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一章バディになるまで
7 前任のバディ
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「さあさ、湿った話題はこれで終わり。まずは俺の魔道具を見てくれよ」
フィンデルがいそいそと箱を持ってきた。中には指輪とブローチ、ピアスが入っていた。どれもシンプルな形状で邪魔にならない大きさだ。
「身に着ける物が良いと言ってたからな。取り急ぎこの三種類用意した。この中から二つ選んでくれ。通信具にするなら、仕上げに二人の魔力をかざす必要があるんだ」
「オレは指輪が良いなあ。ペアリングって憧れるぅ!」
「はあ? 恋人同士でもあるまいし。俺はつけるなんて言ってないぞ」
「絶対口説く気でいるから。オレはエアに惚れてるんだ」
「ぷっははははは。面白いな兄ちゃん。それに、あんた尻尾を見せないところを見ると純血種じゃねえな」
「いやぁ、さすがですね。オレにはピューマの血が流れてるんです。普段は尻尾はださないように魔力で隠してるんですがね」
「ほぉ! 珍しいなイヌ科なのにネコ科の血が混じってるってのは!」
「見た目は狼なんですけどね。尻尾がネコっぽくて。ですが足の速さや木登りなんかは自慢できますよ」
「そうだったのか。だからお前素早いんだな」
そういえば混合の場合、尻尾や耳などに特徴が出てしまうと聞いたことがある。でもそれを一目でみやぶるなんてやはりフィンデルさんは凄い。出来ればまた警備隊で働いて欲しいと感じてしまう。
「なんだ、エアレンディルは自分のバディの事も知らなかったのか?」
「いや、その。まだ俺らは……」
「そうなんですよ。オレもまだエアに裸は見せてないので」
「は、裸だとぉ? フィンデルさんの前でお、お前は何を言うか!」
「ぷははははっ。本当に面白い奴だなあ。気に入った! 兄ちゃん名前は?」
「ウォルフと言います。南部にいました」
「へえ。あんたが南のウォルフか」
「ご存じでしたか」
「まあね」
「っ! きな臭い!」
ウォルフが突然俺とフィンデルさんを突き飛ばした。
ドオンッと言う音と共にウォルフが火だるまになる。露店に発火弾を投げ込まれたのだ。
「くそっ! 」
投げ込まれたあたりを見渡すが人影がない。まるですぐにその場から消え去ったようだった。
「ウォルフッ!」
「だめだ。近づくとお前まで燃えちまう!」
フィンデルさんが俺を止める。ウォルフが目の前で炎に飲まれていく。嫌だ。またなのか? 俺のバディになる奴は皆俺の目の前で傷ついてしまうのか? やめてくれ。もう誰も失いたくない……。
「ったく。エアはオレの強さをまだわかってねえな」
「……?」
声と同時に炎が小さくなり消炎した。
「だ……大丈夫なのか? 火傷はしてないのか?」
生きてる? 生きているのか? 思わず駆け寄って腕や肩を確かめる。
「くく。くすぐってえよ。言ったろ? 俺はもうお前を一人にはしないって。俺は火属性の魔法が使えるから炎には耐性があるんだよ」
「ウォルフ。よかった」
「そんな可愛い顔するなって。キスしたくなるからよ」
「き、キス? バカやろ! ちょっと心配しただけだ」
「ふはは。エアレンディル。お前良いバディを見つけたな」
「……ええ。そうですね」
「それより、あ~その、フィンデルさん。すみませんっ!」
「おわ! 俺の魔道具が~!」
炎の傍にあった魔道具の一部が溶けてしまっていたのを見てフィンデルが嘆き、ウォルフが平謝りをする。
「すみませんっ。指輪やピアスが破損しちゃいましたっ。弁償します!」
「いやいや。これは仕方ねえよ。ウォルフに助けられたから俺たちは無傷でいられるわけだしな。あのままだったら俺かエアレンディルが火傷をおってたかもしれねえ」
「その事なんですが、オレはこの店を狙った気がするんです。フィンデルさんは何か恨まれるような覚えはありませんか?」
「ん~。俺がココに来たのは昨日だしな。俺が警備隊だったときの恨みを抱いてるやつがいるなら別だが?」
「お前何を言うか! フィンデルさんが恨まれるわけがないだろう!」
「じゃあ。奴らの狙いはオレらかな?」
「それは警備隊を狙ってると言うことか?」
「だったらオレ達は顔が知られてるってわけにもなるけどな」
そうかすでに警備隊の顔ぶれは敵にバレているという可能性があるのか。
「だがな。相手は無差別に狙ってるかもしれねえぜ。どんな時でもいくつかの可能性は考えて行動しろよ。まずは疑ってかかれ」
「はい。そうします」
「それと二人の意思疎通が今よりも強固になる必要があるな」
◇◆◇
宿舎に向かう途中でウォルフが申し訳なさそうに話しかけてきた。
「オレ、エアに隠し事したくねえから言うけど。本当は団長に聞いたんだ。3年前のこと。だって前のバディだって言うから気になってさ。そしたらさ、今こっちに来て露店だしてるって団長が言いだして」
「そうだったのか」
「オレ、朝のうちに探し出して。腕の良い魔道具師だって言うからお揃いで何か作ってほしくてさ。でもさ前もって会いに行くって言ったらエアが緊張するって思って。それでサプライズ的な事になっちまった。余計なことしてごめんよ」
「いや、いい。いつかは俺も過去を振り切らなきゃいけなかったんだ。元気な姿を見て安心した。会わせてくれてありがとう」
「へへへ。素直なエアも可愛いな」
「バカ。可愛いとか言うな!」
「照れたエアはめちゃくちゃ可愛い」
「う、うるさいっ。デレデレするな!」
嬉しそうに犬歯を見せて笑う姿に自分の口元が緩むのに気付いた。
やっぱりこいつの事を信じてみたい。
「ウォルフ。俺には嘘をつかないって約束できるか?」
「もちろん。当り前だ」
「本当に?」
「オレらってさ。仕事柄なかなか人を信用できないじゃん? もちろんそれが基本だから間違いじゃないんだけど。でもそれを乗り越えてでもそいつを信じて命を預けたいって思うのがバディだと俺は思う」
「命は預けなくていい。自分を大切にしてくれ」
「言ったろ? オレは強いしすぐには壊れない。頑丈なのが取柄なんだよ。……エア。エアレンディル。オレのバディになってくれ」
ウォルフが両手を広げた。飛び込んで来いって言うのか? そんな恥ずかしい事俺がするってこいつは本気で思ってるのか?
「……バカやろ。ばか狼」
バカなのは俺だ。考えるよりも先に俺の身体は動いていた。ウォルフの腕の中にすっぽりと俺は収まっていたのだ。
フィンデルがいそいそと箱を持ってきた。中には指輪とブローチ、ピアスが入っていた。どれもシンプルな形状で邪魔にならない大きさだ。
「身に着ける物が良いと言ってたからな。取り急ぎこの三種類用意した。この中から二つ選んでくれ。通信具にするなら、仕上げに二人の魔力をかざす必要があるんだ」
「オレは指輪が良いなあ。ペアリングって憧れるぅ!」
「はあ? 恋人同士でもあるまいし。俺はつけるなんて言ってないぞ」
「絶対口説く気でいるから。オレはエアに惚れてるんだ」
「ぷっははははは。面白いな兄ちゃん。それに、あんた尻尾を見せないところを見ると純血種じゃねえな」
「いやぁ、さすがですね。オレにはピューマの血が流れてるんです。普段は尻尾はださないように魔力で隠してるんですがね」
「ほぉ! 珍しいなイヌ科なのにネコ科の血が混じってるってのは!」
「見た目は狼なんですけどね。尻尾がネコっぽくて。ですが足の速さや木登りなんかは自慢できますよ」
「そうだったのか。だからお前素早いんだな」
そういえば混合の場合、尻尾や耳などに特徴が出てしまうと聞いたことがある。でもそれを一目でみやぶるなんてやはりフィンデルさんは凄い。出来ればまた警備隊で働いて欲しいと感じてしまう。
「なんだ、エアレンディルは自分のバディの事も知らなかったのか?」
「いや、その。まだ俺らは……」
「そうなんですよ。オレもまだエアに裸は見せてないので」
「は、裸だとぉ? フィンデルさんの前でお、お前は何を言うか!」
「ぷははははっ。本当に面白い奴だなあ。気に入った! 兄ちゃん名前は?」
「ウォルフと言います。南部にいました」
「へえ。あんたが南のウォルフか」
「ご存じでしたか」
「まあね」
「っ! きな臭い!」
ウォルフが突然俺とフィンデルさんを突き飛ばした。
ドオンッと言う音と共にウォルフが火だるまになる。露店に発火弾を投げ込まれたのだ。
「くそっ! 」
投げ込まれたあたりを見渡すが人影がない。まるですぐにその場から消え去ったようだった。
「ウォルフッ!」
「だめだ。近づくとお前まで燃えちまう!」
フィンデルさんが俺を止める。ウォルフが目の前で炎に飲まれていく。嫌だ。またなのか? 俺のバディになる奴は皆俺の目の前で傷ついてしまうのか? やめてくれ。もう誰も失いたくない……。
「ったく。エアはオレの強さをまだわかってねえな」
「……?」
声と同時に炎が小さくなり消炎した。
「だ……大丈夫なのか? 火傷はしてないのか?」
生きてる? 生きているのか? 思わず駆け寄って腕や肩を確かめる。
「くく。くすぐってえよ。言ったろ? 俺はもうお前を一人にはしないって。俺は火属性の魔法が使えるから炎には耐性があるんだよ」
「ウォルフ。よかった」
「そんな可愛い顔するなって。キスしたくなるからよ」
「き、キス? バカやろ! ちょっと心配しただけだ」
「ふはは。エアレンディル。お前良いバディを見つけたな」
「……ええ。そうですね」
「それより、あ~その、フィンデルさん。すみませんっ!」
「おわ! 俺の魔道具が~!」
炎の傍にあった魔道具の一部が溶けてしまっていたのを見てフィンデルが嘆き、ウォルフが平謝りをする。
「すみませんっ。指輪やピアスが破損しちゃいましたっ。弁償します!」
「いやいや。これは仕方ねえよ。ウォルフに助けられたから俺たちは無傷でいられるわけだしな。あのままだったら俺かエアレンディルが火傷をおってたかもしれねえ」
「その事なんですが、オレはこの店を狙った気がするんです。フィンデルさんは何か恨まれるような覚えはありませんか?」
「ん~。俺がココに来たのは昨日だしな。俺が警備隊だったときの恨みを抱いてるやつがいるなら別だが?」
「お前何を言うか! フィンデルさんが恨まれるわけがないだろう!」
「じゃあ。奴らの狙いはオレらかな?」
「それは警備隊を狙ってると言うことか?」
「だったらオレ達は顔が知られてるってわけにもなるけどな」
そうかすでに警備隊の顔ぶれは敵にバレているという可能性があるのか。
「だがな。相手は無差別に狙ってるかもしれねえぜ。どんな時でもいくつかの可能性は考えて行動しろよ。まずは疑ってかかれ」
「はい。そうします」
「それと二人の意思疎通が今よりも強固になる必要があるな」
◇◆◇
宿舎に向かう途中でウォルフが申し訳なさそうに話しかけてきた。
「オレ、エアに隠し事したくねえから言うけど。本当は団長に聞いたんだ。3年前のこと。だって前のバディだって言うから気になってさ。そしたらさ、今こっちに来て露店だしてるって団長が言いだして」
「そうだったのか」
「オレ、朝のうちに探し出して。腕の良い魔道具師だって言うからお揃いで何か作ってほしくてさ。でもさ前もって会いに行くって言ったらエアが緊張するって思って。それでサプライズ的な事になっちまった。余計なことしてごめんよ」
「いや、いい。いつかは俺も過去を振り切らなきゃいけなかったんだ。元気な姿を見て安心した。会わせてくれてありがとう」
「へへへ。素直なエアも可愛いな」
「バカ。可愛いとか言うな!」
「照れたエアはめちゃくちゃ可愛い」
「う、うるさいっ。デレデレするな!」
嬉しそうに犬歯を見せて笑う姿に自分の口元が緩むのに気付いた。
やっぱりこいつの事を信じてみたい。
「ウォルフ。俺には嘘をつかないって約束できるか?」
「もちろん。当り前だ」
「本当に?」
「オレらってさ。仕事柄なかなか人を信用できないじゃん? もちろんそれが基本だから間違いじゃないんだけど。でもそれを乗り越えてでもそいつを信じて命を預けたいって思うのがバディだと俺は思う」
「命は預けなくていい。自分を大切にしてくれ」
「言ったろ? オレは強いしすぐには壊れない。頑丈なのが取柄なんだよ。……エア。エアレンディル。オレのバディになってくれ」
ウォルフが両手を広げた。飛び込んで来いって言うのか? そんな恥ずかしい事俺がするってこいつは本気で思ってるのか?
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