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夏休みの過ごし方
しおりを挟む結は高校に入って初めての夏休みを、何の計画もなく迎えていた。
そして、誰とも、なにも、するつもりはなく、膨大な時間をただ凌ぐように過ごそうとしていた。
学校は嫌いではない。
友だちがいないわけではない。
休み時間に会話をし、お昼は机を並べて一緒に食べる。下校もある程度の固定メンバーと駅まで一緒に帰る。寄り道する者がいればそこでばらけるし、まっすぐ帰るものがいれば、方向が一緒なら先に最寄り駅に着く者が下りるまでは一緒に過ごす。
放課後の付き合いも、頑なに固辞してはいない。それでも、片親を扶ける娘役を演じている結は、買い物に夕食づくりにと、家事を理由に誘いを断っていたため、友人たちも、ちょっと買い物に行く、カラオケやファストフード店に寄っていく、程度の軽めの誘いを結に掛けることはしなくなっていた。
実際は、週に何回か程度は買い物を頼まれることはあるしお風呂掃除などは自主的に手伝っているが、夕食の用意は完全に母に任せていて、言うほど時間が取れないなんてことはなかった。
昔は放課後も休みの日も、友だちと集まって遊んでいたから、根っから独りが好きというわけでもない。
しかし結はいつの頃からか、学校以外の時間の過ごし方が活動的行動的ではなくなっていた。
(いつの頃からか、ではないな)
結の頭の中で、いまだに鮮明なイメージで再生されるシーンがあった。思い出したくないと言うほどの強い拒絶を伴う記憶ではなかったものの、その場面を意識したくないという思いは持っていて、却ってその場面を結の頭の中に定着させてしまっている。
それは明確に日付もわかる、あの日。
父が出ていったその日、その瞬間が、母と私の生き方に変化を与えた起点となる日だ。
両親の離婚なんて珍しいことではない。片親の同級生だっていくらでもいる。それぞれ想いや抱えているものはあるだろうけれど、傍目にはみんな健全に生活を営み、謳歌しているように見える。
特別でも殊更不幸でもない出来事に、わかりやすく影響を受けている単純な自分にも、そんな日ごときに影響を受けたことそのものにも、なんだか無性に腹が立ってしまい、むしろ頑なになってしまう自分にも気づいていた。
私は静かな時間も、独りの時間も好きなのだと。
事実結は昔から本を読むことは好きだったし、独りで遊ぶのも嫌いではなかったから、嘘ではないが、強がりではあるという自覚を持っていた。
強がることはできるのに、気力は湧かないという自らの状況が抱える矛盾もまた、自分らしいのかもなと、結は思っている。
そして、その矛盾と鬱屈のおかげで、今まで身近にありながら気づくことのなかった扉を開くことができたのなら、それも悪くないのかもと思った。
それもまた、結の中で何かがほんの少し、変わったことによる心境の変化だろうか。
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