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ノンケの俺が開発されるまで

番外編 とわに誓いを

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 週末は快晴だった。
「おおっ。すげえ青空だぜ」
「ああ。後で外でも写真撮ろうよ」

 安住と俺は白のタキシード姿で互いを見つめあっていた。
「お前本当にこういうのが似合うな。王子様みたいだ」
 柔らかい栗毛が白の衣装にあいまって見惚れる。
「そんな。健吾のほうこそ。カッコいい」
 赤くなってうつむいてる安住が可愛い。背後に大きな尻尾が振られてる幻像が見える。
「身内だけの式になっちまって悪いな」
「いいよ。式が挙げれるなんて思ってなかったから」
 安住の目が潤んでいる。
「こら。まだ早いぞ。泣きはらした顔でみんなの前に出るつもりか?」
 肩を抱き寄せると震えてるのがわかった。緊張してたのか。本当に可愛いやつだ。

――――今日は俺たちの結婚式だ。

 あれから両親へのカミングアウトに時間がかかり今日まで延び延びになっていた。反対されると思っていた俺の両親のほうが物分かりが良く、安住の親の方が難色を示していた。
「健吾はなかなか浮いた話もないし一生独身かと思っていたから、パートナーが見つかっただけでも良かったと思ってるわよ」
 母親に言われてそんな風に心配されてたのかと反省したほどだ。
 だが、安住のところは王子様風の見た目から女性の友人も多かったようで同性婚と聞いて驚いていた。まあ無理もない。
「ごめんよ。僕のほうがまさか足を引っ張るなんて」
「そんな言い方はよせ。この国の古いしきたりがそうさせているだけだ。異性を選ぶのが普通という考えが残っているからLGBTが受け入れられない人もまだ多い。俺はきっと結婚できないって諦められてたんだろな」
「そんなことはないよ!健吾の方こそ。僕よりもっと良い人がいるかもしれないのに……」
「はい。ストップ!いいか。今日は一生に一度の記念の日だ。そんな口は塞いでしまうぞ」
 俺は安住を引き寄せその唇を奪った。唇を離すと安住の惚けた顔と目が合った。潤んだ瞳の奥に雄めいた気配を感じ。俺の身体が疼く。
「ったく。こんな身体にしやがって」
「責任取る……いや、僕のだ。だれにも渡さない」
「ふっ。ばかやろう。俺の身体は俺のだよ。でも心はお前のモノだ」
「健吾~っ。惚れ直すよ!」

「はいは~い。ごちそうさま。もうお腹いっぱいです。まあそんな惚気た顔の二人を見るなんて貴重ですけどね」
 反射的に振り向くと早瀬が胡乱な目でみていた。
「仕事のお二人は本当にクールで紳士で信頼感が漂ってますが、こんなにデロデロなお二人を観れて貴重なお宝映像が……いえ。素敵なお写真が撮れそうで嬉しい限りです」
 その後ろで映像担当たちのニマニマ顔が憎らしい。
「……いっそのこと、資料にするか?今回この式場にしたのもLGBTに配慮がある場所だったからだ。俺たちの挙式風景をカタログに使ってみるか?」
「本当ですか!いや、そうできればいいかなとは思ってましたが」
「健吾がいいなら僕は構わないが」
 安住はまだ親族全員にカミングアウトができていない。不安はあるだろう。俺はまた先走ったか?ひと言釘を刺しておこう。
「だが、顔のアップは使うなよ。お前たちは腕の良いカメラマンだと俺は信じている。式場の良さも惹き出し、個人が特定できないアングルでの撮影を希望する」
「はい!わかっております!腕によりをかけてご満足のいく作品に仕上げて見せます」
「ふふふ。期待してるぞ」
「おお~!倉沢さんの『期待してるぞ』をいただけました!おい!撮影班、今日は絶対手を抜くなよ」

「すまん。仕事モードに入ってしまった。また勝手に決めてしまったな」
「いや、いいよ。僕もそう思ってたんだ。仕事にも使えたらいいかなって。それにココの系列に同性婚の結婚事例が多いのもわかっていたし」 
「ありがとう。俺は理解のある伴侶に恵まれて幸せだな」
「は、伴侶……そ、そうか。今日から僕たち伴侶なんだ」
「俺たち、嫁とか夫とか言うのは変だろ?だから伴侶って呼ぶのが良いかなって」
「うん。そうだね。得意先にも倉沢の伴侶ですって言って良い?」
「もちろん。手続きが面倒だから別姓にしてるだけだしね」
 ぱあっと安住の顔が輝く。しっぽがブンブン振られてるんじゃないかな?俺の伴侶は王子様の容姿に中身は大型犬だ。ベットの時は狼だがな。
「なに?急ににニヤニヤしちゃって」
「いや。和真は可愛いなって思ってさ」
「うわ。めっちゃドキドキしてきた。健吾はこういう時しか僕の名前を呼ばないもんな」

「そろそろお時間です」
 式場のスタッフが笑顔で呼びに来た。きっと声をかけるタイミングを計っていたんだろう。こういうところはサービスが行き届いている。
 パイプオルガンの響く中、一歩ずつ会場に入っていくと俺の母親と安住の母親の姿が見えた。
「母さん……」
 安住が口元を抑えた。むせび泣くのを我慢してるようだ。
「よかったな。来てくれて」
「うん。うん。ほんとに……うう」 
 立会人の前で誓いの言葉を交わし、俺たちは指輪を交換した。

「おめでとう!!」
「あ~ん。素敵ぃ!尊いわ~!」
「おめでとうございます!」
 ライスシャワーを浴び、皆の笑顔に元気をもらう。俺は自分の生き方を疑ったことはないが、賛同してくれる人たちがいる。それだけでこんなにも勇気がもらえるんだと知った。

「結婚式。やってよかったね」
「そうだな。俺たちの事をわかってもらえただけでも嬉しい」
「健吾。ありがとう。愛してる」
「俺も愛してるよ。これからもよろしく頼む」   
 
 
 後日出来上がったパンフレットは俺たちの後ろ姿がメインだった。式場に向かう緊張した足取りと繋がれた手。それとほんの少し覗く俺の口元の笑みがすべてを物語っていた。                         
     おわり

 

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