吸血種の少年の話

woruka

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1話

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ーーーーーー意識だけが、ぐるぐると渦を巻いて沈んでいく…


***


オレンジ色だった陽の光がぐんぐんと紫に染まっていくビル街、急に暗くなるのが早くなった気がする。
そうか、気が付けばもう秋か。

軽く急ぎ足でコンビニに入店する。
「ケチャップとマヨネーズ…あと醤油とみりん…鶏ガラの素…」
全部同じ陳列コーナーに並んでいて、こういう時スーパーより探す難儀が無くて便利だなと感心した。
「ほんとなんでこんなに調味料ばっかり切らせるかな」
マスターが客からのオーダーで調味料がない事に気づき、開店直で買い出しに駆り出された。
開店準備の時あのおっさんは一体何をしてたんだろうかとぼんやり思いながらレジに通す。

客からオーダーされてから材料を買いに行くって料理店的にアウトだな…と思いながらコンビニを出るとこの街特有の香水の匂い、酒の匂い、…煙草の匂いが鼻を通る。

「あ゛~。吸いてえ゛」

客を待たせている事に心で謝りながら胸ポケットからメビウスを詰める。
自分でも最近ヘビースモーカーを自覚してきているが、こういう時の一本は尚更旨いんだよな。
ピリっと左手に痛みが走る。
「った」
コンビニ店員にサイズを間違えられた調味料群の入った袋がはりさけんばかりに袋を引っ張りあい重さも伴って、左手で持っていた手持ち部分のビニールが指に食い込んで血が滲んでいる。
そうだ、さっき包丁を扱った時に浅く切ってしまっていた。
血で汚れた袋を持ちかえて肺いっぱいに煙草を吸いこんで、ふーっと長めに煙を吹いた。

行きかう人を何も考えずに眺めていて、ふと向かいの出店で目が留まる。
別におかしな所は無いが、集団行動の中1人だけ違う動きをしている人物に意識を持っていかれるような感覚。
出店でスイーツを買うおじさん…出店の側面の方に小さな女の子、あと少年。

女の子と少年は楽しそうに会話しているだけなのに、何がとは言えない異質な空気を感じた。
目を奪われている間に出店の横路地裏へと2人が吸い込まれるように歩き出した。

"ついて行かなければいけない"と思った。

少年が女の子の手をひいて暗闇の中を進んでいく。
少し歩いただけで賑やかな表通りから路地にひっそりと建つスナック、ラーメン屋を通り越して民家が数件並ぶ狭い通路まで来た。
2人は喜々として笑いながら歩を進めていた。
女の子は幼稚園生くらいか…?愛嬌たっぷりで話し声に舌ったらずな所を感じる。少年の方は笑い声は聞こえるも表情が見えない…背丈からすると小学…5年生くらいだろうか?

ブラックライトだけがぼうっと浮きだつ様な、辺りはほとんど見えないじゃないかという所で2人は足を止めた。
電柱の裏から2人を覗き見る。
女の子が嬉しそうに少年を見つめている…少年は…

女の子の頭の上に手のひらをかざし…

本能的に背筋がゾッとした。

先ほどまで和気あいあいとした兄妹の様に見えたはず。
だけど一瞬見えた少年の瞳は一切の感情を露わにせず女の子を見つめていて、咄嗟に声が出ていた。

「離してやれよ」

女の子はどうしたのかと不思議そうな顔をしていたが、少年の方は全く何を考えているのか分からない瞳で俺を見た。その瞳が瞬いた一瞬、別人のように年相応であどけない少年へと表情を変え女の子の頭上に留めたままだった不自然な手のひらからはキャンディが袋を逆さまにした様にボトボトと溢れ落ちた。
「わぁ!すごい!本当に魔法使いだったんだね!」
女の子は頭に降り注ぐキャンディのシャワーを慌てて拾い集め、両手いっぱい胸いっぱいにキャンディを抱えご満悦な表情だ。
少年はにこっと女の子に笑いかけてから耳元で何かを囁いた。
「~~~…」
「うん!お兄ちゃんありがと!」
女の子は笑顔で胸いっぱいに抱えたキャンディからはみ出た手の平をひらひらとさせ今来た道を駆けていった。何事もないように女の子に手を振る。

現時点で当初の違和感は少年によるものだと分かったが、こんな人気のない暗がりで女の子を"どう"するつもりだったのか。表通りへの帰り道を2メートル近い俺みたいな大男にふさがれ、どう言い訳をするのか聞いてみようと思った。
「この辺じゃあまり見ないけど。君、どこの小学校?」
身元だけでも聞き出せれば…と尋ねてみても少年は黙りこみ、また何を考えているのか分からない瞳で空中を見ていた。よく見ると少年は手からキャンディが出てきたくらいで荷物の1つも持っていない。小学生が1人で出歩くにしても完全に陽が落ちていたから家まで送ろうか。どうしようか。
悩んでいると、とても長い数十秒の沈黙を少年の方から破った。

「ねえ?お兄さん…その手…」

左手から血が滴っている。忘れてまた左手で袋持ってたか。
「ああ?大丈夫。そんなに痛…」
痛くないから。そう言おうとしていたのに声にならずに目の前が一瞬真っ暗になる。ほぼ闇に近い薄暗い路地裏なのに停電かな?と思った。
次に見えたのは緑色と蛍光塗料みたいな紫色がかかったフィルム越しに映るような景色で、頭痛というにはあまりにも急に脳みそが締め付けられた感覚に陥り、全身には電流が流れたような感覚だけを与えてビリビリと拳も作れない程全身の力が奪われた。
整理出来ない感覚の中でじんじんと左手から潜り込み全神経を鷲掴みにされたような激痛を感じその左手を見ると2mは離れていたはずの少年が俺の左手にむしゃぶりついている光景を目撃した。


とにかく"このままだとヤバい"と状況打破する為に逃げなければと思った。思考もままならない中どうにかするにはこれしかなかった。
「っぐ!!」
ゴッと鈍い音を立てて少年の顔面に右手拳がクリーンヒットした。
俺の左手に夢中だった少年は突然の衝撃を予想しておらずそのまま倒れこみ…気を失っている様だった。
自分だって立っているのに必死でグラグラとする視界に重心が保てず尻もちをついた。めまいに似た気持ち悪さに思わず少年の横で仰向けで地面に背中を預けた。

久しぶりに見上げた空には星も見えなくて、通り魔に刺されたらこんな風に力なく暗闇の中で死んでいくのだろうか…と、ただただ路地裏で横たわっている無気力感に浸っていた。
数十分そうしていると、先ほどまでの痛みや気持ち悪さは嘘みたいに無くなり傍らで意識を失ったままの少年の事が考えられるまでになった。
「…いや、流石に死んでないよな?」
少年の顔をのぞき込むとすぅ…すぅ…と小さく呼吸をしているのを感じて安心する。事故だとしても小学生を本気で殴ってしまった事に罪悪感を感じた。

ふと自分の左手を見るとべっとりと血液がついている。
現実的ではないさっきの状況が現実だった事を思い返され、慌てて締めていたネクタイでぎゅっと強く縛り止血をした。
揺さぶってみても全然起きそうにない少年の顔は左手と同じ様に血に塗れていて、ごしごしとハンカチで拭ってみてもやっぱり目を覚まさない。

まだ平常心には戻れず、冷静さも心もとないまま"傷害罪"の文字が暗闇に浮かび頭を抱える事しか出来なかった。

***

キィー…バタン

「あ!おいおい!佐藤くんもう~遅いよ~この辺で売ってなかったの~??」
こっそり裏から店に入ったのによく鳴る勝手口のせいですぐに店内からマスターがキッチンに入ってきた。
「うわ!!!どしたのそれ…」
見知らぬ子供を背負って来たらそれはびっくりするだろう。
「もしかして…連れ子…?」
「違いますけど!」

説明するにしてもどう切り出せばいいのか分からない事ばかりだったが、順を追っておっさんには説明するとして
「ちょっとケガしてるんで手当てしてから店出ていっすか?」
「ふむ…小学生の息子…つまり21歳の佐藤くんは小学生時点で一児の父であったということ…なるほど…」
「違いますけどね!!何もなるほどじゃない!!」

「マスター!」
「はーい」
客に呼ばれぱたぱたとおっさんが店に入っていく。
どんな事があっても、茶化してるのか何事にも腰を据えず少しズレているこのバーの店主。一周回って一緒に居ると楽でいい。推理力は0だが。

ーーー結局、少年が目を覚ましたのは翌日の朝だった。
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