185 / 197
au revoir
しおりを挟む(柳沢 希)
「気を付けてね」
「うん、ありがとう」
私とのんちゃんは彼女の地元の駅のホームに来ていた。旅征くマレを見送るために。
マレはそんな大げさなと最初は断っていた。
来るときだって出迎えはなかったし、こちらの家の祖父母は仕事で来れないし、マレにとっては両親の待つ家に戻るだけだから旅という感覚もない。
それに、大仰にしてしまうと、やっぱり名残惜しくなってしまうなんてことをぼそっと言っていた姿が愛おしくて抱きしめたくなってしまった。
「まあ電話もできるし、動画、また撮るんでしょ? それで様子も見れるしね」
のんちゃんが明るく言った。
明るい分却って寂しそうに見えた。
「コメントつけてくれたって良いんだからね。結局たいしたコラボできなかったね。リモートでなんかやろうね」
「うん。マレのチャンネルの足引っ張んないようがんばるわ」
「あんま気負わなくて良いよー」
マレは明るく笑った。カラッとしている姿がのんちゃんと対照的だが、実はそれは、寂しさを隠すためのマレのクセだと私は思っている。私がバレエを辞めた時にはなかった、けれど、マレが留学を決めたことを伝えてくれた時には既に身につけていたと思われる、クセ。
子どもから成長期に入っていく過程、ある種の孤独と闘い、それに伴う別れを繰り返す日々の中で、彼女が身につけた、自らを守る手段のひとつだったのかもしれない。
「ほまれちゃんとも一緒にやろうって思ってて。今後動画で顔出してくからさ。前もちょっと言ったけど、双子ってのは利用させてもらおうよ。そしたらのんたちのもつられて伸びるかも。のんたちのチャンネルも大きくなって独自のフォロアー増えたらわたしの方に来るかもしれないし」
マレの言葉に、のんちゃんも少し微笑んで、頷く。
「それに、ほまれちゃんはのんにとっては太鼓の師匠になるんだよね? それはそれで師弟でやるってのも良いよね。三人でってのももちろんありだし、サンバの仲間達巻き込んでも良いよね!」
のんちゃんのスルドを教える人は私だけじゃないから、師匠ってのは大げさだけど、どうせ練習するなら、それを動画にってのは良いかもしれない。
多分自主練はいのりかほづみのスタジオになるだろうから、そこに集まりがちなメンバーにも出てもらったら楽しいかも。
私の心の裡と同様、三人とも、これからのことで頭がいっぱいだった。
「じゃ、向こう着いたら連絡するね!」
別れは確かに名残惜しいが、みんなが輝く明日への期待に満ちた目をしていた。
だから別れはある意味あっさりと、軽やかなものとなった。
1
あなたにおすすめの小説
スルドの声(嚶鳴2) terceira homenagem
桜のはなびら
現代文学
何かを諦めて。
代わりに得たもの。
色部誉にとってそれは、『サンバ』という音楽で使用する打楽器、『スルド』だった。
大学進学を機に入ったサンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』で、入会早々に大きな企画を成功させた誉。
かつて、心血を注ぎ、寝食を忘れて取り組んでいたバレエの世界では、一度たりとも届くことのなかった栄光。
どれだけの人に支えられていても。
コンクールの舞台上ではひとり。
ひとりで戦い、他者を押し退け、限られた席に座る。
そのような世界には適性のなかった誉は、サンバの世界で知ることになる。
誉は多くの人に支えられていることを。
多くの人が、誉のやろうとしている企画を助けに来てくれた。
成功を収めた企画の発起人という栄誉を手に入れた誉。
誉の周りには、新たに人が集まってくる。
それは、誉の世界を広げるはずだ。
広がる世界が、良いか悪いかはともかくとして。
スルドの声(共鳴) terceira esperança
桜のはなびら
現代文学
日々を楽しく生きる。
望にとって、それはなによりも大切なこと。
大げさな夢も、大それた目標も、無くたって人生の価値が下がるわけではない。
それでも、心の奥に燻る思いには気が付いていた。
向かうべき場所。
到着したい場所。
そこに向かって懸命に突き進んでいる者。
得るべきもの。
手に入れたいもの。
それに向かって必死に手を伸ばしている者。
全部自分の都合じゃん。
全部自分の欲得じゃん。
などと嘯いてはみても、やっぱりそういうひとたちの努力は美しかった。
そういう対象がある者が羨ましかった。
望みを持たない望が、望みを得ていく物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
スルドの声(共鳴2) terceira esperança
桜のはなびら
現代文学
何も持っていなかった。
夢も、目標も、目的も、志も。
柳沢望はそれで良いと思っていた。
人生は楽しむもの。
それは、何も持っていなくても、充分に得られるものだと思っていたし、事実楽しく生きてこられていた。
でも、熱中するものに出会ってしまった。
サンバで使う打楽器。
スルド。
重く低い音を打ち鳴らすその楽器が、望の日々に新たな彩りを与えた。
望は、かつて無かった、今は手元にある、やりたいことと、なんとなく見つけたなりたい自分。
それは、望みが持った初めての夢。
まだまだ小さな夢だけど、望はスルドと一緒に、その夢に向かってゆっくり歩き始めた。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
千紫万紅のパシスタ 累なる色編
桜のはなびら
キャラ文芸
文樹瑠衣(あやきるい)は、サンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』の立ち上げメンバーのひとりを祖父に持ち、母の茉瑠(マル、サンバネームは「マルガ」)とともに、ダンサーとして幼い頃から活躍していた。
周囲からもてはやされていたこともあり、レベルの高いダンサーとしての自覚と自負と自信を持っていた瑠衣。
しかし成長するに従い、「子どもなのに上手」と言うその付加価値が薄れていくことを自覚し始め、大人になってしまえば単なる歴の長いダンサーのひとりとなってしまいそうな未来予想に焦りを覚えていた。
そこで、名実ともに特別な存在である、各チームに一人しか存在が許されていないトップダンサーの称号、「ハイーニャ・ダ・バテリア」を目指す。
二十歳になるまで残り六年を、ハイーニャになるための六年とし、ロードマップを計画した瑠衣。
いざ、その道を進み始めた瑠衣だったが......。
※表紙はaiで作成しています
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
