スルドの声(嚶鳴) terceira homenagem

桜のはなびら

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上杉先輩の到着

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(上杉 要 高校時代)

「とりあえずお前一年だろ? お前じゃ話んなんねーよ。三年か会計担当の先生呼んで来いよ」


 話し合いをしているのに、話を聞かず理解しようともしない。なのに相手側が埒があかないというような評価をする。
 
 話にならないのは自分たちじゃない。
 私は必要な説明は全部した。細かい数式なんて出したって、結局そこに当て込む係数の評価法についてごちゃごちゃ言うのだろうしキリが無い。
 そもそもの相対値で算出されているという点を理解してくれているのだろうか? それさえできているならこの人たちの主張する「おかしい」がなにもおかしくないことくらい理解できるだろうに。

 なのに、己が主張が通らないのは相手の立場や能力が低いからと判断し、「話にならないから上を出せ」などという。主張が通らない理由が、自らの論に筋が何一つ通っていないからだとは露ほども考えはしない。

 
「先生は、今はいません。先輩は……もうすぐ来ると思いますけど……」
 

 納得がいかない。
 先輩が来たって説明される内容は一緒だ。結論は変わらない。
 なんで私じゃダメみたいないい方されなきゃならないのだろう。悔しい。

 
「んだよ、部活もしてない暇人な癖に。早く来いよな」

「連絡取れないの? メッセージくらい送れんだろ? 早く来るように言えよ。こっちは練習時間割いてんだからさ」

 
 なにを⁉︎
 勝手に来て勝手なこと言ってるだけじゃん。練習時間とか知らないよ。

 なんで自分たちの時間や活動は貴重で特別だと思えるのだろう。それなら、私たちの活動も同じだと思えないのだろうか。私だって今日処理したい作業があった。
 その時間を割いて、この無為な問い合わせへの対応をしているというのに。
 部活をしている者、特に運動部は上の立場だという考え方はどこで培われたのだろうか。

 
「色部、どうしたの?」

「上杉先輩……」

 
 先輩が来た。来てくれた、が、結局私は先輩に頼ることになるのか、と心中は複雑だった。

 
「おー、やっと来た。いや、部費のことなんだけど……」

「上杉先輩は私の先輩です! 会計で受けたことは会計で引き継ぎます。時間貴重なんですよね? また同じこと伝えて同じ返答を受けてを繰り返すの無駄だと思いますので、経緯は私から伝えます」

 少し感情的になってしまった。しかしこのふたりのくだらない言い分で先輩の時間を使わせたくはなかったし、私ももう一度同じ内容を聞きたくはなかった。
 
 ふたりのテニス部はじゃあ好きにしろよみたいな顔をしたので、好きにさせてもらった。
 
「こちらは男子硬式テニス部です。昨年比で部費が減少していることについての問い合わせです。主張は部員数と実績に差の無いことを拠り所にされています。こちらからは割り当ては今年度の予算に於ける全部活の昨年の評価値に基づいた相対値であることと評価ポイントの考え方についてお伝えしました」
 
「うん。申し分ない対応じゃない。色部の回答で主張の根拠は崩れているはずだけど、あとなにか質問が残っているの?」
 
「材料は出尽くしていると思います。それでも、私の説明では納得できないと」

「わかった。他に引き継ぐ内容は?」

「以上です」
 
「ありがとう。内容はわかったわ。……あなたたちから補足しておく情報があれば聞きます。なにかありますか?」
 要さんが二人を見据える。
 彼らは少し気圧された様子を一瞬見せたが、すぐに攻撃的な雰囲気を取り戻した。
 
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