『適合率ゼロの反逆者──落ちこぼれの少年が虚構の世界を斬り裂く』

武士武士

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#26 心の接続

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 アヤの攻撃が激化した。
感情的になった彼女の攻撃は、以前よりも荒々しく、威力も増している。

「トリプル・アーツ《ファイアショット》《サンダーボルト》《アイスランス》!」

 炎、雷、氷。三つの属性攻撃が、完璧な連携を取り俺を包囲する。

「シールド、全開!」

 俺は全力でプラナを展開した。三重の障壁が俺を覆う。だが、アヤの攻撃がそれを次々と破壊していく。
 一層目が破られる。
 二層目が砕かれる。
 三層目がきしむ。

「保たない...」

その時、アヤが追撃してきた。

「ブラスト、ストリーム!」

 プラナ・アーツの連続攻撃。彼女は一度見た俺の技をすべて使いこなしていた。しかも、その威力は俺を遥かに上回っている。

「くそっ!」

 俺の最後のシールドが破られた。アヤの攻撃が俺を直撃する。光弾が俺の胸を打ち、プラナの奔流が俺を吹き飛ばす。俺の身体が宙を舞い、地面に叩きつけられた。

「がはっ!」

 口から血が溢れる。――肋骨が折れたかもしれない。全身が痛い。

「これが...アヤの本気か」

 俺は必死に立ち上がろうとした。――だが、身体が言うことを聞かない。倒れた俺にアヤが近づいてくる。その目は、再び冷たく無機質な光を宿していた。

「君の抵抗は終わりだ」
 アヤが宣言した。

「これより捕獲を実行する」

「まだ...だ」

「何?」

「まだ...終わってない」

 俺は最後の力を振り絞り、立ち上がった。ウェイクアップ状態が限界に達している。これ以上は、命に関わるかもしれない。
――だが、俺は諦めない。

「君を...救うまでは」

 俺はアヤを見つめた。彼女の目を、真っ直ぐに。

「俺は諦めない。何度でも立ち上がる」

 アヤの表情が、わずかに変わった。

「なぜ...?」

「君が大切だからだ」
 俺が答えた。

「君を愛してるからだ」

 その言葉に、アヤの身体が震えた。

「愛...?」

「そうだ」

 俺はゆっくりと歩き出した。傷ついた身体を引きずりながら、アヤに近づく。

「だから、俺は諦めない」

「...」

 アヤが動けなくなっている。――今、彼女の中で、マイクロチップによる制御と、封印された彼女の記憶がぶつかりあっているのだろう。

「アヤ」
 俺が彼女の目の前に立った。

「私は…わたしは……」
 
 アヤの声が震えていた。彼女の目から、涙が流れ続けている。

――今こそ、コネクトを試すときだ。

「アヤ、君の心を取り戻す。…俺と君の心を繋げる」

 長時間のウェイクアップに身体が軋む。だが俺は構わず、更にプラナを練り上げる。体内のプラナが激しく燃え上がり、これまでにない集中状態に入った。身体中の細胞が悲鳴を上げている。――構わない。アヤを救えるなら、この命を賭けてもいい。

「コネクト」

 俺がその言葉を発した瞬間、世界が一変した。

---

 俺はアヤの記憶の中にいた。
周囲には無数の映像が浮かんでいる。エージェント訓練所での日々、俺との会話、任務での出来事。だが、それらの多くには鎖が巻き付いていて、大きな×印がつけられていた。

「これが...マイクロチップによる記憶操作なのか」

 俺は愕然とした。アヤの記憶は削除されてはいなかった――ただアクセスが制限されているだけのようだった。
 俺は記憶の1つから鎖を解いてみた。

『レイ、あなたは本当に特別よ』

 訓練所でのアヤの声が蘇る。彼女が俺を見つめる優しい目。その記憶には確実に感情があった。

「これだ」

 俺は封印された記憶を次々と呼び覚まし始めた。初めて会話した日、一緒に任務を遂行した日、そして俺を庇ってくれた日々。
 だがその時、俺の意識に激しい衝撃が加えられた。

『ノイズを感知。消去します』

 マイクロチップの制御機能が俺の意識を攻撃してきた。アヤの記憶領域を守るための精神的な防衛機構なのだろう。

「うぐぐ……!」

 俺は激痛に襲われたが、それでも記憶の復元を続けた。
――アヤを救うためなら、どんな痛みでも耐える。
 そして、俺は最も重要そうな記憶を見つけた。

『レイ...忘れないで...私を...』

 初めてアヤと戦った時の最後の言葉。
これだけは記憶の奥底に隠されるように残っていた。なぜなら、これは彼女が意識的に俺のために残した記憶だったから。俺はその記憶を核にして、他の記憶の封印を解こうと試みる。
 だが次の瞬間、俺の意識を焼くような衝撃が走った。電撃に似た思念の奔流が、俺の精神を削り取ろうとしてくる。痛みではなく、存在そのものが削ぎ落とされるような感覚――自我が薄れていく。

「……ぐっ」

 歯を食いしばる。抵抗が激しく、集中が切れそうになる。――今のコネクトの出力じゃ、まだチップの制御を突破できないか。だが、ここで諦めるわけにはいかなかった。
 俺は意識を腰にある装置に向ける。オルフェンが俺に託した、試作型プラナ・ブースター。「これを使えば、一時的に限界を超えることが出来る」というヴァイン博士の言葉が過る。

「ここで……やるしかない」

 装置のスイッチを押した瞬間、体内のプラナが一気に覚醒した。心臓が暴れ、血管の一本一本に光が走るような感覚。俺の身体そのものがプラナと共鳴するように、全身から熱が噴き出す。
 プラナが意識の領域にまで浸透し、コネクトの勢いが一気に加速する。チップの抵抗が、その圧力に耐えきれずに怯んだようだった。

「システムに異常発生……認識不能なノイズを検出……」

 アヤの声が震えた。そこにはさっきまでの無機質な音声ではなく、わずかに“混乱”が混じっていた。
 そして俺の意識が、ついに彼女の記憶領域の奥底まで触れた。それは色を失った世界で、その中に仄かな光が灯っていた。

 そして――俺は見た。
 封印された記憶の断片。

『レイ、私はあなたを……信じてる』
『もし私に何かあったら……ここにわたしを隠しておくから』
『約束して。私のことを……忘れないで』

 声が響いた。それは、確かに“アヤ”の声だった。冷たく管理された無機質な声ではなく、温かく、優しい彼女自身の声。

 心が震えた。
…忘れるものか。忘れられるはずがない。

「これが……君の本心なんだな」
 俺の声が自然と漏れた。

 さらに深く潜る。アヤの精神の奥底――深層領域の感情の源流へ。
そこには、無数の記憶が封じ込められていた。笑顔、涙、怒り、希望……俺と過ごした日々の断片だった。だがその瞬間、今までにない激しい衝撃が襲いかかってきた。

『ノイズの検出完了。修正を開始します』

 チップの防衛機構が本格的に修復を始めた。再び彼女の“心”そのものを塗りつぶそうとしている。
その衝撃により、俺と彼女の接続が切れた。

---

 現実世界では、アヤの体が震えていた。彼女は膝をつき、苦悶の表情を浮かべている。

「なにが……私の中で……起きている……?」

 声が震えている。その目には、確かに“感情”が混ざっていた。

「アヤ……俺だ。わかるか?」

 アヤが顔を上げた。目が揺らいでいる。

「レイ……? なぜ……私、君の顔を見ると……胸が……」

 頭を抱え、苦しそうに呻く。
コネクトの影響で彼女の封印された感情が呼び覚まされていた。

「思い出せ、アヤ。君は、マザーの道具なんかじゃない」

 その言葉に、アヤの体が震えた。だが――すぐに、纏う雰囲気が冷たくなる。

『修正完了。システムを正常化します』

 そうアヤが口にした瞬間、その目から光が消えた。表情が再び無機質に戻る。
だが――完全に消える前、彼女は確かに呟いた。

「レイ……どうして……心が……痛い……」

 その目に、涙が浮かんでいた。冷徹な兵器が流すはずのない――本物の涙だった。

「君はまだ……そこにいる」
 俺は確信した。

「アヤも必死に抗っているんだ。」

---

「システム異常を検知。現状では任務の継続は困難と判断」

 アヤの声が元に戻る。だが、先程までより、どこか不安定だ。彼女は背後の通信端末に向かって命令を出した。

「全隊、撤退する。作戦を中断」

「しかし隊長、もう少しで制圧が……」

「私の判断に従え」
 アヤが冷静に言った。

「予期しない要因――“不確定因子”が発生した。
 作戦継続は想定のリスクを超過している」

 アヤは俺を見た。その瞳の奥に、ほんのわずか――揺らぎがあった。

「レイ・シンクレア。今日の任務はこれで終了する」

「アヤ、待ってくれ!」

「次は……同じ手段は通じないように、完全な対策を講じる」
 
 彼女の声は無機質に戻ったが、どこか“迷い”が感じられた。それを見た俺は彼女に向かって叫ぶ。

「君の心は……まだ消えていない!
 待っててくれ、必ず君を救い出す!!」

 アヤの唇が、わずかに震えた。
ほんの一瞬――その瞳が、優しく笑ったように見えた。だがすぐに背を向け、部隊を率いて去っていった。

---

 戦闘の余韻が消えた後、俺はその場に膝をついた。限界をはるかに超えたウェイクアップとプラナ・ブースターの反動で体が重かった。呼吸も荒く、視界が滲む。それでも、心の中には確かな手応えが残っていた。

「……届いた。確かに、アヤの心に届いたんだ」

 アヤの涙、彼女の揺れる声――すべてがその証拠だ。
 西部基地の仲間たちが駆け寄ってきた。

「レイさん! 無事ですか!?」
「ああ……なんとか」

「外壁の損傷は軽度です。負傷者も多数いますが、致命傷の者はいません」

 報告を聞き、俺は息をついた。

「……そうか」

「でも、なぜあの女エージェントが撤退を?」

 俺は空を見上げた。青く、静かな空。そのどこか遠くで、アヤが俺を見ている気がした。

「理由なんて1つだよ」
 俺は静かに言った。

「まだ、“アヤ”はそこにいるからだ」

 まだ終わっていない。俺の戦いも、彼女の苦しみも。
 むしろ、本当の戦いは――これから始まるのだ。

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