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8 後編
しおりを挟む「遅いわねぇ」
お腹を空かせたレイ子は、苛立ち気に呟く。
我慢ができなくなったのかアヤトの腕を掴み、一本ぐらいならと思い始める。
――触んな、クソ……。
目を覚ましたアヤトは、ベタベタと触ってくるレイ子を罵った。
意識が戻ったからといって体内に巡る毒はまだ抜けておらず、動けない。
好きでもない相手に触られるのは、こんなにストレスが溜まるのかと嫌悪感に苛まれながらアヤトは思った。
「少しだけなら……いいはよね?」
じぃーと腕を物欲しそうに見つめ、レイ子は言う。
ギョッ、と目を見開くことしかできないアヤトは逃げられない。
食欲を抑えられない化け物は、目の前のご馳走に噛みつこうとした時だった。
ドン、ドン……ガッチャ、とドアが開く。
「わぁ、来てくれてのね! 待ってたんだよ。サイトーくん」
嬉しそうにレイ子は、ドアの方へ向かっていくが、ピタッと立ち止まった。
「……え、だれ? あなた」
レイ子の驚いた声が聞こえてくる。
「ここ…部外者は、立ち入り禁止で……」
部室に来たのは、ここに呼んだはずの恋人の斉藤ではなかった。
知らない人を部室の中に入れたくないレイ子は、追い払おうとするが、なかなか去ろうとしない。
「……を……せ………さい」
「帰ってください! 通報しますよ!!」
誰かと揉めている。助けもらう好機だ。
アヤトは身体を動かし助けを求めようとするが、視線しか動かせない。それでも。
「た……す、…けて…………」
唇を動かす。囁く声しかでないが、なんとか助けを求めた。
「退けッ!!」
助けるを求める声が届く。男の怒鳴り声が室内に響いた。
部室内に男が入り、床に倒れているアヤトを見た。その瞬間、男の形相が一変する。
なお、毒で意識がはっきりしないアヤトには、誰が来たのか判っていなかった。
「ギャ!?」
鬼の形相でシュウマは、レイ子を殴り倒していた。
後から部室に入ってきた斉藤と野田がシュウマを止めようがするが。
「うっわ!?」
もぞもぞと動く小さな蜘蛛を見た二人はゾッとし、反射的に距離を取った。
もうすでにレイ子は、たくさんの小さな蜘蛛になっていた。
「クソ……」
すべて踏みつけてやりたい。
散り散りに逃げていく小さな蜘蛛に怒りが収まらないシュウマだったが、アヤトの姿が目の端に入り、追いかけるのをやめる。
大事なのは、アヤトの方なのだ。人食いの化け物ではない。
「触るなッ!!」
ぐったりと倒れているアヤトに触ろうとした二人を制止させる。
ビクッと手を引っ込めた姿を見て、シュウマは申し訳なくなった。
自分の不甲斐なさでアヤトが辛い目になっているというのに他人にやつ当たりするなんて……。
「ごめん」
「い、いや……」
「俺が連れてくから」
シュウマは、アヤトのそばにいくと横抱きにし、立ち上った。
スタスタと出口へと向かう彼らに二人は何も聞けず、ただただ見送ることしかできなかった。
それからというもの斉藤は、レイ子と連絡がつかなくなってしまった。
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