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サンバと私
しおりを挟む(色部 誉)
スルドという打楽器はサンバ文化の中で生まれた打楽器だが、サンバ自体がブラジルの民族音楽だから、ブラジルの民族楽器という表現に偽りはなく、その演奏や音も、民族楽器のものというイメージから離れたものではないと思う。
それでも、サンバの楽器で、サンバの演奏をしているのだから、サンバという言葉を伏せ続けるのも違和感があるし欺瞞が過ぎる。
これも良い機会だから、ここで開示してしまおう。
マレが知りたいわたしの総てを、まずは知ってもらうところからじゃないと、きっとその先には辿り着けない。
「民族楽器って言うとエキゾチックな感じするし、実際そうなんだけど、演奏自体格好良いんだよ」
ブラジルと言えばサンバじゃない? サンバって格好良いイメージあるでしょ?
と、多少印象のコントロールをしつつ、ほぼ同時だけど僅かに情報を先出しし、考える暇もなく実態として格好良い映像を見せる。
それによってサンバ=格好良いものの式をマレの中に定着させる。
マレは「え、サンバ?」と少し驚いたようだったが、その驚きの種類は私が想像していたものとは少し異なっているように見えた。
動画の中では三人のスルド奏者が躍動感たっぷりに複雑で早いリズムを打っていた。
大きな打楽器は大抵単調なリズムを担当すると思われがちだし、スルドもサンバ隊に在ってはそのような要素も多分にあるが、個としてバラエティ豊かな奏法のできる楽器でもある。
「へぇぇ……すご、これほまれちゃんがやってるの? みんな強そうな男の人ばっかじゃん」
言いながらも、確かに格好良いね、と感想は好意的だ。
「女性の奏者もいるよ。えーっと、あ、ほら、この動画とか」
次の動画は若い女性五人が一糸乱れぬ演奏をしている動画だ。
たまたまだが動画の奏者たちは全員細い。細ければ良いとか細くてもできるということよりも、誰でもできるというところを見てもらいたかったので、続けて子どもがひとりで複雑なリズムを打楽器ひとつで奏でている動画も見せる。
「いろんなパターンあるんだねえ。ね、ほまれちゃんがやってる動画は無いの?」
「え、私? あるといえばあるけど……」
データとして保存はしていなかった。ネット上を検索する。
以前浅草サンバカーニバルで所属エスコーラ(チーム)が優勝した時のパレードの動画が上がっていた。
撮影者は結構丁寧に映してくれていて、ダンサー中心になりがちなこの手の動画にあってバテリア(打楽器隊)もしっかり映っていた。
たまたま撮影者がカメラを構えていた沿道側に私は配置されていたので、私の演奏も確認できる。
演奏しながらも何気にカメラ目線でアピールまでしている私が映されている。
バテリアも演者という意識を持つ。
見られているという意識を持つ。
魅せるパフォーマーであるという意識を持つ。
そう教えられていた私は、もしかしたらバレエをやっていた頃よりも豊かな表情をしていたかもしれない。
「おおおー! ほまれちゃんだっ! わー、かわいー。え、これパレードだよね? あ、サンバパレードってやつ? そっか、サンバってこんな感じだよね。へー、うわー」
マレからは素直な感動と感想の言葉が挙がった。
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