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第五十二話「鐘楼内での戦い:後篇」

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 4月23日午前9時頃。
 迷宮管理事務所にある鐘楼内で、僕とローザはミノタウロスを主体とする魔物たちと激戦を繰り広げていた。

 当初は階段を登ってくる途中で始末していたが、重装備のミノタウロスナイトが盾を翳して登ってきたため、倒すことが難しくなった。
 途中で倒すことを諦め、足を狙うことで登る速度を下げようとしたが、その作戦が功を奏すことはなかった。

 ミノタウロスたちは恐ろしいまでに統率が取れた軍隊で、指揮官であるミノタウロスチャンピオンが傷ついたナイトを処分するように命じたのだ。
 傷ついたナイトは後ろの仲間に階下に突き落とされ、登る速度が落ちないようにした。

 それでも敵の足を狙い続け、20体以上のナイトを排除したが、結局、ローザが待つ踊り場までたどり着かれてしまう。
 盾を構えたナイトが右手一本で巨大なハルバートを突き出す。

「ハァッ!」と気合と共にローザの“黒紅”がそれを斬り落とし、その勢いのままナイトの喉に剣を突き入れる。

 僕もその後ろのナイトに向けて銃撃を加えるが、致命傷を与えることができない。
 傷ついたナイトは足を引きずりながらローザに向けてハルバートを繰り出す。
 ローザはそれを易々と避け、再び踏み込んでナイトに止めを刺していく。

 武術の才能の差でローザに危なげはないが、何といっても狭い階段の踊り場であり、疲労が溜まれば、足を踏み外す可能性もあるし、ミノタウロスナイトの攻撃は一撃でも致命傷になりかねないほど強力で、時間が経てば不利になることは間違いない。

「大丈夫か?」と聞くが、

「問題ない。ライル殿は数を減らすことに注力してくれ」

 本当に大丈夫なのかと思わないでもないが、彼女の言っていることは正しい。
 ミノタウロスナイトの数はそれほど多くなく、その後には防具をほとんど付けていない個体ばかりになる。チャンピオン以外なら一撃で倒せるから、M4カービンの連射速度なら、階段という有利な条件を考えれば殲滅は難しくない。

 そんな戦いを30分ほど続けると、ナイトがいなくなった。鐘楼の一階部分にはドロップ品である硬貨や魔力結晶マナクリスタル、更にはミノタウロスが落とす肉が散乱している。

 ナイトに代わり、ウォーリアやグラップラーが上がってくる。その中には最上位種のチャンピオンもおり、油断はできない。

 チャンピオンは強靭な肉体と高い武術のスキルを持ち、3メートル弱の巨体とは思えない身のこなしで階段を登ってくる。
 頭を狙うと、勘だけで両刃の戦斧バトルアックスを使って頭をカバーするなど、信じられないほどの動きをする。

 動きを止めるため、防御しにくい胴体や太ももを狙うが、M4の5.56ミリ弾を受けて血を流すものの、怒りの声を上げるだけで速度を落とすことなく上がってくる。
 このまま接近されると、ローザが危ない。
 階段の幅は狭く、チャンピオンが斧を振り下ろせば、避けることは難しいからだ。

「チャンピオンとウォーリアを狙う! グラップラーは君に任せる!」

「承知!」と短い返事が返ってくる。

 グラップラーはその名の通り、格闘術を使うため、武器を持たない。捕らえられれば命はないが、リーチの長い巨大なバトルアックスを使うチャンピオンやウォーリアより分はいい。

 M4をフルオートに切り替え、チャンピオンの頭を狙う。MPがもったいないが、3発ずつ撃ち込むことで、確実に倒す方法に切り替えたのだ。

 3発ずつ5秒間隔くらいで撃ち込んでいく。さすがのチャンピオンも頭に2発の銃弾を受ければ光となって消えるしかない。
 問題はマガジンがいつまでもつかということだ。

 僕のM4は異世界のオリジナルに比べ、マガジンに入る弾の数が多い。これは火薬を入れる薬莢と言われる部分がないからで、一つのマガジンに100発の弾が入っている。

 そのマガジンだが、準備してあったのは20個だ。2000発の弾丸が用意されていることになるが、既に半数以上使い切っており、鐘楼から狙撃している時にローザに補充してもらったが、それでも残りは7つしかない。

 弾丸自体はまだ3000発以上あるはずだが、マガジンに入れる時間がないのだ。
 このままでは圧倒的な物量に押し切られる可能性があるが、逃げるわけにはいかないし、別の銃を使うこともできない。

 M82アンチマテリアルライフルは連射速度が遅く、SPスナイパーモードでも7秒に一発しか撃てない。
 M590ショットガンは3秒に一発撃てるが、チューブマガジンには6発しか入れられず、再装填するのに時間が掛かりすぎる。M29も同じ問題で使えない。

 今は敵に即座に対応する必要があり、そのためには速射性が重要だ。そうなるとM4しか選択肢はなかった。

 残弾数は気になるが、それ以上にローザの疲労も気になる。
 狭い踊り場で、一撃で死に至る攻撃を避けながら、30分以上戦っている。肉体的にも精神的にもきついはずだ。
 しかし、そのことで声を掛けるわけにはいかない。一瞬でも気を抜けば、命を落としかねないからだ。

 僕は戦いに集中するしかないと腹を括り、機械のように銃撃を繰り返していった。

 更に30分ほど経ったところでミノタウロスの数が明らかに減ってきた。
 隙を突いて外を見ると、迷宮の入口からオーガやトロールの上位種は出てくるものの、ミノタウロスはほとんど見られない。

「ミノタウロスが尽きたみたいだ。助かった……」

 そう言いながら残りのミノタウロスを確実に葬っていく。
 残弾数は既に200発を切り、予備のマガジンは1つになっていたのだ。
 10分ほどで鐘楼内のミノタウロスは全滅した。

 オーガやトロールが代わりに入ってこようとしたが、鈍重であるため、階段をまともに上がることすらできない。

「ローザは休憩してくれ! 僕が上がってくる奴を倒すから」

 そう言いながらM590を用意する。

「では、某は外を警戒しながら、弾丸の装填を行おう」

「頼む」と言って、使い切ったマガジンと弾丸の入った箱を渡す。

 狙撃には向かないが、距離が近いことと消費MPが少ないことから、M590に切り替える。
 スラグ弾を装填し、フラフラと上がってくる。オーガとトロールを撃ち殺していく。

 その中には上位種であるオーガウォーリアやトロールバーサーカーもいるが、スマートなミノタウロスに比べ、横幅が大きく、壁に背中を付けるようにして上がってくる。
 そうしなければ階段から落ちてしまうためだが、僕にとっては格好の的だ。

「城壁の上は渋滞しているな」

「まだ、迷宮から魔物は出てきている?」と聞くと、

「オーガとトロールの上位種ばかり出てくるな。ミノタウロスより足が遅いからこうなったのかもしれんな」

 オーガ、トロール、ミノタウロスは同じ階層、351階から400階に現れる魔物だ。聞いた話では同じような割合で出てくるため、本来であれば入口まで上がってくるのも同じになるはずだが、ミノタウロスの上位種はオーガとトロールの上位種に比べて身体能力が高いため、このような順番になったのだろう。

 通常種の場合も同じような傾向がみられるはずだが、更に足の遅いゴーレムがいたため、大きな差が出なかったのだと思っている。

「オーガとトロールの上位種は町に向かう者が多いな。町に残った者たちが苦戦せねばよいが」

 僕たちが稼いだ時間は1時間半ほど。町の中に隠れるには十分な時間だが、罠を作るなどの準備をする時間はほとんどないはずだ。

「任せるしかないよ。僕たちにできることはもうないから」

 そんな話をしながら、オーガとトロールを倒していく。

 2時間ほど経った午前11頃、昨夜から戦い続け、1時間程度の仮眠を3回取っただけであるため、疲れで集中力を欠き始める。

「某は休ませていただいたが、ライル殿は戦い続けている。ここを引き払って、どこかに潜伏した方がよいのではないか」

「そうだね。もう少ししたら……」と言おうとした時、ローザが僕の言葉を遮った。

悪魔デーモンが現れた! こちらに向かってくる!」

 上がってくるオーガロードを撃ち殺しながら、

「脱出する」と言って左手を差し出すと、すぐにその手を握り返した。

 そのまま転移魔術を発動し、鐘楼の外に飛び出していった。
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