隣にいてくれてありがとう

プロローグ

　とあるライブ会場。
　今日、この会場でライブを開催するのは、近々メジャーデビューするアマチュアバンドだ。
　男性五人組のこのバンドは、アマチュアながらも沢山のファンがいた。
　爽やかな青春ポップスを演奏する彼らの曲は、前向きな歌詞が多く、老若男女問わず人気を得ている。

　結成してまだ一年半。
　配信や小さなライブを重ね、ファンがファンを呼び、次第に大きな会場へと移っていき、ついにメジャーデビューすることになった。
　今日のライブはデビュー前の最後のライブ。
　メンバーたちはここまで来れた感謝の気持ちをファンに届けようとしている。



　そんなライブ会場に来ているファンの中には、このバンドを通して出会った人たちもいる。
　お互いに離れた場所に住んでいる人たちが、たった一つのバンド、たった一つの曲を通して出会い、同じ会場に集うことは奇跡に近い。
　アマチュアバンドメンバーも一年半前まで面識のない人たちだった。それが運命に導かれ出会い、バンドを結成し、いくつものの困難を乗り越えてデビューしようとしている。

　アマチュアバンドは今日、新曲を披露する。
　その曲を作るに当たり、ファンから「出会い」と「ありがとう」をテーマにお便りを募った。
　沢山寄せられたお便りの中でも、メンバーが特に心に残ったエピソードがあった。バンドメンバーがここまで来るのにいくつ物の物語が生まれたように、ファンにもいくつ物の物語が誕生していた。

　お互いの意見の食い違いで喧嘩してしまった親友たち。
　自分がやりたい事を導いてくれた人と出会った男性。
　バンドの追っかけに熱中するあまり、親との喧嘩が絶えなかった女性。
　共通の楽器を通して出会った夫婦。
　すぐ側にいる幼馴染みの存在に助けられた青年。
　ファンの数だけ沢山の物語が誕生した。

　夜空に輝く星の様に、数え切れないほどの沢山の物語が…。


　バンドメンバーたちが心に残ったエピソードとは一体どんなお話なのだろうか？
　そのエピソードを元にどんな曲が作られたのだろうか？
　ライブが始まるまでの間、バンドメンバーは結成当時の事を思い出しながら、寄せられたエピソードにもう一度目を通し、新曲の最終調整をしていた。
　そしてファンも今「隣にいる人」との思い出を思い出しながら開演を待ち望んでいる。


　　　　～エピソードへ続く～