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22 こんな筈じゃなかったと奮えた結果⑤
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リチャードから金を手に入れたネイサンは急いでドーンズ家に向かった。ティアラに婿入りさえすれば貴族でいられる、今は婚約だけでも急がなければと焦りを感じていた。
だがやはり門兵が通してくれなかった。
それどころが剣先を向けられた。
「俺は貴族だぞ!」
「はい。次期平民のアトス令息でございますね」
「は?」
「来月には不用意に貴族の屋敷、その門に近付いただけでも叩っ斬られる平民になると、自覚はおありですか?」
「……ぐっ」
いつのまに自分の情報を。
まだ婚約してないだけで、自分はティアラの恋人だと言いそうになったが、そのようなはったりが通じる空気ではなかった。
次にネイサンが向かったのは学園だ。
卒業したティアラは既にいない。
しかしその後どうしたかを知る教師はいる。
「ティアラ・ドーンズ? 彼女は──」
ネイサンは教師からティアラが王宮で文官になったという情報を聞き、そのことに余計焦って翌朝には王宮に向かった。
急いだのは訳がある。
ティアラには継ぐ爵位があるにも関わらず王宮の文官になった。
女が王宮で働く理由の殆どが婚活だ。
もしかしてティアラは王宮で婿を探す気なのかと、流石に疎いネイサンでも気付いた。そして今まで手紙を送ることしかしておらず、無理にでも会いにいかなかったことを場違いにも悔やんだ。
仕事中でも昼休憩には会えるだろうと、そう思っていたのだが、ネイサンは王宮の中に入れなかった。それどころか門兵に斬られそうになった。
「お、俺は貴族だぞ! こんな事してどうなるか解ってんのか!」
「我々も貴族だが、馬車での登城はおろか、侍者もつけずに徒歩で入ろうとした貴族は初めて見る」
「上官、早く叩っ斬って昼を摂りにいきましょう。そろそろ交代の時間です」
「だめだ。正門をこんな奴の血で汚してはならん」
斬られそうになった、その理由は実に簡単なものだった。
ネイサンは王宮の正門を徒歩で素通りしようとしたのだが、それくらいならキチガイな平民扱いで摘まみ出されて終わりだった。しかしネイサンは帯剣していた。
全ての貴族は登城の際、武器の持ち込みは禁止されている。破れば牢屋入りだ。
そもそも王宮とはこの国一番の安全な場所で、護身とはいえ帯剣することは王家を侮辱する行為となる。
だから貴族達は正門に着くと馬車からおり、侍者に剣を預け、一人で登城するのだ。
そもそも招待状もないネイサンが安易に足を踏み入れることはできない。
ネイサンは門兵からキチガイな冒険者か何かと判断され、剣で脅されたあと、解放された。
なんでこんな目に……。
幼少期から夢だった騎士にはなれたものの、実際は騎士とはこんなものかという気持ちしか湧かなかった。
ティアラと結婚さえできたら自分はまた爵位が伯爵になる。それにティアラに後継ぎを生ませたら仮当主となることもできるのだ。そうなればドーンズ家の利権が譲られ、私兵も持つことができる。
「そうだ……元々貴族なんだから、俺は誰かに使われるより、使う立場の方が合ってる。くそっ……早くそれに気付いてれば」
騎士よりも貴族でいる方が自分には向いている。だからティアラとは絶対に結婚しなければいけない。
何かいい方法はないかと考えた末、ネイサンが思い出したのは、ドロテアだった。
そうだ、ドロテアがいる。
あいつはいま騎士団の主となったブラッドリーの妻だ。次期侯爵夫人の騎士となれば、ティアラとの婚約もスムーズにいく。
そう考えた。
だがドロテアと会うには既に壁が高すぎた。そのことにネイサンは全く気付いていなかった。
ジューン家の門兵は顔見知りだというのに門前払いだった。仕方なく先触れを出すも未封のまま送り返されてくる。
まさか格上の侯爵家に嫁いだから、伯爵家の実家とは今は交流がないのか? とネイサンは的外れなことを考えた。
クワイス家宛に手紙を出すのは気が引けたが、ネイサンは騎士団を経由して送ろうと考えた。
しかし騎士団の発送所で手紙の送り先、その名前を見た受付は「気でも触れたか?」と言ってその場で蝋燭の火で手紙を燃やした。ネイサンは呆気に取られて、怒ることすらできなかった。
「……な、なんなんだよッ!」
ネイサンは混乱していた。
もう時間がない。
流石に王都にある侯爵邸に乗り込むほど馬鹿ではなかったが、ティアラと結婚して貴族籍を得るためにも、今はなんとしてでもドロテアと会わねばと奮闘した。
そこでネイサンは騎士団で聞き込みをして、数日後に騎士団の主であるブラッドリーが訓練場に訪れるという情報を得ることができた。
これだ、とネイサンは拳を握り締めた。
自分が妻の幼馴染だと知ったら、ブラッドリーはドロテアに会わせてくれる筈だと愚かにも考えた。
その考えに至ったのが後に身の滅ぼすことになるとは、この時のネイサンはまだ知らない。
だがやはり門兵が通してくれなかった。
それどころが剣先を向けられた。
「俺は貴族だぞ!」
「はい。次期平民のアトス令息でございますね」
「は?」
「来月には不用意に貴族の屋敷、その門に近付いただけでも叩っ斬られる平民になると、自覚はおありですか?」
「……ぐっ」
いつのまに自分の情報を。
まだ婚約してないだけで、自分はティアラの恋人だと言いそうになったが、そのようなはったりが通じる空気ではなかった。
次にネイサンが向かったのは学園だ。
卒業したティアラは既にいない。
しかしその後どうしたかを知る教師はいる。
「ティアラ・ドーンズ? 彼女は──」
ネイサンは教師からティアラが王宮で文官になったという情報を聞き、そのことに余計焦って翌朝には王宮に向かった。
急いだのは訳がある。
ティアラには継ぐ爵位があるにも関わらず王宮の文官になった。
女が王宮で働く理由の殆どが婚活だ。
もしかしてティアラは王宮で婿を探す気なのかと、流石に疎いネイサンでも気付いた。そして今まで手紙を送ることしかしておらず、無理にでも会いにいかなかったことを場違いにも悔やんだ。
仕事中でも昼休憩には会えるだろうと、そう思っていたのだが、ネイサンは王宮の中に入れなかった。それどころか門兵に斬られそうになった。
「お、俺は貴族だぞ! こんな事してどうなるか解ってんのか!」
「我々も貴族だが、馬車での登城はおろか、侍者もつけずに徒歩で入ろうとした貴族は初めて見る」
「上官、早く叩っ斬って昼を摂りにいきましょう。そろそろ交代の時間です」
「だめだ。正門をこんな奴の血で汚してはならん」
斬られそうになった、その理由は実に簡単なものだった。
ネイサンは王宮の正門を徒歩で素通りしようとしたのだが、それくらいならキチガイな平民扱いで摘まみ出されて終わりだった。しかしネイサンは帯剣していた。
全ての貴族は登城の際、武器の持ち込みは禁止されている。破れば牢屋入りだ。
そもそも王宮とはこの国一番の安全な場所で、護身とはいえ帯剣することは王家を侮辱する行為となる。
だから貴族達は正門に着くと馬車からおり、侍者に剣を預け、一人で登城するのだ。
そもそも招待状もないネイサンが安易に足を踏み入れることはできない。
ネイサンは門兵からキチガイな冒険者か何かと判断され、剣で脅されたあと、解放された。
なんでこんな目に……。
幼少期から夢だった騎士にはなれたものの、実際は騎士とはこんなものかという気持ちしか湧かなかった。
ティアラと結婚さえできたら自分はまた爵位が伯爵になる。それにティアラに後継ぎを生ませたら仮当主となることもできるのだ。そうなればドーンズ家の利権が譲られ、私兵も持つことができる。
「そうだ……元々貴族なんだから、俺は誰かに使われるより、使う立場の方が合ってる。くそっ……早くそれに気付いてれば」
騎士よりも貴族でいる方が自分には向いている。だからティアラとは絶対に結婚しなければいけない。
何かいい方法はないかと考えた末、ネイサンが思い出したのは、ドロテアだった。
そうだ、ドロテアがいる。
あいつはいま騎士団の主となったブラッドリーの妻だ。次期侯爵夫人の騎士となれば、ティアラとの婚約もスムーズにいく。
そう考えた。
だがドロテアと会うには既に壁が高すぎた。そのことにネイサンは全く気付いていなかった。
ジューン家の門兵は顔見知りだというのに門前払いだった。仕方なく先触れを出すも未封のまま送り返されてくる。
まさか格上の侯爵家に嫁いだから、伯爵家の実家とは今は交流がないのか? とネイサンは的外れなことを考えた。
クワイス家宛に手紙を出すのは気が引けたが、ネイサンは騎士団を経由して送ろうと考えた。
しかし騎士団の発送所で手紙の送り先、その名前を見た受付は「気でも触れたか?」と言ってその場で蝋燭の火で手紙を燃やした。ネイサンは呆気に取られて、怒ることすらできなかった。
「……な、なんなんだよッ!」
ネイサンは混乱していた。
もう時間がない。
流石に王都にある侯爵邸に乗り込むほど馬鹿ではなかったが、ティアラと結婚して貴族籍を得るためにも、今はなんとしてでもドロテアと会わねばと奮闘した。
そこでネイサンは騎士団で聞き込みをして、数日後に騎士団の主であるブラッドリーが訓練場に訪れるという情報を得ることができた。
これだ、とネイサンは拳を握り締めた。
自分が妻の幼馴染だと知ったら、ブラッドリーはドロテアに会わせてくれる筈だと愚かにも考えた。
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