任せてもいいですかーあなたとモーニングキスがしたいー

也菜いくみ

文字の大きさ
47 / 109

47

しおりを挟む
ない神野は困ってしまう。
(い、云えない。云えるわけがない)
じっと向けられている視線は、まるで自分を責めているようだった。しばらくの沈黙のあと「あぁあ」と呟いた彼に、びくっと肩を震わせて俄かに汗ばんだ手を握りしめた。

(バレた?)
「祐樹は頑固だね。ほんとに」
「?」
 嘆息した春臣は軽く肩を竦めてみせると、まるで幼い子を相手にするような口ぶりでつづけた。
「じゃあ、俺から云うよ? このままだと祐樹はひとりで我慢して、あとあと、とんでもなくなっちゃいそうだからね」
「……べつに、頑固ではありません」

 意地なんてなにも張っていないのだからと、口を尖らせてカップで湯気をたてる牛乳を睨む。
「真相を云わずにすまそうとする祐樹が、そのことで返ってつらい思いをするのなら――」と春臣は云いおいた。彼は穿った物云いが嫌いらしい。
「祐樹は俺と匡彦さんが恋仲だと思っていて、自分が俺の目を盗んで匡彦さんとセックスしていることに罪悪を感じている。んで、そのことを謝っている」
 ひきつけるようにして、ちいさく息を呑んだ。
「はい、これで祐樹はすっきり。もう隠しごとないでしょ?」
 おどけた口ぶりでそう締めくくった春臣は、カップの中身を凝視する自分の頭に、ぽんと手を乗せてきた。

「……ち、」
 慌てて顔をあげ、違うと否定しようとして、でももうこれ以上嘘はついてはいけないと、言葉を呑みこんでもう一度俯く。春臣が云ったことは、全部正解だ。
「隠さなくてもいいよ。っていうか……」
「……な、なんですか?」
 春臣が平然としている理由がわからないし、それに彼は自分を詰ろうともしない。はやる動悸に心許なく眉を寄せて、いっそ不思議な気持ちで春臣の言葉を待つ。

「俺と祐樹がはじめて会ったときのこと覚えてる? あの時、あんたらやったあとだったでしょ?」
「―っ‼」
 はっとして見上げた春臣は、思い切り呆れた顔をしていた。なにか云おうと思うのだが、口がぱくぱくするだけでなんの言葉も紡げない。
「気づかれてないと思っていたなら、祐樹はほんとにド鈍だよ」
 覚束ない神野の手からマグカップをとりあげた彼は、それをカウンターに移動させた。

「しかもほぼ毎日タオルケット干しているし。あれ、精液でベッドマットが汚れないようにって、匡彦さんがシーツかわりにしてるやつなの。おなじやつ四枚あるでしょ? だから俺は、毎日毎日バルコニーに揺れるあのシーツを見ながら、ふたりは相当お盛んだなって思ってたんだけど?」
「あっ、あぁ、あ……あのっ」
 容赦のない指摘に、申し訳ない気持ちと羞恥で耳まで真っ赤になった神野は、両手の中に顔を埋めた。

「むしろ俺がふたりのことに気づいてないと思っていたことに、さっきから俺はびっくりしている。いや、まさかそんなことがあるわけないって、思いもしたけど、祐樹の様子からしてそれを否定できなくなっちゃった」
「う―……。うぅっ。……すみません」
 ソファーに座る自分に寄り添うようにした春臣が、背中をあやすように叩いてくれる。
「んで、祐樹は遼太郎くんと匡彦さんのセックス見て、自分のやっていることと重ねたんだろ? で、俺に悪いことしていると?」

「ごめんなさい」
 春臣の推察はまったくその通りだ。これで隠しごとはなくなったが、安堵するよりもまず罪の意識が強く、神野はソファーから滑るように下りると床に手をついた。そのまま頭を下げようとすると、慌てた春臣にとめられる。
「ちょっと祐樹、そんなことしなくていいから!」
「でも、ちゃんとあやまらせてください!」
「俺のことは祐樹の勘違いだからさ。それはいいから」
「……勘違い?」
 腕のつけ根を掴まれて上体を起こされると、謝罪もさせてくれないのかと、眉を寄せる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます

なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。 そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。 「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」 脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……! 高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!? 借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。 冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!? 短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

処理中です...