【完結】塩対応の同室騎士は言葉が足らない

ゆうきぼし/優輝星

文字の大きさ
14 / 34
第二章:辺境伯は溺愛中

11マリッジブルー

しおりを挟む
 いよいよ卒業間近となった。サムの考えでは卒業と同時に教会に行って式を挙げるつもりだったらしいが、そんなにうまくいく話でなかった。

 3日後の卒業式に出席するために各地から生徒の家族が王都へと集まっていた。今、俺たちの前にはサミュエルの父親であるレイノルドがいる。
「サミュエルよ。お前卒業後はすぐに辺境地に行って騎士団誘致のために動き回るのだろう?その間はアルベルトが屋敷を采配しないといけないようになる。学生が卒業したからと言って急にあるじになれるわけがないだろう。それにお前はここよりも険しい道を選んだのだぞ。アルベルトにも考える猶予を与えるべきだ!」

 まったくもって……そのとおりだった。正論過ぎて言葉が見つからない。勢いのまま婚姻しても僕自身どうすればいいのか右も左もわからない。だからと言ってサミュエルに頼り切るのも嫌だ。自分の力で出来ることはしたい。

「父上。俺の意思は変わらない。俺の伴侶はアルだけだ。でも見も知らぬ場所でいきなり領主の伴侶になれというのも酷な事だと理解はした。だから、父上の意見を取り入れて一筆書き込むことにする」
「ほほお。お前も少しは大人になったのだな」
「アルベルトに見合う男になるためだ」
「はははは!言う様になりおったわい」
「はあ?」
 まただ、この二人は通じるところがあるのだろう。僕や周辺の者を取り残して勝手に話を進めてしまう。

「いい加減にしてください!婚姻は二人でするものです。僕の意見も聞かずに進めるならなかったことにしていただきますよ!」
 僕は踵を返して部屋を飛び出した。
「ま、待て!アル!すまない!つい……」
 サミュエルが背後で叫んでるが無視して走って逃げてきた。まったく人をバカにするのもほどがある!僕の話じゃないか。なんだよ。なんで僕に説明してくれないのさ。全速力で走り抜けた。僕は身体の芯は細いが足は速い。すぐには追いつけないだろう。ふん。今頃心配してる事だろう。
「……そうだ。心配してくれてるんだな」
 急に頭がさめてくる。ついカッとなって飛び出してしまったが僕の事を考えてくれていたのに。
「だめだなあ。すぐに頭に血が上る。こういうところは母さまに似たのかなあ」
 トボトボと寄宿舎の近くまで戻ると子供じみだ自分の行為が恥ずかしくなってくる。
「ああ。公爵様に呆れられたかもしれない」
 息子にふさわしくない相手だと思われたらどうしよう。今更ながら身分の違いにとんでもないことをしたと気づく。その場で頭を抱えて座り込んだ。
「もぉどうしよう。僕はなにをやってるんだろう」

「アルベルト?そんなところでどうしたの?」
 聞き覚えのある声に驚いて振り返ると母さまがいた。
「え?母さま?どうしてここに?」
「何を言ってるの。卒業式の前に公爵様にご挨拶をしておかないといけないでしょ?だからまずは貴方に会おうと思ってやってきたのよ」
「ぐす……もぉだめかもしれません。僕は離婚されてしまうかもしれない!」
「え?離婚?まだ結婚もしてないじゃないの?」
「うう。どうしよう。サミュエルの事が好きなのに。僕……僕は」
「まあまあ。いい男の子がそんな風に泣くものじゃないのよ。いらっしゃい」
 母さまが両手を広げて僕を抱きしめてくれた。久しぶりだ。こんな風に泣きじゃくったのは。

「さあ、それで。サミュエルさんはどうされるの?」
「え?!」
 泣きべそをかいてる横でいつの間にかサミュエルがいた。それも凄い気まずそうだ。
「すまない。すぐに追いついたのだが、声をかけるタイミングをなくしてしまって」
「何があったのかは知りませんが、とりあえず今日のところは私がこの子を連れて帰ってもいいかしら?」
「……わかりました。寮には伝えておきます」
 サミュエルはそれだけ言って僕を見送った。ごめんよ。だけど今は謝りたくないんだ。

 ここの寄宿学校には親族の泊まるスペースもある。サミュエルの父親の公爵家などは王都にも別邸があるのでそちらに居られるが僕のところのような三流の子爵家にはそのような別邸を持つのも難しい。従って母さまたちは親族スペースで今日は泊まるようだった。
「今日は私とコンラッドで来たのよ。明日にはお父様と他の子達も来る予定よ」
 部屋に入ると一番上の兄上コンラッドが驚いて駆け寄ってきた。
「どうしたんだ?そんなに目が腫れて」
 僕って泣きすぎたのか?見てすぐわかるほど目が腫れてるの?
「今日は久しぶりに三人で寝ようと思ってね」
 母さまが片目をつぶってみせた。素敵だ。余計なことは言わないで居てくれるのが嬉しい。
 
「それで、何があったのか僕にも教えてくれないか?」 
 コンラッド兄上が心配そうに聞いてくる。母さまがいれてくれたホットココアを飲みながら僕はぽつりと話し始めた。あったかい飲み物は気持ちを落ち着かせてくれる。
「不安なんだと思う。サムの事は好きで一緒に居たい。離れたくないけど、新しい生活に馴染めるのか。僕が領地経営なんてのを手伝えるのか。ちょっと怖くなっちゃって……だから余計に腹が立って飛び出したんだと思う」
「マリッジブルーだったのね」
「「はあ?」」
 僕と兄上は互いに顔を見合わせた。
「何それ?」
「ふふ。マリッジブルーってね。結婚直前になって急に不安になったり、気持ちが沈んでしまったりすることを言うのよ。婚姻するんだと自覚し始めると、家庭を築くことへの責任や不安や迷いが現れちゃって、本当にこのまま伴侶になって良いのかと精神的に落ち込んでしまったりするものなのよ」
「そ、そうなのか。僕はマリッジブルーなの?」
「不安に思ってる事をぶちまけてしまいましょう!さあなんでも言ってちょうだい」
「何が不安なのかもわからないよ」
「そうね。じゃあ婚姻後どうしたいかなど聞かせてちょうだいな」
「辺境地についたら屋敷の者達の統率をとって領地経営に励もうかと……」
「はい。それね。上から目線じゃないの?」
「ええ?そ、そうなの?」
「そうよ。まずは新参者です~。教えて下さ~いでしょ?貴族だからっていきなり統率なんてとれるはずないでしょ?徐々にでいいのよ。いきなりなんでも出来たら逆に怖いわよ!」
「そうなの?屋敷の者達にばかにされたりしない?」
「されるかもしれないわね。でもいいじゃないの。出来るようになってから見返してやればいいのよ。だめなのは出来ないのに偉そうにしたり出来るフリをすることよ。汗水たらして頑張ったらいいのよ」
「でも、辺境伯って偉いんでしょ?」
「偉いって位が高いってことでしょ?エラそうにするのが偉いってことじゃないんじゃないの?」

 母さまは凄い。僕は目からうろこがポロポロとこぼれ落ちた。

「あのね。新しい場所や誰かと一緒に生活をしていくって慣れるまでは不安はつきものなのよ。でも、それでもアルベルトはサミュエルと一緒にいたいの?」
「…………うん。居たいと思う」
「ふふふ。そうなのね。彼の為なら頑張れそう?」
「うん。頑張れそう……だとは思う」
「そう、じゃあ今の不安に思う気持ちをきちんとサミュエルとも話し合うべきね」
「そっか。そうだね」

 それまで黙って聞いていた兄上が口を開いた。
「僕はアルベルトを無条件で応援するよ。どこにいてもお前は可愛い僕の弟だ。何かあったらすぐに言っておいで。でもまあアルなら大丈夫さ。だって家族の中で一番母上に似てるからね」
「まあ。何よその言い方!」
「いやあ、母上には誰もかなわないからね」
「あはは。違いないね」

「私からひとつだけ貴方に言えることは……嫌になったらいつでも帰ってらっしゃい!貴方は私の可愛い息子だもの!誰にも何も言わせないわ!」
 
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

恵方巻を食べてオメガになるはずが、氷の騎士団長様に胃袋を掴まれ溺愛されています

水凪しおん
BL
「俺はベータだ。けれど、クラウス様の隣に立ちたい」 王城の厨房で働く地味な料理人ルエンは、近衛騎士団長のクラウスに叶わぬ恋をしていた。身分も属性も違う自分には、彼との未来などない。そう諦めかけていたある日、ルエンは「伝説の恵方巻を食べればオメガになれる」という噂を耳にする。 一縷の望みをかけ、ルエンは危険な食材探しの旅へ! しかし、なぜかその旅先にはいつもクラウスの姿があって……? 勘違いから始まる、ベータ料理人×氷の騎士団長の胃袋攻略ラブファンタジー!

ブレスレットが運んできたもの

mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。 そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。 血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。 これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。 俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。 そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?

憎くて恋しい君にだけは、絶対会いたくなかったのに。

Q矢(Q.➽)
BL
愛する人達を守る為に、俺は戦いに出たのに。 満身創痍ながらも生き残り、帰還してみれば、とっくの昔に彼は俺を諦めていたらしい。 よし、じゃあ、もう死のうかな…から始まる転生物語。 愛しすぎて愛が枯渇してしまった俺は、もう誰も愛する気力は無い。 だから生まれ変わっても君には会いたく無いって願ったんだ。 それなのに転生先にはまんまと彼が。 でも、どっち? 判別のつかないままの二人の彼の愛と執着に溺死寸前の主人公君。 今世は幸せになりに来ました。

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!

タッター
BL
 ボスは悲しく一人閉じ込められていた俺を助け、たくさんの仲間達に出会わせてくれた俺の大切な人だ。 自分だけでなく、他者にまでその不幸を撒き散らすような体質を持つ厄病神な俺を、みんな側に置いてくれて仲間だと笑顔を向けてくれる。とても毎日が楽しい。ずっとずっとみんなと一緒にいたい。 ――だから俺はそれ以上を求めない。不幸は幸せが好きだから。この幸せが崩れてしまわないためにも。  そうやって俺は今日も仲間達――家族達の、そして大好きなボスの役に立てるように―― 「頑張るっす!! ……から置いてかないで下さいっす!! 寂しいっすよ!!」 「無理。邪魔」 「ガーン!」  とした日常の中で俺達は美少年君を助けた。 「……その子、生きてるっすか?」 「……ああ」 ◆◆◆ 溺愛攻め  × 明るいが不幸体質を持つが故に想いを受け入れることが怖く、役に立てなければ捨てられるかもと内心怯えている受け

冷徹勇猛な竜将アルファは純粋無垢な王子オメガに甘えたいのだ! ~だけど殿下は僕に、癒ししか求めてくれないのかな……~

大波小波
BL
 フェリックス・エディン・ラヴィゲールは、ネイトステフ王国の第三王子だ。  端正だが、どこか猛禽類の鋭さを思わせる面立ち。  鋭い長剣を振るう、引き締まった体。  第二性がアルファだからというだけではない、自らを鍛え抜いた武人だった。  彼は『竜将』と呼ばれる称号と共に、内戦に苦しむ隣国へと派遣されていた。  軍閥のクーデターにより内戦の起きた、テミスアーリン王国。  そこでは、国王の第二夫人が亡命の準備を急いでいた。  王は戦闘で命を落とし、彼の正妻である王妃は早々と我が子を連れて逃げている。  仮王として指揮をとる第二夫人の長男は、近隣諸国へ支援を求めて欲しいと、彼女に亡命を勧めた。  仮王の弟である、アルネ・エドゥアルド・クラルは、兄の力になれない歯がゆさを感じていた。  瑞々しい、均整の取れた体。  絹のような栗色の髪に、白い肌。  美しい面立ちだが、茶目っ気も覗くつぶらな瞳。  第二性はオメガだが、彼は利発で優しい少年だった。  そんなアルネは兄から聞いた、隣国の支援部隊を指揮する『竜将』の名を呟く。 「フェリックス・エディン・ラヴィゲール殿下……」  不思議と、勇気が湧いてくる。 「長い、お名前。まるで、呪文みたい」  その名が、恋の呪文となる日が近いことを、アルネはまだ知らなかった。

侯爵様の愛人ですが、その息子にも愛されてます

muku
BL
魔術師フィアリスは、地底の迷宮から湧き続ける魔物を倒す使命を担っているリトスロード侯爵家に雇われている。 仕事は魔物の駆除と、侯爵家三男エヴァンの家庭教師。 成人したエヴァンから突然恋心を告げられたフィアリスは、大いに戸惑うことになる。 何故ならフィアリスは、エヴァンの父とただならぬ関係にあったのだった。 汚れた自分には愛される価値がないと思いこむ美しい魔術師の青年と、そんな師を一心に愛し続ける弟子の物語。

処理中です...