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10.超えてゆく
再起への序章
1
「あの娘たちの調子はどうかしら?」
スパンコールを散りばめたような摩天楼の眩しい輝き。
壁一面のガラス窓から都心の夜景を一望できる、シティホテルの最上階の一室に、史織と夏樹の姿はあった。
「久美と……あと何名かで日替わりの調教をしているカンジ。はるかも綺羅も、肉体の感度は凄まじく上昇してる……ただ」
「ただ……?」
「綺羅の精神はまだまだ折れてない……気が狂うような絶頂にイキ悶えながら、泣きじゃくりながら、小便まで垂れ流しながら……それでも首を縦には振らない……あの女の心を支えているのは……」
「もちろん〝愛理〟……でしょ?」
「……」
夏樹の言葉に被せるように史織は言った。
「あ~❤︎羨ましいわ……女同士の友情、信頼、深く繋がる愛、愛、そして愛……あははっ!眩しいくらいに輝いてる……❤︎」
史織はわざとらしく溜息をついて、ソファの背もたれに身体を預けて天井を見上げた。
(全部グッチャグチャに踏み潰して、ゴミみたいに蹴散らしてあげる。ARISA……アンタの大切なもの……そして……私たちの〝大切だったもの〟も……ね)
2
時を同じくして、史織の事務所……。
ヴヴヴヴヴヴ……
「ん"~~~ッ!?❤︎ん"ォォッ!❤︎」
「ほォッ!?❤︎んむゥゥゥッ~~ッ!?❤︎」
打ちっぱなしのコンクリート壁の部屋に、2人の女のくぐもった嬌声が響き渡る。
赦しを請う言葉は口に嵌められた真っ赤なボールギャグに遮られ、家畜のような唸り声と共に、飲み下す事が叶わなかった唾液の糸がダラダラと顎先から首へと淫らに輝いて垂れ落ちる。
女はどちらとも全裸に剥かれ、黒い革製のボディハーネスで四肢と胴体をキツく緊縛されており、直立したまま背中合わせにハーネスの各部に取り付けられた金具同士を結合されて身動きが取れずにいる。
テラテラと愛液に黒光りする極太の双頭ディルドが、ピンクに露出した互いの秘部に根深く挿入されており、勃起した陰核には強振動のピンクローターをあてがわれ、1ミリも動かない程テーピングで厳重に貼り付けてある。
萎えることのない極太の張り型と2つの無機質なモーター音は、女たちの意思や肉体的限界など知る由もなく、ただ終わることのない責め苦を淡々と与え続ける冷徹な処刑具と化す。
内から外から女の弱点を虐められ、女たちは身を捩りながら必死に両脚を踏ん張って快感に耐える。
だが執拗な責めにすっかり熟れ滾った肉壺は、互いの僅かな身の震えさえも敏感に伝導し合う程に、もはや限界を超えていた。
3
「はるかちゃん、綺羅ちゃん、どっちが先にイッちゃうかな~?」
赤いオーバルフレームの眼鏡の奥の目が残酷に嘲笑う。
10日前から、久美は史織の命を受け、はるかと綺羅の性感調教を開始していた。
初めは綺羅一人に対して直接的接触での調教を試みたが、のちに五感的興奮とその相乗効果とを期待してはるかをプレイに投入し〝マゾ同士の快楽の共鳴〟を試みたのだ。
果たしてその効果は「想像以上」だったと言えるだろう。
すでに完成された愛奴であったはるかの乱れ狂う姿に触発され、綺羅の隠していた(綺羅本人は隠し通したかったであろう)被虐願望が俄かに輪郭を見せつつあった。
調教にあたり、強い嫌悪の意志と激しい抵抗を見せていた綺羅だったが、はるかへのハードな調教を眼前に見せつけてやると、顔では眉を顰めながらも肉体の火照りと荒い息遣いの反応……。
やがて久美は調教に対して従順に従うはるかには「セックスの快楽」を、反抗する綺羅には情け容赦のない罵倒、そして「苦痛を伴う性的折檻」を与え、両者への対応に徹底的した差別化を図った。
救済など望めない、閉ざされた空間で確立された「絶対的な主従関係」は、綺羅のプライドと忍耐力を徐々に、しかし確実に削り取る。
4
やがて変化が訪れたのは調教7日目の事。
久美が調教部屋へ入ると、綺羅は疲弊した身体をヨロヨロと揺らしながら四つん這いのまま久美の足元に躙り寄ると、三つ指を立てて冷たいコンクリートの床に額を付けた。
「ひぐッ……久美様……ぐすッ……お願いします……綺羅にも……はるかと同じ……同じ調教を……ッ」
肩を震わせて嗚咽混じりに、消え入るような声で慈悲を懇願する綺羅。
「ん~?いきなりどういう風の吹き回しかな~?……ふふッ、はるかが羨ましくなっちゃった?❤︎」
久美は綺羅の下げた頭を右足で踏みつけた。
ミシッ……ミシッ……
乗せた足にゆっくりと体重を掛けると、綺羅は言葉にならない悲鳴を上げる。
「ぎッ!?ひッ……痛ッ……!!」
「散々反抗したクセに、辛くなったらあっさり媚びを売るの?アンタ根っからの奴隷根性ね?」
嘲笑を受けても、もはや綺羅には抗うという選択肢も無い。
ただこの空間における「絶対強者」に服従する……それだけが生き延びる為の唯一の方法……。
「じゃあ綺羅、貴女なりの誠意……見せてもらおうかしら?」
久美は仁王立ちで綺羅の前に立ち、つま先で綺羅の頭を小突く。
「……ッ」
綺羅がゆっくり顔を上げると、久美の股間には革のベルトで固く装着されたペニスバンドの張り型が雄々しくそそり立っていた。
5
「はるかを可愛がる為に着けてきたペニバンだけど……いいわ、綺羅がその気にさせてくれたらアンタに挿入てあげるっ❤︎」
久美がそう言い終わるのが先か、綺羅は眼前のペニスに勢いよくしゃぶりついた。
「んむッ!!❤︎んふゥゥゥッ❤︎」
ジュルルッ❤︎グポッ❤︎グポッ❤︎ズルルルッ❤︎
舌を動かし、頬を窄め、唇を捲れ上がらせて頭を激しく前後にピストンする綺羅。
白く泡立った粘性の唾液が口からみるみる溢れ、ボタボタと垂れ落ちて久美の足元に液溜まりを作る。
「ふーッ❤︎ふーッ❤︎……お"ェ"ッ!?ブフッ❤︎ジュルッ❤︎……ごふッ!!」
深く咥え込み、何度も喉奥でえずきながら、血走った眼で一心不乱に奉仕する綺羅。
目の前の「主人」の寵愛を受ける為、はるかよりも優れた「雌奴隷」であることを証明する為……。
その為には、なり振り構わずただひたすらに、この女に媚びなければならない。
媚びて認められなければ、この空間において私の価値は無い。
「んん~❤︎いい姿ね綺羅❤︎チンポ欲しくても必死に我慢してたのに、もうそれも限界みたいね?」
「チュポンッ❤︎……は、はぃ……もう……我慢できません……私のおマンコ……ぶっといおチンポでいぢめてください……❤︎」
潤んだ瞳で、上目遣いに久美を見つめる綺羅。
健気に振る舞い、久美の加虐心を精一杯煽る。
「ふふッ❤︎そう?……なら……」
久美が指で綺羅の背後を指す。
「後ろを向け」の合図だ。
綺羅は小さくコクリと頷くと、膝をついたまま後ろを向き、四つん這いで尻を久美に突き出した。
「はぁッ❤︎はぁッ❤︎はぁぁ……❤︎」
待ち焦がれたセックスの快楽。はち切れそうなほどの性欲を内包した肉体を、今まさに力のままに弄ばれる期待と興奮。
剥き出しに晒された陰裂と肛門に、久美の情欲の視線を痛いほど感じる。
だが──。
「おっ、お願いします……❤︎」
「あはっ❤︎……綺羅……」
いじらしく腰を左右に動かす綺羅に、久美は残酷な言葉を投げかけた。
「これでもう……愛理のことなんて、すっかり忘れちゃえるわね?」
「……!」
6
(あ……愛理……?)
綺羅の肩がピクンッ、と竦む。
(嫌……やめて……愛理のことは……!!)
史織の事務所に拉致されても、久美から度重なる折檻を受けても、決して心が折れなかったのは他でもなく……。
(ここで久美に服従するのは……でも……もう……)
頭に浮かぶ愛理との約束。
肉体が求める、快楽という麻薬。
その狭間で、綺羅の誇りという灯火が、音を立てて再び激しく燃え上がる。
それはまるで、消え入る直前の「最後の輝き」のような──。
「……」
言葉を投げかけて数秒、押し黙る綺羅の様子を見た久美は、能面の様に真顔であった。
そして、右膝を高く上げるとヒールの底で綺羅の尻を思い切り蹴り込んだ。
ガッ!!
「ひッ!?」
ドォッ
四つん這いの体勢を崩され、勢いよく腹ばいに倒れ込む綺羅。
床に強く打ちつけた右頬と蹴られた尻が鋭く痛み、期待が絶望へと変わる。
「……はるか、おいで」
「はいッ❤︎」
一部始終を黙って見ていたはるかは、横たわる綺羅の惨めな姿には一瞥もくれずに、真っ先に久美の足元に躍り出た。
「はッ❤︎はッ❤︎お願いしますッ❤︎おマンコもクソ穴も、準備できてますッ❤︎」
はるかは久美に指示されるまでもなくガニ股に開いて隠部を曝け出し、自らの指で濡れそぼった性器を掻きむしる。
息を上げ、目の焦点が泳ぎ、全身から汗が吹き出し、口元からヨダレが滴り落ちる。
完全に「キマッてる」状態だ。
久美はそのまま何も言わずにはるかの仕上がった陰裂にペニバンをあてがうと、躊躇いなく挿入した。
ズプゥゥッ……❤︎
「ほおおォォ──ッッ!?❤︎❤︎オチンポきたッ❤︎ズッポシきたッ❤︎久美様のぶっといオチンポきたァ──ッ❤︎❤︎」
空気を劈く様なはるかの叫び。
パンッ❤︎パンッ❤︎パンッ❤︎パンッ❤︎
「あひッ❤︎へぁッ❤︎おぉッ❤︎やべッ❤︎きもちいッ❤︎マンコッ❤︎モロにッ❤︎食らうッ❤︎すぐイグッ❤︎」
全身をガクガクと震わせ、白目を剥いて吠え狂うはるか。
「色情狂」を絵に描いたならば、まさしくこの様な痴態になるであろうという様な壮絶なセックス。
「そんな……待って……」
繋がり合う二人の足元に、綺羅がすがりつく。
「お願いしますッ!私にもセックスしてくださいッ!!つらいのッ!!もうセックスおあずけイヤッ!!」
「お"ォォ~ッ❤︎イグッ❤︎マンコイグッ❤︎奥の深いとこイグッ❤︎ヤベヤベヤベイグイグイグッ❤︎❤︎❤︎」
「だめッ!イクなッ!!私がイクのッ!!私のおチンポ返してッ!!!」
懇願の悲痛な叫びもはるかの絶叫に掻き消され、綺羅の存在を無視したまま、はるかは絶頂へと昇り詰めてゆく。
「イグッ!!!!❤︎ ❤︎ ❤︎」
プシャッ!プシャァァァッ!!
「いッ!?」
瞬間、はるかはグンッ、と力強く仰け反ると、めくれた陰裂から真正面に大量の潮を噴き出した。
それは跪く綺羅の顔面に直撃し、はるかが深い絶頂を享受したことを否が応にも認識させる。
ヌ……ポンッ❤︎
「はうッ❤︎」
突き刺されたペニバンが乱暴に抜かれると、はるかは先程までの狂乱が嘘の様に穏やかな顔でゆっくりとその場にへたり込んだ。
「……なん…で……」
はらはらと大粒の涙を流しながら、綺羅は満悦したはるかを見つめる。
久美は何も言わず、綺羅を侮蔑の目で一瞥すると、そのまま部屋を後にした。
7
都内某所の撮影スタジオ。
ポートレート撮影の現場で、レンズ越しの男たちの熱い視線を一身に受ける、赤いビキニ姿のたわわな肉感ボディの女性。
おどけたようなポーズではにかんだ笑顔をカメラに向けたかと思えば、扇状的な視線と妖艶な微笑、あるいは凛と澄ました眼差しで遠くを見つめてみたりと、シャッターを切る度に忙しなく様々な表情を覗かせる。
ファインダー越しに見る彼女は、ファンの理想を具現化する為にプロフェッショナルに徹する「偶像」だが、生身の彼女は天真爛漫で溌剌とした、どこにでもいる普通の「若い女の子」──。
だが、それこそが等身大の彼女の人間として最大の魅力であり、ネットアイドルというニッチジャンルで根強く支持を受ける理由でもあった。
彼女の名前は千亜希。年齢は20代半ば。
10代前半より主にティーンズファッション雑誌のモデルとして事務所に所属し、その後はネットや地下アイドル界隈を中心として活動をしてきた。
高校生の頃、女としての肉体が成熟しつつある途上にグラビアアイドルとしてデビュー。当時は「Gカップ現役JKグラドル」として一部ネットで話題となり、イメージビデオや写真集も数本出している。
ティーンズ当時から熱心に応援しているファンもおり、ポートレート撮影会もそんな昔からの懇意にしている常連の為に、今でも月イチで開催しているのだ。
だが、グラビアアイドルの寿命というのは短いのが常である。
入れ替わりが激しく、「若さ」こそが絶対的正義であるこの業界において、俗にアラサーと呼ばれる年齢に差し掛かる千亜希は、今後の活動を如何とするべく選択を迫られる岐路に立たされていた。
8
所属事務所の応接室。
タレント事務所、という華々しい表看板とは裏腹に、裏路地の雑居ビルのワンフロアに構えたこのオフィスは、元グラドル事務所のマネージャーだった社長が社員数名だけを引き連れて独立した小さな個人事務所だ。
千亜希はそこの応接室で、社長と自身のマネージャーと三名で「彼女の今後」を話し合っていた。
「とても言いづらいのだけど……」
社長は開口一番、アイドルにとって残酷な、だが避けては通れない「業界の闇の部分」に言及した。
「前からAVメーカーのオファーが千亜希に来ている。それも数社からね」
「え……AVですか……」
千亜希は驚きつつも、内心「ついに来たか」という半ば諦観にも似た冷静な心境だった。
知り合いのグラドルにもその道を辿った人はいた。
事務所に借金があったり、起死回生の話題作りであったり、そもそも初めからAVデビュー有りきで、箔付けの為に申し訳程度のグラドル活動をしていた者など、その理由は様々だ。
だがそれは一大決心である。
艶やかな衣装を纏って、あくまでも体裁的にはアーティスティックに誌面を飾るグラビアアイドルと、尊厳ある人間として最大の秘め事であるべき性行為をカメラの前で映像として残し販売するAVとでは、同じ「肌を見せる仕事」でも極めて大きな隔たりがある。
千亜希自身、この話が自らに舞い込んできた時が、グラドルとしての潮時であると考えていた。
「……私はAVに出るつもりはありません。昔からの私を応援してくれている、今いるファンを裏切りたくはないですし……」
「うーん……千亜希の仕事に対する想いは理解しているが、事務所としても現状以上のバックアップは難しくてね」
社長は白髪混じりの短いあごヒゲを摩りながら、煩悶するように目を細めて唸るが、その本心は千亜希も分かっている。
デビューから世話になっている事務所の社長やスタッフには恩義も感じているし、何より千亜希自身にも愛着はある。
ただ、やはり「自分の今後の人生」を考えた時、グラビア以上の露出は選択肢には無かった。
提案こそするものの、一歩踏み込んで無理強いをしないのは、千亜希を可愛がってきた社長として、せめてもの親心だろうか。
だが、千亜希自身のグラドルとしての才能と商品価値を誰よりも評価しているのもまた、この社長であった。
「まぁ、AVの話は置いといて……実はもうひとつ」
千亜希の前に差し出された一枚の契約書。
そこには、『DEEP LOVER』の文字があった。
「千亜希、キャットファイト……って知ってるか?」
9
〝El Dorado〟の開幕まで1週間──。
東京のベイエリアを一望できるタワーマンションの一室に、愛理の姿があった。
ここはケイの自宅であり、愛理は恭子に誘われてこの部屋を訪れていた。
「はぁ~……何度来ても溜め息しか出ないわ……なに?この宮殿みたいな家は」
恭子は呆れたような口調でぶっきらぼうに言うと、出迎えた家主より先にソファに身を投げた。
「宮殿?お姫様みたい?ありがと」
「ケイさん~…皮肉って分かりますぅ?こんな馬鹿げた家に独身女が一人で住んでるなんて、浮世離れにも程があるでしょ」
「ウチら結婚なんてしないでしょ、それとも恭子が貰ってくれるの?」
「たとえ結婚するとしてもアンタとだけはイヤ」
ケイと恭子は互いに憎まれ口を叩きながら、べーっと舌を出す。
「あらあら、お二人とも仲が良いですこと……」
そんないつもの調子の二人を白けた様子で見ながら、愛理はそそくさとキッチンでお茶を淹れる。
「お茶くらい言ったら淹れてあげるのに」
「家主さんには恭子とイチャつく前に気付いてほしかったわね?はいどうぞ」
愛理が手際よくそれぞれの紅茶をティーカップに注ぎ終わると同時に、三人はテーブルに着いた。
「ま、さっそく本題なんだけど……さ」
言いながら恭子はいそいそと、手荷物からとある写真集を取り出した。
表紙には黒のシースルーランジェリーを纏ってベッドに仰向けに寝転がり、こちらをアンニュイな表情で見つめる女性の姿。
愛理とケイもテーブルに身を乗り出してその写真集に視線を落とす。
「この写真集がどうかした?……恭子のオカズかしら?」
「なっ……違うし」
「冗談よ……グラビアアイドル?ごめんなさい、こういうの詳しくないのよね」
愛理は受け取った写真集をパラパラとめくりながら、ティーカップに口をつける。
恭子はニヤニヤとした視線を愛理に送りながら、もったいぶった口調で切り出した。
「その娘、どう思う?可愛いでしょ?」
「ん……まぁ……グラビアやるくらいだから容姿はそりゃ……」
「その娘ね……今度の愛理の対戦相手」
「ん"ッ!?ゲホッ!ゲホッ!……は……はぁッ!?このグラドルが!?」
10
恭子の言葉に、愛理は目を丸くする。
写真集を出すようなグラビアアイドルが、なぜEl Doradoの舞台に上がるのか?
「ちょーっと訳アリな感じでね……ま、愛理はいつも通り試合をしてくれればそれでいいから」
「訳アリ……って、ホストにハマって借金で首が回らなくてやむを得ず……みたいな?」
怪訝そうに眉を顰めながら、愛理は自ずと声のトーンを落とす。
「いや、彼女がというより……事務所がね」
「弱小芸能事務所が話題作りと小銭稼ぎでタレントを過激路線で売り込む……よくある話じゃない」
ケイは超然とした反応で一人うんうんと頷くと、2杯目の紅茶をカップに注ぐ。
「これ、本来は出場する人間に対戦相手の素性なんて伝えてないからね?愛理だから特別に言っただけで」
「そうだけど……なんか理由を聞いちゃうと気の毒に思えてきたわ。聞かなきゃよかった」
愛理は小さく溜め息を吐くと、写真集を閉じてテーブルに置き、暫し表紙の女性の顔を見つめる。
だが、再び顔を上げると恭子を睨んで語気を強めた。
「でも……どんな事情があってもEl Doradのステージに上がるなら、私は手加減なんてしないわよ?」
「……そりゃ当然」
愛理の言葉に、恭子も強く頷く。
「当たり前じゃない?向こうに引けない理由があるなら愛理にだってあるわよね?」
ケイも小さく笑いながら、愛理に視線を送る。
「もちろん!世間知らずのグラドルちゃんにこの愛理サマが現実の厳しさを教えてやるから……!」
「じゃあ、了解って事で……愛理復活のステージ、楽しみにしてるよ」
「任せといて、今までの愛理とはちょっと違うわよ?」
戦う理由。舞台に立つ意味。
敗戦で一度は失った存在意義を、愛理は再び取り戻す。
それは誰のためでもなく、己自身のため──。
「ひと味もふた味も違う私の戦い、みんなに見せてあげるっ❤︎」
「あの娘たちの調子はどうかしら?」
スパンコールを散りばめたような摩天楼の眩しい輝き。
壁一面のガラス窓から都心の夜景を一望できる、シティホテルの最上階の一室に、史織と夏樹の姿はあった。
「久美と……あと何名かで日替わりの調教をしているカンジ。はるかも綺羅も、肉体の感度は凄まじく上昇してる……ただ」
「ただ……?」
「綺羅の精神はまだまだ折れてない……気が狂うような絶頂にイキ悶えながら、泣きじゃくりながら、小便まで垂れ流しながら……それでも首を縦には振らない……あの女の心を支えているのは……」
「もちろん〝愛理〟……でしょ?」
「……」
夏樹の言葉に被せるように史織は言った。
「あ~❤︎羨ましいわ……女同士の友情、信頼、深く繋がる愛、愛、そして愛……あははっ!眩しいくらいに輝いてる……❤︎」
史織はわざとらしく溜息をついて、ソファの背もたれに身体を預けて天井を見上げた。
(全部グッチャグチャに踏み潰して、ゴミみたいに蹴散らしてあげる。ARISA……アンタの大切なもの……そして……私たちの〝大切だったもの〟も……ね)
2
時を同じくして、史織の事務所……。
ヴヴヴヴヴヴ……
「ん"~~~ッ!?❤︎ん"ォォッ!❤︎」
「ほォッ!?❤︎んむゥゥゥッ~~ッ!?❤︎」
打ちっぱなしのコンクリート壁の部屋に、2人の女のくぐもった嬌声が響き渡る。
赦しを請う言葉は口に嵌められた真っ赤なボールギャグに遮られ、家畜のような唸り声と共に、飲み下す事が叶わなかった唾液の糸がダラダラと顎先から首へと淫らに輝いて垂れ落ちる。
女はどちらとも全裸に剥かれ、黒い革製のボディハーネスで四肢と胴体をキツく緊縛されており、直立したまま背中合わせにハーネスの各部に取り付けられた金具同士を結合されて身動きが取れずにいる。
テラテラと愛液に黒光りする極太の双頭ディルドが、ピンクに露出した互いの秘部に根深く挿入されており、勃起した陰核には強振動のピンクローターをあてがわれ、1ミリも動かない程テーピングで厳重に貼り付けてある。
萎えることのない極太の張り型と2つの無機質なモーター音は、女たちの意思や肉体的限界など知る由もなく、ただ終わることのない責め苦を淡々と与え続ける冷徹な処刑具と化す。
内から外から女の弱点を虐められ、女たちは身を捩りながら必死に両脚を踏ん張って快感に耐える。
だが執拗な責めにすっかり熟れ滾った肉壺は、互いの僅かな身の震えさえも敏感に伝導し合う程に、もはや限界を超えていた。
3
「はるかちゃん、綺羅ちゃん、どっちが先にイッちゃうかな~?」
赤いオーバルフレームの眼鏡の奥の目が残酷に嘲笑う。
10日前から、久美は史織の命を受け、はるかと綺羅の性感調教を開始していた。
初めは綺羅一人に対して直接的接触での調教を試みたが、のちに五感的興奮とその相乗効果とを期待してはるかをプレイに投入し〝マゾ同士の快楽の共鳴〟を試みたのだ。
果たしてその効果は「想像以上」だったと言えるだろう。
すでに完成された愛奴であったはるかの乱れ狂う姿に触発され、綺羅の隠していた(綺羅本人は隠し通したかったであろう)被虐願望が俄かに輪郭を見せつつあった。
調教にあたり、強い嫌悪の意志と激しい抵抗を見せていた綺羅だったが、はるかへのハードな調教を眼前に見せつけてやると、顔では眉を顰めながらも肉体の火照りと荒い息遣いの反応……。
やがて久美は調教に対して従順に従うはるかには「セックスの快楽」を、反抗する綺羅には情け容赦のない罵倒、そして「苦痛を伴う性的折檻」を与え、両者への対応に徹底的した差別化を図った。
救済など望めない、閉ざされた空間で確立された「絶対的な主従関係」は、綺羅のプライドと忍耐力を徐々に、しかし確実に削り取る。
4
やがて変化が訪れたのは調教7日目の事。
久美が調教部屋へ入ると、綺羅は疲弊した身体をヨロヨロと揺らしながら四つん這いのまま久美の足元に躙り寄ると、三つ指を立てて冷たいコンクリートの床に額を付けた。
「ひぐッ……久美様……ぐすッ……お願いします……綺羅にも……はるかと同じ……同じ調教を……ッ」
肩を震わせて嗚咽混じりに、消え入るような声で慈悲を懇願する綺羅。
「ん~?いきなりどういう風の吹き回しかな~?……ふふッ、はるかが羨ましくなっちゃった?❤︎」
久美は綺羅の下げた頭を右足で踏みつけた。
ミシッ……ミシッ……
乗せた足にゆっくりと体重を掛けると、綺羅は言葉にならない悲鳴を上げる。
「ぎッ!?ひッ……痛ッ……!!」
「散々反抗したクセに、辛くなったらあっさり媚びを売るの?アンタ根っからの奴隷根性ね?」
嘲笑を受けても、もはや綺羅には抗うという選択肢も無い。
ただこの空間における「絶対強者」に服従する……それだけが生き延びる為の唯一の方法……。
「じゃあ綺羅、貴女なりの誠意……見せてもらおうかしら?」
久美は仁王立ちで綺羅の前に立ち、つま先で綺羅の頭を小突く。
「……ッ」
綺羅がゆっくり顔を上げると、久美の股間には革のベルトで固く装着されたペニスバンドの張り型が雄々しくそそり立っていた。
5
「はるかを可愛がる為に着けてきたペニバンだけど……いいわ、綺羅がその気にさせてくれたらアンタに挿入てあげるっ❤︎」
久美がそう言い終わるのが先か、綺羅は眼前のペニスに勢いよくしゃぶりついた。
「んむッ!!❤︎んふゥゥゥッ❤︎」
ジュルルッ❤︎グポッ❤︎グポッ❤︎ズルルルッ❤︎
舌を動かし、頬を窄め、唇を捲れ上がらせて頭を激しく前後にピストンする綺羅。
白く泡立った粘性の唾液が口からみるみる溢れ、ボタボタと垂れ落ちて久美の足元に液溜まりを作る。
「ふーッ❤︎ふーッ❤︎……お"ェ"ッ!?ブフッ❤︎ジュルッ❤︎……ごふッ!!」
深く咥え込み、何度も喉奥でえずきながら、血走った眼で一心不乱に奉仕する綺羅。
目の前の「主人」の寵愛を受ける為、はるかよりも優れた「雌奴隷」であることを証明する為……。
その為には、なり振り構わずただひたすらに、この女に媚びなければならない。
媚びて認められなければ、この空間において私の価値は無い。
「んん~❤︎いい姿ね綺羅❤︎チンポ欲しくても必死に我慢してたのに、もうそれも限界みたいね?」
「チュポンッ❤︎……は、はぃ……もう……我慢できません……私のおマンコ……ぶっといおチンポでいぢめてください……❤︎」
潤んだ瞳で、上目遣いに久美を見つめる綺羅。
健気に振る舞い、久美の加虐心を精一杯煽る。
「ふふッ❤︎そう?……なら……」
久美が指で綺羅の背後を指す。
「後ろを向け」の合図だ。
綺羅は小さくコクリと頷くと、膝をついたまま後ろを向き、四つん這いで尻を久美に突き出した。
「はぁッ❤︎はぁッ❤︎はぁぁ……❤︎」
待ち焦がれたセックスの快楽。はち切れそうなほどの性欲を内包した肉体を、今まさに力のままに弄ばれる期待と興奮。
剥き出しに晒された陰裂と肛門に、久美の情欲の視線を痛いほど感じる。
だが──。
「おっ、お願いします……❤︎」
「あはっ❤︎……綺羅……」
いじらしく腰を左右に動かす綺羅に、久美は残酷な言葉を投げかけた。
「これでもう……愛理のことなんて、すっかり忘れちゃえるわね?」
「……!」
6
(あ……愛理……?)
綺羅の肩がピクンッ、と竦む。
(嫌……やめて……愛理のことは……!!)
史織の事務所に拉致されても、久美から度重なる折檻を受けても、決して心が折れなかったのは他でもなく……。
(ここで久美に服従するのは……でも……もう……)
頭に浮かぶ愛理との約束。
肉体が求める、快楽という麻薬。
その狭間で、綺羅の誇りという灯火が、音を立てて再び激しく燃え上がる。
それはまるで、消え入る直前の「最後の輝き」のような──。
「……」
言葉を投げかけて数秒、押し黙る綺羅の様子を見た久美は、能面の様に真顔であった。
そして、右膝を高く上げるとヒールの底で綺羅の尻を思い切り蹴り込んだ。
ガッ!!
「ひッ!?」
ドォッ
四つん這いの体勢を崩され、勢いよく腹ばいに倒れ込む綺羅。
床に強く打ちつけた右頬と蹴られた尻が鋭く痛み、期待が絶望へと変わる。
「……はるか、おいで」
「はいッ❤︎」
一部始終を黙って見ていたはるかは、横たわる綺羅の惨めな姿には一瞥もくれずに、真っ先に久美の足元に躍り出た。
「はッ❤︎はッ❤︎お願いしますッ❤︎おマンコもクソ穴も、準備できてますッ❤︎」
はるかは久美に指示されるまでもなくガニ股に開いて隠部を曝け出し、自らの指で濡れそぼった性器を掻きむしる。
息を上げ、目の焦点が泳ぎ、全身から汗が吹き出し、口元からヨダレが滴り落ちる。
完全に「キマッてる」状態だ。
久美はそのまま何も言わずにはるかの仕上がった陰裂にペニバンをあてがうと、躊躇いなく挿入した。
ズプゥゥッ……❤︎
「ほおおォォ──ッッ!?❤︎❤︎オチンポきたッ❤︎ズッポシきたッ❤︎久美様のぶっといオチンポきたァ──ッ❤︎❤︎」
空気を劈く様なはるかの叫び。
パンッ❤︎パンッ❤︎パンッ❤︎パンッ❤︎
「あひッ❤︎へぁッ❤︎おぉッ❤︎やべッ❤︎きもちいッ❤︎マンコッ❤︎モロにッ❤︎食らうッ❤︎すぐイグッ❤︎」
全身をガクガクと震わせ、白目を剥いて吠え狂うはるか。
「色情狂」を絵に描いたならば、まさしくこの様な痴態になるであろうという様な壮絶なセックス。
「そんな……待って……」
繋がり合う二人の足元に、綺羅がすがりつく。
「お願いしますッ!私にもセックスしてくださいッ!!つらいのッ!!もうセックスおあずけイヤッ!!」
「お"ォォ~ッ❤︎イグッ❤︎マンコイグッ❤︎奥の深いとこイグッ❤︎ヤベヤベヤベイグイグイグッ❤︎❤︎❤︎」
「だめッ!イクなッ!!私がイクのッ!!私のおチンポ返してッ!!!」
懇願の悲痛な叫びもはるかの絶叫に掻き消され、綺羅の存在を無視したまま、はるかは絶頂へと昇り詰めてゆく。
「イグッ!!!!❤︎ ❤︎ ❤︎」
プシャッ!プシャァァァッ!!
「いッ!?」
瞬間、はるかはグンッ、と力強く仰け反ると、めくれた陰裂から真正面に大量の潮を噴き出した。
それは跪く綺羅の顔面に直撃し、はるかが深い絶頂を享受したことを否が応にも認識させる。
ヌ……ポンッ❤︎
「はうッ❤︎」
突き刺されたペニバンが乱暴に抜かれると、はるかは先程までの狂乱が嘘の様に穏やかな顔でゆっくりとその場にへたり込んだ。
「……なん…で……」
はらはらと大粒の涙を流しながら、綺羅は満悦したはるかを見つめる。
久美は何も言わず、綺羅を侮蔑の目で一瞥すると、そのまま部屋を後にした。
7
都内某所の撮影スタジオ。
ポートレート撮影の現場で、レンズ越しの男たちの熱い視線を一身に受ける、赤いビキニ姿のたわわな肉感ボディの女性。
おどけたようなポーズではにかんだ笑顔をカメラに向けたかと思えば、扇状的な視線と妖艶な微笑、あるいは凛と澄ました眼差しで遠くを見つめてみたりと、シャッターを切る度に忙しなく様々な表情を覗かせる。
ファインダー越しに見る彼女は、ファンの理想を具現化する為にプロフェッショナルに徹する「偶像」だが、生身の彼女は天真爛漫で溌剌とした、どこにでもいる普通の「若い女の子」──。
だが、それこそが等身大の彼女の人間として最大の魅力であり、ネットアイドルというニッチジャンルで根強く支持を受ける理由でもあった。
彼女の名前は千亜希。年齢は20代半ば。
10代前半より主にティーンズファッション雑誌のモデルとして事務所に所属し、その後はネットや地下アイドル界隈を中心として活動をしてきた。
高校生の頃、女としての肉体が成熟しつつある途上にグラビアアイドルとしてデビュー。当時は「Gカップ現役JKグラドル」として一部ネットで話題となり、イメージビデオや写真集も数本出している。
ティーンズ当時から熱心に応援しているファンもおり、ポートレート撮影会もそんな昔からの懇意にしている常連の為に、今でも月イチで開催しているのだ。
だが、グラビアアイドルの寿命というのは短いのが常である。
入れ替わりが激しく、「若さ」こそが絶対的正義であるこの業界において、俗にアラサーと呼ばれる年齢に差し掛かる千亜希は、今後の活動を如何とするべく選択を迫られる岐路に立たされていた。
8
所属事務所の応接室。
タレント事務所、という華々しい表看板とは裏腹に、裏路地の雑居ビルのワンフロアに構えたこのオフィスは、元グラドル事務所のマネージャーだった社長が社員数名だけを引き連れて独立した小さな個人事務所だ。
千亜希はそこの応接室で、社長と自身のマネージャーと三名で「彼女の今後」を話し合っていた。
「とても言いづらいのだけど……」
社長は開口一番、アイドルにとって残酷な、だが避けては通れない「業界の闇の部分」に言及した。
「前からAVメーカーのオファーが千亜希に来ている。それも数社からね」
「え……AVですか……」
千亜希は驚きつつも、内心「ついに来たか」という半ば諦観にも似た冷静な心境だった。
知り合いのグラドルにもその道を辿った人はいた。
事務所に借金があったり、起死回生の話題作りであったり、そもそも初めからAVデビュー有りきで、箔付けの為に申し訳程度のグラドル活動をしていた者など、その理由は様々だ。
だがそれは一大決心である。
艶やかな衣装を纏って、あくまでも体裁的にはアーティスティックに誌面を飾るグラビアアイドルと、尊厳ある人間として最大の秘め事であるべき性行為をカメラの前で映像として残し販売するAVとでは、同じ「肌を見せる仕事」でも極めて大きな隔たりがある。
千亜希自身、この話が自らに舞い込んできた時が、グラドルとしての潮時であると考えていた。
「……私はAVに出るつもりはありません。昔からの私を応援してくれている、今いるファンを裏切りたくはないですし……」
「うーん……千亜希の仕事に対する想いは理解しているが、事務所としても現状以上のバックアップは難しくてね」
社長は白髪混じりの短いあごヒゲを摩りながら、煩悶するように目を細めて唸るが、その本心は千亜希も分かっている。
デビューから世話になっている事務所の社長やスタッフには恩義も感じているし、何より千亜希自身にも愛着はある。
ただ、やはり「自分の今後の人生」を考えた時、グラビア以上の露出は選択肢には無かった。
提案こそするものの、一歩踏み込んで無理強いをしないのは、千亜希を可愛がってきた社長として、せめてもの親心だろうか。
だが、千亜希自身のグラドルとしての才能と商品価値を誰よりも評価しているのもまた、この社長であった。
「まぁ、AVの話は置いといて……実はもうひとつ」
千亜希の前に差し出された一枚の契約書。
そこには、『DEEP LOVER』の文字があった。
「千亜希、キャットファイト……って知ってるか?」
9
〝El Dorado〟の開幕まで1週間──。
東京のベイエリアを一望できるタワーマンションの一室に、愛理の姿があった。
ここはケイの自宅であり、愛理は恭子に誘われてこの部屋を訪れていた。
「はぁ~……何度来ても溜め息しか出ないわ……なに?この宮殿みたいな家は」
恭子は呆れたような口調でぶっきらぼうに言うと、出迎えた家主より先にソファに身を投げた。
「宮殿?お姫様みたい?ありがと」
「ケイさん~…皮肉って分かりますぅ?こんな馬鹿げた家に独身女が一人で住んでるなんて、浮世離れにも程があるでしょ」
「ウチら結婚なんてしないでしょ、それとも恭子が貰ってくれるの?」
「たとえ結婚するとしてもアンタとだけはイヤ」
ケイと恭子は互いに憎まれ口を叩きながら、べーっと舌を出す。
「あらあら、お二人とも仲が良いですこと……」
そんないつもの調子の二人を白けた様子で見ながら、愛理はそそくさとキッチンでお茶を淹れる。
「お茶くらい言ったら淹れてあげるのに」
「家主さんには恭子とイチャつく前に気付いてほしかったわね?はいどうぞ」
愛理が手際よくそれぞれの紅茶をティーカップに注ぎ終わると同時に、三人はテーブルに着いた。
「ま、さっそく本題なんだけど……さ」
言いながら恭子はいそいそと、手荷物からとある写真集を取り出した。
表紙には黒のシースルーランジェリーを纏ってベッドに仰向けに寝転がり、こちらをアンニュイな表情で見つめる女性の姿。
愛理とケイもテーブルに身を乗り出してその写真集に視線を落とす。
「この写真集がどうかした?……恭子のオカズかしら?」
「なっ……違うし」
「冗談よ……グラビアアイドル?ごめんなさい、こういうの詳しくないのよね」
愛理は受け取った写真集をパラパラとめくりながら、ティーカップに口をつける。
恭子はニヤニヤとした視線を愛理に送りながら、もったいぶった口調で切り出した。
「その娘、どう思う?可愛いでしょ?」
「ん……まぁ……グラビアやるくらいだから容姿はそりゃ……」
「その娘ね……今度の愛理の対戦相手」
「ん"ッ!?ゲホッ!ゲホッ!……は……はぁッ!?このグラドルが!?」
10
恭子の言葉に、愛理は目を丸くする。
写真集を出すようなグラビアアイドルが、なぜEl Doradoの舞台に上がるのか?
「ちょーっと訳アリな感じでね……ま、愛理はいつも通り試合をしてくれればそれでいいから」
「訳アリ……って、ホストにハマって借金で首が回らなくてやむを得ず……みたいな?」
怪訝そうに眉を顰めながら、愛理は自ずと声のトーンを落とす。
「いや、彼女がというより……事務所がね」
「弱小芸能事務所が話題作りと小銭稼ぎでタレントを過激路線で売り込む……よくある話じゃない」
ケイは超然とした反応で一人うんうんと頷くと、2杯目の紅茶をカップに注ぐ。
「これ、本来は出場する人間に対戦相手の素性なんて伝えてないからね?愛理だから特別に言っただけで」
「そうだけど……なんか理由を聞いちゃうと気の毒に思えてきたわ。聞かなきゃよかった」
愛理は小さく溜め息を吐くと、写真集を閉じてテーブルに置き、暫し表紙の女性の顔を見つめる。
だが、再び顔を上げると恭子を睨んで語気を強めた。
「でも……どんな事情があってもEl Doradのステージに上がるなら、私は手加減なんてしないわよ?」
「……そりゃ当然」
愛理の言葉に、恭子も強く頷く。
「当たり前じゃない?向こうに引けない理由があるなら愛理にだってあるわよね?」
ケイも小さく笑いながら、愛理に視線を送る。
「もちろん!世間知らずのグラドルちゃんにこの愛理サマが現実の厳しさを教えてやるから……!」
「じゃあ、了解って事で……愛理復活のステージ、楽しみにしてるよ」
「任せといて、今までの愛理とはちょっと違うわよ?」
戦う理由。舞台に立つ意味。
敗戦で一度は失った存在意義を、愛理は再び取り戻す。
それは誰のためでもなく、己自身のため──。
「ひと味もふた味も違う私の戦い、みんなに見せてあげるっ❤︎」
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