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1. 春

chapter2

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     4月7日
 私は初めて人を殺した。人が死ぬ瞬間はなんて『綺麗』なのだろうか。彼らの叫び声に加えて、地面に滴る血の音。自然の摂理を肌に染みて感じられる瞬間だ。今私の目の前に転がっている女性はかつて私の彼女だった女性だ。何か気に食わなかったことがあっただとか、口論があったわけではない。私はただ単純に彼女を殺したかったのだ。
 

 私の人生はそれまでは至って平凡であり、平和であったと言っても過言ではないだろう。小学生の頃は、家の前にいる蟻を踏み殺して遊んでいたこともあった。他にもバッタの足と胴体を持ち、両方を引っ張ることで内臓を抉り出すことに興味を示した時期もあった。しかしそれは私だけではなく、友人も同じことをやっていたし、私だけがおかしかったわけではない。
 
 中学生くらいになると私は人間の体に興味を持ち出した。中学生ともなってくると多くの女の子の胸が出てきており、多くの男の子の図体が大きくなる。そしてそれまでの体との変化が顕著に感じられる。私は彼ら・彼女らの身体を見ていると人間の歪性を感じずにはいられなかった。たとえば女性の胸の大きさは身長に比例することはない。それにもかかわらず、胸には大小があり、多くの男は胸の大きさに一度は興味を示す。生殖に関係のないはずの胸の大きさに性欲を示し、コンプレックスを感じる。そのような必要のない感情や成長に私は歪性を感じるのだ。少しずつ私の趣味は普通ではなくなった。初めは美術の教科書の裸の像を見ることが好きだった。1日の多くの時間をそれを絵にすることや調べることに費やした。今思えば、この時期あたりから周りの視線がおかしくなり始めたのだろう。しかし、私の親は多くの親に寛容であった。であるから、私はこのような趣味を止められることは無くなった。次には他の教科書に載っている人間の臓器の配置などが書かれた解剖図にハマってしまい、同じように模写や調べることに時間を費やした。

 中学3年生になり、ある日カエルの解剖の授業が行われた。
「お前持って来んなこっちに」
「本当に気持ち悪い」
「なんでこんな授業しないとダメなの?」
と多くの声が教室中に聞こえる。多くの女の子の口数は減っており、中には体調を崩したり泣き出す人もいた。そんな時に私は少数派の中の一人であった。カエルを解剖することに興味を示し、すぐにカエルの腹にナイフを入れた。ナイフを入れると少しカエルの脚が動いた気がした。死んでいるはずのカエルが動いたことに私は神秘を感じた。私は切ると血が溢れ出るものだと考えていた。しかし実際にはカエルを解剖しても血が溢れ出ることはなかった。カエルにも人体図で見たような臓器があり、ピンク色の綺麗な肉部分があった。ふと前の席の女の子を見ると、目を細めながら解剖されたカエルを見ている。彼女はこの実験に反対こそしなかったが乗り気ではなかったうちの一人である。彼女と共に理科の実験ノートを書き始めた。私は臓器を描くことに慣れていたため、カエルの臓器ですら上手く絵にすることが出来た。正直このクラスで一番の出来だと自負するレベルだったと思っていた。しかし前の女の子の図を見ると臓器のみならず、付着していた血まで、全て精巧に書いていた。私はこれまで模写している時血まで書いたことはなかった。その図を見て、私は初めて血に興奮を感じた。興奮の先は絵だったのかもしれないのだが、今思い返した時、私のサイコパス精神的にあの時の血にそう感じていたのだと思うことにした。
 その日以降私は彼女に興味を示し出した。彼女は同じクラスで理科の班が同じ、これまでは喋ったこともほとんどなかった。
名前は優香。
後に彼女となる人間で、私に殺される人間だ。
 
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