妖精姫は見つけたい

佐倉有栖

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 ヘクターからリボンをもらうと、メイは必ずシャルロッテの髪を整えた。真新しいリボンを髪に飾り、慈しむように何度も手で撫でると、口元を綻ばせる。
 愛しいものに触れるようにそっとリボンの端をつまみ、頬を寄せる。幸せそうな顔をしているのに、いつも眉間にはしわが寄り、眉尻は悲しそうに下がっていた。
 鏡越しに見るメイの顔からは、正確な心情は伝わってこない。最初は、離れて暮らす血のつながらない弟からの贈り物を喜んでいる顔だと思った。しかし、リボンの出所がメイの父親だとわかってからは、父親を思慕する娘の顔に見えた。

 本当はどう思っているのか、聞いてみたい衝動にかられる。
 しかし、聞いたところで答えが返ってこないのは分かっていた。メイは、複雑な感情を伝えることができない。喜怒哀楽自体は表せても、そこに含まれる微妙なニュアンスまでは難しかった。

 父親を心の底から憎み、嫌っているわけではないというのはわかるのだが、会いに行きたいのかどうかまでは定かではない。
 メイの背中で揺れる赤毛に目を向ける。一部の乱れもなく編み込まれたその先には、質素な黒い紐が巻き付いている。そこに華やかなリボンが飾られたことは、シャルロッテが知る限り一度もない。
 受け取った二本のリボンのうちの片割れをメイがどうしているのか、ほかのメイドたちにそれとなく聞いてみたこともあったが、誰も明確な答えは持っていなかった。

「一度もメイが持っているところを見たことはないんですけど……多分、捨ててはいないと思いますよ」

 そのくらいの情報しか得られなかった。大切にしまってあるのか、はたまたどこか目につかないところにまとめて置かれているのか。メイに聞けば答えてくれるのかもしれないが、赤毛で揺れる黒紐を見ると、聞いてはいけないことのように思えた。

「メイ、明日からパーシヴァルと上手くやってね」

 紐から視線を上げ、メイの藍色の瞳を見つめる。桜色の唇が、今にも文句を言いだしそうに尖った。

「仲良くしてねって言っているわけではないのよ。同じ屋敷にいる人間くらいの距離間で良いから、あまり邪険にしないであげでね」

 非常に不満げな様子だったがメイは軽く頷くと、仕方がないわねと言いたげにそっぽを向いた。子供っぽい不服の表し方に苦笑しつつも、シャルロッテはひとまず安堵の息を吐いた。
 シャルロッテのことに関しては、メイの意見は絶対だ。メイが、パーシヴァルはシャルロッテの近くにいるべきではないと判断してしまうと、彼の仕事が完遂できなくなってしまう。シャルロッテだって、無用な疑いをかけられたままでは堪らない。

「たった半年の辛抱だから。ね?」

 頼りなげに吐き出された言葉は、メイを諭しているのか、それとも自身を鼓舞しているのか、分からないほどに曖昧だった。
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