妖精姫は見つけたい

佐倉有栖

文字の大きさ
71 / 82

71

しおりを挟む
「シャルロッテ様……何かお考えが?」

 パーシヴァルが驚きの表情を消し、鋭い眼差しでシャルロッテを見据える。
 リリィがいるこの場で、王の付き人であるパーシヴァルに魔女の懸念を告げて良いものか迷っていると、意外な人物が声を上げた。

「もしかして、お嬢様は鏡が気になっているんですか?」

 普段はふわふわしているように見えても、リリィはマンフレットの厳しい審査を合格してコルネリウス家のメイドになった人物だ。なかなかに目の付け所が良かった。
 パーシヴァルが考え込むように目を伏せ、ややあってから「なるほど」と低く呟くと小さく頷いた。おそらく、彼もシャルロッテが抱いた懸念について悟ったのだろう。

「良いでしょう。フォルミコーニ家には近いうちに顔を出す予定がありましたので、その時にシャルロッテ様もご一緒に……」
「駄目ですよ!」

 言葉を遮るように、リリィが大きな声を出す。
 左手を腰に当て、パーシヴァルの顔を覗き込むように彼の前に立ちふさがると、顔の前で人差し指を左右に振った。

「分かってないですねぇ、パーシヴァル様。お嬢様とパーシヴァル様が行ったところで、エリアス様が正直に“そうです、鏡の中の人と会話してるんです”なんで言うわけないじゃないですか。フォルミコーニ子爵や子爵夫人だって、素直に“息子がどうやら鏡の中の住人と会話しているようで”なんて言うはずがありません! 鏡の噂が本当でも嘘でも、二人がきいたところで“そんなのはただの噂です”って言われるに決まってるじゃないですか!」

 自信満々にそう言い切るリリィだったが、確かに言われてみれば彼女の意見も一理あった。
 ただの噂ならばフォルミコーニ家の者は誰だって否定するだろうし、もしも本当だったとしても、嫡男が鏡の中の人物と話しているなどと言えるはずもない。

「でしたら、どうすれば……」

 悩むパーシヴァルの前で、リリィは胸を張るとドンと叩いた。

「こういう時こそ、私の出番ですよ! 家のことについてよく知っているのは、何も子爵一家だけではないんです。使用人たちだって、同じくらい家のことには詳しいはずです。もっと言えば、子爵一家以上に詳しい可能性だってあります。それくらい、私たち使用人は家の隅々まで知り、些細なことでも耳にしているんです」
「しかし、使用人たちは主人以上に口が堅いものでは?」
「それは、お嬢様やパーシヴァル様のような目上の方や、外部の者に対してです。内部の人間に対しては、それほどでもないんですよ。だからこそ、こう言った噂がまことしやかに流れるんです」
「でも、フォルミコーニ家から見ればあなただって外部の人間でしょう?」
「家としてみれば外部の人間かもしれませんが、使用人としてみれば仲間なんですよ。それに、あたしは伯爵家のメイドです。子爵家のメイドと話をするのに、こんなに適した肩書はないですよ」

 リリィがニヤリと人の悪そうな笑顔を浮かべる。尖った八重歯が、やけに目を引いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

公爵家の養女

透明
恋愛
リーナ・フォン・ヴァンディリア 彼女はヴァンディリア公爵家の養女である。 見目麗しいその姿を見て、人々は〝公爵家に咲く一輪の白薔薇〟と評した。 彼女は良くも悪くも常に社交界の中心にいた。 そんな彼女ももう時期、結婚をする。 数多の名家の若い男が彼女に思いを寄せている中、選ばれたのはとある伯爵家の息子だった。 美しき公爵家の白薔薇も、いよいよ人の者になる。 国中ではその話題で持ちきり、彼女に思いを寄せていた男たちは皆、胸を痛める中「リーナ・フォン・ヴァンディリア公女が、盗賊に襲われ逝去された」と伝令が響き渡る。 リーナの死は、貴族たちの関係を大いに揺るがし、一日にして国中を混乱と悲しみに包み込んだ。 そんな事も知らず何故か森で殺された彼女は、自身の寝室のベッドの上で目を覚ましたのだった。 愛に憎悪、帝国の闇 回帰した直後のリーナは、それらが自身の運命に絡んでくると言うことは、この時はまだ、夢にも思っていなかったのだった―― ※第一章、十九話まで毎日朝8時10分頃投稿いたします。 その後、毎週月、水朝の8時、金夜の22時投稿します。 小説家になろう様でも掲載しております。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

真実の愛を見つけたとおっしゃるので

あんど もあ
ファンタジー
貴族学院のお昼休みに突然始まった婚約破棄劇。 「真実の愛を見つけた」と言う婚約者にレイチェルは反撃する。

処理中です...