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3話 月夜
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クリスマスパーティーから数時間がたった。人も店も街も寝静まった頃。
1人の人間が街の裏路地を歩いていた。背の高さから、女性であろう。黒いローブのフードを目深に被り、人目を気にするようにしている。彼女が1歩足を進めると、コツンコツン……という音が静かな街に轟いた。
「やあ、フィー」
女に声をかけたのは、別の男であった。男の傍にはもう1人男がいる。2人ともローブを着ているが、片方は女と同じくフードを被っている。しかし片方はフードは被っておらず、銀色の髪をアメジストのような瞳、そしてその綺麗な顔を月の元に惜しげなく晒していた。
「調査は進んでる? フィー」
フードを被った男が問うた。
「まずまずだな。学園に関係者がいることは間違いないだろう」
女がフードを外し、その顔が月のあかりに照らされる。金色の髪にサファイアのような瞳、この世のものとは思えない美しい造形──それはオリヴィアの友人、フィオナであった。
「やっぱべっぴんさんだな。このフィーなら、俺全然抱ける」
銀髪の男がヘラヘラと笑いながら言った。フィオナは男を睨みつけ、スネに蹴りを入れた。
「いった…!? 少しは加減してくれよ……」
「レナード……君が悪いよ。普通に相手がフィーじゃなかったら、女の子、『気持ち悪い』ってなっちゃうからね……下手したらトラウマものだよ……」
「分かってるよ。フィーだから言ったんじゃん」
銀髪の男──レナードはスネをさする。
フィオナはおもむろにネックレスを外した。彼女の姿が徐々に変わっていく。気づけば彼女の姿は背の高い男性のものとなった。フィオナと同じく金色のサラサラとした髪にエメラルドのような瞳であった。その顔も本当に人なのか疑わしく思えるほど美しい。
「それぞれどうだったか、教えてくれ。レナード、どうだった?」
「地方での調査は何も進展なしだ。まったく反応がない。多分、ここには異世界魔法の痕跡はないだろう」
フィオナの問いにレナードが答える。
──異世界転移魔法。名の通り、異世界から物を転移させたり、逆にこちらから異世界へ物を転移させたりする魔法だ。この世界には異世界というものが存在する。基本的にこの世界では“異世界とは関わらない”というのがルールだ。異世界に関わると世界と世界の間に歪みが生まれ、この世界になかったはずのものや概念が生まれてしまったり、逆にこの世界にあったはずのものや概念が失われてしまったりすることがある。
最悪のケースは人の転移だ。異世界人が持ってきたものや概念が普及するだけならまだしも、大きな歪みが生まれる。
人を1人転移させると、この世界で「最初から存在しなかった」ことにされる人間が1人生まれると言われている。
魔道士たちの世界では、世の摂理を壊す、禁術とされている魔法だ。
「ただ……」とレナードが話を続ける。
「個人的に異世界魔法の探知をしてみたんだが……やっぱり王都と学園があやしい。だから、フィーとアランの方がなにか見つかるんじゃないか?」
レナードがちらっとフードの男──アランの方を見る。アランはフードを外した。漆黒の髪と淡い青色の瞳を持つ、優しげな顔立ちの男であった。顔は整っているが、中性的な容貌である。
「あやしいのはリッツ家、マルザール家、クリーンオッツ家、ライザル家、ミシュール家かな……とりあえず、該当の家にかかわらずレナードの魔法探知機を全伯爵家に仕掛けてきたよ」
「さんきゅー」
レナードが歯を出して笑う。そして、今度はフィオナの方に向かった。
「クリスマスパーティーはどうだったんだ? フィー」
「トラブルはあったが、異世界転移魔法の件についての手がかりはなにもなかった」
「そんな簡単に出てこないよなァ」
レナードが大きく欠伸をする。
「まあ、このまま突っ立って話してても、しゃあないし、どっか飲みに行かないか? 表にでたら酒場くらいは空いてるだろ」
「レナード……フィーはフラフラと遊べないだろ? 本当はお前だってフラフラ出歩いちゃいけない立場なんだから……」
「世の中経験だって。うちの父上も言ってるぜ」
「モルセット公はレナードに甘すぎる……」
アランが頭を抱える。レナードはアランの肩を叩いた。
「まあまあ。俺ら、もうすぐ親戚になるんだからさ。うちのオリヴィアとエドワードの結婚、来年だっけ?」
レナードの何気ない一言に、フィオナが「あ」と声を上げた。かなり大きな声だったので、その場に轟く。レナードとアランが怪訝な目で彼を見た。
「もしかしたら、その結婚無くなるかもしれない……」
2人は首をかしげ、彼の言葉を待った。
しばらくして。夜の街に響いたのは、レナードの怒声と謝るアランの声であった──
1人の人間が街の裏路地を歩いていた。背の高さから、女性であろう。黒いローブのフードを目深に被り、人目を気にするようにしている。彼女が1歩足を進めると、コツンコツン……という音が静かな街に轟いた。
「やあ、フィー」
女に声をかけたのは、別の男であった。男の傍にはもう1人男がいる。2人ともローブを着ているが、片方は女と同じくフードを被っている。しかし片方はフードは被っておらず、銀色の髪をアメジストのような瞳、そしてその綺麗な顔を月の元に惜しげなく晒していた。
「調査は進んでる? フィー」
フードを被った男が問うた。
「まずまずだな。学園に関係者がいることは間違いないだろう」
女がフードを外し、その顔が月のあかりに照らされる。金色の髪にサファイアのような瞳、この世のものとは思えない美しい造形──それはオリヴィアの友人、フィオナであった。
「やっぱべっぴんさんだな。このフィーなら、俺全然抱ける」
銀髪の男がヘラヘラと笑いながら言った。フィオナは男を睨みつけ、スネに蹴りを入れた。
「いった…!? 少しは加減してくれよ……」
「レナード……君が悪いよ。普通に相手がフィーじゃなかったら、女の子、『気持ち悪い』ってなっちゃうからね……下手したらトラウマものだよ……」
「分かってるよ。フィーだから言ったんじゃん」
銀髪の男──レナードはスネをさする。
フィオナはおもむろにネックレスを外した。彼女の姿が徐々に変わっていく。気づけば彼女の姿は背の高い男性のものとなった。フィオナと同じく金色のサラサラとした髪にエメラルドのような瞳であった。その顔も本当に人なのか疑わしく思えるほど美しい。
「それぞれどうだったか、教えてくれ。レナード、どうだった?」
「地方での調査は何も進展なしだ。まったく反応がない。多分、ここには異世界魔法の痕跡はないだろう」
フィオナの問いにレナードが答える。
──異世界転移魔法。名の通り、異世界から物を転移させたり、逆にこちらから異世界へ物を転移させたりする魔法だ。この世界には異世界というものが存在する。基本的にこの世界では“異世界とは関わらない”というのがルールだ。異世界に関わると世界と世界の間に歪みが生まれ、この世界になかったはずのものや概念が生まれてしまったり、逆にこの世界にあったはずのものや概念が失われてしまったりすることがある。
最悪のケースは人の転移だ。異世界人が持ってきたものや概念が普及するだけならまだしも、大きな歪みが生まれる。
人を1人転移させると、この世界で「最初から存在しなかった」ことにされる人間が1人生まれると言われている。
魔道士たちの世界では、世の摂理を壊す、禁術とされている魔法だ。
「ただ……」とレナードが話を続ける。
「個人的に異世界魔法の探知をしてみたんだが……やっぱり王都と学園があやしい。だから、フィーとアランの方がなにか見つかるんじゃないか?」
レナードがちらっとフードの男──アランの方を見る。アランはフードを外した。漆黒の髪と淡い青色の瞳を持つ、優しげな顔立ちの男であった。顔は整っているが、中性的な容貌である。
「あやしいのはリッツ家、マルザール家、クリーンオッツ家、ライザル家、ミシュール家かな……とりあえず、該当の家にかかわらずレナードの魔法探知機を全伯爵家に仕掛けてきたよ」
「さんきゅー」
レナードが歯を出して笑う。そして、今度はフィオナの方に向かった。
「クリスマスパーティーはどうだったんだ? フィー」
「トラブルはあったが、異世界転移魔法の件についての手がかりはなにもなかった」
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レナードが大きく欠伸をする。
「まあ、このまま突っ立って話してても、しゃあないし、どっか飲みに行かないか? 表にでたら酒場くらいは空いてるだろ」
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「世の中経験だって。うちの父上も言ってるぜ」
「モルセット公はレナードに甘すぎる……」
アランが頭を抱える。レナードはアランの肩を叩いた。
「まあまあ。俺ら、もうすぐ親戚になるんだからさ。うちのオリヴィアとエドワードの結婚、来年だっけ?」
レナードの何気ない一言に、フィオナが「あ」と声を上げた。かなり大きな声だったので、その場に轟く。レナードとアランが怪訝な目で彼を見た。
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