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「信じてないな。まぁ白状すると俺と匡彦さんは単なるセフレだよ、しかも甘々とかじゃないから。セックスするって云っても、いっしょに楽しむスポーツみたいなもん?」
(そんなの嘘だ)
はっきり云われても自分にはそれは春臣の強がりだとしか思えない。絶対に彼が篠山のことを「単なる」と思っているわけがない。
(だって篠山は、あんなに素敵なひとなんだから)
神野は唇を咬んで顎をひいた。正座する自分のまえで膝を折り、視線をあわせてきた春臣には、自分が納得できていないことが伝わったようだ。
「祐樹、しつこいよ……」
ほとほと呆れた顔の春臣に鼻を抓まれた。
「目が、まっかだね」
彼が笑ったのとおなじタイミングで、どこからか風呂の準備ができたことを知らせるアナウンスが聞こえてきた。
結局この家でも神野はひとりでの入浴が許されず、狭くても我慢と云われて春臣といっしょに風呂に入ることになった。
彼は着やせするタイプだったらしく、裸になるとしっかり筋肉がついていて男らしかった。それに比べて彼とおなじ長さだけ人生を送ってきたというのに、自分はどうしてこんなにもひょろひょろしているのだろうか。神野は腕を折りながら、力こぶを探したりしてみる。
春臣のTシャツを借りても彼が着ていたときと、自分が着た感じでは大きくシルエットも違っていた。
「ほら、祐樹、頭じっとして」
春臣が濡れた髪を乾かしてくれる。べつに頼んだわけではないが、ドライヤーを持った春臣がソファーに座れと云ったので、云われるままにしているだけだ。疚しい身であるので、自分はいつも以上に彼に従順になるほかない。
春臣はよく気がつくし腰が軽く、いつも誰かの世話を焼いている。そういえば篠山にもそんなところがある。もしかしてゲイのひとは構いつけるタイプが多いのだろうか。
この家は2DKで、隣の部屋を覗くとそこにもひとつベッドが入っていた。今夜はそこで眠られるのかもしれないと期待したのだが、それも反対され「狭くても我慢!」と、寝るときには春臣のセミダブルのベッドに引きずりこまれた。失った信用を取り返すのには、時間がかかるようだ。
「祐樹はさ、ゲイのセックスじゃなくて、匡彦さんが自分以外の誰かとセックスしてたことが、ショックだったんだね。匡彦さんのこと、そんなに好きになってたんだ?」
「――っ⁉ ちがっ」
「違わないでしょ? 別に今さら誤魔化さなくてもいいじゃん。匡彦さんと遼太郎くんのエッチ覗いちゃって、泣いているんだもん。否定するほうがおかしいでしょ。それにふたりがセックスしているのを見て、俺に悪いことしたって思ったのは、祐樹自身が傷ついたからだろ?」
「違います……」
「あんなに動揺しておいて『違う』は違うでしょ。どう考えても祐樹、匡彦さんのことが好きなんじゃん。俺は別に匡彦さんの恋人じゃないんだから、祐樹が気持ちを隠す必要はないし、遠慮もいらない。祐樹はなにも気にしないで、匡彦さんのこと好きでいていいんだよ」
神野には春臣の云うことが全く信じられず、間接照明だけの薄暗い部屋のなか、目を凝らして彼のことをじぃっとみた。
「もうっ! 俺と匡彦さんはホントにそんなんじゃないんだってば!」
伸びてきた彼の手に、目を覆われる。
「祐樹は素直に失恋だけに悲しむとかしといてよ。ややこしくて慰めにくいじゃん」
「別に私は、篠山さんを、す、す、好きとか、そんなんじゃないですから」
「なに吃ってるんだよ……」
あれほど取り乱したのはそんなことが理由ではない。
それではなんでだったのかと問われると、その答えもわからず、だから神野自身それをずっと考えているのだ。
自分があれほど、そしていまも動揺している原因を。
「いや、べつに悲しんで欲しいわけでもないし、祐樹の失恋が決まったわけでもないけどさ。むしろ……」
「私が、ショックだったのは、そんなことではなくて……」
(そんなの嘘だ)
はっきり云われても自分にはそれは春臣の強がりだとしか思えない。絶対に彼が篠山のことを「単なる」と思っているわけがない。
(だって篠山は、あんなに素敵なひとなんだから)
神野は唇を咬んで顎をひいた。正座する自分のまえで膝を折り、視線をあわせてきた春臣には、自分が納得できていないことが伝わったようだ。
「祐樹、しつこいよ……」
ほとほと呆れた顔の春臣に鼻を抓まれた。
「目が、まっかだね」
彼が笑ったのとおなじタイミングで、どこからか風呂の準備ができたことを知らせるアナウンスが聞こえてきた。
結局この家でも神野はひとりでの入浴が許されず、狭くても我慢と云われて春臣といっしょに風呂に入ることになった。
彼は着やせするタイプだったらしく、裸になるとしっかり筋肉がついていて男らしかった。それに比べて彼とおなじ長さだけ人生を送ってきたというのに、自分はどうしてこんなにもひょろひょろしているのだろうか。神野は腕を折りながら、力こぶを探したりしてみる。
春臣のTシャツを借りても彼が着ていたときと、自分が着た感じでは大きくシルエットも違っていた。
「ほら、祐樹、頭じっとして」
春臣が濡れた髪を乾かしてくれる。べつに頼んだわけではないが、ドライヤーを持った春臣がソファーに座れと云ったので、云われるままにしているだけだ。疚しい身であるので、自分はいつも以上に彼に従順になるほかない。
春臣はよく気がつくし腰が軽く、いつも誰かの世話を焼いている。そういえば篠山にもそんなところがある。もしかしてゲイのひとは構いつけるタイプが多いのだろうか。
この家は2DKで、隣の部屋を覗くとそこにもひとつベッドが入っていた。今夜はそこで眠られるのかもしれないと期待したのだが、それも反対され「狭くても我慢!」と、寝るときには春臣のセミダブルのベッドに引きずりこまれた。失った信用を取り返すのには、時間がかかるようだ。
「祐樹はさ、ゲイのセックスじゃなくて、匡彦さんが自分以外の誰かとセックスしてたことが、ショックだったんだね。匡彦さんのこと、そんなに好きになってたんだ?」
「――っ⁉ ちがっ」
「違わないでしょ? 別に今さら誤魔化さなくてもいいじゃん。匡彦さんと遼太郎くんのエッチ覗いちゃって、泣いているんだもん。否定するほうがおかしいでしょ。それにふたりがセックスしているのを見て、俺に悪いことしたって思ったのは、祐樹自身が傷ついたからだろ?」
「違います……」
「あんなに動揺しておいて『違う』は違うでしょ。どう考えても祐樹、匡彦さんのことが好きなんじゃん。俺は別に匡彦さんの恋人じゃないんだから、祐樹が気持ちを隠す必要はないし、遠慮もいらない。祐樹はなにも気にしないで、匡彦さんのこと好きでいていいんだよ」
神野には春臣の云うことが全く信じられず、間接照明だけの薄暗い部屋のなか、目を凝らして彼のことをじぃっとみた。
「もうっ! 俺と匡彦さんはホントにそんなんじゃないんだってば!」
伸びてきた彼の手に、目を覆われる。
「祐樹は素直に失恋だけに悲しむとかしといてよ。ややこしくて慰めにくいじゃん」
「別に私は、篠山さんを、す、す、好きとか、そんなんじゃないですから」
「なに吃ってるんだよ……」
あれほど取り乱したのはそんなことが理由ではない。
それではなんでだったのかと問われると、その答えもわからず、だから神野自身それをずっと考えているのだ。
自分があれほど、そしていまも動揺している原因を。
「いや、べつに悲しんで欲しいわけでもないし、祐樹の失恋が決まったわけでもないけどさ。むしろ……」
「私が、ショックだったのは、そんなことではなくて……」
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