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青銅の鏡
神殿に…
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コツコツと靴音を響かせながら奥に進む。
かなり古くなっているはずの建物もだが、その内部に飾られている装飾の数々も静粛で有り美しくもあった。
壮麗なる輝きを纏った純白の神殿だと言ってもいいほどだと思う。
壁面にはステンドグラスが嵌め込まれてキラキラと輝き神聖さを醸し出してもいたし、天井に描かれている壁画は、創造神がこの世を造られた神話の流れを伝えるが如く、物語のように描かれていた。
その御姿は慈愛に満ちてもいた。
ついつい跪いて拝みそうなそんな雰囲気でもあった。
エル兄様の前世を何度かリンクで覗き見た私ですが、そのゲームでの創造神のお姿は、各神殿に祀られている神像と、有名画家が描いた絵姿ぐらいで、壁画は見た事がありません。
そして私達が生活している場でも、神殿などは何度か訪れましたが、同じように見た記憶はなかった…。
そして、その美しさとかは、皇王がおられる居城の近く…教皇が在籍している神殿と同格か、それ以上かと思うぐらいの美しさだったんです。
他国など、何処か別の場所にある神殿には、もしかしたら同じようなものが描かれ保存されているかも知れないけれど…。
「この神殿に描かれた壁画には、建立された当初から保存魔法が施されているんだ。絵画や壁画などは年々何もしなければ色褪せたりもするからね。神殿自体は神への祈りと称して魔力が供給され続けていれば維持できるようにも当初からなっている。祈りの魔力量にもよるけれど、祈りがされなければ朽ち果ててしまうんだ。それだけ信仰心が大切だという事にもなる。この神殿に崇拝しに来る信者は今はいないけれど、彼…ジュノーの魔力が今だに注がれ続けているからね…。澱みを集めて浄化し続ける際に、ジュノーの…彼の魔力に触れ続けているから…。」
「このゼウスピア国の最後の王であるジュノン•ゼウスピアの…。」
「そうです。」
そんな会話をしながら目的の場所に向かって進むと、重厚な白い扉が見えて来た。
白い扉に金の装飾を施されている。
扉だけでも美しいと思ったんです。
そこを開けると、広い空間に…。
大きな装飾のように見える氷柱の中に…
あぁ…エル兄様が言われていた彼だ…。
この広間のような祈りの場にも、ステンドグラスが多く嵌め込まれ、神の像とその前に存在する彼の姿…。
「ようこそ。待っていたよ。」
閉じ込められた彼の肉体の側から、弱々しいが美しくも澄んだような声が聞こえ、そちらの方に振り向くと…。
「ジュノー。」
本来は『陛下』と言うべきであろうが、エル兄様は彼から許可をもらっている愛称で呼んでしまっていた。
彼を愛する私達の友人ともなったジュディに嫌な顔をされるかとも思ったけれど、そんな事もなく…。
ジュディは彼…ジュノン様の方に駆け寄るけれど…。
やはり触れる事が出来ないようだ…。
本体でなく精神体であるから仕方ないのかも知れないけれど…。
いや、以前よりも力が衰えてしまい、存在維持が容易ではなくなった事で、触れる事もできないのかもしれない…。
「以前来た時は…それほど…。」
「うん、もう一度時間がないみたいだ。最後に君にも会えてよかった。ほら見て…。」
そう言って指し示されたのはジュノン様の本体の方。
よく見ると、閉じ込められているジュノン様の身体自体が少しずつであるが黒ずみかけていた。
青銅の鏡は変わった感じは見られないのに…。
「僕の力も…もう持たないようだ…。澱みを集め浄化し続けたせいでか、もう限界に近いんだ。」
さらによく見ると、黒ずんでいる一部。足元あたりが…まるで黒い砂のように崩れかけたようにも見えた…。
精霊王であったジュディの魔力で守り続けていたのに…。
かなりの年月は守り続けてくれていただろうが…。
「本来の人の命、肉体としても朽ちて当然の年月が過ぎているからね…。それに、僕の魂の一部は神のご意志で転生しているから当然と言えば当然だろう。ただ…次に代替えが必要になっているようだから…。」
少し俯きながら、「今まで頑張って来たけれど、ごめんね。」そう言って薄らと涙を浮かべて謝って来た。
謝る必要なんて全然ないと思うのに…。
ジュノン様は自分を犠牲にして…そう、今までこの地を、人々を守り続けて来たんだ…。
「今のままでは、僕が朽ちると同時に同じ力を持つ者と強制的に代替えさせられてしまう。だから…エドワルド、お願いだ…。」
「うん…わかった。」
私達が見守る中、エル兄様はアイテムバッグから屋敷からこの場に持ち込んだ枝を手に持った。
それを、祭壇の端の方に行き…。
「我が主よ、少しお待ちを。」
そう言うと、シルフィとエルメシアは祭壇横の石畳と祭壇の後ろ側。閉じ込められているジュノン様の背後側の石畳を剥がしたんです。
普通では剥がれないはずなのに…。
しかも剥がされた石畳は綺麗に砕かれてしまったんです。
もう粉々の砂のように…。
そして石畳があったその場に見えたのは、土。
しかも、よく肥えた土を集めてくれたのか、少し盛り上がってもいた。
だけど、エル兄様がこの場所に持ち込んだのは二本の枝だけのはず…。
「我が主、エドワルド様。まずはこの場所に屋敷から持って来られた枝を刺して成長させてください。左右どちらがどちらでも構いませんので…。」
そう促されて、エル兄様は二本の枝を左右に一本ずつ刺して、魔力を注ぎ込み成長させた。
ぐんぐん伸びて大きくなるその樹は、我が家の温室にある樹と同じように立派に育ったんです。
一気に成長させたせいか、エル兄様の魔力も大幅に減り、一瞬眩暈が起こったのか、顔色が蒼白になりふらついている…。
ふらつきしゃがみ込むエル兄様の身体を、アシュ兄様がいそぎそっと支えた。
私も慌ててエル兄様の前に行き、そっとエル兄様の手を取る。
両手をギュッと握って、そこからいつものように魔力を送り込んだ。
双子であるから、魔力の馴染みもスムーズだろうから…。
そうすると、エル兄様の眩暈も落ち着いて、顔色も良くなった。
アシュ兄様に支えられながら、エル兄様はゆっくりと立ち上がる事が出来たんです。
「エル、レインも大丈夫か?」
心配そうに駆け寄って、エル兄様とそれを支えるアシュ兄様。そしてエル兄様の手を握っていた私ごと、ギルは優しく抱きしめて労ってくれる。
そうして、アシュ兄様とギルも私やエル兄様に魔力を譲渡すべく流してくれたんです。
「大丈夫です。」
エル兄様はそうお礼を告げてから、ゆっくりと立ち上がる。
「エル兄様、これを飲んで。」
私はそう言って、私特製のポーションを渡したんです。
エル兄様はそれを煽るように一気に飲んだ。
エル兄様は大きく息をついた後、シルフィとエルメシアの方に向いて…。
「二本は予定通り植える事が出来たけれど、もう一箇所は?」
「そこにはこれを植えてください。」
と会話していた。
エル兄様に渡されたのは、木の枝ではあるけれど…。
「これは精霊王様からお預かりしてきたものです。」
「その樹は…。」
ジュディはその枝が何か知っているようでした。
元精霊王であったからかも知れないけれど…。
エル兄様はそれを受け取り、もう一ヶ所の土に刺すようにして植えた。
二本の木と同じように魔力を注ぎ込んで成長させ、ぐんぐん伸びていくその樹は…。
花が咲き、一気に実がなりだしいたんです。
その実から独特の芳醇な甘い香りがしだす。
エルメシアがその実を一つ捥ぎ取り薄皮を剥いてから、何処から出したのか…あぁ、空間属性も行使できるからそこから出したのですね。白いお皿の上にカットした実を置いて、手でつまむ事がないようにと、フォークまで準備してエル兄様に食すように促していた。
何か特別な意味があるのだろうけれど…。
エル兄様は、芳醇な甘い香りと味を堪能し、その溢れ出る果汁にまで舌鼓を打ってしまっているようでした。
「甘くておしい。それに不思議と力が湧いてくる…。」
「この樹に実る果実には特別な力が宿っているんです。食した者はその力を存分に使う事が出来ます。ですので…。」
そう言ってからエル兄様に、あの時の双剣である聖剣で、青銅の鏡を破壊するつもりで突き刺すように指示していた。
その間も青銅の鏡を持つ閉ざされているジュノン様の身体は黒く染まり崩れていく…。
彼を閉じ込めるように守っていた氷の柱もいつしか徐々に消えて無くなっていた。
周りを濡らす事もなく…。
私達が見守る中、エル兄様は手にした聖剣である双剣を両手に持ち、ほぼ同時に青銅の鏡に突き刺したんです。
硬い青銅の鏡であるから、一瞬刃の方が欠けるのではとヒヤッとしたのですが、それはズブズブとまるで飲み込まれるのか?と思うほど突き刺さり、それと同時にのジュノン様の身体も鏡も同時に消え去ったんです。
勢いあまってか、彼がいた場所にグサッと双剣が突き刺さる。
刺さった途端に今度はそこを中心として魔法陣が浮かび上がり展開。
そう、光り輝きながら現れて、エル兄様の姿ごと光で包み込まれたんです。
エル兄様と私達がいる場所と隔たれるように一瞬見えなくなって…。
しばらくすると、その光が消えて、突き刺さった双剣を支えるように刃の突き刺さった方の半分が透明の石…水晶に覆われていったのが見えたんです。
呆然としてペタンと床に座り込むエル兄様。
そして、光の壁が無くなったと同時に手を伸ばしてエル兄様を抱き込むアシュ兄様。
私もギルもエル兄様を抱きしめるように抱きついたんです。
エル兄様が座り込み、私達に抱きしめられている横をスーツと素通りするジュディは、床に落ちている物を愛おしそうに拾い上げていた。
それはジュノン様の胸元を飾っていた飾りだと思う。
ジュディとジュノン様の瞳の色に似た二つの石が嵌め込まれたネックレスのようだったから…。
そして、更に透き通る姿のジュノン様。
「ジュディ…そんなに悲しまないで。僕はやっと全てが解放されたんだ。」
「ジュノー…」
「大丈夫。僕達は約束したはずだよ。例え死が僕達を分かちあっても、ずっと側にいると。そして僕が愛する人は君だけだと。僕は君がこの世に生まれ変わってきてくれたから、僕も君の側でもう一度生きたいと神に祈り続けていたんだ。そして神と約束をした。僕の一部は今この世界に、意外と身近な場所に生まれ変わる事が出来た。もし僕が…あのまま解放されず朽ちれば、生まれ変わった僕がもう一度この場で浄化し続けなければいけなかったんだ。だけど、君は僕の代わりとなり得る物を見つけてきてくれた。そして必要とするものも…。少し時間はかかるけれど、僕達はまた一緒だよ…。」
ジュディはさっき拾い上げた…愛しい者…。
ジュノン様が生前身につけていた装飾品であるネックレスを手にしながら、触れる事にできないジュノン様を抱きしめていた。
ジュノン様もそんなジュディを抱きしめて、お互い実際は触れることのない唇を合わせて…。
ジュノン様の精神体は、スーッと姿が消えていったんだ。
「ジュノー。私の愛しい妻。愛しい伴侶。君は今…生まれ変わっている身体のもとに戻っていったんだね。必ず迎えに行き、もう一度、いや…今後も永遠に側にいよう…。」
ジュディはそう呟くと、スッと立ち上がった。
「エドワルド殿、そしてフィンレイ侯爵家の方々、今回は協力していただきありがとう。この神殿の機能は無事再開された。この地を閉ざしていた私の前世の力も解放された。今後はこの残された地は我が国で守り抜いていく。」
そう宣言した途端に、神の祝福か、綺麗な鐘の音が響き渡っていった…。
三本の樹は聖剣を見守るように葉を揺らし、天井からは光が差し込んでいた。
今更気がついたのですが、この場所の天井には屋根がなく吹き抜けです。
ですが…結界が施されているからか、雨風などを防いでいたようだったのです。
「この神殿の天井近くの柱の装飾に魔石が嵌め込まれているんですよ。あのおかげでまるでガラスの天井のような効果があるんです。」
エル兄様や私達が不思議そうにしていると、ジュディがそっとそう教えてくれたんです。
外に出ると、いつの間にか彼の母親や神殿の者達、そして聖騎士達が揃って待機していた。
ジュディの母親は王妃であるけれど、巫女でもあるからでしょう。
そう思っていたら、やはり神殿で創造神からの神託が降り、急ぎこの場に来たらしいです。
準備をして、いざこの地に入ろうとした途端風が止み、氷で閉ざされた大地が雪解けのように溶けていったと思えば、大地が芽吹き出したのだとか。
そしてそのまま、馬で馬車でと駆けつけて来たと…。
神殿内に神官職達が入り、祈りを捧げ出していた。
私達はそっとその場を後にして、宿とした屋敷の方に戻ったんです。
「あの場所に関しては、神のご意志としてしっかりと守り抜きます。」
そう彼は誓い、急ぎとして城に戻ると言っていた。
今後の事があるからだろう。
急に広がった土地を不届者に荒らされないようにする必要性もあるからだろうから…。
「では、私達も戻ろうか…。」
ギルの指示で全ての準備を整えて、私達は急ぎ自分達の家族のもとに戻ったんです。
かなり古くなっているはずの建物もだが、その内部に飾られている装飾の数々も静粛で有り美しくもあった。
壮麗なる輝きを纏った純白の神殿だと言ってもいいほどだと思う。
壁面にはステンドグラスが嵌め込まれてキラキラと輝き神聖さを醸し出してもいたし、天井に描かれている壁画は、創造神がこの世を造られた神話の流れを伝えるが如く、物語のように描かれていた。
その御姿は慈愛に満ちてもいた。
ついつい跪いて拝みそうなそんな雰囲気でもあった。
エル兄様の前世を何度かリンクで覗き見た私ですが、そのゲームでの創造神のお姿は、各神殿に祀られている神像と、有名画家が描いた絵姿ぐらいで、壁画は見た事がありません。
そして私達が生活している場でも、神殿などは何度か訪れましたが、同じように見た記憶はなかった…。
そして、その美しさとかは、皇王がおられる居城の近く…教皇が在籍している神殿と同格か、それ以上かと思うぐらいの美しさだったんです。
他国など、何処か別の場所にある神殿には、もしかしたら同じようなものが描かれ保存されているかも知れないけれど…。
「この神殿に描かれた壁画には、建立された当初から保存魔法が施されているんだ。絵画や壁画などは年々何もしなければ色褪せたりもするからね。神殿自体は神への祈りと称して魔力が供給され続けていれば維持できるようにも当初からなっている。祈りの魔力量にもよるけれど、祈りがされなければ朽ち果ててしまうんだ。それだけ信仰心が大切だという事にもなる。この神殿に崇拝しに来る信者は今はいないけれど、彼…ジュノーの魔力が今だに注がれ続けているからね…。澱みを集めて浄化し続ける際に、ジュノーの…彼の魔力に触れ続けているから…。」
「このゼウスピア国の最後の王であるジュノン•ゼウスピアの…。」
「そうです。」
そんな会話をしながら目的の場所に向かって進むと、重厚な白い扉が見えて来た。
白い扉に金の装飾を施されている。
扉だけでも美しいと思ったんです。
そこを開けると、広い空間に…。
大きな装飾のように見える氷柱の中に…
あぁ…エル兄様が言われていた彼だ…。
この広間のような祈りの場にも、ステンドグラスが多く嵌め込まれ、神の像とその前に存在する彼の姿…。
「ようこそ。待っていたよ。」
閉じ込められた彼の肉体の側から、弱々しいが美しくも澄んだような声が聞こえ、そちらの方に振り向くと…。
「ジュノー。」
本来は『陛下』と言うべきであろうが、エル兄様は彼から許可をもらっている愛称で呼んでしまっていた。
彼を愛する私達の友人ともなったジュディに嫌な顔をされるかとも思ったけれど、そんな事もなく…。
ジュディは彼…ジュノン様の方に駆け寄るけれど…。
やはり触れる事が出来ないようだ…。
本体でなく精神体であるから仕方ないのかも知れないけれど…。
いや、以前よりも力が衰えてしまい、存在維持が容易ではなくなった事で、触れる事もできないのかもしれない…。
「以前来た時は…それほど…。」
「うん、もう一度時間がないみたいだ。最後に君にも会えてよかった。ほら見て…。」
そう言って指し示されたのはジュノン様の本体の方。
よく見ると、閉じ込められているジュノン様の身体自体が少しずつであるが黒ずみかけていた。
青銅の鏡は変わった感じは見られないのに…。
「僕の力も…もう持たないようだ…。澱みを集め浄化し続けたせいでか、もう限界に近いんだ。」
さらによく見ると、黒ずんでいる一部。足元あたりが…まるで黒い砂のように崩れかけたようにも見えた…。
精霊王であったジュディの魔力で守り続けていたのに…。
かなりの年月は守り続けてくれていただろうが…。
「本来の人の命、肉体としても朽ちて当然の年月が過ぎているからね…。それに、僕の魂の一部は神のご意志で転生しているから当然と言えば当然だろう。ただ…次に代替えが必要になっているようだから…。」
少し俯きながら、「今まで頑張って来たけれど、ごめんね。」そう言って薄らと涙を浮かべて謝って来た。
謝る必要なんて全然ないと思うのに…。
ジュノン様は自分を犠牲にして…そう、今までこの地を、人々を守り続けて来たんだ…。
「今のままでは、僕が朽ちると同時に同じ力を持つ者と強制的に代替えさせられてしまう。だから…エドワルド、お願いだ…。」
「うん…わかった。」
私達が見守る中、エル兄様はアイテムバッグから屋敷からこの場に持ち込んだ枝を手に持った。
それを、祭壇の端の方に行き…。
「我が主よ、少しお待ちを。」
そう言うと、シルフィとエルメシアは祭壇横の石畳と祭壇の後ろ側。閉じ込められているジュノン様の背後側の石畳を剥がしたんです。
普通では剥がれないはずなのに…。
しかも剥がされた石畳は綺麗に砕かれてしまったんです。
もう粉々の砂のように…。
そして石畳があったその場に見えたのは、土。
しかも、よく肥えた土を集めてくれたのか、少し盛り上がってもいた。
だけど、エル兄様がこの場所に持ち込んだのは二本の枝だけのはず…。
「我が主、エドワルド様。まずはこの場所に屋敷から持って来られた枝を刺して成長させてください。左右どちらがどちらでも構いませんので…。」
そう促されて、エル兄様は二本の枝を左右に一本ずつ刺して、魔力を注ぎ込み成長させた。
ぐんぐん伸びて大きくなるその樹は、我が家の温室にある樹と同じように立派に育ったんです。
一気に成長させたせいか、エル兄様の魔力も大幅に減り、一瞬眩暈が起こったのか、顔色が蒼白になりふらついている…。
ふらつきしゃがみ込むエル兄様の身体を、アシュ兄様がいそぎそっと支えた。
私も慌ててエル兄様の前に行き、そっとエル兄様の手を取る。
両手をギュッと握って、そこからいつものように魔力を送り込んだ。
双子であるから、魔力の馴染みもスムーズだろうから…。
そうすると、エル兄様の眩暈も落ち着いて、顔色も良くなった。
アシュ兄様に支えられながら、エル兄様はゆっくりと立ち上がる事が出来たんです。
「エル、レインも大丈夫か?」
心配そうに駆け寄って、エル兄様とそれを支えるアシュ兄様。そしてエル兄様の手を握っていた私ごと、ギルは優しく抱きしめて労ってくれる。
そうして、アシュ兄様とギルも私やエル兄様に魔力を譲渡すべく流してくれたんです。
「大丈夫です。」
エル兄様はそうお礼を告げてから、ゆっくりと立ち上がる。
「エル兄様、これを飲んで。」
私はそう言って、私特製のポーションを渡したんです。
エル兄様はそれを煽るように一気に飲んだ。
エル兄様は大きく息をついた後、シルフィとエルメシアの方に向いて…。
「二本は予定通り植える事が出来たけれど、もう一箇所は?」
「そこにはこれを植えてください。」
と会話していた。
エル兄様に渡されたのは、木の枝ではあるけれど…。
「これは精霊王様からお預かりしてきたものです。」
「その樹は…。」
ジュディはその枝が何か知っているようでした。
元精霊王であったからかも知れないけれど…。
エル兄様はそれを受け取り、もう一ヶ所の土に刺すようにして植えた。
二本の木と同じように魔力を注ぎ込んで成長させ、ぐんぐん伸びていくその樹は…。
花が咲き、一気に実がなりだしいたんです。
その実から独特の芳醇な甘い香りがしだす。
エルメシアがその実を一つ捥ぎ取り薄皮を剥いてから、何処から出したのか…あぁ、空間属性も行使できるからそこから出したのですね。白いお皿の上にカットした実を置いて、手でつまむ事がないようにと、フォークまで準備してエル兄様に食すように促していた。
何か特別な意味があるのだろうけれど…。
エル兄様は、芳醇な甘い香りと味を堪能し、その溢れ出る果汁にまで舌鼓を打ってしまっているようでした。
「甘くておしい。それに不思議と力が湧いてくる…。」
「この樹に実る果実には特別な力が宿っているんです。食した者はその力を存分に使う事が出来ます。ですので…。」
そう言ってからエル兄様に、あの時の双剣である聖剣で、青銅の鏡を破壊するつもりで突き刺すように指示していた。
その間も青銅の鏡を持つ閉ざされているジュノン様の身体は黒く染まり崩れていく…。
彼を閉じ込めるように守っていた氷の柱もいつしか徐々に消えて無くなっていた。
周りを濡らす事もなく…。
私達が見守る中、エル兄様は手にした聖剣である双剣を両手に持ち、ほぼ同時に青銅の鏡に突き刺したんです。
硬い青銅の鏡であるから、一瞬刃の方が欠けるのではとヒヤッとしたのですが、それはズブズブとまるで飲み込まれるのか?と思うほど突き刺さり、それと同時にのジュノン様の身体も鏡も同時に消え去ったんです。
勢いあまってか、彼がいた場所にグサッと双剣が突き刺さる。
刺さった途端に今度はそこを中心として魔法陣が浮かび上がり展開。
そう、光り輝きながら現れて、エル兄様の姿ごと光で包み込まれたんです。
エル兄様と私達がいる場所と隔たれるように一瞬見えなくなって…。
しばらくすると、その光が消えて、突き刺さった双剣を支えるように刃の突き刺さった方の半分が透明の石…水晶に覆われていったのが見えたんです。
呆然としてペタンと床に座り込むエル兄様。
そして、光の壁が無くなったと同時に手を伸ばしてエル兄様を抱き込むアシュ兄様。
私もギルもエル兄様を抱きしめるように抱きついたんです。
エル兄様が座り込み、私達に抱きしめられている横をスーツと素通りするジュディは、床に落ちている物を愛おしそうに拾い上げていた。
それはジュノン様の胸元を飾っていた飾りだと思う。
ジュディとジュノン様の瞳の色に似た二つの石が嵌め込まれたネックレスのようだったから…。
そして、更に透き通る姿のジュノン様。
「ジュディ…そんなに悲しまないで。僕はやっと全てが解放されたんだ。」
「ジュノー…」
「大丈夫。僕達は約束したはずだよ。例え死が僕達を分かちあっても、ずっと側にいると。そして僕が愛する人は君だけだと。僕は君がこの世に生まれ変わってきてくれたから、僕も君の側でもう一度生きたいと神に祈り続けていたんだ。そして神と約束をした。僕の一部は今この世界に、意外と身近な場所に生まれ変わる事が出来た。もし僕が…あのまま解放されず朽ちれば、生まれ変わった僕がもう一度この場で浄化し続けなければいけなかったんだ。だけど、君は僕の代わりとなり得る物を見つけてきてくれた。そして必要とするものも…。少し時間はかかるけれど、僕達はまた一緒だよ…。」
ジュディはさっき拾い上げた…愛しい者…。
ジュノン様が生前身につけていた装飾品であるネックレスを手にしながら、触れる事にできないジュノン様を抱きしめていた。
ジュノン様もそんなジュディを抱きしめて、お互い実際は触れることのない唇を合わせて…。
ジュノン様の精神体は、スーッと姿が消えていったんだ。
「ジュノー。私の愛しい妻。愛しい伴侶。君は今…生まれ変わっている身体のもとに戻っていったんだね。必ず迎えに行き、もう一度、いや…今後も永遠に側にいよう…。」
ジュディはそう呟くと、スッと立ち上がった。
「エドワルド殿、そしてフィンレイ侯爵家の方々、今回は協力していただきありがとう。この神殿の機能は無事再開された。この地を閉ざしていた私の前世の力も解放された。今後はこの残された地は我が国で守り抜いていく。」
そう宣言した途端に、神の祝福か、綺麗な鐘の音が響き渡っていった…。
三本の樹は聖剣を見守るように葉を揺らし、天井からは光が差し込んでいた。
今更気がついたのですが、この場所の天井には屋根がなく吹き抜けです。
ですが…結界が施されているからか、雨風などを防いでいたようだったのです。
「この神殿の天井近くの柱の装飾に魔石が嵌め込まれているんですよ。あのおかげでまるでガラスの天井のような効果があるんです。」
エル兄様や私達が不思議そうにしていると、ジュディがそっとそう教えてくれたんです。
外に出ると、いつの間にか彼の母親や神殿の者達、そして聖騎士達が揃って待機していた。
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そしてそのまま、馬で馬車でと駆けつけて来たと…。
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私達はそっとその場を後にして、宿とした屋敷の方に戻ったんです。
「あの場所に関しては、神のご意志としてしっかりと守り抜きます。」
そう彼は誓い、急ぎとして城に戻ると言っていた。
今後の事があるからだろう。
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