スルドの声(嚶鳴) terceira homenagem

桜のはなびら

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要さんの真髄

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 しょーちゃんと要さんから聞く、二人の過去の物語。
「要さん、かめちゃんて呼ばれそうだったんだ」
 かわいい。なんて言っていたら、そこいじってくるならこれ以上話さない! と凄まれたので大人しくした。


 入店早々に頭角を現しつつあった要さん。
 まだ新人でもあった要さんに、しょーちゃんは、要さんの根に男性に対しての軽い軽蔑の意識があることを見抜き、指摘した。

「そういうのって、見透かされちゃうよ。なんて、ありきたりなことは言わない」
 
 そういうことを言われることはあるし、実際そういうこともあるのかもしれないが、あくまでも自戒を促す言葉だからそれが正であるかのように言われている。
 でも実際は、全員が全員、性根に根差した矛盾が表面に現れるか、そしてそれを誰もが見極められるか、と言われればそんなことはない。案外簡単に隠せたりもする。
 仮に見透かされるとしても、本音で思っていることを消すことなんてできないのだから、どうしようもない。

 要さんは、実際馬鹿なんだからしょうがないじゃん。なんてことは言わず黙っていた。
 属性で括って評価したり、一般化した言葉で要約してしまうことを要さんは好んでいなかった。それをしてしまえば、自分が忌諱している「馬鹿」な連中と変わらなくなってしまうから。



「素の要は魅力的だと思うよ。だから、出した方がもっと良いんじゃないかって思うわけ」

 
 言っている内容の意味は理解できるが、結論の根拠がわからない。
 要さんは真意を探ろうと、なお黙ってしょーちゃんの言葉に耳を傾ける。

 
「接客の基本的な話法ってあるじゃない? 相手の話を否定しないとか興味を示すとか。『さしすせそ』とかどんな話題にも馬鹿っぽくなく対応できるように日経新聞くらい読んでおくとか」

 
 でも、それが世の中のキャストに拡まって、接客のベース、最低限の資質で大前提みたいにになってくると、通いなれているお客様にとっては物足りなくなるもの。
 ベースは崩し過ぎないようにしつつ、そのキャストならではの個性が欲しい。

 キャストが狙うべき「太客」と呼ばれるようなお客様は成功者である確率が高い。
 一概には言えないが、それなりの地位にたどり着ける人物には相応の格が備わっているとするなら、二十歳そこそこのキャストの小手先の技術なんて、それこそ見透かしているというか、慣れたものだろう。
 見え透いた相槌を打ってくれる相手に得意げに自慢話やマウントを取るようなことを話し続け、満足感を得られる人ばかりではない。

 
 そんな相手には、要さんの個性がマッチするのだと、しょーちゃんは言った。

 
「『わー、知らなかったぁ~』が有効な返しとするなら、『それ知ってる』は禁句だよね。ふつうは。
でも、要なら、中途半端に日経読んで表層で食いついているだけの子よりも、もっと深いレベルで対等もしくはそれ以上に語り合えちゃうと思うんだよね。或いは、要の素にある部分の男の人に媚びない感じを出しても良い刺激になる。
お金目当てに媚びているだけの子を見慣れている人にとっては新鮮なんじゃないかなぁ」
 
 もちろん、そればっかじゃだめだし、相手の見極めも必要だけどね、というしょーちゃんの持論を、要さんはこの時点で「有益な情報」として捉え、真剣に聴いていた。

 
「だから、ちょっと素を出す感じが良いの」

 
 見極めなんて簡単にできるものではないから。
 ついうっかり、素が出ちゃいましたって感じを出していくのが良いのだそうだ。
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