王族と敵対する勢力もいない訳ではない。
無駄に注目されることは避ける、と言う事が、4人の総意としてまとまった。
王宮に着くと、国王レドワルド、王妃ヘンリエッタの元へ通される。
「お父さま、どういうことですの?」
開口一番、ミリアが切り込む。
「ミリアーヌ、突然すまないな……」
レドワルドが言うには、王族が2人も冒険者として活動するのはどうなのかと言う話が上がり、貴族たちの理解を得る為に、実力を示すという話になってしまったらしい。
さらには、噂のリフィーナが絡む。
一人で盗賊団を殲滅したという話も本当な訳がないと貴族たちがまくしたてた事で『ノブレス・エンジェルズ』の戦いを見る事になったのだった。
「では、実力を示せばいいのですね!」
「まぁそうだが……」
ミリアの質問に答えはするが、レドワルドはヘンリエッタと目配せした。
「ミリアーヌ。実力は示して欲しい。ただ……」
「ただ……、何ですの?」
「実力が伴わないと分かったら、危険な討伐などには出せん。
冒険者としての活動は良いが、森の奥、あるいは王都から離れる場合は護衛を付けさせることにする」
「な、監視を付けるという事ですの……?」
「親としては当然のことだ。これに反論は認めん!!」
冒険者は危険な職業である。娘を案じた親の意見としては、至極真っ当な言い分だった。
本来なら貴族の愚痴など無視してもいいのだが、言い分を伝える好機として、御前試合を受け入れたようだ。
父の真剣な表情に、ミリアは言い返せなかった。
御前試合は、兵士の訓練場で行われる。
いわゆる旗取り合戦。
お互いの陣地にある旗を守りつつ、相手の陣地の旗を奪い、持ち帰った方の勝利だ。
クローム王国では、兵士の訓練の一環として、この旗取り合戦は定期的に行われている事らしい。
騎士団が先にデモンストレーションも兼ねてトーナメントを開催し、その勝者と『ノブレス・エンジェルズ』が戦う事となった。
王国には8つの騎士団がある。
--近衛騎士団--
主に王族の警護を担当し、常に王宮内に配備されている。
--第1騎士団、第2騎士団--
王宮及び王都の警備を担当。
--第3騎士団、第4騎士団、第5騎士団--
それぞれ、王都の正門、東門、西門を守っている。
--第6騎士団、第7騎士団--
王都周辺、つまり王都の外部の護りを担当する。
旗取り合戦は、8つの騎士団の代表が集まり、年に数度行われている。
実力は拮抗しており、どの騎士団がトーナメントで勝ち上がってもおかしくない状況だ。
今日は王族や貴族が見守る中での試合となり、騎士団の代表たちは張りきって戦っていた。
「守るだけではダメですね。
敵の旗を持ってこなければならないので、攻守のバランスが重要になります」
メアリーが騎士団の戦いを見ながら冷静に分析する。
「ミリア? ひとつ疑問なんだけど、聞いていい?」
「うん」
ルリの質問に、ミリアはきょとんと首をかしげた。
「騎士団の試合、お互い20人、つまり小隊単位で戦ってるわよね。
私たち、20人を相手にする事になるのかしら?」
「「「あっ……」」」
「ちょっと聞いてくる、待ってて!」
答えは、YESだった……。
(ちょっと、どうなの?
戦い慣れた精鋭の騎士団が相手。しかも人数5倍とか、無理ゲーでしょ……)
青い顔をしている3人に対して、メアリーは冷静だ。
激戦を繰り広げている騎士団の姿を見ながら話し始めた。
「先にお伝えしておきます。申し訳ございません……」
「「「???」」」
突然謝るメアリーに、3人そろって振り向く。
「私は、騎士団の方と、まともな戦いは出来ません。戦力外と思ってください。
でも皆さんは違います。たぶん、条件さえ整えば1対1では負けないと思います!」
それは、3人も思っている事だった。
「条件? 確かに魔法だけなら勝てると思うわ。
でも相手は20人の騎士よ。さすがに一度には相手できないわ」
「はい。ミリアの言う通りです。
だから、役割を分ける必要があるのです。適材適所に……」
ミリアの意見は尤もだが、メアリーには何か作戦があるらしい。
「まず、今回、防御は捨てます! 必要が無いとも言えます」
「「「はぁ!?」」」
「そもそも、4人しかいない中で攻撃と防御に振り分けては、人数差という絶対的な状況を覆ません。なので、3人とも、攻撃に出てください!」
「でも、もし攻め込まれた時にメアリー1人じゃ……」
「たぶん、大丈夫です。私に襲い掛かろうという人はいないと思います。
その為にも、3人には前方で暴れて欲しいのです」
「「「???」」」
「旗を守るのって、大将、つまり普通なら一番強い人じゃないですか。
私が戦えない事は、相手は知りません。
皆さんより強いと、勘違いしてくれるはずなのです。相手も、人間なのですから!」
作戦は見事にはまった。
試合開始と同時に、ルリが一人前に出る。
両手に剣を持つ二刀流、空中に数十の氷槍を漂わせながら、ゆっくりと前に進む。
前衛には、盾を構えた歩兵が8人、横一列に並んでいる。
後衛に騎兵がまた8名、槍や剣を構え、馬上から見下ろしている。
敵の旗は、指揮官と兵士一人、計2人で守られている。
典型的な小隊の護衛陣形だ。
ルリは16人の騎士と相対しながら、予定通り引き付けていた。
「警戒しながら前進!」
ルリとの距離を取りながら、ゆっくりとした速度で前進を始める騎士たち。
「そろそろね!」
メアリーの合図で、ミリアとセイラが騎士を回り込むように、右側から前方へ走り出す。
動きを見て、騎士は陣形を変えていく。
右側の騎士がミリア達を止めるべく進行方向へ移動した。
それを見たルリは、フィールドの左側、つまりミリア達が突進したのとは反対側に氷槍を発射した。
「氷槍、発射!!」
ズシャズシャ
「「「くっ!!」」
防御陣形の脇を抜け、攻撃に移ろうとした騎兵の目の前に、氷槍が刺さる。
メアリーの読み通りに攻撃に移る騎兵を止めると、メアリーが声を放った。
「今!!」
「点灯!!」
ミリアが空中に激しい光を放ち、騎士たちの視界を奪う。
『ノブレス・エンジェルズ』は事前に打ち合わせをしていたため、目を隠して平気だ。
光で目を開けられずに硬直した騎士の隙をついて、セイラとミリアが敵の陣へと走る。
……光が収まる時には勝負がついていた。
前方まで出ていた16人の騎士の周囲に、氷槍が突き刺さり囲いとなっている。
ガキン
陣地に迫り敵の大将に攻め寄るセイラは、がっしりと攻撃を防ぎ、その間にミリアが旗を奪う。
騎士2人相手とは言え、セイラの守りは固い。
ミリアを安全に逃がすと、一歩下がって騎士二人に構える。
ルリの魔法で身動きをとれない前衛の騎士たちの横を悠々とすり抜け、ミリアは自陣まで帰って行った。
騎士団20人への圧勝。
もはや、『ノブレス・エンジェルズ』の実力に疑いを持つ者はいない。
「お疲れ様、これで誰にも文句は言われないわね! 帰るわよ!!」
「「「おー!!」」」
その後の貴族たちのごたごたに巻き込まれないようにと、全力で学園に逃げ帰った『ノブレス・エンジェルズ』であった。
騎士団長と副団長をあっさりと出し抜き旗を奪った第三王女と公爵家令嬢。
魔法と威圧だけで16人の騎士を釘付けにした子爵家令嬢。
貴族たちに衝撃を与え、注目されるのは、当然だ。
その中で、一部から強烈な視線を受けている少女がいた。
自分は一切戦わず、王族と貴族を駒のように動かし、敵に自陣への侵入すら許さなかった商人の娘。
「隊長、見ましたか? あの自陣に残っていた少女」
「あぁ、お前も気付いたか。的確な指示、冷静な判断力、そして王族貴族を前にして揺るがない胆力。あれはただ者じゃないな」
メアリーは、武闘派の貴族や騎士の間での、注目の的となっていた。
第2学園も、授業が再開され普段の様子を取り戻していた。
「「「ルリ、お疲れさま!」」」
授業を終え、寮に戻ると、ミリア、セイラ、メアリーは既に部屋で遊んでいる。
「はい、私の勝ちです。
ミリアの罰ゲームは『尻文字』!
メアリーの罰ゲームは『変顔』です!」
「「ひぃぃぃぃ」」
すごろくと一緒に、簡単な罰ゲームを教えたら、それはそれは、盛り上がった。
毎日、夜遅くまで、ゲームは繰り返されている。
「ところでルリ? 補習はもう終わりなの?」
「うん、あと3日」
ルリは、子爵家の跡継ぎである事がバレた為、領地経営に関する授業を追加で受ける事になった。
遅れた分を取り戻す為に、今は補習の真っ最中だ。
必修となる基本科目は、1年生全員が受けている。だから4人一緒だ。
しかし、専門科目については、それぞれの希望で授業を選択している事から、それぞれ別の教室で受ける事になる。
領地経営の科目は、専門科目に入っている。
それぞれが興味のある分野を専門として選択している。
ミリアは魔法関連の授業。
セイラは医学や薬学中心。
メアリーは経営に関する授業が多い。
ただ3人とも。ルリによる現代知識のアドバイスを受けてしまったが為に、教師よりも先進的な知識を、既に身に付けてしまっていた。
「ねぇルリ? 風邪をひくとくしゃみや鼻水が出るのはなぜ?」
「それはね、ウィルス、空気中の毒みたいなものね。
それが身体に入らないように抵抗しているからなの」
「うん、わかる様なわからないような……」
「えとぉ、身体の中には毒に抵抗する小さな軍隊みたいなのがいて、魔法で戦ってると考えると良いかな。熱が出たり、水が出たり……」
「おお! 信じがたいけどイメージは湧くわ!
それで、何でそんなことわかるの?」
「ん? ……直感よ、直感!!」
「「「嘘だぁぁぁぁ」」」
これが、いつもの4人の会話であった……。
寮での生活は、意外と忙しい。
朝はランニング。体力作りは欠かせない。
朝食をとったらすぐに授業が始まる。
授業が終わると、安全な街の外に出て『テニミントン』で汗を流したり、魔法の練習をしたり……。
そうこうしている内に夕食の時間。
入浴後は寝るまで時間があるが、今はすごろくの毎日だ。
「今日もすごろく始めるわよ!」
ミリアの声で、全員がテーブルに集まった時だった。
コンコン
ドアがノックされる。
「ミリアーヌ様、プリシラです。開けていただいてもよろしいでしょうか」
第三王女付きのメイド、プリシラの声がする。
「ルリ、開けてもらえる? こんな時間にこんな場所まで来るとは急用かしら……」
ミリアに言われ、ルリはドアを開けた。
「ミリアーヌ様、『ノブレス・エンジェルズ』の皆様。突然失礼いたします。
本日は国王陛下よりご伝言を預かってまいりました。
急いだ方が良いかと思いまして、直接参った次第にございます」
「プリシラ、大丈夫よ。ありがとう。
それで伝言とは?」
「はい。『ノブレス・エンジェルズ』の皆様に伝言です。
2日後、王宮で御前試合を行うので登城するように。
との事でございます」
「「「「御前試合!?」」」」
「王宮からお迎えが来ますので、ご準備だけお願いいたします」
要件だけ言うと、プリシラは帰って行った。
「どういう事?」
「わからないわ。セイラは知ってる?」
「いいえ……」
ルリが問いかけるが、ミリアもセイラも心当たりが無いようだ。
メアリーは知る由もない。
「2日後って言ってましたわね。準備は……いつもの装備でいいでしょうけど……」
状況が理解できず、困惑する4人であった。
2日後はすぐに訪れ、『ノブレス・エンジェルズ』の4人は馬車で王宮へと進んでいた。
御前試合と聞いて驚いた4人ではあったが、王族が2人も所属するパーティである。国王が見ているからと言って、特に緊張する理由もない。
ただ、事前に作戦、ルール決めだけはしてあった。
「あまりにも常識外れな魔法は止めましょう。
特にミリアとルリは注意するのよ」
「「うん」」
セイラの指摘に、頷くミリアとルリ。
王族だけならともかく、他に誰が見ているかわからない。
貴族の中には、王族と敵対する勢力もいない訳ではない。
無駄に注目されることは避ける、と言う事が、4人の総意としてまとまった。
王宮に着くと、国王レドワルド、王妃ヘンリエッタの元へ通される。
「お父さま、どういうことですの?」
開口一番、ミリアが切り込む。
「ミリアーヌ、突然すまないな……」
レドワルドが言うには、王族が2人も冒険者として活動するのはどうなのかと言う話が上がり、貴族たちの理解を得る為に、実力を示すという話になってしまったらしい。
さらには、噂のリフィーナが絡む。
一人で盗賊団を殲滅したという話も本当な訳がないと貴族たちがまくしたてた事で『ノブレス・エンジェルズ』の戦いを見る事になったのだった。
「では、実力を示せばいいのですね!」
「まぁそうだが……」
ミリアの質問に答えはするが、レドワルドはヘンリエッタと目配せした。
「ミリアーヌ。実力は示して欲しい。ただ……」
「ただ……、何ですの?」
「実力が伴わないと分かったら、危険な討伐などには出せん。
冒険者としての活動は良いが、森の奥、あるいは王都から離れる場合は護衛を付けさせることにする」
「な、監視を付けるという事ですの……?」
「親としては当然のことだ。これに反論は認めん!!」
冒険者は危険な職業である。娘を案じた親の意見としては、至極真っ当な言い分だった。
本来なら貴族の愚痴など無視してもいいのだが、言い分を伝える好機として、御前試合を受け入れたようだ。
父の真剣な表情に、ミリアは言い返せなかった。
御前試合は、兵士の訓練場で行われる。
いわゆる旗取り合戦。
お互いの陣地にある旗を守りつつ、相手の陣地の旗を奪い、持ち帰った方の勝利だ。
クローム王国では、兵士の訓練の一環として、この旗取り合戦は定期的に行われている事らしい。
騎士団が先にデモンストレーションも兼ねてトーナメントを開催し、その勝者と『ノブレス・エンジェルズ』が戦う事となった。
王国には8つの騎士団がある。
--近衛騎士団--
主に王族の警護を担当し、常に王宮内に配備されている。
--第1騎士団、第2騎士団--
王宮及び王都の警備を担当。
--第3騎士団、第4騎士団、第5騎士団--
それぞれ、王都の正門、東門、西門を守っている。
--第6騎士団、第7騎士団--
王都周辺、つまり王都の外部の護りを担当する。
旗取り合戦は、8つの騎士団の代表が集まり、年に数度行われている。
実力は拮抗しており、どの騎士団がトーナメントで勝ち上がってもおかしくない状況だ。
今日は王族や貴族が見守る中での試合となり、騎士団の代表たちは張りきって戦っていた。
「守るだけではダメですね。
敵の旗を持ってこなければならないので、攻守のバランスが重要になります」
メアリーが騎士団の戦いを見ながら冷静に分析する。
「ミリア? ひとつ疑問なんだけど、聞いていい?」
「うん」
ルリの質問に、ミリアはきょとんと首をかしげた。
「騎士団の試合、お互い20人、つまり小隊単位で戦ってるわよね。
私たち、20人を相手にする事になるのかしら?」
「「「あっ……」」」
「ちょっと聞いてくる、待ってて!」
答えは、YESだった……。
(ちょっと、どうなの?
戦い慣れた精鋭の騎士団が相手。しかも人数5倍とか、無理ゲーでしょ……)
青い顔をしている3人に対して、メアリーは冷静だ。
激戦を繰り広げている騎士団の姿を見ながら話し始めた。
「先にお伝えしておきます。申し訳ございません……」
「「「???」」」
突然謝るメアリーに、3人そろって振り向く。
「私は、騎士団の方と、まともな戦いは出来ません。戦力外と思ってください。
でも皆さんは違います。たぶん、条件さえ整えば1対1では負けないと思います!」
それは、3人も思っている事だった。
「条件? 確かに魔法だけなら勝てると思うわ。
でも相手は20人の騎士よ。さすがに一度には相手できないわ」
「はい。ミリアの言う通りです。
だから、役割を分ける必要があるのです。適材適所に……」
ミリアの意見は尤もだが、メアリーには何か作戦があるらしい。
「まず、今回、防御は捨てます! 必要が無いとも言えます」
「「「はぁ!?」」」
「そもそも、4人しかいない中で攻撃と防御に振り分けては、人数差という絶対的な状況を覆ません。なので、3人とも、攻撃に出てください!」
「でも、もし攻め込まれた時にメアリー1人じゃ……」
「たぶん、大丈夫です。私に襲い掛かろうという人はいないと思います。
その為にも、3人には前方で暴れて欲しいのです」
「「「???」」」
「旗を守るのって、大将、つまり普通なら一番強い人じゃないですか。
私が戦えない事は、相手は知りません。
皆さんより強いと、勘違いしてくれるはずなのです。相手も、人間なのですから!」
作戦は見事にはまった。
試合開始と同時に、ルリが一人前に出る。
両手に剣を持つ二刀流、空中に数十の氷槍を漂わせながら、ゆっくりと前に進む。
前衛には、盾を構えた歩兵が8人、横一列に並んでいる。
後衛に騎兵がまた8名、槍や剣を構え、馬上から見下ろしている。
敵の旗は、指揮官と兵士一人、計2人で守られている。
典型的な小隊の護衛陣形だ。
ルリは16人の騎士と相対しながら、予定通り引き付けていた。
「警戒しながら前進!」
ルリとの距離を取りながら、ゆっくりとした速度で前進を始める騎士たち。
「そろそろね!」
メアリーの合図で、ミリアとセイラが騎士を回り込むように、右側から前方へ走り出す。
動きを見て、騎士は陣形を変えていく。
右側の騎士がミリア達を止めるべく進行方向へ移動した。
それを見たルリは、フィールドの左側、つまりミリア達が突進したのとは反対側に氷槍を発射した。
「氷槍、発射!!」
ズシャズシャ
「「「くっ!!」」
防御陣形の脇を抜け、攻撃に移ろうとした騎兵の目の前に、氷槍が刺さる。
メアリーの読み通りに攻撃に移る騎兵を止めると、メアリーが声を放った。
「今!!」
「点灯!!」
ミリアが空中に激しい光を放ち、騎士たちの視界を奪う。
『ノブレス・エンジェルズ』は事前に打ち合わせをしていたため、目を隠して平気だ。
光で目を開けられずに硬直した騎士の隙をついて、セイラとミリアが敵の陣へと走る。
……光が収まる時には勝負がついていた。
前方まで出ていた16人の騎士の周囲に、氷槍が突き刺さり囲いとなっている。
ガキン
陣地に迫り敵の大将に攻め寄るセイラは、がっしりと攻撃を防ぎ、その間にミリアが旗を奪う。
騎士2人相手とは言え、セイラの守りは固い。
ミリアを安全に逃がすと、一歩下がって騎士二人に構える。
ルリの魔法で身動きをとれない前衛の騎士たちの横を悠々とすり抜け、ミリアは自陣まで帰って行った。
騎士団20人への圧勝。
もはや、『ノブレス・エンジェルズ』の実力に疑いを持つ者はいない。
「お疲れ様、これで誰にも文句は言われないわね! 帰るわよ!!」
「「「おー!!」」」
その後の貴族たちのごたごたに巻き込まれないようにと、全力で学園に逃げ帰った『ノブレス・エンジェルズ』であった。
騎士団長と副団長をあっさりと出し抜き旗を奪った第三王女と公爵家令嬢。
魔法と威圧だけで16人の騎士を釘付けにした子爵家令嬢。
貴族たちに衝撃を与え、注目されるのは、当然だ。
その中で、一部から強烈な視線を受けている少女がいた。
自分は一切戦わず、王族と貴族を駒のように動かし、敵に自陣への侵入すら許さなかった商人の娘。
「隊長、見ましたか? あの自陣に残っていた少女」
「あぁ、お前も気付いたか。的確な指示、冷静な判断力、そして王族貴族を前にして揺るがない胆力。あれはただ者じゃないな」
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