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本章

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「こんばんは」

 スタジオの重い扉を開けると、既にたくさんのバテリアメンバーがいて、音を鳴らしていた。
 祷も既に来ていて、チカさんとスルドを叩いていた。企画の概要はもうハルさんに伝えただろうか。


 キョウさんもスルドを叩いている。

「おー、こんばんは」

「こんばんは」

 キョウさんはこの前のことなんてなにもなかったように普通に接してくれた。予想通りだ。それに甘えてはいけない。

「聞いたゼ。イベント獲るためにプレゼンすンだってナ? スゲーじゃねーか。
ちょっと複雑なソロの叩き方教えっからヨ。ビシッとキメて来てくれよ?」

 祷、既に計画のこと展開してくれたみたい。合同練習前にミーティングがあるからその場で発表があるのだろうけど、この感じだとチーム全体としても承認してくれたようだ。

 でも、その前に。

「うん。練習の前にキョウさんと話したい」

「オォ......そんじゃ、ロビー行っか」

 深刻なわたしの表情に釣られるように、キョウさんも真面目な顔をしていた。
 まだ本格的な練習が始まる前だったが、それぞれが音を出している練習場は会話には向かない。


 ロビーに出たわたしたちは、ベンチに並んで腰をかけた。
 バテリアの練習場からは打楽器の、ダンサーの練習場からはヴォーカルのひとえさんとコーラスのアリスンの声に弦楽器の音が、それぞれ微かに聞こえた。


「あの、」

 話しかけようとしたら、ゆきえさんとアリスンの声が一際大きく聞こえた。
 ダンサーの練習場の扉が開いたのだ。
 中からにーなさんが出てきた。トイレにでも行くのだろうか。

「あ、おつかれさまー。って、えっ⁉︎  どういうシチュエーション⁉︎ 
ちょっとキョウさん、まじで、がんちゃんに手ぇ出すような真似したら許さないから⁉︎」

「馬鹿かオメーは! 下品なことしか頭ンねぇンか!
がんこは娘か、下手したら孫みてーなもんだ。
教育上問題あんのはオメーの方だぞ。しっかり生きねーか!」

「くぅっ! また返す言葉もないっ
キョウさんのくせに正しいことばっかり言ってぇ!
どーしちゃったのよ⁉︎  前みたいに柄の悪いこと言えば良いじゃ無い! チンピラみたいにさぁ」

「オメ、オレをなんだと思ってンだ?
まぁいい、便所かどっか行くんだろ? 出すもん出してスッキリしてきたらどーヨ」

「あ、ちょっとキョウさんぽくなってきたじゃない。
そうそう、そのデリカシーの欠片も無い感じがキョウさんよね。
がんちゃん、そのおじさんが失礼なこと言ったら引っ叩いて良いんだからね!」

 にーなさんは何故か嬉しそうに去っていった。

「邪魔入れちまって悪かったナ」

「ううん、大丈夫」


 おかげで少しほぐれた。
 にーなさんは意図もなくいつも通りキョウさんに絡んだんだろうけど、キョウさんはわたしの固さを解こうとしてにーなさんに乗ってくれたのだろうか。



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