最弱魔術師の魔銃無双(旧題:魔銃無双〜魔導学院の落ちこぼれでも戦える“魔力式レールガン戦闘術”〜(仮))

愛山雄町

文字の大きさ
63 / 92

第六十二話「ラングレーの戦い」

しおりを挟む
 4月21日午前0時頃。
 俺たちのパーティは402階にある安全地帯セーフティエリアで野営していた。
 見張りをしていたエルフのペネロペが、小さいが鋭い警告の声を発し、目を覚ます。

「迷宮の様子がおかしいと聞こえたんだが……」と眠そうな目をこする鬼人族のスタンリーが確認する。

「何があったんだ?」と俺が聞くと、

「魔物の様子がおかしいわ。遠目に見ただけだけど、デーモンが2体一緒にいたの」

「デーモンが2体だと? 偶然一緒になったんじゃないのか」と熊獣人のアベルがあくび交じりの呑気な声で聞いている。

「全員、出発準備だ。迷宮から脱出する」と俺は宣言し、脱いでいたヘルメットを被る。

 ディアナとペネロペはすぐに動き出すが、スタンリーとアベルの動きが鈍い。

「早くしろ。一刻を争うんだ」と強く言うと、渋々ながらも動きを速める。

「最近心配している魔物暴走スタンピードが起きたと思っているのか?」とスタンリーが言うが、それに応えることなく、準備の状況を確認していく。

 それでもベテランらしく、2分ほどで準備は終える。

「ペネロペに先行してもらう。だが、無理はするな。400階の転移魔法陣までたどり着けそうになければ、セーフティエリアでやり過ごすつもりだからな」

「了解」と短く答え、ペネロペは30メートルほど先に走る。

「戻れるかしら」とディアナが言ってきた。

「始まったばかりならな。まあ、無理でもセーフティエリアに逃げ込めれば、何とかなる」

 俺も妻と同じ懸念を抱いているが、リーダーとしては楽観論を言うしかない。

 先行するペネロペが手で止まれの合図を送ってきた。
 俺たちが止まると、後ずさるように戻ってくる。

「駄目だわ」と言い、首を横に振る。

「何がいた?」と俺が聞くと、「サキュバスよ」と低い声で答え、

「この階層にいるはずがない上位悪魔がいたのよ」と付け加える。

 サキュバスは女性型の悪魔で、男性型のデーモンと見間違えることはない。この言葉で懐疑的だったスタンリーとアベルの表情が一気に締まる。

「この近くで安全そうな場所はどこだ?」とディアナに確認する。

 ディアナは地図を取り出し、ある場所を指さした。

「200メートルほど奥にある曲がり角を曲がった先のセーフティエリアね。行き止まりだから逃げ場はないし、他の場所より階段室に近いから危険だけど、敵に見つからずに甲子から行けるのはそこしかないわ」

「分かった」と答え、他のメンバーに指示を出す。

「ペネロペが先頭、スタンリー、アベル、ディアナは彼女に続け。俺は殿しんがりで後ろを警戒する」

 俺の指示に従い、移動を始めた。

 何となくスタンピードが起きるような気はしていた。そのため、事前に対応方針は決めてあった。
 俺もディアナも200年以上シーカーをやっているが、さすがにスタンピードの経験はなかった。だから、スタンピードを経験した連中から聞いた話を参考にして大まかな方針を決めただけだ。

 スタンピードだが、発生すると魔物は外に出ようと階段室に向かう。
 そのため、迷宮から脱出しようと転送室や階段室に向かうにも、奴らと同じルートを通る必要がある。つまり、逃げようと思ったら次々と現れる魔物と戦い続けることになるのだ。

 だから脱出はごく初期、まだ敵が上がり始めた段階でしか難しいと思っていた。
 スタンピードが起きても魔物はシーカーを見つければ攻撃してくる。しかし、セーフティエリアだけは別で、そこにいればある程度近づかれても無視して上に向かうらしい。

 そのため、予め魔物が移動するルートから外れているセーフティエリアに目星が付けてあった。
 今回は最適とは言い難い場所だが、魔物と戦わずに行けるところがなかったのだ。

 セーフティエリアにたどり着き、一息ついたところで、「でも、いいのか。お嬢のところに行かなくても」とアベルが聞いてきた。

「俺がローザのことを心配していないと思っているのか」という言葉しか出てこなかった。

 実際、娘のことが心配で、無理をしてでも地上に戻りたかった。しかし、昔の仲間ならいざ知らず、今のメンバーで強行してもたどり着ける可能性は皆無だ。

「済まなかった。お前だけなら戻れたかもしれんと思ってな」とアベルが謝ってきた。

「いや、無理だ。サキュバスがいたってことはグレーターデーモンもじきに出てくる。そうなったら全滅するだけだ」

 俺がそういうと、ディアナが俺の手を握ってきた。

「俺が聞いた話じゃ、スタンピードは少なくとも2日は続く。交替で見張りをしながら、可能な限り体力を温存してくれ」

 魔物の通り道から遠ければ、何もしなくてもいいが、この場所だと俺たちに気づいて襲い掛かってくる奴がいないとも限らない。

 俺の懸念は30分もしないうちに的中した。
 見張りをしていたスタンリーが「デーモンが2体近づいてくる」と警告する。

「ディアナとペネロペは最初に現れた方に攻撃を集中してくれ。スタンリーとアベルはそいつを確実に倒すんだ。俺はもう一体の方を抑える」

 20メートルほど先の曲がり角からデーモンが無造作に現れた。
 すぐにペネロペが風魔術の“風刃”、ディアナが神聖魔術の“光の矢”を撃ち込む。ペネロペは弓術士だが、デーモンは飛び道具に対して防護する障壁を纏っているため、魔術で攻撃したのだ。

 魔術を受けたデーモンだが、大きなダメージは受けていない。これは想定内だ。そのデーモンは怒りに顔を歪め、ディアナたちに向かって飛んでくる。
 そこにスタンリーとアベルが武器を構えて間に入り込む。
 スタンリーは巨大なメイスを振り上げて待ち、アベルも大きな戦斧を低く構えている。

 二人の戦いを見ていたいが、俺にも仕事があった。
 ミスリルの長剣を構え、もう一体のデーモンに向かう。俺は魔術も使えるが、剣の方が得意だ。

 デーモンと一騎討ちだが、油断さえしなければ何とかなる。ただ、こいつらは無詠唱で中級魔術を放ってくるから厄介で、その隙を与えないことが重要だ。

「ハァァァ!」と息を吐き出しながら剣を突き出す。

 俺の渾身の突きをデーモンは闇の剣で払った。その勢いを利用して叩きつけるような斬撃を繰り出してきた。
 その行動は予想通りですぐに距離を取る。

 俺が下がったことでデーモンはニヤリと笑った。
 そして、左手を差し出す。魔術を放つつもりなのだろう。

「それを待っていたんだよ!」と言いながら、低い姿勢でデーモンの足元に飛び込み、突き上げるように下から上へ剣を振るった。

「グアァァァ!」というデーモンの断末魔の悲鳴が響く。そして、すぐに光の粒子となって迷宮に吸い込まれていった。

 その足元には白金貨と魔力結晶マナクリスタルが落ちているが、それを無視してもう一体のデーモンに視線を向ける。
 4対1ということもあり、ディアナたちも無難に倒していた。

 白金貨とマナクリスタルを拾い、4人に合流する。
 その後、30分に1回くらいの割合でデーモンとその上位種が襲い掛かってきた。有利な場所で戦っていたから何とか無傷で倒し続けていく。

 グレーターデーモンが現れた時にはヒヤリとしたが、ディアナとペネロペという神聖魔術の使い手が2人いるため、何とか倒すことができた。

 8時間ほど経った頃、魔物の種類が変わった。
 悪魔からアンデッドになったのだ。

 ワーウルフはそれほど脅威ではないが、ヴァンパイアは神聖魔術の使い手が二人いるにもかかわらず、変幻自在の動きと精神攻撃でスタンリーとアベルが一時戦闘不能に陥ったほどだ。

 それでも今回の戦闘で、俺たちのレベルは20近く上がり、ヴァンパイアくらいなら何とかなると思っていた。

 翌日の4月22日の午後9時頃。
 日付が変わるころからアンデッドの数が減り始め、ゴーレムの上位種に代わった。しかし、その数が異常に少ない。

 最初のうちは500階層より下層では数が少ないのかと思っていたのだが、ぽつりぽつりという感じでしか現れない。
 スタンピードが終わりつつあるのかと思ったが、それにしては少ないながらもミスリルやアダマンタイトのゴーレムが現れる。

 動きが遅いからこの隙に脱出しようと考えたが、足の速いケンタウロス型のゴーレムも混じり始め、結局セーフティエリアから動くことができず、悶々としていた。

 ゴーレムから上位悪魔に代わったが、その数も少なかった。
 4月23日になり、更に数が減り、脱出の機会を窺っていたが、その時、異常な力を感じた。
 その絶望的な力を持つ存在の気配に、震える手を止めることができない。

 ディアナも同じように震え、俺にしがみついてくる。
 スタンリーたちも恐怖を感じているのか、目を見開いてその気配がする方向を見つめていた。

「奴が来たらお終いだ……」

 俺が言ったのか、他の誰かが言ったのか分からないほど混乱していたが、それは紛れもない事実だ。
 それまでに戦ったヴァンパイアはもちろん、遠目に見ただけだが、悪魔の上位種デーモンロードらしき存在でもここまで恐怖を感じなかった。

 恐らくだが、レベル700を遥かに超える化け物で、俺たちの方に来たら何もできずに殺されるだろう。
 俺たちにできることは来ないことを祈るだけだ。
 その祈りが通じたのか、その化け物は俺たちの方に向かってくることなく、遠ざかっていった。

「助かった……」

 思わずそんな声が漏れた。

「あんな化け物が地上に出たら、七賢者セブンワイズでも対抗できないわ。この国が終わってしまう……」

 ディアナがそう呟いたが、俺も同じことを考えていた。

 それから1時間くらい様子を伺い、魔物の姿がないことを確認する。

「あれがこの迷宮の主なのかしら」

「分からん。だが、魔物の気配がない。今のうちに脱出しよう」

 400階の転移魔法陣まで2階層。距離は5キロほどしかない。移動だけなら1時間ほどで済む距離だが、思った以上に時間が掛かった。
 理由はあの存在を恐れたこともあるが、一度いなくなったはずのアンデッドが復活しており、そいつらから逃げなければならなかったからだ。

 不思議なことにゴーレムやデーモンなど、他の魔物の姿はなかった。
 結局、転移魔法陣に到着したのは4月23日の午後11時になっていた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

【改訂版アップ】10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~

ばいむ
ファンタジー
10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~ 大筋は変わっていませんが、内容を見直したバージョンを追加でアップしています。単なる自己満足の書き直しですのでオリジナルを読んでいる人は見直さなくてもよいかと思います。主な変更点は以下の通りです。 話数を半分以下に統合。このため1話辺りの文字数が倍増しています。 説明口調から対話形式を増加。 伏線を考えていたが使用しなかった内容について削除。(龍、人種など) 別視点内容の追加。 剣と魔法の世界であるライハンドリア・・・。魔獣と言われるモンスターがおり、剣と魔法でそれを倒す冒険者と言われる人達がいる世界。 高校の休み時間に突然その世界に行くことになってしまった。この世界での生活は10日間と言われ、混乱しながらも楽しむことにしたが、なぜか戻ることができなかった。 特殊な能力を授かるわけでもなく、生きるための力をつけるには自ら鍛錬しなければならなかった。魔獣を狩り、いろいろな遺跡を訪ね、いろいろな人と出会った。何度か死にそうになったこともあったが、多くの人に助けられながらも少しずつ成長し、なんとか生き抜いた。 冒険をともにするのは同じく異世界に転移してきた女性・ジェニファー。彼女と出会い、ともに生き抜き、そして別れることとなった。 2021/06/27 無事に完結しました。 2021/09/10 後日談の追加を開始 2022/02/18 後日談完結しました。 2025/03/23 自己満足の改訂版をアップしました。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

処理中です...