転移ですか!? どうせなら、便利に楽させて! ~役立ち少女の異世界ライフ~

ままるり

文字の大きさ
124 / 190

124 義勇兵

しおりを挟む
 ゼリスの街の屋敷で一時の休息をとるルリ達。

「明日の朝にゼリスを発ち、フロイデン領都に向かうそうです」
「そう、では今日はゆっくりできるわね。ところで、収納してる巨大な象マンモス、どうしたらいいか知ってる?」

 スケジュールの調整などを全て行ってくれるメイドのアルナに礼を言いつつ、ふとした疑問を尋ねてみる。
 すぐに、領兵詰所の倉庫に運ぶようにと確認してくれた。



「「「リフィーナ様、ありがとうございます」」」
 倉庫に行くと、兵士たちに全力で礼を言われるルリ。

 最も目立っていたのはミリアであるが、ルリもそれなりに目立つ活躍をしているので、挨拶しようと兵士が集まってくる。

「敵のど真ん中を串刺しにした氷魔法、驚愕しました!」
「リフィーナ様の攻撃で遠くの敵本陣が氷漬けになり、形勢が一気に傾いたとか」

「いやいや、ミリアの魔法……天罰が敵を倒したんですわ。私なんて、ただ道を作っただけだから……」

 実際には空中に氷の道を作っただけなのであるが、ミリアが『女神の一矢』などと吹いたせいで、いろいろと誇張されて伝わっているようだ。
 無理に訂正する程でもないので、そのままスルーして謙遜してみせる。

巨大な象マンモス、この辺でいいかしら?」
「はい、お願いします」

 突然、巨大な象マンモスが10体も出現した事で、収納力に驚く兵士たち。
 しかし、既に何度も強力な魔法を見ている為、驚きは少ない。今更、という事らしい。


「リフィーナ様、お願いがあります。
 明日、もう一度こちらに寄っていただけますか?
 朝までに捌いておきますので、爪や牙などの素材、それと必要な分だけの肉は、皆様にお持ちいただきたいと思いまして」

「あら、ありがとう。そうしたら、1体だけ、丸ごと貰っておいていいかしら。牙とかは武器に使えそうだけど、ほら、私たちあまり武器使わないから」

「そうですか。では……」

 捌いた後の素材や肉をプレゼントするという提案に、捌く必要はないから丸ごと貰うと返すルリに、急に残念そうになった兵士。

(あぁ、なるほどね……!)

「明日もここに寄るわよ。みんなを連れて。領都に向かう前に、兵士の皆様にも挨拶させてください!」

「本当ですか!? ありがとうございます!!」

 兵士としては、巨大な象マンモスをお土産にする代わりに、何とかルリ達を兵士の詰所に招きたいと考えていたようだ。

 男ばかりの領兵にとって、可憐な英雄である『ノブレス・エンジェルズ』は、女神よりも天使よりも崇高なアイドルとなっていた。

 天にも昇りそうな表情で嬉しさを爆発させている兵士を微笑ましく見つめるルリ。
 適当に挨拶すると、今日は屋敷に戻る事にした。


(アイドルかぁ……。歌って踊れて、会えるアイドル、目指してみる?)

 ルリも女の子である。何度も憧れた事はある。
 セイラに全否定されそうではあるが、兵士たちの歓声、喜びようを見ていると、意識してしまうのも仕方がない。

 部屋に行くと、ミリア達が出迎えた。

「何ニヤニヤしているの? うん、却下!!」
「まだ何も言ってないでしょ!」
「いいから、早くお風呂行くわよ!!」

 伝えた所で却下される事は分かっているが、言う前から却下されると少し悔しい。
 日本の流行りの音楽を口ずさみながら踊ってみせると……白い目で見られた。

 さすがに、伴奏も何もない状態では、変な人にしか見えなかったようである……。
 決して、ルリが音痴だったり踊り下手だったわけではない……はず。

(そう言えば音楽って文化が広まっていなそうよね……。
 絶対に流行るし、流行らせたいわね……)

 歌や音楽、楽器が存在しない訳ではないが、TVのようなメディアが無いため、その土地のみで広まる大衆文化としてしか、歌や踊りは広まっていなかった。
 広く誰もが口ずさむような歌を流行らせる。……新たな目標を見つけ、完全に元気を取り戻したルリであった。



「はぁ~。休まるわねぇ……」
「ずっと緊張続きだったものねぇ」
「まともに入浴するのはアルラネと出会った温泉以来かぁ」

 屋敷の浴室で湯船につかる少女たち。
 野営中でも入浴は欠かさない為汚れている訳ではないが、安心してお風呂に浸かれるのは、有り難い。

「ねぇ、もう戦争、終わったんだよね?」
「大丈夫よ。偵察部隊とか、まだ王国内に残っている敵兵もいるかもしれないけど、今頃慌てて森の中に隠れて帰る術を考えていると思う。大きな戦闘は、もう起こらないわよ」

 昨日までドンパチしてたとは思えないような寛いだ時間。
 もしまだ敵がいたらと不安になるが、メアリーの推測では大丈夫らしい。

(王都を出て1か月以上かぁ。いろいろあったなぁ。アメイズ領、大丈夫かなぁ……)

 アメイズ領が戦争に巻き込まれたという話は聞かないが、ふと故郷が心配になるルリ。
 内政の宿題、それに不正で捕らえた男爵の扱い、課題山積みの状態での開戦である。巻き込まれていない訳がない。




 ----

 実際、アメイズ領は大騒ぎであった……。

 元々、アメイズ領の領兵は人数が少なく、戦争と言われても派遣できるような体制になっていない。
 さらに男爵の見張りの為に兵を割かれている状態では、領都を防衛する兵数を揃えるだけでも精一杯な状態であった。

 そんなアメイズ領ではあるが、実は、奇跡が起きていた。
 3000もの大軍が、アメイズ領から出陣していたのである。

 ほぼ全員が、庶民の普段着に簡易的な防具。弓を持った部隊。
 とても兵士には見えない、隊列も何もない集団。
 そう、……アメイズ領都の男たち。


「リフィーナ様が戦場に向かったそうだ!! 俺たちも続くぞ!」
「何でもいいから武器を持てぇ! 女神様の初陣だぁ!!」
「ポテト芋忘れるなよ!」

 暴動のように巻き起こった領民たちの参戦運動。

 街の防衛用に支給されていた弓と防具、腰にはポテト芋をを携え、リフィーナの元へ参じようと集まった領民たちは、ちょうど、男爵事件の始末の為に到着した王都の騎士団と共に、大軍となってフロイデン領へと向かう事になる。


「おい、この戦場の跡。魔法の跡は、リフィーナ様たちだろ」
「ミノタウロスを倒した火魔法の痕跡にそっくりだ」
「間違いない、兵士同士の戦いではこんな焼け跡にはならないな」

 街道に残った『ノブレス・エンジェルズ』の痕跡を見つけ士気高揚。
 一般人ばかりで編成された義勇軍……アメイズ領軍は、砦に向かって進軍を行った。


 幸いにも、ディフトの街を越えた所で、終戦の話を聞き引き返す事になったのだが、万が一、街道を侵攻していた敵部隊と遭遇していれば、大規模な戦闘になり、多くの命が失われた事であろう。

 メアリーの作戦……短期決戦の決断が、奇しくもアメイズ領の領民の命も救っていたのである……。




 ----

「街道では、私たちが最初に戦って以降は、結局、戦闘は起こらなかったのよね?」

「うん、領都方面の街道で、先行した敵部隊と領都の増援軍で戦闘になったりはしたみたいだけど、それだけみたいね」

「ディフト方面の街道の話は聞いてない?」

「今の所、無いわね。
 そもそも、ディフトには兵士がほとんど残っていなかったし、その先のアメイズ領にしたって、大挙して援軍に出れる様な部隊は無いでしょ。
 王都から騎士団が来るのはまだまだ先だから、ディフト側では戦闘が起こりようも無いわ」

「そうよね。大丈夫よね……」

 まさか義勇兵が参戦しているとは思いもしないルリ達。

 意気揚々と進軍したものの、戦地に到着する前に戦争が終わってしまい、敵と戦う事なく渋々引き返したアメイズ領軍。

 戦争の大局を決めたと語られる『女神の天罰』を、天変地異ではなくルリ達の仕業と一瞬で理解し、歓喜したアメイズ領軍。

 帰りの道すがら、街道の戦場跡を片付けたり、ディフトや宿場町でポテト芋を振舞って住民たちの支援をしたアメイズ領軍。

 その話……報告を聞き、ルリが感激の涙を流すのは、まだ少し先の事である。
しおりを挟む
感想 122

あなたにおすすめの小説

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

転生したら王族だった

みみっく
ファンタジー
異世界に転生した若い男の子レイニーは、王族として生まれ変わり、強力なスキルや魔法を持つ。彼の最大の願望は、人間界で種族を問わずに平和に暮らすこと。前世では得られなかった魔法やスキル、さらに不思議な力が宿るアイテムに強い興味を抱き大喜びの日々を送っていた。 レイニーは異種族の友人たちと出会い、共に育つことで異種族との絆を深めていく。しかし……

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!

饕餮
ファンタジー
  書籍化決定!   2024/08/中旬ごろの出荷となります!   Web版と書籍版では一部の設定を追加しました! 今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。 救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。 一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。 そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。 だが。 「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」 森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。 ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。 ★主人公は口が悪いです。 ★不定期更新です。 ★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...