78 / 171
9章 九日目 雨の日
9-6 いつの間にかいつもどおりだった放課後
しおりを挟む放課後、雨はいつの間にか止んでいた。
「じゃあね咲」
「またね陽ちゃん」
帰りのHRのあと、俺と咲と緑青はオカルト研究部の部室へと向かった。
ちなみに麗美は、アイドル研究部の方に顔を出している。
「で、なんだっけ? 生徒会が警察に来るんだっけ?」
「惜しい、査察です」
「ははは、そうそう。査察な」
部室では洋子先輩が英文法のレポートをやりながら俺たちが来るのを待っていた。
なんでも、それを出さないと赤点になるらしい。
「部がなくなると困るよな。こんなに便利な部室なのに」
「まあ生徒会としては、そういう本来の用途以外の便利な使い方をやめさせないんでしょうけど」
「はあ? なんでだよ」
「そりゃ部室も無限じゃないですからね。ちゃんと実績出してるのにうちより不便なとこ使ってる部とかもありますから」
「どこだよそれ」
「ダンス部とか。できてまだ3年目ですけど、全国行ったらしいですよ、今年」
「ダンス部? そんなのあったのか?」
「あったんですよ。俺も最近知ったんですけど」
「そうか……思ったよりも恵まれてるのかもな、うちの部は」
「まあ歴史だけはそこそこありますからね」
「昭和から生き抜いてるからな。オカルト研究部は」
「そのころは同好会ですけどね」
雑談している間にどんどん話がズレていく。
そうこうしているうちに麗美が戻ってきた。
「ただいま戻りました~」
「おかえり麗美」
「あれ、麗美ちゃんどこか行ってたのか?」
「アイドル部に顔出してきました」
「アイドル? そんな部もあったのか?」
「そこは新設らしいです。なんか、アニメかなんかで学生がアイドルやるのが流行って真似したくなったとかなんだとか」
「ふーん。そういえば、大学生のアイドルとかもあるらしいからな。先輩から聞いた」
「え? 洋子先輩にそんな方面の先輩いるんですか?」
「男だ。カメラオタクの」
「あー、納得」
「なんで納得なんだよ」
「いやなんとなく」
「あのなあ……」
相変わらずの取り留めのない会話をしながら、そろそろ本題に入らねばと思いつつ、本題ってなんだっけと思ったりもする。
「で、ですね悦郎さん。香染さんとも話したんですけど」
「ん?」
意外な方向から話題の方向転換の力が加わってきた。
そういえば、アイドル部の方も査察でヤバいみたいなこと言ってたような言ってなかったような。
言ってたっけ?
忘れた。
まあ、麗美が香染と話してきたってんなら言ってたんだろう。
たぶん。
「うちとアイドル部とあといくつかの小さな部に声をかけて、みんなで兼部し合ったりしたら、名簿上の人数はいっぱいいるように見えて査察されても大丈夫なんじゃないか、って」
「そんなので大丈夫なのか?」
「さあ? でも香染さんが最高のアイデアよって自信満々に披露してました」
「あいつの自信満々は一番信用できない」
「そもそもそんなに兼部とかってしていいものなの?」
「あー、どうなんだ緑青」
咲の疑問をそのまま緑青に投げ渡す。
緑青は生徒手帳をめくりながら、俺たちの疑問に答えてくれた。
「制限はなかったはず。というか、そんなバカげたことをされる前提で校則決められてないっぽい」
「だよなー」
「じゃあそこを抜け穴にしようっていうのが香染さんの作戦なんですね」
「いや……あいつはそこまで考えてない気がする」
なぜか麗美の香染評価はまあまあ高い。
というか基本的に麗美はどんな人でもいいように捉えてくれる部分があるような気がする。
俺やとーちゃんのことも含めて。
「はい、ちょっとした疑問」
俺たちのやりとりをレポートをやりながらチラチラ見ていた洋子先輩が挙手してきた。
「はい洋子先輩」
俺はなんとなくその流れを受けて、まるで授業のように洋子先輩を指名した。
洋子先輩はそのちょっとした疑問を俺たちに開陳する。
「っていうか、その査察っていうのずいぶん遅くないか? 噂が出てからもうけっこう経ってない?」
「確かに……」
言われてみればそれもそうだ。
比較的早い段階で俺たちのところに噂が届いていたと仮定しても、少なくとも一週間以上は経っていてる。
「この手のものは噂が出たときにはもう実行段階ってのが定番だよな……」
「実は噂だけってのもたまにある」
ぐふふと嬉しそうに笑いながら、緑青がさすがにそれはないだろうと思ってしまうが実は意外とありそうなオチを予想してくる。
「七瀬さんに聞いてみてはどうでしょうか」
「生徒会長に?」
「はい」
「いや教えてくれるか? これ、極秘ミッションの類だろ?」
「そう……なんですか?」
「え? 違うのか?」
なんとなく俺は、勝手にこれが生徒会の秘密ミッションのような気がしていた。
それはそうだろう。
こういうのは秘密のうちにやらなければ意味がない。
でなければ、査察を受ける方の活動実績がないような部に対策をされてしまう……ん?
「これ、秘密になってないな」
「ですよね」
「公然の秘密……ってやつか?」
「ぐふふ。微妙に違うと思う」
「なんかモヤモヤするな」
俺は段々とわけがわからなくなってきた。
とはいえ、香染も知っているようなことなのだから査察自体は存在するのだろう。
俺が何か別の噂を勘違いしただけ、ということではないはずだ。
「私、七瀬さんに聞いてみるね」
「ああ、頼む」
こうなれば当たって砕けろだ。
査察する側である生徒会長に、直接聞いてみよう。
「……」
しばらくメッセージのやりとりをしている咲を黙って見守る。
表情からは、どんな答えが返ってきたのかはよくわからない。
しかしながら、深刻な表情は浮かべていない。
となれば、オカルト研究部にとってはいいことなのだと思うが……。
「なるほどね」
パタンと咲が手帳型になっているスマホのケースを閉じた。
そして俺たちに向き合い、結論を端的に述べてくる。
「査察ね、もう終わってるんだって」
「は?」
「え?」
「なに?」
「ぐふふふふ」
四者四様の答えを返してしまう。
いや、麗美と俺と洋子先輩の反応はほぼ同じようなものだから、二者二様でもいいのかもしれない。
ともかく俺たちは、なかなかに間抜けな反応を咲の意外な言葉に返していた。
「ど、どういうことだ?」
「どういうって、そのまんまの意味。いくつかの部は活動内容を精査されて、ここ数年の活動実績がないところはもうすでに廃部になったりしたんだって」
「え、じゃあうちは……」
「元から対象じゃなかったらしいよ」
「は?」
「ほら、新入部員入ってるから」
俺と洋子先輩の視線が麗美に集中する。
「私……ですか?」
麗美が自分を指差しながら、キョトンとした表情を浮かべた。
「新入部員がいるってことは、活動してるってことだから。そういうとこは、今回の調査の対象ではなかったんだって」
「じゃあ香染のとこも……」
「うん。麗美さんが入ってくれたから、調査対象から外されたんだってさ」
「なんなんだよもう……」
一気に脱力してしまう。
洋子先輩も苦笑いしながら、レポートの方に意識を戻していた。
ずっと気にしていたわけではなかったが、しばらくの間指に刺さった棘のように気になっていた部の査察問題は、こうして方がついた。
というかそもそも、問題ですらなかった。
完全に、俺たちの空回りだったな。
まあ、こういうこともあるだろう。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
『俺アレルギー』の抗体は、俺のことが好きな人にしか現れない?学園のアイドルから、幼馴染までノーマスク。その意味を俺は知らない
七星点灯
青春
雨宮優(あまみや ゆう)は、世界でたった一つしかない奇病、『俺アレルギー』の根源となってしまった。
彼の周りにいる人間は、花粉症の様な症状に見舞われ、マスク無しではまともに会話できない。
しかし、マスクをつけずに彼とラクラク会話ができる女の子達がいる。幼馴染、クラスメイトのギャル、先輩などなど……。
彼女達はそう、彼のことが好きすぎて、身体が勝手に『俺アレルギー』の抗体を作ってしまったのだ!
全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―
入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。
遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。
本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。
優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
黒に染まった華を摘む
馬場 蓮実
青春
夏の終わりに転校してきたのは、忘れられない初恋の相手だった——。
高須明希は、人生で“二番目”に好きになった相手——河西栞に密かに想いを寄せている。
「夏休み明けの初日。この席替えで、彼女との距離を縮めたい。話すきっかけがほしい——」
そんな願いを胸に登校したその朝、クラスに一人の転校生がやってくる。
彼女の名は、立石麻美。
昔の面影を残しながらも、まるで別人のような気配をまとう彼女は——明希にとって、忘れられない“初恋の人”だった。
この再会が、静かだった日常に波紋を広げていく。
その日の放課後。
明希は、"性の衝動"に溺れる自身の姿を、麻美に見られてしまう——。
塞がっていた何かが、ゆっくりと崩れはじめる。
そして鬱屈した青春は、想像もしていなかった熱と痛みを帯びて動き出す。
すべてに触れたとき、
明希は何を守り、何を選ぶのか。
光と影が交錯する、“遅れてきた”ひと夏の物語。
現実とサキュバスのあいだで ――夢で告白した相手が、同居を始めた話
そう
青春
ある日家に突然現れた謎のサキュバスのホルさん!
好感度はMAXなようで流されるがまま主人公はホルさんと日常を過ごします。
ほのぼのラブコメというか日常系小説
オチなどはなく、ただひたすらにまったりします
挿絵や文章にもAIを使用しております。
苦手な方はご注意ください。
静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について
おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である
そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。
なんと、彼女は学園のマドンナだった……!
こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。
彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。
そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。
そして助けられた少女もまた……。
二人の青春、そして成長物語をご覧ください。
※中盤から甘々にご注意を。
※性描写ありは保険です。
他サイトにも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる