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10話 レスノアの花
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兄たちから、現在彼らが行っている『極秘任務』についての話を詳しく聞いた。ここが極秘任務の対策室であること、数ヶ月前から異世界転移魔法の反応が複数確認されたこと、それが人間の異世界転移であったこと、そして私が異世界転移魔法を防いだ数少ない人間であることを伝えられる。
そのうえで兄から協力してくれないかと頼まれた。
「オリヴィア、怖かったり辛かったりしたら断ってもらってもいいから」
フィーリオ殿下はそう言ってくれる。優しさで言っているだろう。しかし、兄は違うようだった。
正直、怖い気持ちはある。私の存在が消えてしまう恐れもあるのだ。怖くないわけが無い。
……とはいえ、このまま何もしないと多くの人が犠牲になるのだ。いや、もしかしたらもうすでに私が知らないだけで、たくさん人が消えてるのかもしれない。
私にできることがあるのなら──
答えは決まっていた。迷う余地なんてない。
「やるわ。兄上」
「わかった」
兄がにかりと微笑んだ。フィーリオ殿下が、私の目の前に跪く。
「私たちが全力で守るから」
そう一言述べた。フィーリオ殿下は文武両道の王子だと聞く。とくに剣の腕は国内随一だ。魔法も優秀な魔道士と並ぶくらいに使えると聞く。
頼りになる言葉だった。
「ありがとうございます」
心の底からの言葉だった。殿下の美しい顔が、優しい笑みをたずさえる。
ゴーン、ゴーンと。鐘が鳴った。なんの音だろうかと思ったら、時計が17:00を知らせる鐘であった。
「帰ろうか。私が見送ろう」
「ええ!? 恐れ多い!」
フィーリオ殿下にわざわざお見送りさせるなんて。そんな私の思いもむなしく、フィーリオ殿下は私に手を差し出す。そのまま、私をスマートに立ち上がらせた。
ともに、部屋の出口へ向かう。
「殿下、ありがとうございます」
「気にしないで。レナード、アラン。少しぬける」
「いってらっしゃい」
兄とアラン様の声を背に、私たちはそのまま部屋を出た。
部屋を出て分かったことだが、ここは王宮であったらしい。学校帰りの制服で歩いてしまうのが、少し恥ずかしい。とはいえ、殿下はできる限り人の少ない道を選んで歩いてくれたので、人とすれ違うことはあまりなかった。
しばらく歩いて、ひっそりとした中庭を通り過ぎる。
綺麗な中庭であった。なんの人工物もない、自然豊かな庭であった。中央に大きな木がたち、その周りを小さな花が咲いている。
レスノア。冬にたくましく咲く白い花であった。気品のある花とされ、貴族に人気の花である。
私はこの花が好きで、身の回りのものはレスノアの花のモチーフで固めているくらいである。
王宮でも咲いているのか。
「気になるのか?」
「ええ。綺麗なお庭だなと思って……」
「ちょっと見ていこうか」
殿下が歩く向きを変え、私たちは中庭の方へ向かう。中庭には、小さな小道があった。それを辿っていく。
「レスノアの花は母と私が好きなんだ」
「そうなんですね! 私もレスノアの花、好きですよ」
「可愛らしいよね。レスノアの花の紅茶は飲んだことある?」
「ええ。もちろんですわ」
「さすが。私はあれが本当に好きでね……」
フィーリオ殿下はその長い腕を、レスノアの花へ向けた。ひとつ、レスノアの花を摘み取った。
「少し、失礼するね」
そう言って、レスノアの花の根元をつまんだ。根元に白色の光が点る。その光は大きくなり、レスノアの花をおおった。光が消えると、そこにあったのはひとつのバレッタであった。レスノアの花が刻まれた、白銀のバレッタであった
「即席で作ってみたんだ。後ろ向いて」
こくんと頷く。そして、くるりと後ろを向いた。
フィーリオ殿下が髪の毛に触れる。私の鼓動の音が高まる。男の人に髪の毛を触れられるのは、家族をのぞいて殿下が初めてだった。とはいえ、嫌悪感は一切ない。むしろ、身体がポカポカ暖かくなるようにすら思える。
「終わったよ。編み込んで髪の毛あげてバレッタつけてみたんだ」
殿下は鏡を見せてくれる。後ろまでは見えないが、見事な髪型であるのがみてとれた。
「ありがとうございます。とても綺麗……」
殿下は少し照れくさそうに言った。私も花を1本つまみとる。殿下と同じように、根元をつまみ魔力をこめる。
しばらくして出来上がったのは、ブローチであった。レスノアの花を模したブローチだった。
「お返しです」
フィーリオ殿下にそれを渡す。殿下は少し目を丸くしたあと、嬉しそうな笑みを浮かべた。
「ありがとう。……大切にするよ」
再び歩みを進める。
その後も殿下と他愛ない話をしていた。王宮の門を出ると、うちの馬車が来ていた。そこまで、殿下は私の隣にいた。
「フィーリオ殿下、ありがとうございました」
一礼する。
「また、会おうね」
フィーリオ殿下がそういった。私は馬車に乗り込んだ。
窓から外を見ると、フィーリオ殿下が私に向かって手をふっていた。車が動き始める。だんだんと彼の姿が小さくなっていった。
フィーリオ殿下、いい人だった。一緒にいて安心感と心地良さがあった。それは、まるでフィオナとともにいるようなものであった。
そのうえで兄から協力してくれないかと頼まれた。
「オリヴィア、怖かったり辛かったりしたら断ってもらってもいいから」
フィーリオ殿下はそう言ってくれる。優しさで言っているだろう。しかし、兄は違うようだった。
正直、怖い気持ちはある。私の存在が消えてしまう恐れもあるのだ。怖くないわけが無い。
……とはいえ、このまま何もしないと多くの人が犠牲になるのだ。いや、もしかしたらもうすでに私が知らないだけで、たくさん人が消えてるのかもしれない。
私にできることがあるのなら──
答えは決まっていた。迷う余地なんてない。
「やるわ。兄上」
「わかった」
兄がにかりと微笑んだ。フィーリオ殿下が、私の目の前に跪く。
「私たちが全力で守るから」
そう一言述べた。フィーリオ殿下は文武両道の王子だと聞く。とくに剣の腕は国内随一だ。魔法も優秀な魔道士と並ぶくらいに使えると聞く。
頼りになる言葉だった。
「ありがとうございます」
心の底からの言葉だった。殿下の美しい顔が、優しい笑みをたずさえる。
ゴーン、ゴーンと。鐘が鳴った。なんの音だろうかと思ったら、時計が17:00を知らせる鐘であった。
「帰ろうか。私が見送ろう」
「ええ!? 恐れ多い!」
フィーリオ殿下にわざわざお見送りさせるなんて。そんな私の思いもむなしく、フィーリオ殿下は私に手を差し出す。そのまま、私をスマートに立ち上がらせた。
ともに、部屋の出口へ向かう。
「殿下、ありがとうございます」
「気にしないで。レナード、アラン。少しぬける」
「いってらっしゃい」
兄とアラン様の声を背に、私たちはそのまま部屋を出た。
部屋を出て分かったことだが、ここは王宮であったらしい。学校帰りの制服で歩いてしまうのが、少し恥ずかしい。とはいえ、殿下はできる限り人の少ない道を選んで歩いてくれたので、人とすれ違うことはあまりなかった。
しばらく歩いて、ひっそりとした中庭を通り過ぎる。
綺麗な中庭であった。なんの人工物もない、自然豊かな庭であった。中央に大きな木がたち、その周りを小さな花が咲いている。
レスノア。冬にたくましく咲く白い花であった。気品のある花とされ、貴族に人気の花である。
私はこの花が好きで、身の回りのものはレスノアの花のモチーフで固めているくらいである。
王宮でも咲いているのか。
「気になるのか?」
「ええ。綺麗なお庭だなと思って……」
「ちょっと見ていこうか」
殿下が歩く向きを変え、私たちは中庭の方へ向かう。中庭には、小さな小道があった。それを辿っていく。
「レスノアの花は母と私が好きなんだ」
「そうなんですね! 私もレスノアの花、好きですよ」
「可愛らしいよね。レスノアの花の紅茶は飲んだことある?」
「ええ。もちろんですわ」
「さすが。私はあれが本当に好きでね……」
フィーリオ殿下はその長い腕を、レスノアの花へ向けた。ひとつ、レスノアの花を摘み取った。
「少し、失礼するね」
そう言って、レスノアの花の根元をつまんだ。根元に白色の光が点る。その光は大きくなり、レスノアの花をおおった。光が消えると、そこにあったのはひとつのバレッタであった。レスノアの花が刻まれた、白銀のバレッタであった
「即席で作ってみたんだ。後ろ向いて」
こくんと頷く。そして、くるりと後ろを向いた。
フィーリオ殿下が髪の毛に触れる。私の鼓動の音が高まる。男の人に髪の毛を触れられるのは、家族をのぞいて殿下が初めてだった。とはいえ、嫌悪感は一切ない。むしろ、身体がポカポカ暖かくなるようにすら思える。
「終わったよ。編み込んで髪の毛あげてバレッタつけてみたんだ」
殿下は鏡を見せてくれる。後ろまでは見えないが、見事な髪型であるのがみてとれた。
「ありがとうございます。とても綺麗……」
殿下は少し照れくさそうに言った。私も花を1本つまみとる。殿下と同じように、根元をつまみ魔力をこめる。
しばらくして出来上がったのは、ブローチであった。レスノアの花を模したブローチだった。
「お返しです」
フィーリオ殿下にそれを渡す。殿下は少し目を丸くしたあと、嬉しそうな笑みを浮かべた。
「ありがとう。……大切にするよ」
再び歩みを進める。
その後も殿下と他愛ない話をしていた。王宮の門を出ると、うちの馬車が来ていた。そこまで、殿下は私の隣にいた。
「フィーリオ殿下、ありがとうございました」
一礼する。
「また、会おうね」
フィーリオ殿下がそういった。私は馬車に乗り込んだ。
窓から外を見ると、フィーリオ殿下が私に向かって手をふっていた。車が動き始める。だんだんと彼の姿が小さくなっていった。
フィーリオ殿下、いい人だった。一緒にいて安心感と心地良さがあった。それは、まるでフィオナとともにいるようなものであった。
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