34 / 47
#34 最初の集会
しおりを挟む水面下で多層ネットワークを立ち上げてから、1週間が経った。表面上は平穏な日々。だが、街の空気はどこか張りつめている。笑い声はだんだんと減り、誰もが逸脱する動きをすることもなく、当たり障りのない会話をする。――まるで、自由というものが少しずつ削り取られていくような日々だった。
その日の午後。俺は図書館の奥、使われなくなった閲覧室で開催される“初めての読書会”に参加していた。古い木の机と、壁一面の書棚。かすかな紙の匂いが漂う。
「皆さん、お忙しい中お集まりいただき、ありがとうございます」
白髪混じりのトーマス館長が穏やかに開会の挨拶をする。
参加者は7人。中学校の国語教師ルーシー、病院の看護師ベティ、書店員のマイケル。そして元芸術家のエドワードに、司書のマリアと俺。年齢も職業もバラバラだが、どこか皆、同じ不安を抱えているように見える。
マリアが一冊の古びた詩集を机に置いた。
「今日は『自由への讃美歌』という詩集を題材にしたいと思います」
そのタイトルを聞いた瞬間、空気がわずかに震えた。
「懐かしい本ですね」
エドワードがそれを見て感慨深く言った。
「若い頃、よくこの詩を口ずさんだものです」
「今読み返すと、どう感じられますか?」
ルーシーが問いかけると、エドワードは沈黙したまま、ゆっくりと本を開いた。
「……昔はただ、美しい言葉の並びだと思っていた。
だけど今は違う。どこか、切ない」
「切ない?」
ベティが小首をかしげる。
「この詩に描かれた“自由を求める心”が、今の自分たちには遠すぎる気がしてね」
室内がしんと静まり返った。皆、その言葉にうなずくこともできず、ただ互いの顔を見つめていた。
---
「……では、『囚われた鳥』の詩を読んでみましょう」
俺が促すと、マリアが朗読を始める。
『金の籠の中で/美しく歌う鳥よ
されど君の魂は/青い空を恋い慕う』
短い詩。けれど、何度聞いても胸の奥を震わせるほどの響き。
「まるで……私たち自身のようですね」
「どういう意味ですか?」
書店員のマイケルがつぶやきに、ルーシーが尋ねた。
「毎日、与えられた仕事をして、同じような会話をして……
それで“幸せ”だと自分に言い聞かせている。でも本当は――」
ベティが静かにうなずいている。
「私の病院の患者さんたちも、そんな感じです。
体は健康なのに、目の奥に光がない。まるで、感情を失ったみたいで」
「芸術の世界でも同じですよ」
そう言うエドワードの表情は不満そうだった。
「以前は絵に魂が宿っていた。今は……まるでコピーのような作品ばかりです」
「それは、誰もが“感じる”ことを許されなくなっているからかもしれません」
皆の話を聞いていた俺は、思わずそう口にしていた。静かな空間に、少しだけざわめきが走った。
そうして会話が進むにつれ、皆の声が少しずつ熱を帯びていく。最初は恐る恐るだった発言が、やがて何かに確信を持つように変わっていった。
「……最近、教育方針に違和感を感じています」
「どんな点ですか?」
意を決したルーシーが口を開くと、トーマスが優しく続きを促す。
「『個性を抑えることが協調性につながる』――そう指導されているんです。
でも、それって本末転倒じゃありませんか?
本当の教育は、子どもが自分らしく生きる力を育てることなのに」
「わかります」
マイケルが頷く。
「書店でも、多様な本を求める人が減ってきた。“正解のある本”ばかりが売れるんです」
「病院でも同じですよ」
ベティが言葉を重ねた。
「悲しいときに泣けない患者さんが増えています。まるで、感情を押し殺すことが美徳のようで……」
俺は少しだけ笑ってみせた。
「それに違和感があるということは、皆さんに“人間らしさ”が残っている証拠ですよ」
「人間らしさ……」
ルーシーが目を見開いた。
「そう。怒ったり、泣いたり、笑ったり――それがあるからこそ、心は生きているんです」
エドワードが、机を軽く叩いた。
「その通りだ!芸術も文学も、すべては人間の感情から生まれる。
もしそれを奪われたら、私たちはただの機械と同じになってしまう!」
静かな拍手が起きた。小さな読書会だが、そこにいる全員に確かな連帯感が広がっていく。
---
2時間が過ぎ、会は終わりを迎えた。皆が名残惜しそうに本を閉じる。
「今日は、心が少し軽くなった気がします」
「こんなに自由に話せたのは、何年ぶりだろう」
そういうベティの表情は、ここに来た時より明るくなっていた。それにマイケルも微笑んで同意する。
「来月も同じ時間に集まりましょう。
次回のテーマは――『心の自由』でいかがですか?」
トーマスの提案に、全員が笑顔で頷く。そして終わったあと、ルーシーがそっと俺の元へ寄ってきた。
「あの……もしよければ、学校の同僚にも声をかけてみたいんです」
「どんな方ですか?」
「私と同じように、今の教育に疑問を感じている先生たちです」
「信頼できる方なら、ぜひ。
でも焦らずに、まずは少人数で始めてみてください。大切なのはきちんと対話する事です」
ルーシーの瞳に、静かな決意の光が宿っていた。
---
翌日、俺はエミリー・ボイルの家を訪れた。
「子供の心を大切にする親の会」――その記念すべき初会合の日だ。柔らかな午後の日差しが、レースのカーテン越しに差し込む。小さな居間には、エミリーを含め5人の母親たちが集まっていた。
「皆さん、お忙しい中ありがとうございます」
エミリーが微笑んで頭を下げる。だが参加者の顔には疲労と不安がにじんでいた。けれど、その奥には“何かを取り戻したい”という強い意志があった。
「まずは自己紹介から始めましょうか」
最初に口を開いたのはアンナだった。
「6歳の娘がいます。学校で“感情を表に出してはいけない”と教えられているみたいで……
最近は家でも笑わなくなってしまいました」
次にジェニファーが続いた。
「うちの息子は、とても活発だったんです。
でも幼稚園に通い始めてから、まるで別人のように大人しくなって……」
3人目のキャロラインは、言葉を詰まらせながらも話し出す。
「娘が“ママ、泣いちゃいけないんだって”って言うんです。そんな教育、間違ってますよね……?」
最後のローラが、低く疑問を呈する。
「息子の担任に相談したら、“感情的になることは社会の迷惑”って言われました。
でも……それが本当に“正しい社会”なんでしょうか?」
母親たちの話を一先ず聞き終えて、俺は静かに息を吐いた。…想像していた以上に政府の“洗脳教育”は深く、巧妙に浸透していた。
子供の頃から感情を抑える訓練を受け続けた人間は、大人になっても自分の心を疑い、自由に考えることを恐れるだろう。それこそが、支配者にとっては最も都合の良い“従順な人間”の形だった。
「……皆さんの気持ち、とてもよく分かります」
俺は静かに言葉を発した。暖かく、けれど芯のある声で。するとアンナが不安そうに尋ねる。
「レイさんは……どう思われますか?
本当に、子供のためになる教育なんでしょうか?」
「俺は、そうは思いません」
その瞬間、5人の視線が一斉に俺へと向けられた。
「子供の感情は、成長にとって不可欠なものです。
泣くことも、怒ることも、笑うことも――全部“生きている証拠”なんです。
それを押し殺すなんて、自然の摂理に反している」
ジェニファーが目を潤ませた。
「やはり……そうですよね」
誰もが同じ不安を抱きながら、ずっと口にできずにいた。社会が“正しい”と言う声に逆らうことは、今の状況では政府への造反と取られかねない。だが、キャロラインが震える声で言った。
「でも、私たちに何ができるんでしょう? 学校では子供が抑制されてるのに……」
「それなら――せめて、家庭の中では自由にしてあげましょう。
学校で感情を押さえている分、家では思い切り泣いて、笑って、甘えられるように」
彼女に向かって、そうエミリーが穏やかに微笑む。それにローラが同意をして頷いていた。
「……それ、いいですね。家が、心の避難場所になる」
それを見ていた俺は、少しだけ慎重に言葉を添えた。
「ただし、子供たちには“これは家だけの特別なルール”だと伝えてください。
外では従来通りに振る舞わないと、先生や周囲に目を付けられます」
母親たちはすぐに理解した。この国では、“愛情”さえも注意深く扱わなければならないのだと。
---
母親たちの会合は、気づけば2時間を超えていた。小さな居間には紅茶の香りと、静かな熱気が満ちている。母親たちは次々と体験を語り合った。…育児の悩み、子供の笑顔が減った理由、そして、どうすれば心を守れるか。
「今日は、本当に有意義でした」
「同じ気持ちの人がいるなんて……」
アンナが涙ぐみながらの言葉に、ジェニファーも微笑む。エミリーが手帳を開き、言った。
「2週間後、また集まりましょう。
今度は“子供の心を育てる工夫”をテーマに」
全員が頷いた。その顔には、最初に見せていた不安の影はもうなかった。会が終わったあと、ローラが俺に声をかけた。
「あの……レイさん、他にもこうした集まりがあるんですか?」
「どういう意味でしょう?」
「実は、夫も最近、職場の変化に戸惑っているようで。
昔は皆で笑っていたのに、今は会話も減って……まるで、感情を失っていくみたいだと」
俺は興味深く聞き入った。
「ご主人は、どんなお仕事を?」
「工場で働いています」
――工場。俺の脳裏にトムの顔が浮かんだ。偶然とは思えない。
「もしかすると、そうした集まりを作ることも可能かもしれません」
俺の言葉に、ローラが目を見開く。
「本当ですか?」
「ええ。ただ、すぐではありません。少し時間をください」
彼女の表情に、希望の光が灯った。その光を見た瞬間、俺は確信した。
――市民たちの覚醒の輪は、広がり始めている。
---
その日の夕方、俺は労働者居住区の片隅にある小さな酒場を訪れた。薄暗い照明の下、金属製のカウンターには古びたグラスが並ぶ。外では遠く工場のモーター音が響いていた。
そこにはトムが先に来ていた。
「よぉ、レイ!こっちだ!」
これが彼の本来の姿なんだろう。俺は笑顔で席に着いた。
「例の集まりはどうでしたか?」
トムは待ってましたと言わんばかりに顔を輝かせた。
「思った以上に盛り上がったよ!みんな、同じことを感じてたんだ」
「どんな話を?」
「主に職場の変化についてさ。
ジェームズ――機械工を20年やってる男なんだけど、最近、職場が妙に“静かすぎる”って言うんだ」
「静かすぎる?」
「ああ。以前は仲間と冗談を言い合ったり、失敗を笑って済ませたりしてた。
なのに今は誰も口を開かない。まるで監視されてるみたいに」
トムの隣にいたクロエ――品質管理の責任者も同じ違和感を覚えていた。
「最近の製品が全部、同じデザインなんです。昔はもっと個性的だったのに。
効率化って名目で、創意工夫が全部削ぎ落とされている気がします」
トムがビールを飲み干し、言葉を続けた。
「そしてな、俺たちは同じ結論に達したんだ」
「どんな結論?」
「――職場から“人間らしさ”が消えつつあるってことだ」
俺は深く頷いた。その言葉は、この街全体に共通する病の名だった。
「ジェームズが提案してくれたんだ。“もう少し大きな集まりを作ろう”ってな。
同じように感じてる仲間を集めて、酒を飲みながら話し合おうって」
「良い案ですね」
「『労働者の親睦会』って名前にした。月に一度、ここの奥の部屋を借りる予定だ」
俺は微笑んだ。
「いいですね。ただ、くれぐれも慎重に」
いい感じだ。――自主的に流れが広がってきている。
---
翌日、基地に戻った俺は、オルフェンにすべてを報告した。
「順調だな」
オルフェンの低い声が響く。
「はい。参加者の反応は想像以上です。
彼らは、自分の違和感を初めて“言葉にできた”と感謝していました」
「孤立からの解放――人間が求めるものの一つだ」
オルフェンの言葉は重みがあった。
「それが芽吹けば、行動に変わる。次の段階は?」
「それぞれの集まりを安定させます。
自主的に動けるようになるまで、俺は裏方に徹します」
「よし。その後、各層のリーダーたちを繋げ。
知識層、家庭層、労働層――それらを1つに結びつける」
「2ヶ月以内に、ですか?」
俺がそう聞くと、オルフェンは短く息を吐く。
「気持ちは分かるが、焦るな。
時間はあまりないが、事を急ぎ過ぎれば発見される危険が高まる。あくまで自然に根を張らせろ」
俺はその言葉を胸に刻んだ。
---
夜。アジトの灯を落とし、窓の外に広がる街の光を見つめる。ビルの窓が、まるで無数の瞳のように並び、同じ光を放っている。そこには“個性”はない。だが、水面下では確かに違う灯がともり始めていた。
読書会――知識層が心の自由を求め始めた。
親の会――家庭の中で感情の温度を取り戻しつつある。
労働者の親睦会――人と人が再び“語り合う”文化を取り戻し始めた。
すべては小さな種にすぎない。だが、種はいつか芽を出し、いずれ森となる。
「まだ始まったばかりだ」
俺は小さく呟いた。
時間は限られている。だが、希望の芽は確実に成長していた。
――その芽を枯らさぬよう、気を付けなければ。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
借金5億で異世界転移、よりによって金本位制の世界だった
夜明け一葉
ファンタジー
32歳の個人トレーダー・佐藤慧は、5年間の雪辱を賭けたトレードで5億円の借金を抱え、意識を失った。目覚めると、そこは剣と魔法が存在する見知らぬ世界だった。常識が通じない異世界で、金貨を見るだけで嘔吐する「金アレルギー」を抱えながら、若き冒険者リナと出会い、生き延びる術を探し始める。諦めることだけができなかった男が、新たな世界で再び立ち上がる異世界サバイバル譚。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
アガルタ・クライシス ―接点―
来栖とむ
SF
神話や物語で語られる異世界は、空想上の世界ではなかった。
九州で発見され盗難された古代の石板には、異世界につながる何かが記されていた。
同時に発見された古い指輪に偶然触れた瞬間、平凡な高校生・結衣は不思議な力に目覚める。
不審な動きをする他国の艦船と怪しい組織。そんな中、異世界からの来訪者が現れる。政府の秘密組織も行動を開始する。
古代から権力者たちによって秘密にされてきた異世界との関係。地球とアガルタ、二つの世界を巻き込む陰謀の渦中で、古代の謎が解き明かされていく。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
『イージス艦長、インパール最前線へ。――牟田口廉也に転生した俺は、地獄の餓死作戦を「鉄壁の兵站要塞」に変える』
月神世一
SF
【あらすじ】
「補給がなければ、戦場に立つ資格すらない」
坂上真一(さかがみ しんいち)、50歳。
かつてイージス艦長として鉄壁の防空網を指揮し、現在は海上自衛隊で次世代艦の兵站システムを設計する男。
背中には若き日の過ちである「仁王」の刺青を隠し持ち、北辰一刀流の達人でもある彼は、ある日、勤務中に仮眠をとる。
目が覚めると、そこは湿気と熱気に満ちた1944年のビルマだった。
鏡に映っていたのは、小太りで口髭の男――歴史の教科書で見た、あの「牟田口廉也」。
しかも時期は、日本陸軍史上最悪の汚点とされる「インパール作戦」決行の直前。
部下たちは「必勝の精神論」を叫び、無謀な突撃を今か今かと待っている。
(……ふざけるな。俺に、部下を餓死させろと言うのか?)
現代の知識と、冷徹な計算、そして海自仕込みのロジスティクス能力。
すべてを駆使して、坂上(中身)は歴史への介入を開始する。
精神論を振りかざすふりをして上層部を欺き、現地改修で兵器を強化し、密かに撤退路を整備する。
これは、「史上最も無能な指揮官」の皮を被った「現代の有能な指揮官」が、確定した敗北の運命をねじ伏せ、数万の命を救うために戦う、逆転の戦記ドラマ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる