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11話 レナード ※フィーリオ視点
しおりを挟む部屋に戻ると、レナードがニマニマとしながらこっちを見ていた。さっきまであんなに頼りになる存在であったのに、仕事外になるとすぐこれだ。ふざけた野郎になる。
なんだかんだで幼い頃からの付き合いであるが、昔からこうだった。特に色恋沙汰になると、目が輝く。
……これがあの真面目なオリヴィアの兄だとは思えない。
「よお、おかえり」
なんだ。こいつのこの反応は。レナードがその嫌な笑みを浮かべながら、こちらに来た。そして、肩をパンパンと叩く。
「見てたぜ」
そう言って、レナードが指さしたのは窓であった。窓からは先程私とオリヴィアがいた中庭が見えた。
「水臭いじゃないか。もっと早く教えてくれてもよかったのに……」
なるほど……さっきのオリヴィアと私のやり取りが見えてたのか。
はじめて、オリヴィアとフィーリオとして2人きりで関わることができたのだ。少しでも長くいたいと思い、中庭に行った。ここから見えるということをすっかり失念していた。
「うちのオリヴィアはいい子だからなぁ……惚れちまったかあ……気持ちはわかるぞ」
レナードがうんうんと唸った。完璧にからかわれている。
「エドワードに婚約破棄された今、うちの妹は婚約申し込みが殺到してるぞ。たしか、アランの父親もアランを売り込もうとしてるよな?」
レナードは私を煽るように、ちらりとアランを見た。アランは気まづそうに視線をさげた。
「……まあ。エドワードが一方的に婚約を破棄したからね。とはいえ、しつこいけど」
「まあ、お前の家は父親の才覚ひとつで、ここまで来たからな……立派な血縁関係が必要なんだろ」
フィリス家は先代までは公爵家のなかでも落ちぶれていたものであった。しかし、アランの父──リーゼンスは実力だけで国王の側まで来た。それにより、フィリス家は繁栄した。フィリス家はリーゼンスのおかげで力を持ち返してきたのだ。
しかし、リーゼンスの才能だけでは永続的な一族の繁栄とはならない。
その力を確固たるものにするために、エドワードと魔道士の一族の娘であるオリヴィアの婚姻を結んだのだ。フィリス家としては、なんとしてでも再びオリヴィアと婚姻を結びたいのだろう。
「でもお前、リアーナがいるじゃん」
「そうだね」
「どうすんだよ」
「さすがに父上には無理だとは、会う度に言ってあるんだけどなあ……」
そう、アランにはすでに恋仲の女性がいる。そのため、顔立ちも性格も良い彼は絶えず女性からの求婚があったが、それを断り続けた。
レナードの意識がアランから私に向いた。
「フィー、いつからオリヴィアのこと好きだったんだ?」
無視だ。無視。こいつは私をおもちゃにしたいだけだ。
「なあなあ、俺が繋いでやろうか?」
レナードの意地汚い顔が、私の顔を覗き込む。
「べつにいいよ」
私はぶっきらぼうに返事をした。レナードは、そんな私の態度にも物怖じしない。
「でも、フィオナとしてしか関わる機会ないじゃないか。フィーリオとして関わりたいだろ?」
その気持ちは無い訳では無い。
ただ、オリヴィアは多分それを求めていない。
今は多分、こちらがグイグイいっても嫌われるだけだ。
……レナードはそんな気持ちを察することなく、私にグイグイ迫ってくる。
「……ところでフィー、自分がフィオナだって言わなくていいのかい?」
そう聞いたのはアランであった。
「言わなくっても大丈夫だ」
……多分、今のままの方が任務もやりやすいだろう。今回、学園の生徒のオリヴィアが狙われた。学園でも反応がある以上、潜入捜査の必要性はある。
オリヴィアの心を考えても、フィオナの方が良いだろう。
それにフィオナとしての彼女との関わりを失いたくない。フィオナでいる時の彼女は、壁を感じないのだ。フィーリオだと、どうしても王子であるという点が足枷になる。
ありのままの彼女のそばにいたいのだ。
「そう……」
アランは何も言わなかった。が、うるさいのはこっちだ。レナードはやっぱりニカニカ面白そうな笑みを浮かべている。
「どうしてオリヴィアなの?」
無視。
「なあなあ!」
無視。
「やっぱ顔?」
「レナード……しつこいよ……フィーも困ってるって」
アランがレナードの言葉を遮った。
「フィーだって、大人だからこういうのは自分でやるって。面白がってやることじゃないよ……」
アランが諌めると、レナードは唇を尖らせた。ちぇっとレナードが面白くなさそうな顔をする。
「ところで……」
私は話を切り出す。これからについての話を、レナードにふった。
「レナード、オリヴィアをどう関わらせるつもりだ?」
レナードはヘラヘラとした表情から一変、真面目な表情となる。場の空気が変わった。私とアランの気も引き締まる。
「まあ、まずはオリヴィアがどんな魔法使ったのか、究明するところからだなぁ……」
声色も先程とは違うものだ。魔道士としての彼に変わった。レナードはさらにつづける。
「オリヴィアの魔力は強い。俺と同じくらいはある。ただ、それを扱う技術は未熟だ」
レナードがふうとため息をつく。
「今回もわけも分からず使った可能性が高い。その術が分かれば……もしくはオリヴィアが完璧に習得すれば、この事件、解決出来るかもしれない」
レナードのその言葉が、執務室の中に轟いた。
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