竜の恋人

運命が回る

運命が回り出す

あの休憩の後は、思ったよりも早く目的地についた。
目の前に広がる空間。
空気がもっと重苦しくて、息苦しい…そんなイメージを勝手に持っていたんだけれども、それはなかった。
周りには鉱物がゴロゴロと光り輝いていて、それのおかげ、洞窟内とは思えない明るさだ。
全体的に青白く見える。神秘的と言えば神秘的なんだけど…

「あれは魔鉱石です。このアルングスト山脈には多くの鉱物が眠っているとされています。この洞窟には魔鉱石が多く埋蔵されているのでしょう。魔鉱石が多いと言う事は、このちが魔素を多く保有しやすいと言う事。よって、扉が出現しやすかったのかと推定されます。が、私が知る限りは初めてですが…」

目の前に見える巨大な扉を目にして、大賢者であるアルストがそう教えてくれた。

過去の大賢者であるが、カルがこの世界に召喚したことにより、独自で多くの書物を読み漁り、情報を得ているんだと思う。さすがとしか言いようがない知識量だ。その人がカルの、息子の側についてくれているとは…息子のスキルでの召喚に応じてくれた結果であるが、感謝しかない。

それにしてもだ。扉の何とも凶々しい雰囲気。
今回のは、こちらに向かっての両開き。しかもかなりの重厚感。
高さも結構あると思う。ブロンズの色に、所々の装飾がゴツゴツしている。
蔓と薔薇の装飾はまぁ良いとしよう。所々に悪魔っぽい装飾が伺える。
見ようによっては睨まれているようにも思えるのは気のせい？？

魔王城の扉と言っても間違いないと思うよ。
こっちのにも確かあったよね。この国の海の向こうのお城が魔王城。
見た事ないけど、今では少し交易していると言っていた。
障壁という結界は張ってあるけどね…
向こうは土地柄か、瘴気が多いらしいのよね。
昔と今ではだいぶと違ってきているから…。

昔は…いゃ、今はそんな事はどうでも良い。

「前回のと全然違うわね。」
「そうね。前回は引き戸みたいな感じだった？」
「その辺りは少しあやふやだけど、あんなグロテスクな装飾はなかったと思うんだけど…」
「私の時は、あんな感じでしたよ。でも、あそこまで重厚感はなかったと思うんだけど…」

初代聖女と姉と、ついついそんなことを口にした。

時折扉の向こうから蠢き合いを感じる。
そして、何とも言えない咆哮が…

「結構危ない感じ？」
「そうですね。既に僅かな隙間が…小さな羽虫共が。」

少し離れた場所で、カルの側に控えるディアブロが指差す先には、蝙蝠の羽が付いた感じの小さな痩せっぽっちの悪魔が這い出て来出す。
一匹…二匹…
何とも言えない…あの時もそう思ったけれど…

ディアブロがひょいひょいと手を振って…消し炭にしていた。
うん、凄いね。そんな事が簡単に出来るなら、あの時もしてくれたらよかったのに…
そう考えていたら、姉の様子が変だ。
もしかしたら、あの呪いの刻印が…
チラッと見ると…うん、少し濃くなった様な…
そっとさすっている。痛みか何か？だけど、周りを気にしてかもしくは気を遣ってか、他の者達に気づかれたらと思いやめたみたいだ。
大丈夫だろうか…確認したいけれど、隠したい物をあえて言うのは嫌がるだろう。
姉は…そういう性格だから…。

「愛、僕達が取り敢えず抑え込むから、きみは聖女の祈りをあげて！」
「わっ、わかった。なら…」

聖女達がそう会話をし出し、何故か愛がカルの方を見る。
もしや、またカルを使おうと考えてる？
何考えてるのよ！バカなの？！

「カル、お願い。」
「断る！」

カルが断りを入れる前に、ジャディール殿下が即座に断った。
そしてカルを抱きしめて…

「協力はする。だが、カルロスを媒体に使用するのは許せない。」
「そんな事言ってる暇ないじゃない。犠牲が少ないことに越した事ないもの。この世界の事だから、犠牲になるのはこの世界の者で当たり前でしょ。どうせモブで本来なら死んでるんだから！カルロス！さっさとこっちに来なさいよ！それぐらいしか使い道ないくせに！」

またとんでもないことを言い出した。
あの娘にとってはこの世界がゲームとか小説に感じるのかもしれない。
でも、私達にとって大切な我が子を～～～～～

彼女の中に、あの神が存在しているだろうけれども…そして、あの娘にとってはゲームのヒロインになっているんだろう。その感覚でカルを見ていての発言が許せない。
彼女にとって、モブで、ここに来る前の分岐点で死ぬ予定だったと。でも実際は、この世界で生きてる。確かに異世界からこちらに召喚された愛に全てを押し付けるのは良くないと思うけど、それは私たちの時もそうだった。『だから何？』って言われると何だけど、カルを犠牲にして当たり前と言う考えも可笑しいと思うし許せない！

「聖女様。確かに召喚された貴女に全てを押し付けるのはどうかと思うけれど、だからと言って僕を使い捨ての駒のようにするのはどうかと思う。貴女にとって僕はどうでも良い存在かもしれないけれどね。」
「カル、どうでも良いわけない。私にとっては大切な存在だ。」
「そうよ、私達にとって大切な存在。いくら聖女とは言え、その言い方は許せない。」
「そうよ、私も妹もこの世界に無理やり召喚されたけど、だからと言ってこの世界の者達を自分の都合で適当に使おうなって思ってもいないわよ。」

もう、自分たちも召喚された者だと姉が暴露した。
意外とメンバー達は知らなかったようだ。かなり驚いている。
おかしいなぁ…


「えっ？あなた達も召喚者？」
「そうよ。過去の聖女録読まなかったの？」
「確か、姿絵付きだったわよね。あれ見た時、ものすごく恥ずかしい思いをしたもの。」

愛の応えに姉とアカリがそう答えた。
私は頷いて応えた。

「そう言えば…」
「もしやと思ったが、貴方様方は初代聖女とそのメンバー？そして…」

今度はルディウス達が反応した。
カルのスキルで召喚した英霊達。
このスキルは彼等にはずっと隠していたからだろう。今は隠していないけどね。
英霊達…そう、過去の英雄達はこの世界で絶大な人気がある。
さっきの休憩時間の時にそっちで無双して暴れてたものね。気がつかなかったのだろうか？

「マスター。あまり時間はないかと。急ぎましょう。」

そっとカルの側に来たディアブロにそう促されている。
私達も…

「アカリ、私達は向こうから」
「そうね。マスター、向こうから祈りを捧げますので…」

作戦会議の時に、姉と義兄が見た未来視から計画を立てていた。
後でカルも見たらしいから、それは休憩の時に確認してすり合わせたのよね。