ショートショート短編SS 置き場

ゆうきぼし/優輝星

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独白~執着こそ愛~

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 目覚ましが鳴り、あくびをしながら伸びをするとキッチンからいい香りが漂う。
「博信起きたのか?」
 落ち着いたテノールが耳をくすぐる。朝食はいつも涼が作ってくれる。
「うん。おはよう……」
 台所に立つ涼に後ろから抱きつくと、艶のある黒髪のつむじにキスを落とす。
「こらっ。仕事に遅れるぞ。早く顔洗ってこい」
「は~い」
 俺は洗面所に向かい顔を洗うとカッターシャツを羽織りながら椅子に座る。
「今日のハムエッグは半熟だね。美味しいっ」
「そうか美味いか? 良かった」
 涼がほころぶように笑うと思わず見惚れてしまう。
 平日の朝ごはんだけでも自分が作ると言い出してからずっと作ってもらってる。
 コーヒーを入れるのは俺の方が上手いんだけどね。
 今日は久しぶりの出勤だ。ほぼリモートワークの仕事だが月に2度ほどは出社しないといけない。堅苦しい服装はキライだが涼は俺のスーツ姿が好きなようで、頬を染めて見上げてくれるからまんざらでもない。

 朝食を食べ終わるとわざと涼の前に立つ。俺は成長期にかなり背が伸びた。いつの間にか涼の背丈を通り越し、今では頭一つ分くらい差がある。
「またか、博信。もぉ、ネクタイぐらい自分でしろよ」
「ん~。涼が結ぶほうが上手いじゃん」
 俺は涼の頭を撫でながらその腰を引き寄せた。
「こらっ近すぎ。結べないだろ。それに頭を撫でるのをや・め・ろ!」
 涼は俺より背が低いことが不満らしい。
「もぉっ。そろそろ兄離れしろよっ」
「イヤだ。しない。俺はずっと涼と一緒だ」
「……ばか」
 切れ長の目じりが朱に染まる。照れてるんだな。

 俺達は義兄弟だ。俺の母さんが再婚した相手が涼の父親だった。
 父親は精悍で仕事人間だが母さんには優しい人みたいだ。
 涼は母親似らしい。長いまつげに落ちる影が美しすぎて俺は小さい頃、涼が女神だと思い込んでたぐらいだ。年齢は俺とは二歳離れている。
 涼の母親は病弱だったようで、彼を産んですぐに亡くなったそうだ。 

 中学卒業辺りから、涼の美しさが際立ってきた。女生徒だけでなく男子生徒からも告白されたり、待ち伏せされることが多くなった。白い肌に切れ長の瞳。すっと通った鼻筋。艶のある薄ピンクの唇。全てが完璧で注目の的だった。そのためにストーカー被害も多かった。
 陶磁器の人形のような危うい雰囲気の涼が俺にだけは笑顔を見せてくれる。 
 
 俺は涼を守るため身体を鍛え、威嚇するために髪も染めピアスもあけた。
 母さんたちはそんな俺を反抗期だと思ってたようだ。涼からも注意された。
「なんで不良みたいなフリしてるんだ? 博信ほど心優しい人間はいないのに」
 違うんだよ。涼。俺は優しくなんかない。いつだって、あんたを引ん剝いて裸にして自分のモノにしたいと狙ってる醜いヤツなんだぜ。

 俺はよく喧嘩もした。母さんは何度も学校から呼び出されたようだが父親には言わないでくれた。そしていつものように停学をくらって部屋にいると涼が入ってきた。
「博信……ごめん。お前ばかり悪者にされて」
「な? どうしたんだ兄さん?」
 涼は俺が涼にしつこく付きまとってる奴らと喧嘩をしてることを知ったようだ。
「俺のせいでごめん。きちんと学校側や向こうの親にも抗議をするよ」
 もちろんそのことは母さんも父親も初耳だったらしくかなり揉めた。

 涼は大学に通う様になって、俺と距離を取り始めた。
 ダサい黒ぶちの眼鏡をかけだしたのもこの頃だ。
「いつまでも弟に守ってもらうなんて兄として情けない」
 そういって大学二年の時には家を出て学生寮に行ってしまった。
 その時の俺がどれだけショックだったか……。
 涼は俺の気持ちに気づいていたのかもしれない。だけど、もう遅いんだ。
 そこから俺はどうすれば涼を手元に置けるかそれだけを考えるようになった。
 勉強だけでなくあらゆることを想定内にし、外堀を埋めるつもりで次の年には涼と同じ大学に入った。周りからの俺の評価は甘いマスクで人柄の良い学生らしかった。それをうまく利用してさりげなく涼の周りを囲むのは容易かった。

 涼はそんな俺を見て眉を下げて苦笑した。そのまなざしは変わらず優しいままだ。
 しかも「俺の弟をよろしく」と頭を下げて回ってくれたんだ。
「……ごめんよ。追っかけてきちゃった」
「しょうがない奴だな。でもそれだけじゃないんだろ? ちゃんと習いたい学科があるんだろ? 博信は昔からこれと決めたら突き進むところがあるからな」
 優しく俺の頭を撫でるその手が暖かくって思わず抱きついた。
「ふふふ。くすぐったいよ。お前はいつまでたっても甘えん坊だね」
「会いたかったんだ。兄さんに会えなくてどれだけ辛かったか……」
「大げさだな。俺はどこにも行かないのに」
 その日は俺が眠るまで優しく俺の背中を撫で続けてくれた。

 その後の二年間は同じ学生寮で生活し、わからないことがあると言っては涼の部屋に転がり込んだ。寮生たちは皆気心が知れていて仲のいい兄弟だと思われていたらしい。本当は隙あらば自分のモノにしてしまおうと狙っていた。
 寝ている涼の耳元に愛を囁き、酒を飲ませ酔った勢いでキスを繰り返した。試験前に溜まるといけないからと抜きあいっこもさせた。照れながらも応じる姿にやたらと興奮した。なんだかんだ理由をつけては俺はそういう行為に及んでいたのだ。
 だが、どんどんと俺の中でそれだけではすでに満足が出来なくなっていた。

 ――――そして卒業間近になって事件は起こった。

 涼が襲われたのだ。そいつは高校時代に涼にストーカーをしていたやつだった。俺が喧嘩をふっかけて涼が学校と親に対し訴えた奴だった。
 そのころからずっと根に持っていたらしい。ちょうど涼が社会人になるのに向けて一人暮らしができるマンションを契約したところだった。そこを狙ってきたのだ。そいつは涼が一人になるのを見計らって攫い、軟禁したのだった。
 俺が寮生たちを引き連れて軟禁場所を特定し、やつを半殺しにして涼を救出したが、涼にはトラウマが残ってしまった。この数日間、やつは涼に淫らなことを強制し続けたらしい。

「兄さん......涼。大丈夫。大丈夫だよ」
 俺は涼をマンションに連れ帰り看病をすることにした。
「い……いやだ。来るな。近寄るなあっ」
 俺は暴れる涼を抱きしめ、優しく語りかけた。
 どれほど俺が涼を愛しているか。どれほど大事に想っているかを。
「お……俺は汚れてるんだ。そんな俺に触れるとお前が汚れる」
「何言ってるんだ。兄さんに汚いところなんてないよ。俺が全部上書きしてあげる」

 ――――俺はきっとこの瞬間を待ち望んでいたんだ。

 震える手で涼の身体を抱きしめ、口づける。甘い吐息を逃がさない様に何度も何度も吸い付いて舌を絡めた。
「ぁ……博信」
「これで兄さんのおくちは綺麗になったよ。他は? どこが汚いんだい?」
 俺は努めて優しく問いかけた。
「む……胸を……」
 強張った身体にゆっくりと舌で転がすように舐めてやると少しづつ緊張が解けていく。
「今、兄さんの乳首を舐めてるのは誰?」
「ひ……ひろ……のぶ」
「そうだよ。兄さんを愛撫して兄さんを愛してるのは俺だよ」
「んぁ……ひろ……ぁ」
「兄さんの中、全部を俺が消毒してあげるからね」
 腹まで舐め上げると涼の雄が少しだけ持ち上がってるのが見えた。
「ふふ。可愛い。ここも綺麗にしてあげるからね」
 ぱくりと咥えると先端を舌を押し付けるようにして音を立てて吸いあげてやる。
「やっ。だめ……そんな……汚いから」
「兄さんの身体はどこもかしこも甘くて汚いところなんてないよ」
 その後くまなく全身を舐めると足首と手首に赤く縛られた後があるのを見つけた。
「兄さん、背中を見せてくれる?」
 俺はそのまま視線を下に降ろし赤く腫れあがった後蕾をみつけてしまった。
「うっ……うう……」
「泣かないで。大丈夫だよ」
 俺は怒りに血が沸騰しながらも出来るだけ優しい声を涼にかけた。
「いいかい。今日からここに触れるのは俺だけだ」
 俺は軟膏を後蕾に塗りこめた。最初は優しくひだをなぞるように、涼の反応を見ながら指圧をするように強弱をつけて。やがて軟膏の量をふやして後蕾に指を滑り込ませた。
「ひぃっ!」
 涼の身体が恐怖でこわばる。
「兄さん……涼。怖くない。これはお薬だよ。中にも塗らないといけないでしょ?」
 なだめるように口づけながら指をすすめる。
「んん……」
「涼……愛してる。愛してる。怖くないから」
 いやいやをする子供をあやすようにゆっくりと優しくといかける。
 舌を絡め深く口づけをし、涼が蕩けるのを見定めてゆっくりと二本三本と指を増やす。
「はっ……ぁ」
「涼。今から涼の中を綺麗にするからね。俺のでいっぱいになって」
「ひろ……のぶ……」
 こくんと涼はうなづくと俺の方に向いて腕を俺の首に絡めてきた。
「りょう……」
 舌を出してキスをねだる様子に噛みつくように口づけてゆっくりと後蕾から挿入した。
「ふぅんっんん……」
 涼の声は全部俺がかき消した。貪るように口づけながら腰を進めて行った。
「んぁっ……っ……あんん」
「兄さんっ兄さんっ好きだ! 涼っ愛してる!」
   俺の声に反応して中が締め付けてくる。
「涼っ! 涼っ。ああっもう離さないっ俺のモノだ!」
「あんっひろ……あぁあ」
「涼は俺のモノだ! 俺のだ! 愛してるっ愛してる」
 やっとひとつになれた。夢にまで見た甘美な身体。もう離すものか。
「兄さんは俺のモノだ。今日からは俺が守る。もう俺の元から離さない」

 涼はそれからトラウマの影響か引きこもりになってしまった。
 俺は母さんたちを説得し兄を支えるという名目で一緒に暮らすことに成功した。
 涼は内定した会社に就職をせずにフリーランスでプログラマーを始める。
 俺はすぐに大学をやめ、学生時代のつてで株とETFやビットコインで資産を増やした。だから本当は涼が無理に働く必要はない。全ては涼名義で貯蓄してある。
 しかし、表向きはやはり仕事につかなければいけない。
 母さんたちを安心させるためにもこの甘い日常を守るためにも俺は仕事につくことにした。

 今は便利な世の中になった。出歩かなくてもネットスーパーで買い物ができるし映画館に行かなくても動画が見れる。
 涼が外に出る必要はない。その代わりに家事をよくするようになった。
 俺が帰ってくるまでに夕飯を用意したり洗濯したりと忙しそうだ。

 すべてはふたりの愛の巣のため。もう涼は俺の籠から逃れないし逃す気もない。
 

◇◆◇涼Side

 俺は感情というものをどこかに置いてきたような子供だった。きっと産まれてすぐに母がいなくなったせいだろう。父親はすぐに新しい女性を見つけたようだった。
 いや、今思えば最初からその女性に執着していたように思う。俺が小学校に上がる前にはもう家の中にその女性がいた。女性には息子が一人いた。それが博信だった。

 博信はくるくる表情が変わる子だった。
 俺はそれが面白くって始終一緒に居るようになった。
 そしていつの間にか俺たちは兄弟となっていた。どうやら父親が籍を入れたらしい。
 やがて博信が俺に向ける視線が他とは違う事に気づいた。
 俺に対しての絶対的な信頼感。崇拝に近いまなざし。
 ……ゾクゾクした。博信が俺だけを見つめてる事に対しての恍惚感。

 成長するごとに俺は母親に似てきたようだ。俺を見る父親の目が嫌悪にまみれていた。母は資産家だった祖父が選んだ婚姻相手だったらしい。父の望まない結婚だったのだろう。
 父は自分が欲しいものを手に入れるためには何でもする男だ。
 俺から見れば博信の母親は父に真綿で包む様に囲われた女だった。 

 高校に入りハエがたかるように俺の周りにストーカーが集まりだした。それとなく博信の前で困っているそぶりを見せた。どう反応するかが知りたかったからだ。
 すると意外にも俺を守る行動をとりだした。下校時には校門で俺を待つほどだ。
 同級生からはお前の弟は姫を守る騎士のようだと言われた。
 それを博信に言うと、その日から体力作りに励みだした。

 日々逞しく精悍な顔立ちになっていく博信に。その鍛えられた身体を見るたびに、欲情した。こんな淫らな思いを抱いた俺をお前はどう捉えるだろう? もしも面と向かって拒絶されたら? ……最悪だ。もう二度と俺を振り向いてくれないかもしれない。
 そんな時に義母から博信がこれ以上不良になったら進学ができないと聞かされた。
 俺の為に喧嘩をし、停学をくらったらしい。
「博信……ごめん。お前ばかり悪者にされて」

 俺の弟を停学にした奴を許さない。悪いのは博信でなくハエのようなやつらだ。生徒だけでなく教師ですら許さない。そんな俺を見て初めて父親が笑顔になった。
「お前はやはりオレの子だな」と。
 そこからは父から本人だけなく家族もろとも壊す方法を教わった。
 そして……ひととおり、カタをつけるとふいに怖くなった。

 こんな俺が博信の傍にいてもいいのだろうか? と。

 このまま弟に執着していったら俺はきっと……。
 そうなる前に博信の前から逃げた。距離を置けばいい兄と弟になれると思って。

 だけどあっという間にお前は俺に追いついてきた。しかも俺はそれを心のどこかで待ち望んでいたようだ。博信の大学合格の知らせを受け取った時に俺の身体は歓喜で打ち震えた。
 お前がまだ俺に興味を持っていてくれたことが嬉しくって仕方がなかった。
「……ごめんよ。追っかけてきちゃった」
 なんて可愛いんだろう。ああこれが感情というものか。溢れ出る想いが抑えきれない。できるだけ平静を装って頭を撫でてやると抱きつかれ鼓動が早まった。
 
 もぉだめだ。俺は観念した。このぬくもりを手放すことは出来ない。
 後はどうすれば一番都合よく俺の手に堕ちて来てくれるかだった。

 普段は品行方正な兄の姿で、時折、隙を見せては手を出させやすくした。
 しかしいつまでたっても最後の一線を越えられない。
 卒業が迫ったある日、同窓会のお知らせが届いた。最初は行く気がなかったが、ある人物も顔を出すと聞いて参加することにした。
 そいつは博信を停学に導いた主犯だった。すでに家庭は崩壊し俺に対する恨みは募っていることだろう。俺は当日わざとそいつの前で引っ越し先の住所を教え、流し目でほほ笑んだ。
 案の定、そいつはやってきて俺をさらった。手足を縛られたのには閉口したが、おおよそは予想どおりだった。
 後はなんてことはない。勝手に俺の身体に溺れただけだ。気持ちの悪いやつめ。
 途中から関係性は逆転していた。俺の事を崇めるようになったそいつは俺の奴隷になったのだ。

 博信が俺を助けに颯爽と現れた時は感動で涙が溢れた。神々しい騎士のようだったから。あとはひたすら自分の身体が気持ち悪かった。博信の綺麗な手が俺を触るとその手が汚れてしまう気がしてたまらなかった。
 そんな俺を博信は少しづつ時間をかけて開いて行った。
 やっとひとつに繋がった時はこの上なく幸せだった。
 
 その後、俺は兼ねてから学業と同時に行っていた副業を再開させた。
 博信はただのプログラマーだと思っているが俺はハッカーだ。博信が大学をやめ、生活の為に始めた投資運用が上場になる情報を、企業のサイトに忍び込み流用したのは俺だ。資産運用のノウハウをそれとなく教えたのも俺だ。だが、博信は自分が稼いだ資金を全部俺名義にしてしまった。
 本当になんて可愛らしいヤツなんだろう!
 それからしばらくしてハッカーは休業し、今は企業の為にセキュリティ関連のプログラムを作成している。博信のために危ない橋は渡らない様にしようと決めた。

 だが……博信が知らない事がひとつある。それは博信は本当に父さんの息子だという事だ。どういう経緯があったのかはしらないがふたりは惹かれあい博信が産まれたらしい。
 俺たちの血統はきっと呪われている。一人の人間を愛してしまったらその人をどうやってでも手に入れようとしてしまうんだ。きっと執拗に囲い込む様にして。

 そろそろ博信の帰宅時間だ。俺の事が心配なようでいつも時間通りに帰ってくる。
「ただいま~」
「おかえり」
 当たり前のように抱きしめれば甘いキスが落ちてくる。
 傍に居るだけで満ち足りた幸せを感じる。

 時間をかけて網を張った巣にやっとかかってくれた愛おしい蝶だ。
 もう二度と離さない。俺という毒に犯されろ。そうして身も心もふたりで溶け合うんだ。



                                 END
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