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105 疑惑と暴露

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 軍事演習にて『リミット解除』状態での魔法を見られ、ミリア達に問い詰められるルリ。

「正直に話すわ。でも、食事のあと、4人だけで話す事にしてもいい?」
「いいわよ。じっくり聞かせてもらいましょう」

 ミリア達がどう想像しているかは不明だが、少なくとも、世間話のついでにするような話ではない。

(みんなには、ちゃんと伝えるべきよね……)

 もし、話して関係が崩れるなら……それまでだ。
 覚悟を決めるしかない。
 きっと、受け入れてくれる……そう信じて、話す順番などを考えた。

 食事と入浴を終え、ルリの部屋に集まる。
 ミリアは、思う所でもあるのか、笑顔でルリの正面に座った。
 逆に、メアリーは心配そう。
 セイラはと言えば、いつも通りに紅茶を淹れている。


「今日使った魔法の話よね。それを言うには、私が何者なのか……から話させてもらうわ」

「うん、冒険者のルリでも、アメイズ子爵家のリフィーナでもない、もう一人の事ね?」

「そう。もう一人の私……。……って、えっ???」

 最大のネタを話そうとした所、ミリアの口からもう一人の自分と言う単語が出てくる事に驚く。


「なっ……なんで?」

「いや、ルリったらいつも言ってるじゃない。夢の世界の話。その世界に、もう一人のルリがいるんでしょ?」

「あ、あぁ。そういう事ね。……。少し違うわ。私は、その世界から来たの。異世界人なの!」

「「「……ぷっ」」」

「ぷぷぷ。そうキタかぁ!」

 勇気をもって正直に話したのに、ミリアに全力で突っ込まれた。
 セイラとメアリーも、必死に笑いをこらえている。……心外である。

「ちょっと! 本当なのよ。笑い事じゃなく。
 私は、美咲瑠璃みさきるり。地球という星の、日本という国で暮らしてた高校生。この世界に来た時は15歳だったわ!」

「ふふ、分かったわよ。そういう設定なのね。とか言葉は分かんないけど、15歳の学生だったという事ね」

「ぅぅぅ。まぁ、合ってるような合ってないような……」

 ミリアには、夢の世界の設定情報にしか聞こえていないらしい。
 別の現実世界があると言われても、ピンとくる人はまず居ないであろう。


「じゃぁ、その美咲瑠璃さんが、夢の世界からこの世界のルリ、いえ、リフィーナに乗り移ったという事なの? 何か証拠はある?」

 セイラが口を開く。いろいろと含んだ、……確認するかのような話し方だ。

(私が異世界から来た証拠……。そんなもの……)

「あ、あるわ! 証拠の品! これを見て!」

 アイテムボックスから、転移した時に着ていた、高校の制服を取り出して見せた。
 着の身着のままで飛んできたものの、唯一、身につけていた服だけは、地球の物として残っている。


「……。確かに、素材といい仕立てといい、相当高い技術で作られてるわね」
「これは文字? 見た事が無いわ」

「これはカタカナ。ポリエステル、ウールって読むわ。こっちは漢字。どちらも私の居た国の言葉よ。これで、分かってもらえるかしら?」

 実物を見せられれば、説得力がある。
 しばし、念入りに制服をチェックするミリアとセイラ。
 メアリーは、完全に信じたようだ。


「ルリ、あなたの正体、異世界から来た女神様なのね? 何度もそう考えたけど、今、確信したわ!」

「いやいや、メアリー、違うわよ。女神じゃないわ。私は女子高生だって!」

という神様?」

「……。ちがうの……」

 どこでどう解釈したか、メアリーの中では女神認定されてしまったようだ。
 ……説明に困るルリ。



「ルリ、怒らないで聞いてくれる?」

 そこに横やりを入れたのは、セイラだった。
 頷くルリに、言葉を続ける。

「実はね、王家としてもあなたの事は調べてたの。
 突然、王国に現れた冒険者。見た目はどうみても子爵家の令嬢なのに、性格がリフィーナ嬢とはまったく違う。
 それでほら、ミリアがご執心だったでしょ。友人として安全かどうか、確認がね……必要でさ」

「……。まぁ、当然よね。一応……合格したのかしら?」

「うん。今も経過観察というのが正確かなぁ。
 あなた、リフィーナが襲われた時……先代のお爺様と一緒に襲われた時の翌日、リンドスの街にいたでしょ。冒険者登録をしているのだから、すぐに確認できたわ。
 でも……、それは……有り得ないのよ。襲撃の現場であるアメイズ領の街道からリンドスの街までは、どんなに急いでも半月はかかる距離。そこに、あなたは存在していた。つまり……」

「同一人物だとしたら、有り得ない?」

「そう。そっくりな偽物か、リフィーナに人知の及ばない力が働いたかの、二択になる訳」

 的を得た推論だ。
 事実、美咲瑠璃と本当のリフィーナは、入れ替わるように転移しており、別の場所に現れるのはおかしい。

「さすがね。でも、どうして偽物ではないと判断してくれたの?」

「身分証よ。魔力を通した身分証は、本人じゃないと反応しない。それに、リフィーナ本人でないと分からないような昔の記憶も、あなたにはあるでしょ。
 何より、どう見ても、あなた善人じゃない?」

 偽物認定という最悪のケースは回避できているらしいが、まだ何の疑問も解決できていない。
 セイラが、質問を続ける。

「それで、あなたの身に何があったの? どうやって、リンドスの街まで行ったの?」

 その質問が、一番難しかった。
 なぜリンドスの街……泉の側にいたのか、それを知るのは女神だけである。

「わかんない。気付いたら、リンドスの街の近くの森の中にいたのよ。美咲瑠璃の姿でね」

「う~ん、気が付いたら美咲瑠璃だったの?」

「逆よ。元々美咲瑠璃で、気が付いたら森にいて、リフィーナになったの……」

「「「「……」」」」

 自分でも、何がどうなっているのか分からなくなる。
 禅問答のように、会話が続いて行く……。


 卵が先か鶏が先かという様な、会話のイタチごっこで、理解が進まない。
 無理やり結論付けようと、ミリアが口を開いた。

「ルリは美咲瑠璃で、リフィーナなのね? 2人分の記憶があって、夢の世界……チキュウと言ったかしら? その世界の住民である美咲瑠璃の知識や魔法が使えるのね?」

「ミリア、ごめん。ちょっと違うわ。
 地球では魔法は使えないの。技術はここより進んでるから、知識を伝える事は出来るけど……」

「んんん? 辻褄が合わないわよ。それならどうして、魔法を使えるの?」

「それはね、女神様に助けてもらってるのよ!」

「「「女神様ぁ???」」」

 突然の女神様の登場に、ミリア達の顔が険しくなる。

「ルリ、登場人物増やさないでくれる? 益々意味がわからないわ!」

「でも、本当なんだもの。美咲瑠璃としてこの世界に来た時に、女神様に会ったのよ。そこで、魔法のチカラをもらったの。ミノタウロスを倒した魔法も、女神様の魔法。ピンチの時だけ使えるの!」

「「「……」」」

(意味がわからないわよね……。でも、本当なんだから、他に言いようもないし……)

 神の御業として話をはぐらかす事は、出来ればしたくなかった。
 しかし、ルリが魔法を使えるのは女神の御業であり、説明のしようがない。
 正直に女神の話をして反応を窺う。

 

「やっぱり、ルリは女神様なのね?」
「違うわ。女神様の愛し子よ」
「……」

 女神の登場に喜ぶメアリーと、冷静に訂正するセイラ。
 ルリが懸念するような、神の御業で不納得な様子はなく、むしろ受け入れてくれたようだ。


「う~ん……。盗賊に襲われた時に、女神様に助けられたのね? その時に、技術の進んだ夢の世界の知識と、魔法のチカラを与えられた。それで合ってる?」

「……。簡単にまとめると、そんな感じ……かな?」

 ミリアが簡潔にまとめ、話を結論付ける。
 ルリも、若干の不本意はありつつも、それでいいと思う事にした。


「いろいろと納得だわ。それなら、不思議な事を知ってたり、非常識な魔法を使えたりするのも当然ね」

「数年前までのリフィーナの生活を聞く限りでは、今のリフィーナの活躍は説明がつかなかったのよね。女神様かぁ」

 異世界からの転移という事実は結局理解されなかったものの、なぜか女神の話だけはあっさりと信じてもらえた。

 女神様からチカラを授かったと言う神話のような結論に、唖然とするルリ。
 地球だの美咲瑠璃だの、ルリが頑張って伝えようとした話などには興味を失ってしまったミリア達。

「いいなぁ。わたくしも、女神様に会いたいですわ!」
「「私も!!」」

 あくまで、夢見る少女なミリア、セイラ、そしてメアリーであった。



(良かったのかなぁ……。結局、全てが女神チートって事でみんな納得しちゃったけど……)

 神の御業となれば、確かに何が起こったとしても説明の必要すらない。
 だって……神様なのだから……。

 しかし、神の御業が使える少女が生きているとなれば、普通ならば世間がほっとかないであろう。


「ミリア、セイラ、この話、人には言わないでね。女神様の事なんかが広まっちゃったら、私、どうなる事か……」

「心配いらないわよ。さっき言ったでしょ、偽物では無いのであれば、人知の及ばない力がリフィーナに働いたというのが王家の推測だって」

「うん」

「疑問だったのは、女神そのものが宿った『現人神』なのか、あるいは『愛し子』としてチカラを授かったのか、どっちなのかって事だったの」

「ん?」

「あなたは『愛し子』だったのね。謎が解けたわ。ありがとう。
 どちらにせよ、王家の中では既に女神様に等しい存在としてあなたを位置付けてるから、『愛し子』と分かった所で、扱いは変わらないわ。安心して!」

「は……はい? それって……」


(なんか……いろいろとバレてた?)

 王家がルリに優しすぎるとは、……ずっと不思議に思っていた。
 その理由を知り、身震いする。
 
 そして、ミリアやセイラ、メアリーまでもが、『愛し子』で納得、いや、以前からそう考えていたと知り、さらに、事実を知っても受け入れてくれた事に、焦りながらも、笑顔をこぼすルリであった。
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