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プロローグ
始まり
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▽▽▽
夜の帳が下りはじめた頃、空が紫苑色に染め上げる。
この静かな街に、何度目かの夜が来た。
真面目はタバコに火をつけて、廃校舎の屋上の欄干にもたれかけた。
タバコを吹かしながら、街を見ている。
街はそれほど大きくはない。
古い瓦の家々が立ち並び、病院の看板も経年劣化で文字が消えかかっている。電車が走る橋も色褪せている。
どこか街全体からレトロな雰囲気をかもし出していた。
それが真面目にとって心地よかった。
今、真面目が居る校舎は、昭和期にこの街のある豪族によって建設された私立のお嬢様学校であった。
まるで俗世から学生を守るように街から離れた丘の上に立ち、街全体を見下ろすことができる。
当時は栄華を誇っていただろうが今は見る影もない。
時代の移り変わりと共に廃れていき、今では街の心霊スポットとして有名である。
だから、街の住民は恐れて誰も近づこうとしない。
真面目にとってはそのほうがありがたい。
なぜなら、この景色を独り占めできるからだ。
しばらく街を眺めていた真面目もだんだんこの街の景色に馴染んできたものだと感慨深くなった。この2年間で本当に色々な経験をしたと、回想をする。
つい2年前まで、自分はただ普通の人間であり、ごく普通に働いていたサラリーマンであった。
しかし、あることがきっかけで霊界と意識がリンクするようになって、現実世界に潜む霊を見ることができてしまった。
最初は働きすぎて頭がおかしくなったのかと思ったが、どうやらそうではなかった。
それは座敷童の蒜山《ひるぜん》が教えてくれた。霊験あらたかとは正にこのことだろう。
タバコの灰が全て落ち切った頃、すでに街の建物を黒く染めていた。
真面目は吸い終わったタバコをポケット灰皿にしまう。その中にはすでに数本のタバコがあった。
真面目は背伸びをして帰ろうとした時、後ろで身の毛もよだつおぞましい気配を感じた。
全身を凍てつかさせるような、既知感のあるものであった。
真面目はゆっくり振り向き、その姿を確認する。
黒い空の下に紫炎が、燃え盛る。
明らかに、自然に発したものではない。
そしてそれに相対する形で、真面目は精悍な面持ちでその中心を見つめていた・・・。
その中心から、黒のセーラ服を着た色白い女性の姿が現れる。
髪は地面に達するほど長く、顔の大半を隠している。そしてその髪の内に赤黒い目が、
こちらを睨みつけていた。
彼女はうめき声をあげながら、ゆっくり真面目の方に近づく─ ─ ─。
普通の人間ならば恐怖で逃げることも戦うこともできない、ただ呆然と立ち尽くすことぐらいしかできないだろう。
しかし多くの修羅場を乗り越えた真面目ならば、話は別である。
彼女から発せられるドス黒い瘴気に当てられ、体中からは危険信号がなりっぱなしであったが、真面目は臆することなく彼女を見つめていた。
そしてその姿は、泣いているようにも見えた・・・。
真面目は優しく呟くように、
「もう少し待ってな・・・必ずお前の呪いを祓ってみせるから・・・」
─── ─── 。
そう言うと内ポケットの中から黒革の手帳を取り出して、その中の紙を一枚千切る。
紙には血で書かれた神代文字があり、真面目の前をひらひらと宙を舞う。
両手でそれぞれの印を結び、その紙に息を吹きかける。
紙は次第に蒼く燻り始める─────。
その紙は、蒼い焔をあげながら真面目の周りを高速で回り、蒼い光の線となる。
その蒼い光が真面目の身体を包むと、火花を散らして真面目ごと姿を消した。
消えた真面目の姿を追うように残されたそれは、消えた男の場所に立ち、街を見下ろす。
果たして男の目に写ったものと彼女の赤黒い目に写った景色は、同じに見えたのだろうか・・・。
そのことは誰にもわからない、だが一つわかったことは彼女にはまだ人の心が残されているということだ。
それはしばらくしてから、暗闇に姿を消していった・・・・・・・・・・。
▲▲▲
夜の帳が下りはじめた頃、空が紫苑色に染め上げる。
この静かな街に、何度目かの夜が来た。
真面目はタバコに火をつけて、廃校舎の屋上の欄干にもたれかけた。
タバコを吹かしながら、街を見ている。
街はそれほど大きくはない。
古い瓦の家々が立ち並び、病院の看板も経年劣化で文字が消えかかっている。電車が走る橋も色褪せている。
どこか街全体からレトロな雰囲気をかもし出していた。
それが真面目にとって心地よかった。
今、真面目が居る校舎は、昭和期にこの街のある豪族によって建設された私立のお嬢様学校であった。
まるで俗世から学生を守るように街から離れた丘の上に立ち、街全体を見下ろすことができる。
当時は栄華を誇っていただろうが今は見る影もない。
時代の移り変わりと共に廃れていき、今では街の心霊スポットとして有名である。
だから、街の住民は恐れて誰も近づこうとしない。
真面目にとってはそのほうがありがたい。
なぜなら、この景色を独り占めできるからだ。
しばらく街を眺めていた真面目もだんだんこの街の景色に馴染んできたものだと感慨深くなった。この2年間で本当に色々な経験をしたと、回想をする。
つい2年前まで、自分はただ普通の人間であり、ごく普通に働いていたサラリーマンであった。
しかし、あることがきっかけで霊界と意識がリンクするようになって、現実世界に潜む霊を見ることができてしまった。
最初は働きすぎて頭がおかしくなったのかと思ったが、どうやらそうではなかった。
それは座敷童の蒜山《ひるぜん》が教えてくれた。霊験あらたかとは正にこのことだろう。
タバコの灰が全て落ち切った頃、すでに街の建物を黒く染めていた。
真面目は吸い終わったタバコをポケット灰皿にしまう。その中にはすでに数本のタバコがあった。
真面目は背伸びをして帰ろうとした時、後ろで身の毛もよだつおぞましい気配を感じた。
全身を凍てつかさせるような、既知感のあるものであった。
真面目はゆっくり振り向き、その姿を確認する。
黒い空の下に紫炎が、燃え盛る。
明らかに、自然に発したものではない。
そしてそれに相対する形で、真面目は精悍な面持ちでその中心を見つめていた・・・。
その中心から、黒のセーラ服を着た色白い女性の姿が現れる。
髪は地面に達するほど長く、顔の大半を隠している。そしてその髪の内に赤黒い目が、
こちらを睨みつけていた。
彼女はうめき声をあげながら、ゆっくり真面目の方に近づく─ ─ ─。
普通の人間ならば恐怖で逃げることも戦うこともできない、ただ呆然と立ち尽くすことぐらいしかできないだろう。
しかし多くの修羅場を乗り越えた真面目ならば、話は別である。
彼女から発せられるドス黒い瘴気に当てられ、体中からは危険信号がなりっぱなしであったが、真面目は臆することなく彼女を見つめていた。
そしてその姿は、泣いているようにも見えた・・・。
真面目は優しく呟くように、
「もう少し待ってな・・・必ずお前の呪いを祓ってみせるから・・・」
─── ─── 。
そう言うと内ポケットの中から黒革の手帳を取り出して、その中の紙を一枚千切る。
紙には血で書かれた神代文字があり、真面目の前をひらひらと宙を舞う。
両手でそれぞれの印を結び、その紙に息を吹きかける。
紙は次第に蒼く燻り始める─────。
その紙は、蒼い焔をあげながら真面目の周りを高速で回り、蒼い光の線となる。
その蒼い光が真面目の身体を包むと、火花を散らして真面目ごと姿を消した。
消えた真面目の姿を追うように残されたそれは、消えた男の場所に立ち、街を見下ろす。
果たして男の目に写ったものと彼女の赤黒い目に写った景色は、同じに見えたのだろうか・・・。
そのことは誰にもわからない、だが一つわかったことは彼女にはまだ人の心が残されているということだ。
それはしばらくしてから、暗闇に姿を消していった・・・・・・・・・・。
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