異形の君へ~バケモノが視えるようになった男のお話~

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「変な視線の原因は、あの先輩と一緒にいたバケモノだったんだな」
「変な視線?」

 ぽつりと漏らした独り言をシュウマに拾い上げた。
大学に提出するレポートから目を離す。どうせ、全然進まないのだ。

「実は……」

 気分転換がてらアヤトは大学内で感じていた『視線』のことを話した。

「ジーとどこからか見られてて、こう…観察されてる感じ? ちょーきしょかった」

 それがピタリとしなくなったのだ。
シュウマが目ん玉が無い男を殴ってから嫌な視線がなくなったため、アイツが原因だったのだろうと思い至る。

「じゃあ、今は怖い思いしていないんだね」
「そうだな。今のところはなー」

 気付いてからまだ一日しか日を隔ててないので潜んでいるだけかもしれないが、大丈夫だろうとアヤトは思った。

――ひとりにならねぇようにすれば、問題ないだろ。

 誰かと一緒にいればいい。そうすれば、化け物に襲われはしないはずだとアヤトは人に頼る気でいた。
そこにいる幼馴染には、特に期待をした。

「そうか。大丈夫そうだね。じゃあ、そろそろ帰えろうかな」
「…………へ?」

 レポートどころではなくなった。
 
――そうだった……シュウマは村に帰るんだった…………。

 シュウマは、こっちに住んでいない。
本拠地はあっちだ、田舎の村であったと快適さで忘れかけていた事実を思い出す。

「か、帰る……」
「うん。さすがに家に帰らなきゃなと思ってね。ごめんね」

 帰る日は明日、明後日と今すぐではないと話すシュウマ。
でも、村に帰ることには変わらないわけで……。
アヤトは、不安になった。一人で生活していけるのか自信がなくなっていた。
完全に家事炊事全般をシュウマに任せてきたツケであり、自業自得である。

――帰るなよ。ここに住んじゃえよ。

 そう言おうとしたが。

「親からも問題がないなら帰って来いっていわれてるんだ。仕事しないだし、ね」

 まるで心を読められたかのように言われてしまい、アヤトは言えなくなった。
これ以上シュウマを引き留めたら、念願のひとり暮らしに問題が発生したとシュウマの親に思われ、シュウマの親から兄に伝わるかもしれない。
それに最初は、追い返そうとしたクセに引き留めようするなんて虫が良すぎる。

――これ以上、引き留めたら村に連れ戻されるかもしれない。

 ひとり暮しがしたくて村から出てきたのだ。
アヤトは、シュウマを引き留めるのを諦めた。

「いつでも…いや、すぐにでも! 遊びに来いよな!」
「うん。実家の野菜を持って来るよ」
「お、おう。おじさん、おばさんと…あとじーちゃんにお礼いっといてな」

 化け物が視える前までは、普通に一人で生活は出来ていたのだ。
化け物をみかけても気付かないフリをすればなんとかなる。なんとか……。

とにかく、アヤトは強制送還されるのだけは嫌だった。



「今日の夜、メシ食いさ、行かねぇ?」

 アヤトは、友人である野田と斉藤を誘った。
チラッと二人は顔を見合わせてから「いいぜ」と了承した。

――二人ともっと仲良くなってひとりになる時間を減らそう。

 アヤトは、シュウマが帰る前に少しで仲良くなろうとした。
そうして、待ち合わせ場所に着くと友人らと知らない人が待っていた。

――誰?

「へぇ、アヤトくんってそんな遠いところから越してきたんだぁ」

 えらいえらいと褒められ、頭をよしよしと撫でられる。
アヤトの頭を撫でたのは、最近付き合ったばかりだという斉藤の恋人だった。
名前は、レイ子。同じ大学だが、専攻が違うため講義は被らず、面識はなかった。
待ち合わせ場所近くにあったファミレスで紹介された彼女は、なぜか出会った時からアヤトに興味を持っていた。

「本当にモデルさんみたい! モデルの仕事やってないんですか?」
「や、やってないよ」
「え~、ウッソだぁ~」

 ちょんちょんとつっつかれる。
恋人ではない男へのボディタッチの多さに恋人である斎藤は、嫉妬で顔を顰めた。

――彼氏の前でベタベタ触るなよ。めっちゃ気まずいし、睨まれてるじゃん。

 レイ子の行動を止めた方がいいのだろう。でも、どうやって? とアヤトが迷っている間に斎藤が動く。

「……やめとけよ。嫌がってるだろ」
「あ! そう…そうだよね……。イヤでしたよ、ね? ごめんなさい」

 斎藤に注意されたレイ子は、しゅんとあからさまに肩を落とす。

「いや、全然気にしてないよ」

 罪悪感に襲われ、つい否定した。
守りたくなるような可愛らしい人が悲しむ姿は、決して自分が悪くなくても罪悪感を煽られる。

「よかった~。これからも仲良くしてほしいなって思ってたの。あ、もちろん、野田くんもだよ!」
「なんか俺、オマケみたいやん」

 野田がおどけ、四人は笑う。

――いくら、かわいい女の子でも好きじゃないとやっぱ気持ち悪いモンなんだなぁ。

 友達の彼女にベタベタと触られたことでアヤトは理解する。
ほとんどが顔見知りしかいない村の中でぬくぬくと暮らしてきたアヤトは、とても疎かった。



「おかえり」
「おう」

 玄関が開く音でシュウマがアヤトを出迎えに廊下を出てきた。

「楽しかった?」
「う、ん。まぁな」

 アヤトは、シュウマに近寄ると手を握る。

「え、え、え、なに? アヤト」

 帰ってきて早々、手を握ったり触ったりされ、シュウマは驚く。
珍しくシュウマは、取り乱している。それが何だか面白くてアヤトは確かめつつ、にぎにぎと手を触った。

「ふむ」
「何を納得したの?」

 確かめた後、満足したアヤトはシュウマから手を離した。

――気持ち悪くなかったな。自分から触ってみたからか?

 でも。

――他ヤツに触られるのは、なんかものすごくヤダ。

 不思議だ。合コン前までは、思わなかった感覚である。
その感覚は、シュウマだけは発生しない嫌悪感であるのだが、無自覚なアヤトはまだ気付かなかった。
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