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曲スタート
しおりを挟む「カヨはね、前にギター挫折してんの!」
「ちょ! 言わなくて良ーって!」
慌てるカヨに、会場がまた笑う。
「でもね、今の聴いた? すごくない? アイの指導が良かったってのもあると思うけど、それでも二か月であんな弾けんだよ? すごいよねー。それだけカヨにも、このステージで届けたい何かがあったんだよね」
ギュインと、短く音を鳴らすカヨ。
「良いね良いね。うん、思いっきりやっちゃおーぜ!」
もう一度、カヨがソロでギターを奏でる。会場がその音に歓声を上げてくれる。中には、初心者のカヨを激励する声も混ざっていた。
「初心者の集まりだし、ドラムは居ないしの不規則なバンドの、メロディとリズムを補強するキーボード! ササー!」
ササは幻想的なコードを奏で始め、シンセの音色が空間を包む。
途中で誰もが知っているピアノの曲『エリーゼのために』のフレーズをアレンジした曲を奏で、徐々にテンポを上げて華やかなアルペジオへ。
最後はグリッサンドで流れるように締めくくる。
「エリーゼのためにって弾きたくなる曲だよねー。小学校の頃の音楽の授業でさぁ、弾けるやつが得意気に弾いてて、うらやましかったなぁ。ササはピアノの経験者だけど、しばらく演奏からは離れてたんだって。でもササの場合は指導者もなしでの練習でここまで弾けるようになってるんだから、やっぱすごいと思う! ササは動画配信とかも積極的で、ここのメンバーののぞみとカヨと、クラスの仲間も何人か加えたメンバーでチャンネル作って発信してるよ。ササにも届けたいものがたくさんあるんだ。チャンネル名は『放課後部!』。元々は何の部活に入っていないササとカヨとのぞみの三人が、部活に代わる活動として始めたチャンネルなんだって。みんな観てね!」
いつの間にチャンネルの情報頭に入れてたの⁉
演者の情報予習しとくなんてMCの鑑じゃん。
「よし、楽器の準備できたみたい。それじゃ、最後にヴォーカル! きなみでっす!」
わー! という歓声が上がる。ただの一年の女子なのに、このМCを通して、ちょっとしたスターみたいになってる。
まあ、なりきるのは大事。
それは演者も、観客も。
その場に、雰囲気に、身を浸し委ねるのが楽しむコツだと思う。
時間は? 大丈夫。押してない。三曲ともフルで演奏できる。
「あたしはー…………あたし、夏休み前に友だちとケンカしちゃってさぁ……あたし、性格がさぁ、あんまよくなくって、もめちゃったりすること結構あって……友だちには謝ったし、今は普通にやり取りしてもらってるけど、あたしが性格悪いせいだからさぁ、ちゃんと気持ち、届けておきたいなって思って……原ぁ! 奥村ぁ! 大石も! いつもありがとう。そして奥村、なんか言いがかりみたいに突っかかって、マジごめんなぁ! そんな奥村に送る……お、なんか韻踏んだみたいになった? まあそんな気持ちの歌! 『CHRM』! 届けぇぇ!」
まさかの己が性悪だって告白からの、個人へのメッセージ! からの曲スタート!
なんて斬新。
それが良かったのか、選曲が良かったのか、カタちんのシャウトからのわたしの打楽器音とギターのフレーズに、負けないくらいの歓声が客席から上がった。
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