詩片の灯影③ 〜言葉を音に乗せて〜

桜のはなびら

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『記憶と響きのフェスタ』
 古い町が持つ記憶を、音楽と朗読の響きで結び付ける。
 記憶と記憶を。
 記憶と人を。
 過去を知る人と、現在を生きる人と、未来を創る人を。

 言葉は記憶である。
 未来を語る言葉も、架空の物語も、紡いだ人の記憶から生まれたものだ。
 音楽は響きである。
 記憶と響きが繋がるとき、そこには融合が生まれる。
 それは詩歌であり、物語であり。
 あるいは人と人の感情であり、物語であり。

 紗杜がイベントに掛けた想いとコンセプトをよく表しているイベント名だ。
 
 紗杜は移動に使用していたバスの中で手帳を開き、珍しく難しい顔をして考え込んでいた。
 揺れるバスの中で思いついた項目を雑な文字で書き込む。
 
(場所は押さえた。人も確保できてる。旧駅前の音楽バーはそのまま使える。場のマスターはオーナー店長で、ボサノババンドとセッション好きなお客さんとで場が作れれば、あとはその流れで延々誰かしら家が演奏を続けていれば良い。灯影書房は場のマスターとして圭ちゃん、主役として結ちゃん。バックミュージックとしてボサノババンド。ローカル駅前広場は仕切りも演出もボサノババンド中心で行う想定だ。私鉄駅前のロックバーはDJ常駐だから、場のマスターはDJに任せて、音楽バーと同様にボサノババンドと演奏のできるお客さんをうまく組み合わせればよい。音楽バーよりもDJがいる分、セッションよりもイベントチックになるだろうか)
 
 今日紗杜は、『記憶の響きのフェスタ』に協賛してくれている店舗や商店会、場所を貸してくれる店舗と駅を、このイベントにある意味実績という旨味を見出し乗ってくれている市議会議員と一緒に説明して回ってきた。
 紗杜もまた、市議会議員の剛腕さで市への申請関係や補助に関するパイプ役になってもらい、何でも反対したがる声の大きい町の重鎮とやらは、議員ならではの人脈と手管で抑えてもらっているから持ちつ持たれつである。
 資料は当日の動きまで記載されていて、何かにつけて「この場合どうなるのか」とか「もしこうなったらどうするのか」と言った質問が出がちな保守的な人たちが相手でも、ひとまずの納得は得られた。
 
 あとは粛々と準備をし、当日を迎えるだけなのだが。
 

 関係者への説明時には言葉だけで済ませ、一堂を納得させたが、実は内情は整っていない項目があった。
 
 ボサノバを演奏するバンドだ。
 主要ステージは計四拠点。それぞれにボサノバの演奏を想定している。
 すべてを『ソルエル』内のリソースで組むのは無理があるかもしれない。
 
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