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イベント名
しおりを挟む紗杜は灯影書房の間取り図を取り込んで朗読と音楽企画のレイアウト図を考えていた。設計図書が残っていないため、間取り図を画像化したデータを使い、縮尺を合わせて椅子の配置や人の導線などを検討している。
今は業務中である。業務の一環として扱って良いとされている企画だが、本流の業務ではない。
紗杜は本来の業務をおろそかにしているつもりはないが、それでもこれだけ堂々と企画のための作業を許してくれる職場にも、社長にも、甘えている自覚があった。感謝があった。だからこそ、企画の成功がりっかりと会社の業績に繋がるようにしなくてはと気を引き締めた。
決して広くはなく、書棚でひしめく灯影書房の店内でイベントを行うというのは元々難しいと考えていた。だからこれは、何をどうすれば必要スペースを確保できるかというパズルだ。
(やっぱ中央の書棚は抜くしかないよなぁ。圭ちゃんは移動はさせられると言ってた。多少面倒でも中のものを外に出して使用できる面積を確保するしかないよね。しまっておける場所は無いから、店舗の外に出すことになる。日をまたげないから当日に設営時間を設けて作業する……人手は私と圭ちゃんにもやってもらうとして、あとふたりいれば結構すぐすむだろう。万が一雨が降った場合だよなぁ……出すなら奥か)
道路側の出入り口ではなく、奥の勝手口からは庭と呼ぶには少し寂しい敷地に出られる。
紗杜は図面を見る。
(書庫を置くに分には広さ的に問題ないだろう。簡易テントも……この大きさならいけるね。雨対策としては心もとないけど、テントを立てて、書棚をブルーシートで養生すれば、イベント時間中くらいは風雨をしのげるはずだ。書物は抜いておけばリスクは少ない。書物だけなら二回の在庫置き場として使ってる部屋に一先ず避難させておけば良い)
「紗杜ちゃーん。随分難しい顔してんね。ちょっと休憩しなよー」
切ってきたよ、と、加地社長は小皿に載せた和栗のパウンドケーキと、紅茶を紗杜の机に載せた。
「ありがとうございます。え、結局お茶淹れたんですか? だったらやりましたのにー」
「ケーキ見てたら飲みたくなっちゃって。自分で飲みたくて淹れたんだから良いんだよ。紗杜ちゃんのはついで」
「ありがとうございます」
ケーキフォークで一口サイズに切り、刺して口に運ぶ。加地社長も紗杜のデスクの近くにある打合せスペースの席に腰を下ろし、紗杜と同じようにパウンドケーキを食べ始めた。
「わ。美味しい!」
「んー、確かに、これは美味いなぁ」
メディアに取り上げられるのも、久美が騒ぐのも、納得のできる味だった。
上質な甘さで心と頭が満足と回復を得た紗杜は、破竹の勢いでレイアウトを仕上げ、イベントの詳細な資料をまとめ上げた。
資料は関係者用の説明資料であり、当日の具体的なスケジュールや運用などを網羅した、概要書と指示書を兼ねている。
イベントは、『記憶と響きのフェスタ』と銘打たれていた。
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