ブラッドフォード卿のお気に召すままに

ゆうきぼし/優輝星

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・腹黒宰相は異世界転移のモブを溺愛する

47)アーベル王太子

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「ふははは。あの間抜けた顔。面白かったぞ」
 王の執務室に入るとアーベル王太子は笑い転げていた。

「王太子……何がそんなおかしいのですか?」
 くそ。何笑ってやがるんだ。執務室に来いって言ったのはアーベルだろうが!
 
「シド。ここでは私らだけだ。もう普段の口調に戻ってくれ。話しにくいではないか」

「イブキとか言ったな。君は本当にオウルと話しが出来るのだな」
「はい。いえ、なんとなくそんな感じがするだけですが」
 興味本位でイブキに近寄るな。俺のつまらねえ話とかばらすんじゃねえぞ。

「ふはは。おい、そんな顔するなって。嫉妬深い奴だなあ」
「アーベル。さっきから笑っているのは俺の顔のことか?」

「ああ、そうだ。オウルが肩に乗った時の呆けた顔ったら!ヘルマンにも見せたかったぞ!」
「アーベル殿下がこんなに楽しそうに笑われるのは久しぶりでございますなあ」

 老執事が俺達の前に茶を運ぶ。ヘルマンはこう見えても体術が得意な得体のしれない老人だ。イブキはまだ現状が理解できないようでポカンとした顔でいる。

「イブキ、私とシドは悪友なのだよ。昔はよく王宮を抜け出して市井を駆けずり回ったものだ」
「そうなのですね。少しだけなら団長さんに聞いたことがあります」
「そうか。ユリシーズとも面識があるのだな」

「ああ、あいつの守護獣を見つけたのもイブだ」
「そうだったのか。ウォルフも成獣から神聖化すれば神獣になると言われているからな」
「え?そうなのですか?知らなかった」


「俺はどの動物もイブが触れると神聖化していくのではないかと思っているぞ」
「あはは。そんなはずないじゃないですか」
「いや、本気で俺は思ってるぞ」
 更に俺はイブキのチカラで動物たちと意思疎通ができると感じている。


「…………」
「…………」
 アーベルとヘルマンが目を見開いていた。なんだ?どうしたって言うんだ?

「……シド。よかったな。またお前のそんな笑顔をみれるなんて……」
「アーベル。俺の表情を見てからかうのは辞めろ」
 笑っていたというのか?俺が?。どうもイブキと居ると気が抜けてしまうようだ。ここは王宮、気を引き締めないと。誰がみているかわからないからな。

「いえいえ。本当の事でございます。エルシド様はここ数年、笑顔をお忘れになっていましたので」

「シドはあまり笑わなかったのですか?」
「王宮に居る時は仕事がらみだからだ。仕事中にヘラヘラしていたらおかしいだろう?」
「なるほど?」

「ふ~む。シド。イブキと結婚するときは私が立会人になってやろう」

「ひぇ!け、け、結婚ですか!」
「アーベル!イブをからかうな!」
 はあ?何をまた言う出すのだ。ニタニタと笑いやがって。性格が悪いぞ。

「どうしてだ?そんなに仲が良いのだ。同性婚が認められているし、シドの元にはもう跡継ぎもいるではないか」
 アーベルめ。こんなときにステファンの話しを持ち出すなよ。

「それよりも報酬のはなしだろ?イブキは言いたいことがあるんだろ?」
「そうでした!あの、王太子殿下、できれば薬師さんたちの地位をもう少しあげて欲しいのです」
「薬師の地位をあげる?」
「はい。神官さん達が貴重な存在だということはわかっています。でも薬をつくれる薬師さんたちも貴重な人材だと僕は考えているんです」

「なるほど。今回の万能薬については私も評価したいと思っていた。では具体的にどうしたらいいと思う?」
「そうですね、例えば役職を与えてあげるとか……それと万能薬の流通を押し広めるほうがいいでしょう。一局にチカラが集まりすぎるのは良くないです」
「神官たちの仕事を取り上げるというのか?」
「いいえ。万能薬は傷やけがにはよく効きますが、難しい病気や心身的なものは治癒には及びません。そこで線引きをするというのはいかがでしょうか」

「くくく。面白い!そこまできちんと答えが返ってくるとは思っていなかったぞ!シドが気に入るわけだ」
「イブはお前にはやらないぞ」
 アーベルのやつ、イブキに興味を持ちやがったな。
「ははは、ヘルマン見てみろ。シドがおこっているぞ」
「怒ってなぞいない。お前こそ、ヘルマンにいちいち言いつけるなよ」


 不毛な言い合いが続いている中、コンコンと執務室のドアが叩かれた。
「誰じゃ。人払いを申しておっただろうが!」
 アーベルが王太子らしく応答する。扉の前にはデニスが控えていたはずだが。通したというのならあいつしかいないな。

「私です。ユリシーズです!」
「なんだお前か。早く入ってこいよ」

「はっ。失礼いたします。王太子殿下にはご機嫌麗しゅう……」
「もう長ったらしい挨拶は抜きだ。早く入って戸を閉めろ」

 入ってくるなり俺の目の前に立つ。デカいんだから前に立つなよ。視界が遮られるじゃないか。
「やっぱりここだったか。エルシド、俺にも挨拶に来いよ」
「今日はイブの任命式だぞ。お前は後回しだろうが!」

「ピィ!ピーピー」

 ユキがうるさいとばかりに俺の肩で鳴いた。

「おお~。ユキちゃん。会いたかったでちゅよ」
 なんだその猫なで声は!ユリシーズお前、キャラが変わったのではないか?

「どうしたんだ?何か悪いモノでも食べたのか?」
 アーベルも驚いているぞ。ユリシーズは背中を丸めて毛玉ユキを凝視したまま手をワキワキさせている。触りたいんだろうが挙動不審過ぎる。

「おいっ。気持ち悪いぞ」
「うるさいな。お前に言ってないぞ」
「ピィ!」

「ほらユキが嫌がってるじゃないか」
「ユキちゃんは嫌がらないよね~。可愛いなあ」
「だからしゃべり方が気持ち悪いと言っているだろう!」

「ほら、ユキ。行っておいで」
 イブキが言うとぱたぱたと毛玉がユリシーズの肩に止まった。

「お!お!俺の肩に!見てくれ!俺の肩に!」
「わかった。わかったから怒鳴るな」
「ユキちゃん!ありがとぉおお」
「うるさい、ユキがおどろいてるじゃねえか」
「す、すまない。怖くないでちゅよ」
「だから気持ち悪いって」


 俺達が言い争っている横でアーベルがイブに話しかけていた。

「イブキありがとう。シドの楽しそうな顔が見れたのはお前が来てくれたおかげだ」
「そんな。僕は何もしてませんよ」

「シドが笑わなくなったのは私のせいでもあるのだ。王宮はやぶの中と一緒でな。そんな中私と共に走り続けてくれているのだ。シドには感謝している。このままシドを支えてやってくれるか?」
「はい。もちろんです」

 アーベルめ。余計な事を言いやがって。

「実は。支えてもらってるのは僕の方なんですよ」

 イブキがにっこりとほほ笑んだ。天使のほほ笑みってこういうのか?ああ……やられた。


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