社畜OL(22)、魔女(9)になる~どうやら世界を滅ぼす魔女のようです~

ありすぶるー

文字の大きさ
6 / 25
王都炎上篇

第6話 《最後の魔術師》

しおりを挟む


 草原を突っ切るように伸びた道を、チュンチュンが引く荷車は止まることなく進み続ける。

 イブキはその荷車の端に腰掛け、革表紙の本を黙々と読み進めていた。時折、小石に乗り上げて荷車が跳ねるが、気にすることなく没頭している。会議資料に比べたら、こんな本は朝飯前だ。




 同じ荷車に乗るドナーは、そんなイブキを見て腹の底から笑った。



「ガハハ! 黙っていれば、ただのかわいい女の子だな! 気に入ってくれてよかった!」

「全然うれしくねー」


 イブキは軽くあしらって目の前の文字に食らいつく。



 ――馬車に揺られること二時間。イブキは本を閉じた。そして、頬を引きつらせた。



(むっっっっず!!!)



 それに気づいたドナーが、はげ頭を自慢気になで上げながら称えるように声を上げる。


「もう読み終わったのか!」

「まあ……そ、それなりには……?」


 半分も理解できていないのだろう。イブキの視線が泳いでいる。


 ――とりあえずわかったことはある。


 まずは《魔法》について。

 魔法は、聞いていた様に神の加護を授かったものが使用できるようになる。加護とは即ち信仰の力。イブキは「宗教みたいなものか」と自己解釈をしていた。だが、《魔女》については詳しく書いていなかった。なぜ、魔女は加護なしでも魔法を使えるのか? そっちも気になる話だ。

 ちなみに、魔法については、素質が関係しているようで、この世界の住人すべてが使えるわけではないらしい。

 ひとまず……魔法は7つの属性に分岐し、加護に沿った能力を使えるというものだった。


 その魔法の根源となってのが、《魔術》だ。

 魔術は、森羅万象に関与することができる能力だという。つまり……この世で起こる全ての物事に対し、殆どの場合に置いてのだそうだ。


 読み上げながら、「チートかよ」と呟いてしまったまである。



 しかし、魔術は数百年前にこの世界から姿を消した。


「……ねえ、なんで《最後の魔術師》は、この世界から魔力を消し去ったの?」


 これが答えだった。魔術は、大気中を漂う魔力を消費して発動する。しかし、その魔力が尽きてしまっては、どうしようもないということだ。 

 イブキの純粋無垢な質問に、ドナーは珍しく唸って考える。


「うーむ。わからん! 資料にもないのだ、《最後の魔術師》に聞くしかあるまい!」

「や、無理じゃん、それ。死んでるんだし」


 魔術は消えた。だが、当時存在していた精霊と呼ばれる生き物たちが、魔力を使わない新しい魔術を生み出した。それが、今の世を支配する魔法だ。


 魔法は、加護の力を媒体に無から有を生み出す。森羅万象に関与し、なにかを奪える魔術とは違って、生み出すのが現代の魔法なのだ。


 ……で。


 イブキは肝心なことがわからなかった。

 荷車が森へ入る。頭上から差す木漏れ日を見上げ、イブキはドナーの方を振り返った。


「なんで、ノクタはこの本をわたしに? わたし、別に魔法が使いたいんじゃないわよ。この世界のことを調べたいだけ。そして、元の世かi――……」


 慌てて口を閉じる。まだ、自分が別の世界の住人だということは明かしていない。変な目で見られ、監視が厳しくなるのがオチだ。

 ドナーは、対して気に留めることなく、質問にだけ答えてくれた。


「《災禍の魔女》、お前が審判所で発動した力のことが関係している!」

「あの力? あれって、魔法じゃないの?」

「俺は見てはいないが、ノクタ団長は違う見解だ! それこそが、《魔術》ではないのかと考えている! ノクタ団長の氷魔法をすべて無効化するなんて、魔法には無理だからな!」

「魔術ぅ? この世界から消えたんじゃないの?」

「詳細はわからない! もしそれが本当に魔術なら、お前はなぜ使えるのだろうな!」


 知らんわ! と答えることしかできない。もう一つだけ、聞きたいことがある。


「ノクタって、わたしのこと殺そうとしたわよね? なんで、そんなわたしに魔術のことを教えるのよ?」



「リムル神の予言は絶対だ! だが、一つだけ食い違っているところがあっただろう! そう、魔法と魔術だ! 予言では、《災禍の魔女》は魔法で世界を滅ぼすと告げられている! ノクタ団長は、どんな手を使ってでもお前を魔法から遠ざけ、未来を変えたいのだ! それが、団長の野望だからな!」

「なるほどねぇ。ただのツンデレじゃん」

「つんでれ? 団長は、お前のことはどうでもいい! 未来を変えたいだけだぞ!」

「わかっとるわ!」


 荷車がごんと跳ね上がる。舌を噛んでしまい、イブキは涙目になって悶絶した。


「《災禍の魔女》イブキ! お前が許しを得るには、絶対と言われるリムル神の予言を覆さないといけない! 魔術を極め、《災禍の魔女》ではなく、《災禍の魔術師》として成長するのだ!」


 イブキは、ドナーの言葉に励まされ、目標を見出した……かのように思えたが、微笑みかけて、「ん?」と首をかしげた。


「いや、《災禍》ってついたらダメじゃない? 災い起こす気満々じゃん……」


 ドナーが納得して大声で笑いあげる。車輪の音をかき消し、森の中で木霊こだました。

 さあ、《カルラ前線基地》へはもうすぐだ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

悪役令嬢が処刑されたあとの世界で

重田いの
ファンタジー
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で、人々の間に静かな困惑が広がる。 魔術師は事態を把握するため使用人に聞き取りを始める。 案外、普段踏まれている側の人々の方が真実を理解しているものである。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

処理中です...