詩片の灯影③ 〜言葉を音に乗せて〜

桜のはなびら

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手土産

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 出力した資料に、手書きで確認箇所にチェックを入れ、修正箇所を印刷の上から粗く直す。
 デスクに広げていたのは灯影書房の間取り図だ。
『有限会社加地商事』で扱っていた物件だから、ある程度の資料は揃っている。しかし古いうえ、前オーナーが設計図書は自宅に保管していたが、自宅は一度小火を出してしまいその期に建て替えている。設計図書が燃えてしまったということは無いはずだが、住み替え時の仮住まいへの引っ越しから、新築に戻る引っ越しに伴う荷物の出し入れのさなかでどこかにまとめてしまったのか、その数十年後いざ売ろうとなった段で、探してみたところどうしても見つけられなかったのだそうだ。市役所の建築課で確認申請の概要は確認できたが、今は存在しない工務店で建設された建物で、担当した設計士もすでに存命ではなかった。仮に当時の関係者に会えたとしても、一物件の資料を手元に残している可能性は低かっただろう。
 
「お。それ次の企画のやつ?」
 いつの間にか社長自らの営業周りを終えて事務所に戻ってきた加地社長が紗杜のデスクを覗き込む。
「あ、お疲れ様です。すみません、全然気づきませんでした。麦茶いれてきますね」
「いーっていーって。今って女の子にそれさせるとセクハラになるんでしょ? それにね、ほら! 麦茶買ってあるから大丈夫。みてよこれ、680mlも入ってるのに百円だったよ。ちょっと破格すぎない? 麦って安いんだねぇ」
「そこ気にするなら、女の子って言い方の時点でアウトです。まあ他所ではダメでしょうけど、少なくても今のうちの限られたメンバー内だけの話で言えば、別に誰も嫌がってませんから、社内ではこれまで通りで大丈夫ですよー。まあ、買ってあるなら淹れにはいきませんけど。あと別に麦が安いわけじゃないと思いますよー。あ、でもお菓子食べます? 武谷産業さんがくれました」
「おお、ありがたいねー。今度おっきいリフォーム案件あるって話したからなぁ」

「銀座kuma3の栗のへしれケーキですって。切ってきましょうか? 一日二十本限定らしいですよー」

「へええ。有名なのかい?」

「超有名です! メディアでも良く紹介されますし。買うのも大変ですが、価格も結構すると思いますよぉ」

 紗杜はあまり詳しくはなかったが、店名も商品名も知ってはいた。手土産を受け取ってすぐ、外回りに行ってる久美に『お土産あるよ。和栗へしれケーキだよー。戻ってきたら食べて!』とメッセージを送ったら、やたらとテンションの高い歓喜のメッセージとスタンプが立て続けに届いたことからも、人気のある商品であることがうかがえた。
 
「それは村瀬むらせちゃんも随分気合入れたもんだなぁ。そんな気使わなくても村瀬ちゃんと頃に出すのに。まあ、紗杜ちゃんや久美ちゃんを押さえておけば硬いって思ったんだろうなぁ。そこ抑えられたら僕は手も足も出ないのは間違いないけど」
 加地社長は笑いながら、「僕が取ってくるから紗杜ちゃんは作業続けなよ」と簡単なキッチンの機能のある給湯室に向かっていった。
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