異形の君へ~バケモノが視えるようになった男のお話~

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6 後編

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「友達の彼女を盗ろうとした」
「合コンで知り合った女をヤリ捨てた」
「何人もそうやって捨ている」

 わざと聞こえるように囁かれる。
アヤトは、溜め息をつくと次の講義をする教室へと向かった。
 
――誰も信じないだろ。

 アヤトの周辺はとても静かになった。
誤解と半分事実が混ざった噂のせいだ。いつの間にか陰口で囁かれるような内容が大学内で流れていた。

――盗ってもいねーし、捨ててもねぇ!!

 むしゃくしゃする。噂の内容を否定して周りたい。
だが、言い方が違うだけで概ね合っていた。それでも、かなり歪んではいたが。
バカ正直に話したところで耳を傾けてはくれないだろう。
何も知らない、一部しか判らない人達に囁かれ、歪んだ噂はアヤトを孤立させるのに十分だった。


 午前の講義が終わり、食堂で昼食をとるアヤトのもとにレイ子が現れる。
「話したいことがあるの」と空いてる向かい側のイスに座った。
アヤトは、嫌な顔をした。自分を孤立させた当人が接触してきたのだ。表情に出てしまうのは仕方ない。

「斉藤は? オレに話しかけていいんか?」

 お前の彼氏はどうした? と暗に含ませて聞く。
恋人のところへ行けよとさえアヤトは言いたくなった。
レイ子と関わりたくないのだ。
だから、正直に自分と関わらないでくれと伝えた。すると。

「やっぱり怒ってますよ、ね。でも、どうしても、アヤトくんに謝りたくて」

 突然だった。

「ごめんなさい……! 斉藤くん達と仲を悪くさせてしまって……。私のせいです。本当に本当にごめんなさい」

 瞳を潤ませたレイ子は、何度もアヤトに謝ってきた。
食堂で涙を浮かべる女性を目撃した人々は、アヤトに冷たい視線を送る。中には好奇な目で二人を観察する者もいた。
か弱い女の子の哀しむ姿には、どんな聖人であっても悪者に見られてしまう。
アヤトは焦った。勘弁してくれ。

「もう謝らないでくれ。レイ子さんのせいじゃないから」

 はたして、そうだろうか? とアヤトは疑問になるが、今は泣き止んでほしくて否定した。

「でも、でも……私のせいでごめんなさい。どうかお詫びをさせてほしいの」
「お詫びって。そんなのしなくていいから」
「ううん……あと相談したいの。斉藤くんのことで」
「え……それは、ちょっと」
「まだ怒ってますよね。ずっと私のことをゆるしてくれないんだわ」

 ぐすん、と再び瞳に涙を溜めるレイ子に参ってしまった。
アヤトは降参だというふうに両の手のひらを見せた。

「わかった。ここでじゃ、アレだから別のとこに行こう」

 二人は、人目の多い食堂を出ていく。
レイ子に誘導されるまま部室へと案内される。
「さぁ、どうぞ」とアヤトを室内へと招き、レイ子は部室のドアを閉めた。

「相談って……なに?」

 部室に入ってから口を開かないレイ子を不審に思いつつ、アヤトは聞いた。
 
「やっと二人っきりになれたね」

 どん、と背中を抱きつかれ、突然の出来事に少しよろけた。
レイ子に触れられた箇所から一気に鳥肌が全身を駆け巡る。

「もう邪魔されないよね」
「な、なにやって……」
「本当は、あなたが欲しかったの」
「斉藤は、どうするんだよ。付き合ってンだろ」

 友人の恋人と付き合う? ありえねぇ。
アヤトは口には出さなかったが、レイ子の告白を受けて思った。

「恋人がいるヤツと付き合えねぇーよ」
「いいえ。違うのよ」

 腰に回してきた腕を解こうとするアヤトにレイ子は言葉を付け加える。

「あなたを食べたいの」

 レイ子は、正体を現す。
ロングスカートの下から複数の足を見え隠れする。
きっと見間違えだとレイ子の顔に視線を向ければ、グルンと瞳孔が上瞼へと消えた。

「ヒッ」

 恐怖心を煽られ、レイ子目掛け腕を振り下ろせば、顔に当たった。
だが、レイ子は怯まなかった。それどころか。

「…ッツ…………!」

 鋭い痛みが走る。
針みたいな八重歯が食い込んでいた。手を噛まれたのだ。
とっさに振り払い、緩んだ腕の輪から抜け出すとドアの方へ向かう、が。

「あ、ぇ……?」

 視界がぐにゃりと歪む。
走っていたつもりが地面を滑り、バランスを崩していた。
膝をついたまま立ち上がれない。

――うぇ、気持ち悪い……。

 手を嚙まれた際、身体の中に毒が入ったのだ。

――たすけて、シュウマ。

 アヤトは、心の中でシュウマに助けてを求め、気を失った。
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