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わたしの決意
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與田くんが言っていたことの細かいところでよくわからない部分はあったが、考えていることの方向性はわかった。
片岡がわたしに敵愾心を持っている理由。その内訳は不明。
わかりやすい理由は恋心による嫉妬だが、それは無いはずだと與田くんは言う。その根拠は語らなかったが、何か心当たりはあるのだろうか。
とにかく理由は不明。それでも、考えられる共通項と今分かりうる状況で判断するなら、やっぱり原因は自分にあるだろう。
そう思った與田くんは申し訳なさそうにしている。
「與田くんが悪いわけじゃないからね」
なんだかしおらしくなっている與田くんにわたしは言った。
表面的には暴力事件。その被害者加害者の構図は単純なもの。やった側とやられた側しかいない。
遠因とか間接的にとか、仮に原因が與田くんにあったとしても、そういう関係性で罪悪感を持ってほしくない。
もちろん、誰もが「それなら仕方ないんじゃないか」と納得せざるを得ない片岡が暴走するに足る理由を與田くんが作っていたり、わたしに暴力を振るわれるだけの理由があるのなら色々と話は変わってくるのだろうけれど、明確な動機で客観性を伴うものなら、当人たちに近くも心当たりもまるでないと言う状況は考えにくい。
人知れず育ててしまった強い感情ならばあり得るが、その場合大抵は独りよがりで、誰もが納得するほどのものにはならないと思う。
「おお。ありがとう」
やや憔悴したような表情筋のまま、弱い笑顔を作る與田くん。彼が伏せていた目を挙げてこちらを向いたとき、もろに目が合い思わず反らせてしまった。
「思わせぶりなこととか、したんじゃないのー?」場を軽くしたくて言った軽口だが、それが適切だったかはわからない。
「知ってるだろ? 誠実さの塊だぜ? 俺」「どこがよー」ああ、こういうやりとりも、外から見れば仲睦まじく見えるのだろうか。
地に足のつかない軽い言葉たちが質量を持てないまま空気に消える。軽い応酬もどこか盛り上がりには欠けたまま、ぎこちない間が生まれた。
「……うん、わかった。ありがとう。特に具体的なきっかけや、過去があったんじゃないんだね」與田くんはあいまいに頷いた。
「具体的なものは、なかったよ。少なくとも、俺に気があるという前提が成立するようなものは無かったというか、無くなったというか」
またよくわからない表現だが、要は無いということだ。それなら。
「このままにしとくのやだからさ、わたし、あの人と話すよ」
「……大丈夫か?」心配そうな與田くん。同席しようかとは言わなかった。自分の存在が、話をこじらせる可能性を承知しているのだろう。
「うん、まあ、いつどこでどうやってもこれからだし、話してくれるかもわからないけどね」そう、けんもほろろに拒絶される可能性だってある。むしろその可能性の方が高いかもしれない。
結果はやってみなくてはわからないけれど。避けて何事もなかったように過ごすのは嫌だ。
片岡がわたしに敵愾心を持っている理由。その内訳は不明。
わかりやすい理由は恋心による嫉妬だが、それは無いはずだと與田くんは言う。その根拠は語らなかったが、何か心当たりはあるのだろうか。
とにかく理由は不明。それでも、考えられる共通項と今分かりうる状況で判断するなら、やっぱり原因は自分にあるだろう。
そう思った與田くんは申し訳なさそうにしている。
「與田くんが悪いわけじゃないからね」
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表面的には暴力事件。その被害者加害者の構図は単純なもの。やった側とやられた側しかいない。
遠因とか間接的にとか、仮に原因が與田くんにあったとしても、そういう関係性で罪悪感を持ってほしくない。
もちろん、誰もが「それなら仕方ないんじゃないか」と納得せざるを得ない片岡が暴走するに足る理由を與田くんが作っていたり、わたしに暴力を振るわれるだけの理由があるのなら色々と話は変わってくるのだろうけれど、明確な動機で客観性を伴うものなら、当人たちに近くも心当たりもまるでないと言う状況は考えにくい。
人知れず育ててしまった強い感情ならばあり得るが、その場合大抵は独りよがりで、誰もが納得するほどのものにはならないと思う。
「おお。ありがとう」
やや憔悴したような表情筋のまま、弱い笑顔を作る與田くん。彼が伏せていた目を挙げてこちらを向いたとき、もろに目が合い思わず反らせてしまった。
「思わせぶりなこととか、したんじゃないのー?」場を軽くしたくて言った軽口だが、それが適切だったかはわからない。
「知ってるだろ? 誠実さの塊だぜ? 俺」「どこがよー」ああ、こういうやりとりも、外から見れば仲睦まじく見えるのだろうか。
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「このままにしとくのやだからさ、わたし、あの人と話すよ」
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「うん、まあ、いつどこでどうやってもこれからだし、話してくれるかもわからないけどね」そう、けんもほろろに拒絶される可能性だってある。むしろその可能性の方が高いかもしれない。
結果はやってみなくてはわからないけれど。避けて何事もなかったように過ごすのは嫌だ。
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