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9 やり直させたら逆に若返った
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「ハンス様。今日もお仕事お疲れ様でした。お風呂にする? ご飯にする? それともわたくし?」
「……セラ、ス」
「まあわたくし? 相変わらず堪え性のない御方だこと。そんな所も愛しくて仕方ないのですけれど」
セシルは嫌々ながらも15歳前後の姿になり、嫌々ながらもハンスに愛の言葉を囁いていた。
このようなことになった経緯はヨハン達から聞いた話が発端だった。
色々あって人間不信になりかけていた息子のヨハンがやっと心を開ける人に出会い婚約を結んだのに、その婚約者であるマリアに馬鹿が目をつけた。よってセシルはキレた。ハンスは会話が通じないので親戚にキレた。
『しばらくおとなしくしていたと思ったら調子に乗りやがって! これ以上あの馬鹿を息子の婚約者に近付けたら容赦せんぞ! 色ボケじじいは死ぬまで監禁しておけ!』
『ひらに~! ひらにぃ~!』
セシルはハンスの親戚達に八つ当たりしたが、ハンスを図書館へ連れて行くのだけは禁止にしないでくれと騒がれた。
『図書館に連れていかないと物を投げるのです!』
『癇癪を起こして暴れるし、大便を投げつけてくる時もあって!』
『唯一まだ若い甥だけがハンスを押さえ付ける力があるのですが、甥も仕事があって四六時中見ていることは出来ないのです。おまけに老いた我々では、元騎士のハンスには敵わなくて』
『……車椅子のハンスに敵わないだと?』
『現在のハンスは体格がいいだけの中身は子供です。しかし図書館に連れていった日だけは、とてもおとなしくて……』
『証拠にこれを見せます。我々の体は……ハンスに殴られた痣だらけなのです』
『…………確かに、そのようだな』
親戚達は疲弊しきっていた。
そこでセラスが医師として助けになると言ったのだが、セシルが止めた。もうこれ以上妻とハンスを関わらせたくなかった。
息子の「実は若返れる」という暴露もあり、セシルは成長した息子と共にマリアの実験的提案に乗ってハンスの人生を悔いのないものに書き換えていた。これが成功すれば徘徊老人を減らす手がかりになるかもしれない、という医学的利権も考慮して。
「ハンス様、愛していますわ。チッ。百歳のお誕生日おめでとう」
「お父様、大好きですわ。百歳おめでとうございます」
「……ん。私、が……百歳?」
「ええ。そうですわよ」
「いやだわお父様ったら。わたくし達の姿が変わらないから、時の流れについていけないのね」
「ヨハンナ、お父様に青筋を立てて胸ぐらを掴んではいけませんよ」
「お母様だって夫に対してずっと棒読みでたまに舌打ちしてるじゃない」
セラスは実年齢の姿のまま、常にキレ気味な夫と息子のやり取りを後ろから見ていた。
息子のヨハンはハンスの娘ヨハンナ役を。
そして夫は自分の役を。
日に日におとなしくなっていくハンスの状態と共にとても複雑な気持ちで見ていた。
「ああ……愛する妻も、いて……可愛い娘もいて……私は幸せだ……とても幸せな……人生だっ、た」
そう言ってハンスは安らかな顔で目を閉じた。
「ようやく逝ったか」
「父上、まだ息してますよ」
「気のせいだ。死人の顔にかける布を持ってこい。出来れば濡れた布がいい」
「殺る気満々じゃないですか。マリアが気にするかもしれないので我慢して下さい」
セラスがハンスの状態を診るために側に寄った。そして脈と体温を計り、目の下の血管を診る。脳はともかく健康面に問題はなさそうだと診断するとハンスがパチっと目を開けて「おぎゃあ」と笑った。
ハンスは赤ん坊になっていた。
「……セラ、ス」
「まあわたくし? 相変わらず堪え性のない御方だこと。そんな所も愛しくて仕方ないのですけれど」
セシルは嫌々ながらも15歳前後の姿になり、嫌々ながらもハンスに愛の言葉を囁いていた。
このようなことになった経緯はヨハン達から聞いた話が発端だった。
色々あって人間不信になりかけていた息子のヨハンがやっと心を開ける人に出会い婚約を結んだのに、その婚約者であるマリアに馬鹿が目をつけた。よってセシルはキレた。ハンスは会話が通じないので親戚にキレた。
『しばらくおとなしくしていたと思ったら調子に乗りやがって! これ以上あの馬鹿を息子の婚約者に近付けたら容赦せんぞ! 色ボケじじいは死ぬまで監禁しておけ!』
『ひらに~! ひらにぃ~!』
セシルはハンスの親戚達に八つ当たりしたが、ハンスを図書館へ連れて行くのだけは禁止にしないでくれと騒がれた。
『図書館に連れていかないと物を投げるのです!』
『癇癪を起こして暴れるし、大便を投げつけてくる時もあって!』
『唯一まだ若い甥だけがハンスを押さえ付ける力があるのですが、甥も仕事があって四六時中見ていることは出来ないのです。おまけに老いた我々では、元騎士のハンスには敵わなくて』
『……車椅子のハンスに敵わないだと?』
『現在のハンスは体格がいいだけの中身は子供です。しかし図書館に連れていった日だけは、とてもおとなしくて……』
『証拠にこれを見せます。我々の体は……ハンスに殴られた痣だらけなのです』
『…………確かに、そのようだな』
親戚達は疲弊しきっていた。
そこでセラスが医師として助けになると言ったのだが、セシルが止めた。もうこれ以上妻とハンスを関わらせたくなかった。
息子の「実は若返れる」という暴露もあり、セシルは成長した息子と共にマリアの実験的提案に乗ってハンスの人生を悔いのないものに書き換えていた。これが成功すれば徘徊老人を減らす手がかりになるかもしれない、という医学的利権も考慮して。
「ハンス様、愛していますわ。チッ。百歳のお誕生日おめでとう」
「お父様、大好きですわ。百歳おめでとうございます」
「……ん。私、が……百歳?」
「ええ。そうですわよ」
「いやだわお父様ったら。わたくし達の姿が変わらないから、時の流れについていけないのね」
「ヨハンナ、お父様に青筋を立てて胸ぐらを掴んではいけませんよ」
「お母様だって夫に対してずっと棒読みでたまに舌打ちしてるじゃない」
セラスは実年齢の姿のまま、常にキレ気味な夫と息子のやり取りを後ろから見ていた。
息子のヨハンはハンスの娘ヨハンナ役を。
そして夫は自分の役を。
日に日におとなしくなっていくハンスの状態と共にとても複雑な気持ちで見ていた。
「ああ……愛する妻も、いて……可愛い娘もいて……私は幸せだ……とても幸せな……人生だっ、た」
そう言ってハンスは安らかな顔で目を閉じた。
「ようやく逝ったか」
「父上、まだ息してますよ」
「気のせいだ。死人の顔にかける布を持ってこい。出来れば濡れた布がいい」
「殺る気満々じゃないですか。マリアが気にするかもしれないので我慢して下さい」
セラスがハンスの状態を診るために側に寄った。そして脈と体温を計り、目の下の血管を診る。脳はともかく健康面に問題はなさそうだと診断するとハンスがパチっと目を開けて「おぎゃあ」と笑った。
ハンスは赤ん坊になっていた。
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