常世封じ道術士 風守カオル

坂崎文明

文字の大きさ
8 / 26
第一章 柊の木の呪い

天照

しおりを挟む
 黄金の光が常世とこよの地下世界に向けて降り注いだ。

 レーザービームのように収束した光は、百襲媛は最後に置いた日矛鏡ひぼこのかがみに着弾した。

 その光は対角線上に置かれた凹レンズ状の日像鏡ひがたのかがみに反射して、蛇神を半円状に囲んでいた日像鏡ひがたのかがみに次々と乱反射していった。

 蛇神の身体は、聖なる太陽の光に包まれて、炎のように燃え上った。



 奈良県天理市にある前方後円墳の黒塚古墳では、三角縁神獣鏡が石室の内側に向けて十数枚配置されてる。

 この石室の木棺は水銀朱やベンガラで朱色に塗られていて、南側から石室に入った光が三角縁神獣鏡に乱反射して、まるで木棺が炎で燃え上がっているように見えるという。

 この古墳の幻想的な光景は、常世とこよの生物が人間の遺体に乗り移ってゾンビとして甦るという事例が多発していたことを物語っている。

 それを封じるための日巫女ヒミコの秘術を百襲媛は持っていた。



 百襲媛の箸墓の伝説では、彼女は箸でほとをついて亡くなったとされている。

 これは百襲媛の日巫女ヒミコの秘術が誤解されて伝わったもので、元々は太陽の光が大地を貫いて常世とこよの生物である蛇神を殲滅する光景を表していた。

 後の時代に、その秘術は儀式化されて、女神の性器=「ほと」に例えられた大地をハシ(当時は木の棒全般を箸と呼んでいた)で突くようになったという。

 とんだ誤解なので、少し彼女の名誉のために補足しておく。

 
 
 光の乱舞の中で、蛇神の身体は急速に消えていった。

 常世とこよの生物は、元々、地下世界である黄泉の国の生き物なので、太陽の光には弱く、百襲媛の日巫女ヒミコの秘術のみが蛇神殲滅には有効だった。

 カオルの所属する組織<天鴉アマガラス>では、地球周回軌道上にいる古代文明の遺産である「遊星クルド」によってこの秘術を再現したものを≪天照アマテラス≫と呼んでいた。

「何とか終わったわね」

 カオルはため息をつきながら、闇凪やみなぎの剣を背中の鞘に戻した。

「久々に動いたので、少し疲れたでござる」

 温羅も金棒を赤いマントの中に隠した。
 背中に金棒ホルダーとかあるのだろう。

「カオル殿、古代文明の力は素晴らしいですね。霊力の節約になって助かるわ」

 日巫女ヒミコとしては、どうも不適切発言とも思えるが、巫女個人の霊力に頼りすぎて寿命が縮っていた時代に比べれば、いい時代になったものである。
 
 お互いに愛し合っていた温羅と百襲媛が敵味方に分かれて戦った「鬼ノ城戦記」の悲劇はすでに過去の物語である。

 それを知っている風守カオルからすれば、ふたりが肩を並べて戦う姿は感慨深いものがあった。
 
 まあ、正確には地霊と天霊というどちらも神に近い存在なのだが。

 
「では、帰りますか。月読さんもご苦労様です」

 カオルは遊星クルドのオペレーターである月読真奈の労をねぎらった。

「はーい、気をつけて帰ってきてくださいね」

 月読真奈の声が≪モバイルギア≫と繋がっている無線イヤホンから聞こえてきた。

 カオルは一度も会ったことがないのだが、性格は気さくでいい子なのは声から伝わってくる。

「しかし、吉備の国は常世とこよの生物がどうしてこうも多いのかのう」

 温羅は珍しく考え込みながら言った。

「それは黄泉の国、常世に繋がる出雲が近いからじゃないかな?」

 カオルはつぶやくように答えた。

「確かにそうだけど、常世の生物は大地の神霊そのものだし、エネルギーなので、上手く祀れば害は為さないわ。とはいえ、今回のように封印が解けると大変なので、定期的に再封印の儀式が必要ね」

 百襲媛は不思議なエメラルドグリーンの瞳を輝かせながら解説した。
 その道のプロらしい渋い見解である。

 カオルは天照アマテラスによって開いた天空への穴を見上げた。

 そこには白い雲と青空が見えていた。

 神、空にしろしめす。なべて世はこともなし。

 モモソ姫のような神霊の立場からすれば、こんな蛇神の騒動もただのエネルギーの流れの一部にすぎない。

 それに比べて、人間はいろいろと大変だなと、カオルはひとり物思いに沈んでいった。








-----------あとがき---------------------------------------------------
 
黒塚古墳展示館
http://inoues.net/club/kuroduka_museum.html

黒塚古墳については「『前方後円墳』その起源を解明する」(藤田友治編著、ミネルヴァ書房)を参照しました。
http://www.amazon.co.jp/%E5%89%8D%E6%96%B9%E5%BE%8C%E5%86%86%E5%A2%B3%E2%80%95%E3%81%9D%E3%81%AE%E8%B5%B7%E6%BA%90%E3%82%92%E8%A7%A3%E6%98%8E%E3%81%99%E3%82%8B-%E3%82%B7%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%BA%E3%83%BB%E5%8F%A4%E4%BB%A3%E5%8F%B2%E3%81%AE%E6%8E%A2%E6%B1%82-%E8%97%A4%E7%94%B0-%E5%8F%8B%E6%B2%BB/dp/4623031705
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく… なお、スピンオフもございます。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

処理中です...