ブラッドフォード卿のお気に召すままに

ゆうきぼし/優輝星

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・偽わりの花嫁と竜のイノセント

8 お気に召すままに

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「なんだと?もう一度言ってみろ!」
 ユリシーズが大声で怒鳴る。筋肉隆々の体で、威圧感も半端ないのに、対応する文官が目を白黒させているではないか。もう少し自分の存在感の大きさを考えて行動しないといけないのではないか。

「どうした?アリアージュについての話だろう?何がわかったのだ」
 青い顔をした文官が俺の方を見ると、しどろもどろに答え始める。

「は、はい。確かにセントフェルザラート国に招待状をお送りしたのですが…今回は辞退された…はずでして」
「それはどういう意味だ?セントフェルザラートは夜会に来ていないという事か?」
 やはりそうか。たばかられたか。これだけ大規模のイベントだ。人の往来も激しかったはず。

「はい!そのとおりでございます!」
「だが、私は挨拶を受け取ったぞ」
 アーベル王が不思議そうにする。そうだ、招待状のないものは入城できないよう厳重にチェックはしていたはずだ。王とあいさつをするにはまず、招待状を確認してからでないといけなかったはずだ。

「それは、その、即位祝いの使者は参っておられまして……」
「ではその者を呼び立てて来い!」
 ユリシーズがいら立ち気味に叫ぶ。俺だって叫びたいのを我慢しているのに。

「も、もう帰られました。城にはおられません!」
「城にはアリアージュと彼を見張る者を残して後は帰路に就いたということだな」
「だが、どうやって?出入りの人数は確認していたはずだぞ!」
「怒鳴るなユリシーズ!協力者がいるということかもしれないぞ」
 来賓に紛れて、隠れ潜んでいたのか?表面的には、セントフェルザラートは関与していないということか。


「くそ!最初からユキちゃんを狙っていたんだな!」
 ユリシーズはこう見えて可愛いもの好きだ。見た目は上背もある怪力男で、騎士団を率いている団長である。だが、小さくて可愛いものが大好きで、特に聖獣のユキを盲愛している。

「俺のユキちゃんをさらった奴は八つ裂きにしてやる!」
「うるさい!誰がお前のユキだ!あれは俺の守護獣だ!」
「お前、ユキちゃんやイブキがさらわれたのによく………すまない」
 俺の体からバチバチと雷気が滲み出していたのに気付いたか。最後まで言われたら、ぶん殴っていたところだろう。
「はあ。まずは、この後の事を早急に相談しなければ…」

「私は後を追うぞ!」
「陛下!それはなりません!」

 ヘルマンがアーベル王を必死で止めている。アーベルはまだ若干25歳だ。普段は威厳を保っているが、実は俺よりも3歳年下だ。幼いころから王族として厳格に生きていたこいつに、あれこれ教えて回ったのは俺だ。アーベルの中には好奇心旺盛な少年が隠れている。それに家臣の中には王になるにはまだ早いとも言う奴もいる。だけど。なってしまったものは仕方がない。王にならなければいけないのだ。

「……俺は陛下に忠誠を誓った。それは共にこの国を立て直すと言う誓いを立てたからだ。よもやお忘れではないですよね?俺とて、最愛の半身を今すぐ連れ戻したいんだ。こんな面倒ごと全部ほっぽり出して、イブを助けに行きてぇんだ!だがな、イブならきっと、きちんとするべき事をしてからでないと、ダメだって言うんだよ。あいつはそういうやつだ。俺はあいつに叱られたくねえんだ」

「エルシド……そうだな。私はもう王子ではなく、国王なのだな」
「そうだ。わかっていたはずだろう?……」
「ああ。…ひと時の夢をみていたのだな」
 夢にまでたどり着いてなかっただろうに。淡い思いのまま胸の奥へ閉じ込めてしまえ。

「ヘルマン。状況を知らせよ」
「はっ!暗部によりますと、怪しい動きをしていたものを数人取り押さえております。一様に自害が出来ぬように猿轡をかませて、手足は封じております」

「ユリシーズ、城から逃げ出したものはおらぬのか」
「はい!爆破の混乱に乗じて騒ぎにはなりましたが、門兵からは城から出たものはいないと報告を受けております」
「おい、クラーク。お前のところの情報はどうなのだ?」

 俺の背後に控えている執事のクラークも、独自のルートを持っているはずだ。俺が下町のルートをもっているように。

「はい。エルシド様。爆破を仕掛けた者を追いかけた者がおりましたが、その場で自爆されてしまったようです。用意周到なところを見ると、かなり計画的だったのではないかと」
「それは俺も思っていた。だが、アルミュール国を狙うにしては規模が小さすぎる。それに、もし失敗しても被害は少なくて済むようなやり方だ。アリアージュ自体が捨て駒だったのかもしれないな」
「聖獣や人の命を何だと思ってるんだ!」

 ユリシーズが吠える。こいつにも聖獣がいる。青いウォルフで、ユキを介してユリシーズの聖獣となったのだ。イブキによると、狼という動物に似ており、ユリシーズの感情に合わせて行動をするらしい。ユキが癒しや聖魔法を使うのに対して、ウォルフは衝撃波を使い、攻撃に特化している。巨漢のユリシーズを背に乗せて駆け回ることもできる。


「ふむ。ユリシーズが言う通りに、最初から狙いはユキだったのだろう。ユキだけでは意思の疎通ができないから、イブを連れて行ったと考えたほうがいいな。問題はユキを使って何を企んでいるかだ」
「セントフェルザラートは、鉱石が取れる国だったはずですが、年々、その収穫量が減ってきていると聞いております。去年のものですがこれを…」

 クラークが資料を取り出す。そこには近年のデータが記載されていた。よくぞ他国のデータなど集めたものだ。こいつのルートは手広すぎる。他国にまで潜入させているのだろうか?

「なるほど。掘りすぎて埋蔵量が減っているというわけか。では、ユキを使って緑化にでもするつもりか」
「そうかもしれませんが、あの国には龍信仰があると言われております」
「龍?ユキの力を使って、龍に接触しようとしているのか?」

「なんと?そんな無茶なことを…」
「ヘルマン。何が無茶なのだ?龍とはどのようなものだ?」
「はい。陛下。龍とは、姿を見た者が少ないゆえに、伝説の動物と言われております。プライドが高く、その力は破滅に導くとも言われるほど強大で、神として祀られ、信仰の対象ともなっております」

「神か…それは。なんとも厄介だな」
「アーベル陛下。とりあえず夜会は終了とされた方がよろしいでしょう。ただし、城から出す前にユリシーズがきちんと怪しい者がいないかの吟味をするように」
「任せておけ」


「それと、ルドニーク国の件もお前に頼んでおく」
「なんだルドニーク国の件?セントフェルザラートの他にも何かあるのか?」
「こちらは、王女が、恋人と逃亡をはかろうと……。そうかそういう事か」

 相手は複数のトラップを仕掛けようとしていたのか?ということは、ルドニークのメイドの数も確認させたほうがよいな。アリアージュのいい隠れ蓑だったのかもしれない。

「どうしたエルシド。また悪い顔になっているぞ」
「うるさい。ユリシーズ、お前こそ鏡を見たことあるのか!」


「はいはい。そこまでです。話を進めましょう。時間がもったいないですよ」
 クラークが何かを作り出していた。追跡装置の部品を組み合わせている。

「…とにかく、国の名誉のためにも聖獣を取り返しに行かないといけない。だが、公に動くことはできない。国の威信がかかっているからな。俺の単独行動にする」

「はい、そういうと思ってましたよ。これは追跡装置の小型版です」
 この短時間で作り直すとは、イブキに魔道具マニアと言われるだけはある。

「それと業務についての連絡を取るための通信機です。これは貴方の助手のエバンとフランシスにも持たせますからね。朝昼晩と確認の連絡を入れてください。宰相が不在だとバレないようにしますので」
「あ、ああ。わかった。よろしく頼む」

「シド。本音を聞かせてくれ」
 アーベル王が俺を見る。そうだな。アーベルだけに本音を言わせて終わるわけにはいかない。
「名誉なんてくそくらえ!俺の可愛いイブを取り戻しに行くんだ。イブの命の安全が最優先だ。俺は俺の平穏な生活のために動くんだ!」

「ユキちゃんも助けろよ!」
「当たり前だ。ユキは俺の守護獣だからな」

「ふふ。いってらっしゃいませ。すべてはエルシド様のお気に召すままに」
 いつものようにクラークが微笑んだ。
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