任せてもいいですかーあなたとモーニングキスがしたいー

也菜いくみ

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する。青春だ。
 そしてこのアパートには帰宅し損ねた友人が泊っていくこともたびたびで、今夜もふたりが風呂を済ませたころになって、池田という男がやってきた。

「いつも悪いねぇ。はいこれ、お土産」
「やったね、祐樹。ビールゲット。飲も、飲も」
 池田はひとり掛けソファーにちまっと納まっておとなしくしている神野にも、親しげに話しかけてくれる。
「祐樹くん、ひさしぶり。元気してた?」
「はい。この間はありがとうございました」
「いえいえいえ。また困ったことがあったら声かけてね。手さえ空いていればいくらでも協力できるから」
「はい」

 先日春臣にも遼太郎にも用事があって、どうしても迎えに来てもらえない日があった。その時に代打で会社に来てくれたのが彼だ。
 なにもそこまでして送迎などしてくれなくても電車で帰ればいいだけの話なのだが、春臣は相変わらず意見を曲げてはくれない。

 池田は神野がストーカーに狙われているという春臣の作り話を鵜呑みにしていて、本心から心配してくれていた。
 神野としては後ろめたい気持ちもあったが、ストーカー云々が嘘であることを彼に告げてしまうと春臣の信用を損ねることになってしまうのでそれもできず、池田が心配してかけてくれる思いやりのある言葉に、毎度複雑な心境にさせられているのだ。

「あれ? 祐樹くんちょっと太った? まえ会ったときは、もっと顎とんがっていたよね。顔色もよくなったみたいだし」
「ですかね? だったらよかったです」
「その調子でもうちょっと太れるといいね。んじゃ、俺、風呂入ってくるわ。袋んなか、つまみもあるからさきにやっといて」
「うわっ」
 池田よりも十センチは背の低い自分の頭は、彼にとってちょうどいい高さにあるようで、彼は気軽にくしゃくしゃと髪をかきまぜるとさっさと脱衣所へと消えていった。

「サンキュー。って、うは。祐樹、頭ぐちゃぐちゃ……」
  ちなみに池田以外にも神野の送迎に協力してくれたひとは数人いて、そのなかは聞いていた春臣のセフレとやらもいた。無事に神野をアパートまで送り届けてくれたその男と春臣が、玄関で濃厚なキスをするのをみて、神野はその場で見事に凍りついてしまったことがある。
「なに? 祐樹もしてほしいの?」とちゃめっけたっぷりに春臣に問われて、首を千切れんばかりに左右に振ったことはまだ記憶に新しい。春臣と同居していてほかに知ったことは、彼には友人だけでなくセフレもたくさんいたという、とんでもない事実だった。

 べつに春臣は連れてきた相手を、彼は単なる友人だとか彼はセフレだなどと、いちいち紹介しはしない。春臣が誰かと部屋でことに及んでいて、それでその相手がそうなんだと知るわけでもない。
 けれどもその手のお相手との過ごしかたは、一般の友人とのときと微妙に空気が違ったので神野にも勘づくことができた。
 例えばさりげなく手を振れあわせたりだとか、話すときの顔の位置が近かったりだとかだ。そういうシーンを見てしまうと、自分の心臓はぴょこんと跳ねてしまう。

 アパートやバーで出会う春臣のセフレは、ひとりやふたりだけではなく、三人、四人、五人……といて。指を折って数えているうちに、篠山と春臣は本当に恋人同士ではなかったんだと、やっと心に落ちてきた。
 それまでずっと春臣の云うことを疑っていたのだ。春臣の云う、自分が頑固者だということを認めなければいけないのかもしれないと思いつつ、反省した神野はこのあいだ彼に頭を下げたばかりだった。
「いまごろなの⁉ ってか、あんだけ違うって説明してあげたのに、そのあともずっと疑ってたの⁉ 今日まで? ずっと⁉」
 素っ頓狂な声をあげた春臣に自分の疎さを恥じた神野が、うっすら目もとを染めて頷くと、彼は苦笑しながらも許してくれた。

 神野は最近になって学校で自分がうまく打ち解けられなかった理由に思い至った。自分の性格も多分に問題があったのだろうが、当時はそれに加えて周りもまだ経験値の少ない十代の子どもだったのだと。
 彼らがあと数年して生活環境や文化の違う多くのひとと出逢い成長していくと、いま神野が巡りあっている素敵なひとたちになるのだろう。
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