【完結】塩対応の同室騎士は言葉が足らない

ゆうきぼし/優輝星

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第二章:辺境伯は溺愛中

13辺境地グリーンヘルツ

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 王都から離れ馬車に揺られてやってきたのは辺境地グリーンヘルツ。
 緑が多くて空気が美味しい。深呼吸すると肺の隅々まで洗われるようだ。
「自然が多くて綺麗なところだね」
「そうか。気に入ってもらえてよかった」
 サミュエルが嬉しそうだ。この土地で辺境伯として暮らしていくと決めたのだから思い入れのある地なのだろう。僕も早くここに馴染めるようにしよう。
 屋敷に着くまで広大な畑や森を通り過ぎた。かなりの規模がある。これをすべて管理するのは大変かもしれない。

「よくぞおいでになられました」
 僕たちを出迎えてくれたのはロマンスグレーの紳士だった。
「任せきりですまなかった」
「いいえ。いずれこの地に戻るという約束を信じておりました」
 サミュエルはうっすらと笑うと僕の腕を引いた。
「紹介しよう。アルだ。俺の大事な人だ」
「アルベルト・ツイリーと申します」
「……執事のデセルトと申します」
 デセルトは一瞬驚いたようだがすぐににこにこと嬉しそうに僕を見つめるとサミュエル様をよろしくお願いしますと言った。
「分からないことがあればなんでもデセルトに聞けばいい。」

 辺境地の屋敷は白を基調としたしっかりした石造りの城だった。天井を支える半円アーチ。土台を支える分厚い壁や柱には細かな彫刻がなされていた。ロマネスク調といったところか。かなりの財を尽くした城ともいえる。
「有事の時はここは砦となるように作られている」
「やっぱり?重厚な建物だと思ったよ。じゃあ、あの塔は見張り台になるの?」
「そうだ。ここは隣国との境界地。守りを固めるために父上が作られた場所だ」
 僕は王都周辺から動いたことはない。こういう場所があるのは知っていたが見るのと聞くのとは大違いだ。サミュエルが騎士団の支部を作ろうと思ったのもわかる。なるほどここなら良い拠点になるだろう。

「サミュエル様だ!おかえりなさいませ!」
「サミュエル様がお戻りになられたぞ」
 城の使用人たちは白人だけでなくサミュエルと同じく褐色の肌のものたちもいた。どうやらこの土地特有の民族の中に褐色の肌を持つ人種がいるようだ。皆、僕を少し遠巻きに見ている。やはり突然やって来た僕は部外者といった印象なのか。まあ、わかっていたことさ。何事もあたってくだけてみよう!
「アルベルトです。よろしくお願いします!」
 僕は大きな声で皆に挨拶をした。使用人たちは驚いた顔で僕を見ている。なんだ?どうしたっていうんだ?
「皆アルにいろいろ教えてやってくれ」
「サミュエル様があんなやわらかな表情をされるなんて」
「それに笑っておられたぞ……」

 その日の夜は疲れが出たのかすぐに眠ってしまった。息苦しさに目覚めるとサミュエルに抱き込まれていた。褐色な肌に逞しい体は野性的でカッコいい。黙って見惚れているとくすりと笑われた。
「起きてたの?」
「いつ声をかけるかと思っていたのだ」
 くくくと笑う笑顔が可愛いとさえ思う。ぎゅっと抱きしめられて恥ずかしくなる。
「もぉ……なんだよ」
「いや。夢じゃないのかって確かめたくてな」
「ふふ。夢じゃないよ」
 僕はサミュエルの顎先のちゅっとくちづけをするとおはようの挨拶をした。幸せだな。

 使用人たちは僕らが同じ部屋から出てきたのを見て更に驚いていた。なんだ昨日から?
「……朝食の準備ができております」
「ありがとう!」
 サミュエルが当然のように僕の腰を抱くと食卓迄僕をエスコートをする。食事の合間も僕はこの城の事を知りたくてデセルトやサミュエルを質問攻めにした。
 ここは公爵がサミュエルの実母のために建てた城でもあるらしい。それが建築していくうちに国境にも近いからと砦のような設計になってしまったそうだ。実母はサミュエルと離された数年後に他界する。サミュエルがこの地を訪れたのはそこから数年がたってからのことだったらしい。ちょうど義母に子供ができた辺りからサミュエルの風当たりが強くなりこの地に一時的に身を寄せて居たのだという。
「サミュエルには思い出の地でもあるんだね」
「この地は知り尽くしているしな。新しい人生を始めるにはいい場所だと思ってたのだ」
「そんな大事な場所に僕を連れて来てくれてありがとう」
「ここがアルの地ともなる……よろしく頼む」
「うん!頑張るよ!」

 午後からは城の中を案内されることになった。広い敷地だと思っていたが別棟には宿舎や馬小屋も配置されている。訓練場も完備されていてた。
「我が領の自警団だ。多少の事なら王都に要請をださなくともここで処理ができる」
 そうかこれだけ広大な領地。ここの治安が良いのはすぐに対応できる自警団がいてくれるからなのか。それにしても城の中に自警団を雇い入れてるなんて凄い。
「訓練に参加するか?」
「うん!是非したい」

「サミュエル様!お戻りでしたか!」
「ああ。今戻った!」
「「「おお。おかえりなさいませ!」」
「アルベルトだ」
「アルベルトです!よろしくお願いします」
「ほぉ?貴殿がアルベルト様?……これは……。俺は団長のヴァイスです」
 ヴァイスはムキムキで図体がデカイ熊みたいな容姿だ。だが貴族らしい威厳もある。
「ヴァイスと俺は幼馴染なのだ」
「はは。よく二人で森で迷子になりましたな」
「そうなんだ?あとで聞かせてね」
「こほん。ヴァイス、手合わせをさせてもよいか?」
「え?アルベルト様も一緒にですかい?」
「はい。よろしくお願いします!」
 僕が訓練場にはいるとざわざわと騒がしくなる。ちょっと緊張したが剣を持つとすっと余計なことは気にならなくなった。2~3人と手合わせをする。久しぶりに剣をふるって体を動かすと気持ちがいい。
「これはなかなか。みかけによらない」
「アルベルトの太刀筋は美しい。俺は一度で見惚れた」
「ぶっははは!なんとサミュエル様から惚気を聞かされるとは!」
「……うるさい」
「だがわかりますよ。動きに沿って金色の髪がたなびく。だが体幹がしっかりしているから軸がぶれない。それにあの美貌だ。まるで太陽神のようじゃないか」
「……惚れたら殺すっ!」
「物騒なこと言わないでくれ!っと。本当に本気なんですね?」
「当たり前だろ?何かあったのか?」
「ええ。実は……」

 ひと汗流すと気になった点を対戦相手にアドバイスをしたくなった。
「君は剣を構えた時に右足が少し後ろに引いてしまう癖があるから踏み込みが遅れるようだ。それからそちらの君は肩をいためてるのではないか?剣を上げるスピードが遅かったが……」
「え?そのとおりです!今のでわかったんっすか?」
「すげえ。お、おれも!俺も手合わせしてえ!」
「ははは。ありがとう!これから毎日顔を会わせるんだ。明日も来るよ!」
「もういいだろう?」
 サミュエルが後ろから抱き込んできた。
「うん!楽しかった!毎日来たい!」
「……毎日はだめだ。他にも覚えることがあるからな……」 
 急にまわりがしんと静かになった。皆の顔が引き攣っている。サミュエルなにかしたのか?
「そっか。ごめんね。皆。でも僕稽古は好きだからまた参加させてね」
「「「もちろんっすよ!」」」
 皆頷いてくれてる。よかった。
「サムいいでしょ?」
「……たまになら」

「サムはこの自警団の皆を騎士団支部に入れようと思ってるのでしょ?」
「そうだ。アルは俺が言わなくても理解が早くて助かる」
「だったら僕も参加させてよ」
「……荒くれの男ばかりだ。アルには領地経営に力を入れて欲しい」
「わかった。じゃあ、そちらができるようになったら僕も参加させてね」
「……なるべく他の男には会わせたくない」
 ぼそぼそと小さな声でつぶやいた声に頬が熱くなる。
「妬いてくれてるの?僕にはサムしか見えないのに?」
「アル……」
 噛みつくような口づけをされて僕はその逞しい体に手を回した。抱き寄せられて口づけが深くなる。

「お楽しみのところ誠に申し訳ございませんが予定外のお客様が来られておられます」
 デセルトが申し訳なさそうに声をかけてきた。
「…………」
「何度かお断りしたのですがサミュエル様に会えるまでは帰らないとおっしゃられまして」
「誰だ?」
「アンジェリカ様です」
「……チッ」

「アンジェリカ様って?」
「サミュエル様の婚約者……を名乗っておられです」

 はあ?婚約者だって?!
 
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