1 / 1
1.見惚れて言わんとすることを伝えりゃ良し
しおりを挟む諸君、日本…日本列島の誕生を知っているだろうか。
教科書にも書かれているがいま一度おさらいしておこう。
今で言うところ成層圏より少し上。
日本列島は作られた。しかしこのままでは空中に島が浮いたままだ。
そこで日本列島は落ちた。恐竜が覇権を握るこの星。
地球へと!
まさに降臨。
そしてその時に生まれた職業が今でも受け継がれている。
それは……【 アイドル⠀】である!!!
アイドルは噴火レベルの情熱を持った存在だった。
日本列島が降りてすぐに初の地球一周ツアーが行われた。最初は恐竜に食われかけたり、セットを破壊されたりもしたが……。アイドルたちはマイクがなければ倍の声で!スクリーンがなければより大きく大袈裟にしたダンスと仕草をして!時には氷の上、火の海、草原、ジャングルに砂漠から空にまでもそのLIVEを歌を踊りをアイドルという存在を知らしめ続けた!!!
「ぎゃおおおおおおおおおおおおん!!!!」
そして一周を終える頃には全生物を交えた究極的LIVE……「ウルトラ!」と呼ばれる世界同時中継LIVEを通して地球の熱を一つにしたのだ!!!!
その熱はマジモンの大噴火も、ガチでやばい氷河期も全生物を乗り越えさせる力となった……!
そして現在!地球!日本列島に!アイドルが生まれようとしていた!
それは片や侵略をしようとして遭難事故にあってひとりぼっちの宇宙人。
それは片や中途半端にいい子ぶってしまったから世間に埋められてしまった女の子。
なんの接点のない二人をしてアイドルが生まれようとしていたのだ!!!
そう……謎のP……敏腕Pによって!!!
具体的にバラせば私によって!!!!
――――――――――
雨降る早い時間の朝。
夜の不思議の残る時間帯で思い切って家でをしてしまった女の子がいた。
捨てられた獣のように哀れで力のあるはずの女の子が心を痛めていた。
ここは都市からは離れた、ちょっとしたスポット。
何にもないをモットーとした何とも素晴らしい見晴らしスポット。
空から降る雨も陽の光も遮るものがないのでこんな日は誰もいない。
特徴があるとすれば何故か見晴らし台にある岩。
獣のような女の子はそれにもたれかかってボーッと濡れた都市を見つめている。
「一目惚れしたよ。」
私は岩の右手から顔を出して痛々しいほどの彼女へ声をかけた。そして褒めてた。挨拶よりも先に褒めてみた。
「…………えっ……ぃ??!」
「惚れた!惚れた!惚れ込んだよ!」
「ということで挨拶だ!少女!私は天かける敏腕プロデューサー!!!……謎のプロデューサーという!単にプロデューサーと呼んでくれても構わないよ。」
「え……なにっうわぁ!」
「全部は急げ!命を懸けてこの思いを君に捧げてみせるよ!!!」
あの辛そうな……曇天模様な表情は晴れた顔をした。
それを見てさらに私は加速する!しなければ!!!
比較的私の方が手足は長いので、僭越失礼ごめんながら米俵持ちさせて頂き、私はもう一人の元へと急いだ!!!
私の全ては急がねばならないのだ!!!!
「な、なっなっ!?なぁに!!!何何ィ~!!!!???離せーーーっ!!!!!」
――――――――――
私が向かうのは昨晩のオカ板で「何か光って山に落ちてったんだが」というスレにて話題となった富士山の手前にある謎の富士塚。
「お待たせしたぁ!!!」
「私では力不足!なれどならばと!見て欲しい!」
「私だけではないと!ここに示しにもっかい来た!!!」
「一度だけ!もう一度!見て欲しい!私の本気を!」
「うえぇっ!?」
猫を掲げるように謎のPはUFOに掲げてみせた。
UFOは所々壊れており、煙を出し、バチバチと破損箇所から電気を弾けさせている。
「見せてもらったわ……貴方の覚悟、そして本気を。」
「ならばそれに応えなきゃ……ね!」
UFOからスピーカーが生えて聞こえるのは何とも可愛らしい女の子声。
天井部分から円形に光の柱が立つと、ウィィィンという音と共に純白の乙女が露に現れた。
「いっ!?」
乙女はその可憐な見た目と上品そうな仕草をしておきながら、全裸であった。何も着ていない。玉のような肌を乙女の秘めたる花を包み隠すことなく、雨降るこの空の下に露にしていた。
「それで……その子が例の?」
「ああ!その通り……。」
謎のPは彼女を丁寧に下ろすとバックの中から一着の服を無防備な乙女へ突きつけた。
「君に!カルチャーショックを通して再度願おう!!アイドルを!」
(ア……アイドル?!)
「……ッ!!!」
その一瞬にゲリラ豪雨へと姿を変えた空はとてつもない雷でもってここら一帯を白に染め上げた。
彼女が目を瞑った時確かに聞こえた。
「私はアイドル……!!!ですわ!!!」
目を開ければそこにいたのはさっきの閃光とは比べにならないくらいの白の衣装を着た乙女……純白のロリータに包まれた乙女がいた。
「なっ……!」
「そうだぁ!君はアイドルだ!!!君が感じたそれは!元よりあるアイドルソウル!クオリア!君だ!!!」
「おい待て!なんでそん……おまっ!」
「それ私がっ……!!!」(昔一度着て恥ずかしくなって封印していた黒歴史じゃねぇか!!!)
「ええっ……コレは貴方が貴方へ贈り封印していた衣装。そしてこのロリータは私の命を!不義理にも記憶の奥底へと紛失していた私の命を燃やし続けていた命のピースですわ!」
「勝手に人のもんに思入れてんじゃねえー!!!」
「第一何でお前がそれを持って……!」
「それは君がアイドルだからだ!!!」
「はぁ!?」
「変な仮面野郎にんな事唐突に言われて納得できるか!!!」
「否ぁあああああああああ!!!!!!……ですわっ」
「その通り、君はこの中で一つだけ目を伏せている。」
「君はあの時からアイドルを宿している。」
「あのロリータを着て!微笑んだ時からずっとだぁあああああああああ!!!」
謎のPは携帯を画面を彼女へと突きつけた。
そこには今よりも幼い彼女が鏡の前でスカートを摘む姿があった。自分を大切そうに自分の姿が映る鏡を微笑みながら見る姿が!
「ぎぁああああああああああああ!!!」
「なあなななっ!何なんで撮って……!!!あるんだあああ!!!!」
「動かぬ証拠は突きつけた!君はそれを否定しなかった!!!」
「何故ならばアイドルだから!!!!!」
「あなたが必要ですわ。柊!!!」
「あなたが欲しいですわ!柊!!!!」
「あなたとグループとしてアイドルでありたいのです!柊紀々!!!!」
「勝手に言ってろ!!!人のモンを自分のものみたいに着やがって!!そのクセにアタシが欲しいだぁ!?ふざけんじゃねぇよ!!!」
「その通りですわ。」
「私の格好は貴女の言う通り「ふざけんじゃねぇ」その通りです。」
「わかったら今す「貴方がこれを着ていないのですからね!!」
乙女はパチンっと指を鳴らすと、またも裸となった。
「なっ……!」
「はっ!」
いつぶりだろうか。あの時以来だ。
初めて来た日以来。その日ぶりに彼女は柊は純白のロリータに体を包まれていた。
「ふっ……ふひや!ふざけるなあっ……!!」
「今のアタ……アタシになんってもんを!」
「いえ、これでふざける所は消えましたわ。」
「はぁ!?」
「おちょくんじゃねえよ!!!また素っ裸になりやがって!」
「なんでアタシがこんな、こんな恥ずかしい思いを……!!!なんて辱めを……何処の馬の骨とも分からねぇ奴に!」
「私の名前はハスターウェル・ビヨンド!気軽にハスターなどとお呼びくださいませ!!」
「遅せぇよ!!!!」
「いいえ遅くありませんわ!!!既にあなたと私らは出逢っている!」
「あの日!あの時!あの場所で!」
「私たちはアイドルでした!!!時間にして数刻にも満たなかったけれど…確かにアイドルをしていましたわ!!!」
「何を言ってんだお前「貴女はその服を着て恥ずかしくなったからこの服を封印していたと言いましたが違いますわ!!!」
「なッ……」
「貴女は心無い言葉、残酷という意味ではなく!的を得ていないタダの音でしかないという意味での心無い言葉に傷つき封印したのです!!泣いていたのです!!この服をしまい込む時!!!」
柊の体を鮮烈なものが駆け巡る。
それは寝耳に水、否が応にも目が覚めるような刹那の言霊だった。
「私は言いました!先程!」
「この記憶を不義理にも奥底へとやっていたということを!」
そんなはずはと言う口を作る中で柊が思い出していたのは一つの思い出を。
「それは貴女も一緒だったのです!!!」
───────
その昔その夏、確かに二人は出逢っていた。
場所は柊が誰にも内緒でたまに来ていた森の奥。
「だ、ど……どうしたんだ……?」
「パパ……ママ……とか……ハグれたのか?」
森の奥にある放置されたままのレンガ造りの旧軍の施設。
火薬置き場だったトンネルでの事だ。
(ああ思い出してきた。思い出してきたぞ。いやコレはいい意味でのフラッシュバックか……?)
「……ぐすっ……ぅぅ……」
少し輝いて見えるほど真っ白な少女がうずくまって泣いていたのだ。
「わぁ!おいおい待て待て!」
「うわああああああああん!!」
二人の出会いはコレからだ。
(こういう時って……どうすればいいんだっ!?)
「うううう……え~ん…うえ~ん。」
戸惑う柊。
自分にしがみついても泣き続けるその少女を見てどうしようもないほどの慈しみがわいた。
「も……もう大丈夫だよ……大丈夫……大丈夫。」
なんの根拠もないが彼女はそう口にして少女を抱きしめ頭を撫でた。
───────
「……お前、あん時の……。」
「ええ…私ハスターウェル・ビヨンドはあの時貴女に慰められてた少女です。柊さん。」
「でも何だってまた地球に…。」
「それ、は……」
ハスターは急に言い淀む。
「それは彼女、ハスターウェル・ビヨンドが宇宙人であることに由来している。」
「お前……それってどういう事だよ。」
「侵……略です。」
「え。」
「私は宇宙人。侵略宇宙人なのです。」
「この星を侵略する宇宙人「α星からの侵略者」なのです。」
旧友の突然の告白。
柊は動揺した。ハスターもまた動揺していた。
覚悟はしていたハスターだったが、いざ思い出した友人であり恩人の戸惑う姿を見て心が痛むのだ。痛くて痛くてどうしようもないくらい申し訳なくなったのだ。
「だからってなんでアイドルって……」
「あの時柊が見せてくれたアイドルにはそれだけの……ううんそれ以上の力を感じたからです。」
「何を根拠にそんな───────その時だった。
曇天から赤い一筋の光が落ちてきた。
それはこの星の時間を圧縮したかのようにスローにさせてながら、その赤い光を目視する人には起きる事までの数秒を引き伸ばして見せびらかした。
「っ!!!」
咄嗟。ハスターは柊へと飛びついた。
「わっ」
そんなビックリした声を喉を通るよりも早く速く。
その赤い光は地上へと落ち
爆発した。
都市を挟んだ向こう側にある山に落ちたのだ。
そして爆発した。
「ぐっ……」
「……!!!」
耳を劈く爆音と身を飛ばさんとする衝撃。
木々が悲鳴をあげて震えていた。
そしてそれは収まる。スグだった。一瞬のことだった。
なのに何とも長い十数秒のように柊は感じた。
「おぶっ……ちょお前…離……」
衝撃が通り過ぎても離れないハスターを引き剥がそうともがいた柊だったがすぐに気づく。
それと認識するなり一度抱き返して頭をひと撫で、そしてこう優しく言った。
「ちょっと見せたいものがあるんだ。」
ハスターはその言葉に従って力を緩めた。
ペタりと座り込んだままの乙女、それが見たものはかつての記憶を想起させる真のアイドルであった。
そのアイドルはスゴイものだった。
歌詞は即興だし、リズムは破綻していて、踊りだって時折躓いてバランスを崩してしまう。
「───────っ……!」
だけど笑ってる。
───────
「そ、そうだ!いいモノ!見せるから!ねっ!」
泣きじゃくってひっつき虫の少女にそう言った。
子犬子猫のように丸まった手を引きながら柊は特別な場所に少女を招待した。
そこはステージだった。
天井の木の枝から木漏れ日が降り注いでなんとも幻想的だ。そしてそのスポットライトが照らすのは石の椅子よりも一段高い円形の舞台だった。
「ここに座ってて!」
「見てて」
マイクもスピーカーもドレスだってないステージ。
それでも少女は思ったのだ。こう口から零れ出たのだ。
───────「アイドル」
「はっ……はっ……はっあ……ああ~…ははっありがとう。」
「ははっダメだな……こんなに息が上がるなんて…あ。」
柊は気づく所々衣装を破いていることに。
「衣装もダメにしちまったわ。ゴメン気に入ってくれてたの…「ううん、ありがとうございます。」
「柊。お陰様でこんなにも笑顔になれましたわ。」
「そっか、そりゃ…良かった!」
「いっ!?」
「?」
「わ……」
ハスターにタオルを掛けたのはさっきから黙って見ていた謎のP。
号泣している。感涙している。
「もう一度、いや、何度でも私は言おう。」
「君はアイドルだ。」
いつのまにか曇っていた空は澄み切っていた。
その色は青とはいかないが、なんとも暖かな色が差し込んできていた。
「ははっ…!そうだな。」
「っ……!」
「な…なーんて───────うわっ!」
「という事で!只今より!本格的なアイドルサポートをさせて頂きますッ!!!」
「改めて自己紹介を!!!私は天かける敏腕P!謎のP!!!」
「二人が呼びやすいような呼び方で構わない!!!」
「では!では!お疲れ様だろうから運んで行こう!さあ行こう!さあ行くぞ!!!」
「いえ、私よりも柊の方をよろしくお願いしますわP。」
「あああっだから運ぼうとするな!!!」
「まずお前は人の話をだな!」
謎のPの手によってUFOへと運ばれていく柊。
ハスターはそれを見て
「あははっ」
笑った。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
0
この作品の感想を投稿する
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる