愛理の場合 〜レズビアンサークルの掟〜

本庄こだま

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1.愛理と恭子

余韻



 愛理あいりは目を覚ました。

 照明の消えたほの暗い部屋にはシャワーの音だけが響き、洗面所の灯りが愛理の気怠い頭の微睡みを洗い流すようでもあった。

 『もうひとり』の温もりだけを残したキングサイズのベッドはシーツが乱れ、掛け布団は足元に蹴り散らかされている。

 身長153cmと小柄の愛理には大きすぎるそのベッドに、一糸纏わぬ全裸の姿で一人横たわり、大きく伸びをしてみる。ふぅ……と軽く息を吐き、薄っすらと開いた目で天井を見つめる。浅い呼吸を繰り返すたびに、彼女の赤裸々に剥き出した乳房がゆっくりと上下する。

 美しい曲線を描いた二つの胸の豊かな膨らみは、歯を立てれば張ち切れてしまいそうな程にパンッとした張りを保ち、その先端の乳頭は薄い桜色の柔らかな光沢を持ちながらベッドの外の空気の冷たさに、つんとした硬さを誇示している。

 生まれたままの姿で大の字に横たわる愛理の身体は今年で29歳を迎える年増女とは思えぬ程、まるで少女のように、もぎたての果実のように、青々として瑞々しかった。そしてその事は、誰よりも愛理自身が理解していた。

 だからこそ、こんな「美しい果実」を一人だけベッドに置き去りにし、勝手にシャワーを浴びる『もうひとり』が許せなかった。

 小さく溜息をつくと、愛理は仰向けのまま軽く状態を反り、腹に力を入れその勢いでベッドの上に起き上がった。
 
 それと同時に腰まで伸びた長い黒髪が、尾を引いた流星のようにキラキラと輝きながら愛理の首に巻き付く。軋むベッドの上に立ち上がった愛理は、さも鬱陶しそうにそれを手櫛で掻き上げながら、部屋の床を睨みつけた。

 脱ぎ散らかされた二人分の衣服、下着、ブーツ、ストッキング。机の上には飲みかけの缶チューハイの空き缶2本とミネラルウオーターのボトル、部屋のキー。
 そしてベッド周辺の床に散乱した、湿り気を帯び丸めて散らかされた無数のティッシュの塊と、使用済みのコンドーム。
 
 無造作に投げ棄てられたコンドームは、体液のヌメりを纏ってグロテスクにテラテラと光り、内部には白濁した“劣情の証し”がたっぷりと注がれていた。
 
 それを視認した愛理は昨夜の『行為』と、その“劣情の証し”を吐き出した、今まさにシャワーを浴びている「張本人」の顔を思い浮かべて、きゅっと下唇を噛んだ。

   この私を置き去りにするなんて許せないーー。

 嫌が上にも呼び戻される肉体の感触と甘い余韻。身体にまとわりつく生臭い『他人の匂い』は、昨夜の情景を動かざる現実として愛理の肉体に刻みつけている。

 それと同時に愛理の心の深部には、まだ自らの中に生まれた「未だかつて無かった情欲の熱」が、とろ火に当てられたようにドロドロと煮え滾っていた。

 愛理はベッドの上をよろよろと歩むと、弾みをつけてぴょん、と床に飛び降りた。

 ぷるんっ…と豊かな胸が小気味好く弾む。着地の刹那、局部に残る『不快な異物感』に下半身の力が奪われ、踏ん張れずにぺしゃり、と前屈みに倒れ込む。

 冷たい床が湿り気を帯びたきめ細やかな愛理の素肌にべたべたとした不快な感覚で触れ、愛理は思わず顔を顰めた。

 それでも四つん這いになり一つ小さく息を吐くと、全身に力を込めて立ち上がる。小刻みに震える足をなんとか一歩ずつ前に出し、薄暗い部屋の中を洗面所の光を頼りに向かったーー。



 恭子きょうこは濡れたベリーショートの前髪を額の後方に撫で付けるように掻き上げ、大きな欠伸をした。

 彼女は全身ずぶ濡れのままバスタブの縁に腰を下ろすと、手のひらにボディソープを垂らし股間周りを手荒に擦っている。
 四肢の長い体躯と広い肩幅、女性的な丸みが少ない筋肉質な肉付き、おまけに撫で付けたオールバックのような濡れ髪のせいで、あたかも性別を間違えそうな風貌であるが、恭子の胸には強烈な主張の膨よかな乳房が存在し、顔は彫り深いもののプックリとした唇に睫毛の長い美形であり、間違いなく『女性』である事が伺える。

 ただ『身体のある一部』を除いては……。

 その『ある一部』を丁寧に洗い流し、彼女のシャワータイムは完了した。同時に、シャワー室の扉が開く気配を、恭子は背中に感じていた。

   「愛理?起きたんだ。おはよ」

 振り向くと、いかにも眠そうな顔付きの愛理がフラフラと佇んでいた。恭子とは対照的な小柄な身体は汗にまみれ、背中や首筋、乳房にロングの黒髪がベッタリとへばりついていた。

 「起きたんだ?じゃないわよ。起こしてよ」

 愛理は殊更に不機嫌そうな調子で応えた。頭をくしゃくしゃと搔きむしり、恭子の方を見ずにシャワーの蛇口を捻った。

 勢いよく飛び出した湯は愛理の全身を濡らし、彼女の透明な肌に当たると瞬く間に玉となって流れ落ちた。

 「ごめーん、気持ちよさそうに寝てたから起こしちゃ可哀想かなと思って。怒らないでよ」

 恭子は端正な美形をクシャクシャにしながらバツが悪そうに微笑むと、シャワーを浴びる愛理の身体を後ろから抱きしめた。愛理の機嫌を伺うように頬を近付け、耳元で何事かを囁く。愛理は未だ恭子の顔を見ようとしないが、その言葉を受けると一度呆れたように微笑み、顔を紅潮させると無言でこくり、と頷いた。

 「本当は二人で洗いっこしたかったんだけど、それじゃお願いできる?」

   「つま先からケツの穴までズポズポ丁寧に洗ってあげる」

   「ふん、バカ恭子❤︎」

 愛理は鼻で笑うと恭子に正対し、両腕を横に広げた。

 恭子はボディソープを両手にたっぷりと垂らし、愛理の小柄な身長に不釣り合いな、小生意気に主張した二つの胸の膨らみに塗りつけてゆく。恭子の大きな手のひらに愛理の乳房はしっとりと包まれ、細く長い指で軽快に揉みしだかれる。
 ぷるぷると震える愛理の『性の象徴』は、ボディソープの滑りで覆われてテラテラとイヤらしい光沢を放ち、白い肌はまるで甘いゼリーのようだ。

 恭子の素早い指先の動きは明らかに「愛理の身体を洗う」事とは別の企みを孕んでいた。そして愛理もまた、それを期待していた。

 恭子の手の中でリズミカルに踊る乳房は、かなり強い力を込められているらしく、美しい曲線は歪み潰され、あるいは両手に寄せられて深い谷間を作っていたが、ボディソープが潤滑油の役割を果たして寧ろ愛理にとっては心地良い刺激になっていた。

 乳房を預けたまま無防備に立ち尽くす愛理の口元は薄っすらと開かれ、小さく甘い吐息が漏れ始めていた。瞼はトロンと垂れ下がり、長い睫毛がシャワーの水滴で光り輝く。恭子が気まぐれに、その豊かな乳房の先端の突起を指先で引っ掻いてやると、愛理は突然の強い快感に思わず素っ頓狂な声を上げる。

 「あンっ❤︎はぁ…恭子やだ…あうっ❤︎」

 「イヤじゃないでしょ?こんなに乳首ビンビンに勃たせて。ヤラシーこと期待してるんでしょ?言ってごらん、可愛い愛理ちゃん❤︎」

 甘い刺激に悶える愛理を尻目に、恭子の指は速度を増してゆく。愛理の桜色の乳頭は見る見る硬度を帯び、力強くピンッ、と天を向いている。肉体の快楽を他者に支配され、愛理はそれに逆らえない。

 「恭子っ、シてっ、いっぱいシて❤︎」

 「シて、じゃ分からないよ。何をすればいいの?ちゃんと言葉で説明しなさいドスケベ愛理❤︎」

 「イヤぁ…いぢわるゥ…恭子の気持ちイイこと…私のカラダでいっぱいシてよォ…❤︎」

 「ホンット意固地な愛理、私の気持ちイイことじゃなくて、アンタの気持ちイイことでしょ?つまらないプライドなんて捨てなさい」

 愛理の半開きの口からは激しい吐息が漏れ、ぷっくりとした艶っぽい唇からは粘着質な唾液が糸を引いて滴り落ちる。

 腰は無意識にカクカクと前後に動き、もはや愛理の理性が『限界』に近いことは明らかだった。

 しかし、責める恭子もまた自らの理性の限界が近いことを知っていた。恭子の肉体の『ある一部』が変貌を遂げ、愛理の肉体を求め始めていた。

 「愛理ッ」

   叫ぶと同時に恭子は、躊躇なく愛理の唾液で汚れた唇に自らの唇を重ねた。
   
 突然の出来事に愛理は一瞬驚き、目を丸くするも、すぐさま恭子の『愛』を受け入れ唇を重ね返した。
 
 恭子は愛理の小さな身体を強く抱き寄せ、唾液まみれの愛理の唇にむしゃぶりつく。その様はまるで『獲物を捕食する女豹』のようであり、なすがままの愛理はつま先で背伸びをしながら必死にその愛に応える。
 すっかり冷えたシャワー室には裸の『女同士』が互いの性愛を確かめ合う接吻の淫靡な音だけが響いていたー。



 寝室に戻った二人は、未だ衣服は纏わず全裸のままでベッドに腰掛けていた。
   
 愛理は自らの肉体に再燃した愛欲の灯火に悶々と身を焦がし、恭子も一度入れた『性欲のスイッチ』を消せずにいた。
 
 時間だけが過ぎてゆく空間の中で、二人の女は視線を合わせずに手だけを繋いでいた。
 不意に愛理が立ち上がると、床に散乱した昨夜の形跡ーー『使用済みコンドーム』を拾い上げた。

 ペラペラの情けないその物体を指先で摘むと、恭子の鼻先まで近づけて振り子のようにプルプルと揺らしてみせた。

   「見て。昨日の恭子、こんなにいっぱい出したんだよ?三日も溜め込んだ、濃ゆくて臭っさぁいザーメン……恥ずかしい恭子の本気汁……」

 愛理はわざとらしくしかめっ面を作り、そのコンドームの使用者に見せつける。鼻をつまみ、「汚物」であることを殊更に強調したような態度に『コンドームの使用者』は少しムッとした表情を浮かべたが、すぐさま不敵な笑みを浮かべた。

 「その臭っさぁいザーメンをオマンコに出して欲しがったドスケベな変態娘はどこの誰だったっけ?」

 と、すぐさまやり返した。

  その間も、恭子の股間は今にも射精しそうなほど硬く勃起しており、それはまさに愛理にとっては「突きつけられた銃口」のようなものであった。
 
 恭子の羞恥を煽り精神的に優位に立ったつもりが逆に言い負かされ、愛理はふん、とつまらなそうに鼻息を鳴らしてまた元のようにベッドに倒れこんだ。
 愛理の美しい肉体の性的価値は、誰よりも愛理自身が知っていた。その肉体と美貌を武器に生きてきた女である。だからこそ、今朝からの恭子の、どこか飄々とした態度に苛立っていたし、歯痒かった。

 「チェックアウトまでまだ1時間あるよ?どうすんのよ」

 痺れを切らした愛理は、暗に『行為』を促してみた。

 「一夜だけ、って約束でしょ?ガマンしてよ」

 「恭子だってガマンしてんじゃん。チンポ勃ってるじゃん」

 「だってルールだもん。しょうがないでしょ」

 「ほんとバカみたい。オナニーでもすればいいじゃん」

 「いつでもヤリたかったら愛理も『サークル』に来れば?紹介してあげるよ?」

 「ヤダ。そんな乱交パーティーみたいなマネ…」

 「そーいう貞操観念はあるんだね、ベッドの中じゃ淫乱なクセに」

 「うるさいチンポ女」

 互いの性欲は恭子の言う「ルール」に縛られ、滾ったままに二人の女の『一夜の密会』は終わりを告げた。

 都心の外れの寂れたラブホテルをチェックアウトし外へ出ると、眩しい朝の陽が二人を照らした。

 「次はいつ会えるの」

 「一週間後かな?また電話するよ」

 そう言い終わると恭子は愛理の肩を抱き寄せ、軽くキスをした。

 「愛理、考えといてね。また連絡するから」

 恭子は愛理の繋いだ手を離し、人波に逆らうように駅の方に向かっていった。

 愛理はその後ろ姿が見えなくなるまで見送ると、一つ溜息をついて自身も駅に向かって歩き出した。
 

 
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